大塚節雄(2023)『インフレ・ニッポン 終わりなき物価高時代の当来』
日本経済はGDPが伸びない。アベクロダは異次元の金融緩和を続けてきた。欧米は8%を超えるインフレであり、利上げを進めている。日本は円安で材料、エネルギーが徐々に上がってきた。この先、インフレになったら国の膨大な借金のため利上げできない。しかも軍拡で軍事費は5年間で43兆円を決めている。一方少子化予算は目処が無く、社会保障は改悪の一途である。日銀の出口戦略と国家財政の健全化など、困難な問題に取り組まないと国民生活は破綻するであろう。
タイトルのとおり庶民はガソリンなど物価高を実感しつつある。著者も終わりなき物価高を懸念している。昨今の経済事情を、1章日本の物価、2章インフレでデフレ、3章円安のジレンマ、4章日銀の終焉、円相場は、5章利上げFRBの効果は、6章賃金は上がるか、「失われた30年」、7章世界インフレの時代、8章6つの提言である。提言をメモ書きする。( )内は私のコメントである。
1 日本のものづくり、円高恐怖症の脱却
例えば、日の丸半導体の復活を目指したラピダスは2025年生産に向けて、千歳に工場建設を決めている。(半導体は東芝が先進を行っていたが、米の原発会社を買収し失敗した。)
米国一辺倒でない日本なりの「新グローバル戦略」を練ることが日本の製造業復活の第1歩になるのではないか。(米国に制約されず日本独自の中国貿易は可能か疑問である)
2 輸出の主力は「インバウンド」
(コロナ禍後には観光客が増えてきた。中国も復活する。しかし、ホテルなど人出不足は解消されていない。)
3 失われた賃上げのメカニズム
アベノミクスの円安をテコに景気拡大も、企業収益が高まれば、賃金上昇に結び付くとしたトリクルダウンは、官製春闘で企業の善意に訴えるものであった。(内部留保は増えても、実質賃金は10年来上がらなかった。連合はまともな春闘に取り組まない)。正規と非正規の格差も縮まらない。(23年最賃は平均41円引き上げで、一律ではなく1002円となった。リスキリングも容易ではなく、扶養制限も外れそうにない、ましてや岸田首相が言っていた「分配優先」は成長の後に変わっている)。
4 エネルギー、原発・「炭素価格」は王道で
原発が停止し、化石燃料の輸入が増え、22年の貿易収支は20兆円近い赤字となった。当面は電力不足の不安で減らせない。原発再稼働の促進である。(岸田政権と同じで、自然エネルギーへの転換姿勢はない。脱炭素社会への転換GXは可能か?)
5 データ処理の「地産地消」で所得流出を防ぐ
情報インフラが大きく姿を変える中、日本勢の凋落はここにもある。(マイナンバー制度は延期すべきで、保険証とは切り離すべきである。日米軍事同盟の下軍事的従属だけでなく、日米構造協議や経済安保で日本の経済力が衰退する要因と思われる)
6 金融政策を簡素に
新総裁は金融緩和を続けながら、YCCの副作用をコントロールするか、難しい手綱さばきである。緩和を止めれば下振れリスクがある。賃金上昇の機運が続き経済が上向けば、めでたく金融政策の正常化が近づき、長期金利の均衡水準を探り、出口戦略がシンプルになる。(賃上げで経済が上向くのは好ましいが、その見通しはない。日銀は国債の半分を持っている。フリーランチは無い。)
コメント
世界的インフレで日本も物価高が始まっている。それが欧米より現在低いと楽観的だが、いつ暴騰するかわからない。その見通しと予測は難しい。人口減少もインフレに影響すると言われている。円安輸入物価高への影響。軍事費の拡大、財政規律の破綻がある。
日銀は金融緩和の継続である。物価が高騰したら、政府の借金が膨大で日銀は利上げできない。出口戦略は示されない。これまでのアベノミクスによる金融緩和の総括が、日本経済再生の出発点である。