諸富 徹(2018)『人口減少時代の都市ー成熟型まちづくりへ』中公新書
都市政策を都市財政や都市経済と論じる人は宮本憲一など数少ない。学問を学際的と言われながら、窓口を広げると専門性が薄れる。しかし、都市政策は多角的な理論や多様な意見を議論し集約し方向づけなければ、長期的には大きな損失を招く。政治・経済・社会の根底が揺れ動く時代に、見通しとヒントを示した本だと思う。以下本からの抜粋である。( )は私のコメントであり、数字は本の頁である。
14都市財政は大丈夫かで、自治体財政の共通点は民生費が増大し土木費が減少していることである。鎌倉市は財政のシュミレーションを行っている。人口減少期にはあれかこれかの選択が、都市経営の要諦である。将来予測の要因は、経済のグローバル化、脱工業化の進展である(ものづくりを前面に自動車産業に偏った豊田市はどうか)。21世紀の都市産業政策はどうあるべきか。利潤創出の源泉は、工場や社会資本などの物質的基盤を利用した物的生産から、情報や知識を基礎とする非物質的生産に重点が移行する。
28「拡張された資本」(社会資本、人的資本、社会関係資本)の蓄積は、資本の成長を促進することに寄与することで、都市経済を成長させる。都市経済が成長すればそこから生み出される税収も増大し、都市財政が潤うという好循環が生まれる。(大企業だけが潤っても内部留保し、下請け、労働者に還元されなくては効果がない。ましてや国が財政力のある自治体から法人市民税を巻き上げては、大企業応援の財政支援をする愛知県や豊田市などは立場がなくなる。)32日本の都市は高度成長以来、強い開発圧力にさらされて、次々と農地や緑地が潰され、工業用地、住宅用地、商業用地に転換されてきた。際限のない無計画なスプロール化が進行し、欧米の都市のように都市と農村が巌然と分け隔てられていない。日本の自然資本をもっと豊かにすれば、人々の生活条件を改善する。「成熟型」都市経営ですべき新しい都市経営原理を論じる。
2章では、大阪の関一、神戸の宮崎市政や東京の美濃部都政を比較検証している。
3章 101中心市街地という好立地に、立派な建物とアーケード街があるにもかかわらず、郊外のショッピングセンターとの競争に敗れたシャッター通りの広がる姿が、地方都市で見慣れた光景となっている。「所有と利用の分離」を提案し、法制度や税制の整備が望まれるとしている。(岡崎市では大型店が248の戸崎町あたりに出て、康生通や駅前は賑わいが少ない。莫大な予算を投下した豊田市駅前再開発は綺麗になったが賑わいと魅力がない。豊田市ではイオンは市駅に近いが買い物客は車である。基本大型店は大駐車場を持ちお客は車である。近頃は高齢社会を予測してか、フェルナやドミー、バローなど中型店が増えている。)
110饗庭伸は、コンパクトシティは理論的に正しいが実際には実現不能と疑念を持つ。曲がりなりにも出来上がった今のコミュニティが壊れる。そして、都市が「スポンジ化」すると懸念する。(これまでの線引き都市計画はコントロールされて来なかった。それでも豊田市をはじめ県下の自治体は、市街化区域を拡大し区画整理事業など多額の予算を使おうとしてるのが、今の愛知県の区域マスタープランと豊田市立地適正化計画案だと思う。)117縮退都市政策の結果、98年の中心市街地活性化法を画期に、青森と津山の失敗事例を挙げている。14年の立地適正化の考えかたについて、公共交通機関との連携である。野澤千絵(「老いる家、崩れる街」193)は立地適正化計画に肯定的であるが、①市街化調整区域の取り扱いが問題だと紹介している。(豊田市でも調整区域の開発が止まらない。)②豊橋市のように都市機能誘導区域だけ決めるという、補助金目的もある。富山の事例からは学ぶことが多いとしている。(以前、青森より富山視察を上司に勧めたことがある。豊田市の交通ネットワークは鉄道駅を核にしているが、そこからのバスのネットワークがない。コミュニティを地域核とすべきと地域の議論とビジョンが欲しい。それに中心市街地に公費を集中投下しすぎである。)
地域経済循環について、160経済成長期なら、大企業の工場「誘致」(立地も)や、高速道路など大規模開発プロジェクトによる公共投資が中心でありえた。域外への多額の所得流出が起きている。(RESASで計測すれば、豊田市もそうである。)エネルギーの自治(前市長は「エネルギーの地産地消」を言っていた。中山間地の振興策の中心にすべき政策である。)
第4章 持続可能な都市へ 191人口減少局面のいまこそ、これまで手をつけられなかった問題を克服し、人々の生活の質を向上させる絶好のタイミングである。(コンパクトシティ論は「公共施設管理計画」と同じく、公共施設に財政投資を縮小させたい国の「サラ金財政」が根底にある。低成長での市民生活が向上し持続する視点に欠ける。)その対策は、都市経営と都市政策の見直しであり、住民参加・学習・住民自治の充実である。事例としては飯田市の公民館活動を挙げている。
コメント
都市経済論、都市思想が根底に体系的に裏付けられ、それを具体的な都市事例を挙げて歴史的にも評価分析されている。人口減少期、借金財政、グローバル企業とトランプなど大きな転換的に、時宜を得た本であり話を聞いて議論したいと思いました。豊田市の都市マスタープラン(立地適正化計画)の説明会には人が集まらなかったが、これから9月にパブリックコメントも始まる。質問でも何でも一言自分の意見を提出し、市民が豊田市を魅力ある街にしたいと考えることを願う。