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神野直彦「財政と民主主義」を読んで、その②

2024-05-13 | 気になる本

神野直彦(2024)『財政と民主主義』岩波新書 ②

第3章 人間主体の経済システム

 財政は、社会システム、政治システム、経済システムという3っつのサブ・システムを、トータルシステムとして社会に織り上げる結節点である。福祉分野は社会システムでの人間の生活を支える社会環境を改善する。福祉と共に雇用創出分野として位置づけられているのが、環境である。それは社会環境と自然環境の破壊による根源的危機に対処するため、だと言ってもよい。コロナのパンデミックの歴史的教訓に学べば、福祉サービスも環境サービスも量とともに質の確保が求められる。質の確保には当然労働条件の改善が要請される。

 市場万能主義が生み出した弊害の解決を、社会の構成員の共同意思決定つまり民主主義に委ねるという発想に結びついていないことをも意味する。政治システムを実質的に動かす「官」と、経済システムを実質に動かす「民」との連携に、国家の運営を委ねるというのであれば、それは重症主義政策である。

工業社会の社会的インフラストラクチャーは、機械設備の延長線上に位置づけられるエネルギー網や交通網(原発、幹線道路)であった。ところが知識社会の社会的インフラストラクチャーは人間の神経系統の能力の延長線上に位置づけられる知識資本の蓄積を支援することとなる。知識資本は、個人的な知的能力と社会的関係資本という二つの要素から構成されている。従って、この二つの要素から構成される知識資本の蓄積を支援することこそ、知識社会の社会的インフラストラクチャーということになる。

新しい資本主義」のビジョンでも新自由主義を批判しつつ、「人への投資」を打ち出している。しかし、人間を成長させる知識社会の社会的インフラストラクチャー整備する視点から、教育体系を整備するという発想は乏しい

(豊田市の予算編成方針では、普通建設事業のハードに300億円以上とし、幹線道路など産業基盤の交通や土建を重視している。恵まれた財政は福祉、教育のソフト重視に転換すべきである。人口減少で出生数の減、若者の市外流出の中、奨学金助成や住宅の補助、何よりも非正規の改善が必要である。トヨタは高収益をあげているが、トリクルダウンはほとんどない。農林業や中小企業振興の地域循環型経済への転換が求められる。)

自己責任には二つの方法がある。一つは家族や地域社会の相互扶助や共同作業を活性化させることによって、対人社会サービスを充足する方法である。それは地域住民が無償労働によって、対人社会サービスを担う方法である。もう一つの方法は対人社会サービスの分配を市場に委ねることである。そうすると対人社会サービスが所得に応じて分配されてしまうので、貧困者には分配されない事態に陥ってしまう。

4章 人間の未来に向けた税・社会保障の転換

日本の社会保障給付は欧米より低い。その中身は、老齢年金と医療の二つの分野に集中している。「全世代型社会保障とはすべての世代を支援の対象とし、またすべての世代がその能力に応じて支え合う全世代型の社会保障」と唱えられている。高齢者中心の給付として捉えられていて、現役世代に頼った負担となっている、という認識である。また、子ども・子育て支援として年少世代への社会保障を充実してくことが唱えられている。それは子ども達を扶養し、教育して、人間を人間として育てていくことが、社会の共同責任だからという理念に基づいていない。あくまで少子化対策として位置づけ人間を、労働力や兵力という手段だと見なしていると考えられる。

所得税の負担構造上の最大の問題点は、所得税はすべての所得を総合合算して累進税率を適用することになっているのに、租税特別措置法によって累進税率の対象から、利子、配当などの金融所得が外されてしまっている。「1億円の壁」として問題になっているように、日本の所得税の負担構造は所得1億円をピークとして、それまでは累進的負担になっているが、そのピークを越えると逆進的になっていく。社会保障負担の高まりとともに労働所得への負担は高まっていくのに対して、1980年代から始まる法人税の引き下げ競争に見られるように、資本所得への負担は低くなっていく。格差と貧困を国際的に拡散させている重要な要素になっている。

コメント

政府の少子化対策では、2024年度から5年間に3.6兆円の財源を確保する方針だ。財源の内訳は、支援金制度の創設で1兆円程度、社会保障の歳出改革で1.1兆円程度、既定予算の活用で1.5兆円程度とされる。このうち、「支援金制度」では、政府は医療保険料に上乗せする形で財源を確保する。当初「月500円程度」が所得によって違い、1000円程度になっている。アメリカ言いなりの武器爆買いをする防衛費は、5年間で43兆円である。社会保障の枠内でなく、裏金や政党助成金、原発、リニア、万博、DXなど必要性、優先順位など、国民的議論や選挙での投票に足を運ぶべきであろう。

豊田市では2月の市長選挙をきっかけに、遅まきながら18歳通院医療費無料化、学校給食無料化、学校体育館に空調、(コミュニティバスの高齢者無料化、)補聴器補助が新年度から予算化された。本格的少子化・子育て対策には、非正規の改善、奨学金制度、住宅家賃補助、公的・2次救急医療、保健所移設など次の課題もある。

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