豊田の生活アメニティ

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「正社員消滅」

2019-09-18 | 気になる本

竹信三恵子(2017)『正社員消滅』朝日新書

 いまや、日本で働く人の4割が非正規雇用。首相の施政方針演説が、「非正規」を一掃するということで、政府も「非正規という言うな」と勘違いしている。正社員といえども、社会保険がない、低賃金、正社員追い出しビジネス、と人生の安定を担保する「正社員」が危ない。以下、本の要点の抜き書きである。( )書きは筆者。

 企業からの要請に応じて、90年代末から契約社員、派遣社員が増大した。

 働くことは生活の命綱だ。ILO条約などで職業訓練や職業相談を無償で国が提供することが原則なのはそのためだ。(民間の職業紹介や派遣法も問題))だが、ハローワークで仕事の相談をする職員のほとんどが、自身も1年で契約が終了する非常勤職員だ。さらに2011年度から3年公募制が始まった。

  中小企業が再就職援助計画をつくり、離職予定者の支援を人材ビジネスに委託すると、実際に支援が行われているかを問わずに一人当たり最大10万円が支給される。(ウソ、知らなかった。豊田管内でいくら払われただろうか?)再就職が実現したら、一人当たりで最大60万円が助成される。(これまた知らなかった。実態を知りたい。最近派遣で豊田市にやってきた知人は、交通事故と病気で2人が転出した。) 雇い方の工夫が儲けのタネになる。

 パソナグループの竹中平蔵も、「雇用調整助成金を大幅に縮小して、労働移動に助成金を出すことは大変重要」と述べている。この会議の翌年2014年、解雇しないで踏ん張った企業への支援金「雇用調整助成金」は、前年度の1175億円から545億円へと大幅に減らされ、「労働移動助成支援金」が激増した。

 JALは2010年、経営破綻で会社更生法の適用を受け、公的資金を受け入れることによる再生計画が決まった。それによって、社員の大量解雇がされた。業績の面では解雇の必要がない中で、労組は稲盛に、解雇でなく一時帰休を求める要望をした。解雇には4条件があるが、東京地裁では採用しなかった。原告側は「首切り自由の社会を狙う財界に顔を向けた判決」と批判した。(裁判所もまともじゃない。アベ政権を変えなきゃ変わらない)

 いまの日本社会では、解雇されても有利な仕事へ移ることは容易ではなく、特に40代を超すと、低賃金な非正規で働くしかなくなる人は多い。政府がアベノミクスの成功の証として誇る有効求人倍率の高まりの背景には、生産年齢人口の減少に加え、「安い正社員」づくり政策があるかも。成果給が大きな比重を占める中で賃金が急落し、「短時間勤務正社員」という様々な正社員への転換で賃金カットがあり、正社員でも貧困に陥る現実がある。「高度プロフェショナル制度」などで無制限の長時間労働が広がれば、子育て社員のリスクはさらに高まる。

 アベノミクスは「世界で一番企業が活躍しやすい国」をキャッチフレーズにしたが、この構造を変えない限り、「企業の活躍」が働き手の豊かさにつながるとは限らない。だが奇妙なことに、当の働き手の間では、正社員消滅に喝さいを送るかのような現象も起きている。「正社員は既得権益」論である。労働者が自営業化、非正規化されていったために、働き手のすべての基本的権利だったはずの労働者保護が、「既得権益」に見えるほど、適用範囲が狭まってしまったために起きた。基本的権利から外された働き手の間に感情的な不公正批判が生まれ、それがさらなる雇用の悪化を招く。「底辺への競争」だ。(低い方への同一化だ。これは以前に誰かも言っていた。内橋克人だったか?政府の「同一労働同一賃金」も同じ流れにある)

 国境を越えた大手企業は、世界中のどこで生産し、販売するのが最も効率的で、コストダウンにつながるのかを考えて、工場、倉庫、物流、店舗の連鎖を考えるようになった。グローバルなサプライチェーンへ向けた再編だ。働き手は国境内で国家から生存権を保障される労働者というより、最適利益をあげるための末端装置となる。

 働き手の8割の雇用の受け皿となっている国内中小企業と、大手の格差は開きつつある。所得でも、400~700万円の層が減り、700万円以上の各層と、300~400万円の層は増えているという二極化が起きている。「多国籍企業VS中小企業・一般の働き手」という構図が生まれ、国のトップは、この綱引きの中で立ち位置を決めていく事態が生まれている。

 2015年5月5日付朝日新聞は、フランス政府が、ゴーンの報酬が高額だとして、見直しを求めたと報じている。(その後、ゴーンは日本で逮捕された。19年日産社長は辞任した。)

 韓国は97年のIMF危機以降、非正規化が加速し、07年非正規率36%。11年労組などが支援して誕生したパク・ウォンスン市長で、ソウル市に直接雇用されていた非正規労働者の3割近くの人員を無期限に転換した。日本の正社員たちは、正社員消滅作戦の進行を、ぼんやりみている。①経済の変動で会社も大変なんだからわがままをいってはいけない、という自虐的に見える我慢。②働き手の生存権なんてのんきなことを言っている時代ではない、というわけしりの態度、③自分だけは大丈夫という奇妙な自信―という正社員の三つの錯誤だ。

 (*前回読んだ本に続いて、こちらも読みごたえがあった。「世界」9月号の著者の論考も図書館に予約中である。また、明石順平が「低賃金・長時間労働」の本出す予定である。「正社員が消滅」しては困る。企業と労働者がウインウインであるべきである。企業都市での豊田では、労働者のくらしは賃金、労働時間、働き方に関わる。自治体データーも使いながら、実態を調べていきたい。)

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「北朝鮮の脅威」カラクリ

2019-09-12 | 気になる本

半田 滋(2018)『「北朝鮮の脅威」のカラクリ』岩波書店

 19年参議院選挙までは北朝鮮のミサイル発射が良く報道され、「Jアラート」までできた。選挙が終わり「飛翔体」となり、昨今は徴用工に端を発した韓国パッシングである。10月から消費税増税、関東の台風被害よりも、安倍内閣改造がマスコミを意図的にも賑わしている。

 さて、北朝鮮のミサイルは危険か?アメリカの核の傘(やぶれ傘)は安全か?米軍は日本を守り安上がりか?など、個人的に疑問がある。この本は薄いけど、実情を理解するのに役立った。核兵器禁止、戦争反対を訴えるだけでなく、軍拡を進めるアベ自公政権に、冷静に論理的に平和への展望を語る説得力を持つ書であると感じた。以下、メモ書きである。( )内は筆者。

 はじめにでー無意味な「危機対応」で、17.9.15突然Jアラートに切り替わった。「ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。建物の中、又は地下室に避難してください」、と文字が表示され、アナウンサーが文字を読み上げた。首相は「発射直後からミサイルの動きを完全に把握していた」と断言したが、上空の北海道だけでなく、長野までの12県に発信したのはなぜか。国民に危機意識を共有する狙いがあった。「自衛隊の破壊措置」がなかったのは、「火星12」は最高高度750Kmで、イージス護衛艦に搭載されていた艦対空迎撃ミサイル「SM3」は500Kmで届かない。「上空」といっても領空をはるか超える宇宙空間である。

 朝鮮半島が緊張を高める中、93年8月、自民党政権が崩れ、細川内閣が誕生した。94年、日米首脳会談は決裂した。クリントンは朝鮮有事で「日本はどこまで協力できるのか」と迫り、細川氏は「現行法のもとでは何もできない」と答えたとされる。(それがアベ首相で、秘密保護法、安保法制、共謀罪法など戦争法制)日米制服組の検討会で、日本は「自衛隊の支援は困難」との態度であった。94年在日米軍司令部から「統合幕僚会議」に米軍住宅の庭の草刈りまで、対米支援要求が1059項目突きつけられた。96年クリントンと橋本の共同宣言で、日本および極東の範囲が、アジア・太平洋地域に拡大した。97年日米防衛ガイドラインが改定され、日本周辺で行う米軍の戦争を自衛隊が支援する枠組みがつくられた。9年ガイドラインを法律に落とし込んだ周辺事態法は、地方公共団体や民間も含め支援が可能になった。

 百発百中で弾道ミサイルを迎撃するのは不可能である。日本ほどMDを本格的に導入した国は世界中どこにもない。韓国に配備した「THARD」は在韓米銀が配備した。日本上空を通過するミサイルに落下の危険があるなら、その危険性はどの国のミサイルであれ、ロケットであれ、質的に変わるはずがない。ところが、日本政府にはその常識が通用しない。

 核兵器の全廃と根絶を目的とした核兵器禁止条約が、2017年国連本部の条約交渉会議で採択された。原爆投下されて72年目の夏、「ヒバクシャにもたらされた苦\\」との一節が前文に入ったにもかかわらず、日本政府は会議をボイコットした。17年のノーベル平和賞は、国際NGO[ICAN]に贈らられた。サーロー節子さんは、「兵器は必要悪ではなく、絶対悪なのです」と言い切った。「核には核を」との論理を辛抱する限り、核兵器は世界から消えることはない。自らは地球を何回も壊滅できるほどの核兵器を確保しながら、北朝鮮の核保有は問題視する。そんな一方的な在り方に北朝鮮は強く反発している。核兵器そのものを根絶する国際社会の取り組みを無視して北朝鮮に核兵器を迫る手法を迫るのは容易ではない。

 北朝鮮の核保有は、米国の攻撃を避ける強力な抑止力と考えていることが明らかとなった。朝鮮戦争は53年に休戦にあったが、終戦ではない。この間、米国は直接の脅威のないイラクに先制攻撃し、リビアやシリアの体制崩壊を後押しする形で空爆に踏み切っている。原発は攻撃されない?原発にミサイルが直撃した場合の被害を聞かれたアベ首相は、「様々な想定がありうることから、特定の量的な被害は期していない」と答弁した。想定がないことが被害のないことではない。「原発安全神話」のもと、もっとも深刻な「レベル7」の事故が起きた。米政府は米軍の家族約7千人を国外へ退去させた。

 戦争ともなれば、米国、韓国、日本が直接、人的・物的被害を受けるのと同様に中国、ロシアも多大な影響を受けるのである。

 ティラーソン氏は17年12月、「前提条件無しで北朝鮮との最初の対話をする用意がある」と述べたが、ホワイトハウスが否定した。(しかし、トランプは金委員長と会談した。19.9強硬派のボラトンを解任した。近いうちに電撃会談があるのだろうか?それにしても、アベ首相は「無条件で対話する」と言っていたが何の動きもない。そればかりか、徴用工問題など歴史を修正しようとしている。)

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限界のタワーマンション

2019-09-06 | 気になる本

榊 淳司(2019)『限界のタワーマンション』集英社新書

 首都圏はじめ一部地方都市の都心でも、高層マンションの建設が続いている。固定資産税も高層のほうが高いという傾斜方式に変えた。この本は、狭い敷地に高層建築のタワーマンションの問題点を指摘したものである。人口と所得の減少する中、住宅事情も戸建てから、駅周辺の利便性のよいマンションに変わりつつある。誰もが利便性が良く、公園、学校、店舗、病院、図書館がある良い住環境に住みたいが、資金力が問題である。私も学会で高層マンションの問題を日照、景観の視点で発表したことがある。会場から、他の問題は何か質問されたことがあった。この本では維持管理費、防災、手抜き工事、子どもの健康なども書いてあり納得である。以下本の抜き書きである。( )内は筆者。

 イギリスでは高層住宅に住むのは低所得者である。日本ではニューカマーである。タワマン銀座・武蔵小杉では通勤で駅が混雑。タワマンが増えれば世帯数が増加し、保育園、学校への応募が増える。(豊田市の高層マンションの建設数、学校などとの調整はどうか?)ビル風や公園が少ないという問題もある。自治体も人口の増加を是とし、助成するところもある。コントロールする自治体は少ない。

 タワマンの地主も住戸と交換できるが、それまで所有していた土地や家屋は失い、維持管理費や修繕費がかかる。東京では日照時間が確保されるマンションは少ない。複数のタワマンで複合日影の問題も指摘されている。

 建築基準法の規制緩和でタワマンは可能になった。容積率の規制緩和で、同じ敷地でも戸数が多く建てられ、住戸の価格は安くなる。郊外や地方は空き家が増え、タワマンに集中する。日本の住宅政策と核家族化が影響する。目先の利益に惑わされて、タワマンばかりを建設してきた結果が、住宅の過剰供給であり、空き家の急増である。

 タワマンの修繕も波があり、37年にいくつかが廃墟化する。作って売れば区分所有者の責任、品確法では10年で建設者の責任がなくなる。管理組合は理事長の不正問題も発生しかねない。

 長周期パルスでタワマンの倒壊の可能性がある。地震時にはエレベータでの閉じ込めもある。EV停止では、高層階での自活は大変である。浦安では仮設トイレで長蛇の列、タワマン住民で避難所が溢れる。免振・制振ダンパーの不正、杭基礎の不正もあった。さらに、タワマンで子育てするリスクも紹介されている。

(*①建設業者の儲けに走っている。多くの自治体・議会与党は世帯数と人口の増加を望み、長期的で快適な地区まちづくり・都市計画の視点がない。

②豊田市では、戸建ては50坪弱、延床30坪で、4千万円ほどである。空き家も増えているが、解体で更新もされている。駐車場が2台で植栽がほとんどない。マンションは70平米ほどで3千万円強である。拡張型の豊田市立地適正化計画と愛知県区域マスタープランとの矛盾、区画整理万能、既存市街地放置など都市計画の思想が時代遅れのような気がする。それ以前の市民参加の議論がないのが残念である。)

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「なぜ、トヨタはテキサスに拠点を移したのか?」

2019-09-04 | 気になる本

倉石灯・中野博(2018)『なぜ、トヨタはテキサスに拠点を移したのか?』日本実業出版社

 グローバルな変化の時代に、日本とアメリカ、トヨタ(豊田)と米国都市の産業・都市構造と比較してみると興味深い。しかし、プレイノの市民生活である交通、公園、図書館、人口、賃金、飲食店など暮らしぶりまでは書かれていない。できれば、調査をしてみたい。以下、本からの抜き書きであるが、( )内は筆者。

 トヨタは、自動車業界を「100年に一度の大変革期」と位置付けている。

 トヨタはカリフォルニア州のトーランス市から、テキサス州のプレイノ市に17年、oneToyotaを理由に移転した。プレイノ市は、全米で最も安全な都市ランキングの第1位。人口28万人、公立高校のレベルが高い、巨大モール、どの家からも歩いて15分以内に公園・パークシステムとQOLが高い。トヨタ効果は何か?

 アメリカの人口は増加している。若者の人口も増えている。(日本も豊田市も減っている)テキサスメリットは、地理的な優位性と「優位な税制」をあげている。アメリカの住宅は木造が多い。日本では25年から30年であるが、アメリカは30年から75年である。アメリカはメンテナンスしながら、学校などの良い環境に住み替える。トランプが実行した政策は、TPP・NAFTA離脱,中国を「為替操作国」に指定など、と製造業の復活、投資の集中、「パリ協定」離脱、(「イラン核合意」離脱、INF廃棄条約執行など)。アメリカは法人税率を下げた。(日本も下げた、しかも、租税特別措置法で名目よりも実質的には低い。豊田市は企業立地奨励条例で助成。)テキサスは共和党の「小さな政府」、議会はパートタイム議員、予算は2年に1回の予算審議、年俸は7200ドル(約80万円)。

 電気自動車、自動運転、ソフトバンクとの提携、さらにウーバーの「空飛ぶタクシー」、と未来予測は目まぐるしい。ウーバーは100万人の大都市を成長拠点。(豊田市は「未来都市研究会」を18年に発足)。アマゾンやグーグルが再生可能エネルギーへ転換しようとしているのには、近年の太陽光発電の導入コストが大きく低下し、発電コストが火力や原子力よりも低くなってきたことが背景にあるシェア文化が都市の生活スタイルを変えること、高速鉄道に接続する都市内交通システムをと整える必要(豊田市も名鉄三河線の複線化方針)。都市はITとAIによる高度なスマートシティ化が進み、スマートシティを再生可能エネルギー活用の高速鉄道がつないでいく。

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