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『地域再生の新戦略』

2010-09-14 | 気になる本
諸富 徹(2010)『地域再生の新戦略』中公叢書
 著書の「環境」では、環境、経済、社会の持続可能な理論的展開がされていました。この本は21世紀かながわ円卓会議の内容を踏まえ、グローバル化の中での地域再生の新戦略を説いています。私の尊敬すべき宮本憲一の学問的影響、その流れを汲む山田明、遠藤宏一などの著作も参考文献に挙げられていて、身近で興味深い本です。現在の民主党政権の「成長戦略」は構造改革路線の反省もなく、そこから抜け出せないことに混迷があります。中野剛志の『経済はナショナリズムで動く』では、構造改革の失敗と脱出を検討していることに意義がありました。勉強会で報告したら、「グローバル化の中でナショナリズムでは孤立化し、その具体性がない」という指摘もされました。世界経済危機あるいはオバマ大統領の前までのグローバリズムは、アメリカのワシントン発ナショナリズムともいえますが、1国経済のナショナリズムでは説得力に欠ける面があります。
1章の「グローバル化と拡大する地域格差」で、「経済のグローバル化」とは、貿易、直接投資、金融の三局面で、国境を超える相互影響が強まっていく現象を指しているとしています。幾つかの確認事項として、「実物経済の不均衡が景気循環を引き起こすのではなく、金融ショックが実物経済に影響を与えて景気循環を引き起こしている。」こと、「制御されないグローバル化が大きな問題を引き起こす可能性があること」、「格差の拡大」事例として「東京を中心とする関東圏を『グローバル都市』の地位に押し上げ、名古屋を中心とする中部圏に、自動車のグローバルな生産体制のハブとしての地位を獲得させる一方で、大阪を中心とする近畿圏を苦境に立てせることになった。」ことを挙げています。現在少しは公共投資が削減されるようになりましたが、欧米諸国では70年代に脱却していったのとは違い、公共投資が景気対策と国家債務が増えました。公共投資でインフラ整備し企業誘致すれば地域発展がもたらされるという、開発信奉は根強いものがあります。地域経済再生の転換を筆者は、「資本主義経済システムの非物質主義的展開」とよび、新しい試みの成功の芽があるとしています。
 2章から幾つかの先進事例を分析し紹介しています。1章のまとめとして、「もはや物的な公共投資が地域発展に決定的な役割を果たす時代は、少なくとも先進国では終焉したという点を認識することから出発しなければならない。公共投資による社会資本整備を行いさえすれば、工場誘致と結びついて地域に所得と雇用を生み出した時代は、先進国では終わりつつある」のです。この指摘は同感で2007年にトヨタが絶好調の時に、私も本に書きました。それは多国籍化したトヨタが利益を上げても、トリクルダウンつまり波及効果は地域にほとんどない、下請け単価の切り下げ、労働者の非正規雇用の増大による不安定性、賃金の減少、可処分所得の縮小、さらに農林業の衰退を書きました。08年の世界経済危機によるトヨタショックでは、非正規切りにより外国人の帰国など人口の社会減少が進み、中小企業の倒産が進みました。
 地域発展の新しい「方程式」は、ハード面の社会資本よりも環境、歴史的遺産、文化、そして何よりも人材に投資し、その目に見えないネットワークの厚みを増していくことで、知識・文化、環境集約型の発展を目指していくこととしています。具体例として、長野県財政や脱ダム政策、EUの地域政策、内子、長浜などの地域再生の教訓をまとめています。4章の新しい地域発展モデルの中でプロセスについて、「トップダウン型の意志決定に依存するのではなく、住民の力に依拠してボトムアップ型まちづくりを行っていくこと、そして、住民の内発的な力に基づいて、外部の力に頼り切るのではなく、むしろそれをうまく活用することで主体的に将来構想を描いていく力量を育てることである。」とは、教訓的です。このことは足助のまちづくりや、下山のまちづくり構想に欠ける点かもしれません。
<特記>
 我が家の向かいに道路を挟んで田んぼがあり、今年はザリガニが沢山います。縄張り争いか異常気象のためかわかりませんが、危険な県道を横切って車庫にきます。
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