Con Gas, Sin Hielo

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「タリーと私の秘密の時間」

2018年08月19日 17時09分07秒 | 映画(2018)
偉大なる丸い背中。


オスカー女優、C.セロン。完璧とも言える美貌を持つにも拘らず、いや、持つからこそ様々な役柄に扮したときの印象が余計に強く残るのかもしれない。

今回彼女が演じるマーロは、40歳を過ぎて3度めの出産を迎えることになった母親。優しい夫、手はかかるがすくすくと元気に育つ子供たちに囲まれて一見すると幸せに見えるが、3人の小さい子供の面倒を見るのは容易ではない。出産後に襲ってきた超多忙な日常にマーロは沈没寸前の状態に陥っていた。

真面目な人ほど割を食う世の中と言われる。もちろん悪いことをしてはいけないが、すべてを完璧にしようとして自分が潰れてしまっては何にもならない。マーロを見かねた実の兄が出産のプレゼントにと考えたのが夜間のベビーシッターだった。

他人に子供を預けられるわけがないと否定的だったマーロだが、ついに限界が訪れてシッターを呼ぶことにする。自宅に現れたシッターは、自分よりはるかに若いタリーという女性だった。

あまりの若さに不安を感じるが、タリーはマーロが驚くほど物事を完璧にこなし、知識も豊富だった。マーロはひさしぶりに安らかな時間を得ることができるようになるのだった。

育児経験のある女性や、そんな女性が近くにいた人であれば、マーロの辛さは100%理解することができ、タリーのおかげで少しずつ自分を取り戻すマーロを見て、涙が出るほどうれしくなることだろう。

しかし、この作品はここから新たな展開を見せる。

もともと少し変わった女性だったタリーだが、行動の奔放さに加速度がつき始める。アルコールを飲んで、夫を誘惑して。そしてある日、突然マーロに告げる。

「私はもう来られない」

すべてを収拾しきったわけではないが、後から考えれば、タリーに感じていた違和感も含めて「そういえばそうだった」と合点がいく設定。前半の脚本に張られた伏線が波のように押し寄せてくる。

脚本以上に素直に物語を追っていけたのは、何よりもC.セロンの力量であろう。とにかく体を張って苦悩する母親を熱演している。

冒頭から終幕まで、肌も肉も弛んだ容姿を画面にさらけ出す。化粧っ気がなくとも美しい顔に、よりリアリティが浮かび上がる。あっぱれな女優魂である。

タリーは最後に日常の素晴らしさを語る。

忙しさの中でつい閉塞感に囚われそうになる中で、誰かが傍に寄り添ってくれるだけで随分と楽になれる。

かつて描いてた将来とは違う自分であることに負い目を感じることもあるかもしれない。でも、肯定的に諦めることで、明日もそれなりに前向きに生きていける。

夫婦で台所に立つ後ろ姿のラストを見て、心からそう思った。

(85点)
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