日々草

「つれづれなるままに・・」日々の事を記す。

真夜中の本屋   【尾道 古本屋20db】

2020-12-08 | リブレリア
只今 ‪23時‬の10分ほど手前。
 
地の肴を地酒と一緒に流し込んでのち、てくてくと暗い夜道をいく。
時折流れるヘッドライトの光。
ひっそりと静まった店をのぞき込んだりしながら‪23時に‬むけてあるいてゆく。
細い路地をまがった先にぼうっと光る小さな看板店名は『20db』。
尾道にある小さな本屋 20db(デシベル)。
風にゆれる葉音のような店名である。



その昔、町の医院であった建物が今は本屋になっていて真夜中にひっそりとひらく。
営業時間は‪23時〜‬27時。
 
 
古い医院の佇まいをした本屋で、さらに真夜中のみ営業なんて本好きをドキドキさせてくれるシチュエーション。
どんな本たちがこんな素敵なお店をつくった店主の選美眼にかなったのかも気になるところ。
ここ数年の行ってみたい場所№1に輝きつつもなかなかその機会に恵まれなかった幻の場所。
深夜とはいえ平日の仕事帰りにおいそれと立ち寄れる場所ではない。
行きやすい大きな都市ではないことと、週末の休みを利用できる営業時間ではなかったことがこの店を訪れるハードルを高くしていると思われ、いつか、いつかと憧れだけが募るばかりであった。
 
 
古い扉をあければ時が止まったような空間に本が並び、積み上げられ
新しい読み手がくるのを夢見ている。
タイル張りの受付はキャッシャーにかわりオレンジ色の光がやわらかい。
奥の診療室であったであろう場所でも本が新しい持主に出会うのを待ちながら静かに眠っている。




 
手に取ったのは古い詩集。
北海道、東北と北の土地にまつわる旅の詩をあつめたもの
水木しげるの画集
蕎麦についての文庫本は薬袋のデザインのカバーをかけられた。
そして特別な一冊「水温集」。
 
水温集は
水色の箱の中にページ(綴じられていない紙の束)入っているという不思議な装丁の一冊。
どうしてもと頼み込んだら、店主の自宅に保管されていた貴重な在庫を頂けたのだった。
 
水にとける紙をつかった詩集で、紙が溶けて、水面に文字だけ漂うというまだかつて出会ったことがない本なのである。
水面に揺蕩う文字で読み進める小さな世界。
一度読んだら、もう読み返すことができない貴重な一篇。
尾道の裏小路に夜中しかひらかない幻のような本屋みたいな本。
 
 
 
買った本をかかえてBARへ
まだ明けぬ夜のうちにすべりこむ。
不思議な本に心が浮き足立つ。
今夜はなかなか眠れないだろう。
こんな夜はまたとないから。

小さな個性的な本屋が好き。
こんな本屋に出会えるからこそ旅が好き。