各自・・平たく言えば、それぞれ、おのおの・・といった意味だが、本人の思いとは裏腹に、各自の思いや状況などといったものが存在し、人は各自の動きで生きている訳である。小さな産院の医者、川平もそんな思いでふと、雑念を浮かべていた。
『今日の夕飯は何だろう…』
「先生、患者さんのトラアージなんですが…」
「んっ!? ああ…。深山さん、海川さんだな…」
「はい…」
それを患者待合所で聞いた妊娠2ヶ月の珠美は、『栄養になるアジは分かるけど、トラ? …トラの毛皮は冷えをなくすからいいのかしら…』
「島村さぁ~~ん」
そんな雑念で待っている珠美に看護師の加藤が声をかけた。
「あの…アジは栄養食にいいんですか? トラって?」
「はっ!?」
「いえ、別に…」
つまらないことを訊(たず)ねてしまった…と、罰の悪い顔で珠美は診察室へ入り、診察椅子へ腰を下ろした。
「先生、トラの皮は冷えないんでしょうか?」
「はっ!?」
意味不明な顔で川平は思わず珠美の顔を窺(うかが)った。
「いえ、別に…」
珠美は、また余計なことを訊ねたと、すぐに全否定した。
このように、各自の思いはそれぞれに違っていて、世の中にはビミョ~な雑念が飛び交いながら動いている訳です。^^
完