水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (74)あの頃

2019年08月31日 00時00分00秒 | #小説

 生活し難(にく)くなったとき、ふと、脳裏(のうり)を過(よ)ぎるのが、あの頃である。妙なもので、脳裏を過ぎるのはいい記憶ばかりで、悪い記憶が余程のことでもないかぎり残っていないのは不思議といえば不思議な話だ。まあ、人が助かるのは、そういった悪い記憶を長い時の流れの中で忘れ去れるからだろう。ただ、あの頃ではない、ごく最近の出来事でも、都合が悪いと忘れたり忘れた振りをする人がいるのは困ったものだ。^^
 小春日和(こはるびより)のとある公園である。仲のいい二人が木蔭(こかげ)にあるベンチに座り、話をしている。
「確かに…。あの頃はよかったですなっ!」
「アンパン一個が、たったの五円でしたよっ!」
「そうそうっ! ラムネもねっ!」
「はいはいっ! ありゃ~~美味い(うま)かった!」
「そうそうっ! 喉(のど)越しがねっ!」
「ポンポンキャンディーも五円でしたよっ!」
「そうそうっ! 少しずつゴムの中の氷が解けて味が薄くなりました…」
「そうそうっ! 消費期限も賞味期限もなかったですよっ!」
「今の時代なら大ごとですっ! しかし、それが当たり前の時代でした…」
「そうそうっ! 苦情も文句も出なかった。いい時代でした…」
「そういや、お釣りの五円、まだでしたなっ!」
「そうそうっ! いや、いつのっ? そうでしたかっ!? ははは…もう忘れました」
 このように、あの頃はいい記憶だけが残り、悪い記憶は忘れ去れるから助かるのである。^^

                                


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