水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (58)程度

2019年08月15日 00時00分00秒 | #小説

 程度・・なんとも分かりにくいファジーな言葉ながら、この言葉の曖昧(あいまい)さで大いに助かることが結構ある。例(たと)えば、「ああ、その程度でいいよっ! 有難う…」と言われた場合、言われた側は、『この程度でいいんだ…』と、数値的に、はっきりしない感じを思う。ところが、次回に同じ程度にしたところが、「ダメダメっ! もっとやってもらわないとっ!」と怒られたりする。言われた側は、『馬鹿野郎! いったい、どの程度なんだっ!!』と、怒られた以上に怒れる。^^ こんな漠然(ばくぜん)とした言葉が程度なのだが、「まっ! 少し違うが、いいだろう!」と、ほぼ正解という程度で許されたりもする。ただ、ほぼは、ほぼであり、ソレではないから、本人が有頂天になるほどのことではない。^^
  猛暑が続く、とある夏の午後である。
「お父さま! スイカを切りましたわっ!」
 滾滾(こんこん)と湧き出る洗い場の冷えた水で身体を拭(ふ)く隠居の恭之介が、息子の嫁の未知子に声をかけられた。
「未知子さん、どうも、すいません…」
 いつも厳(きび)しい恭之介だったが、未知子には青菜(あおな)に塩で、この日も、すぐ萎(な)えるのだった。しばらくして、縁側へ腰掛けた恭之介に、未知子が手盆の冷えたスイカのスライスを勧(すす)める。
「塩加減が少し弱かったかも知れませんが、お塩、振っときましたわ」
「いや、どうも…」
 恭之介は手盆の上のスイカの一切れをたったの三口(みくち)で食べ尽(つ)くした。
「おお! ちょうどいい塩加減です。この程度が一番、いいんですっ!」
 塩加減が少し弱い・・と言われた恭之介だったが、思った以上に塩が効いていて少し塩辛かった。それでも出た言葉は思った言葉ではなかった。やはり、未知子には程度など関係なく弱い恭之介だった。それでも、未知子はそう言われたことで傷つかず、助かることになった。
 毎度、おなじみの、湧水家の夏の一コマでした。^^

 ※ ふたたび、風景シリーズのお二方(ふたかた)にスピン・オフでご登場いただきました。^^

                                


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