水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

隠れたユーモア短編集-41- 貧富の差

2017年08月29日 00時00分00秒 | #小説

 高桑は最近、頭の毛が薄くなり始めた。気にしないようにはしている高桑だったが、やはり、あるところにないのは、どう考えても格好が悪いという隠れた気分がある。頭部の薄い毛の部分と濃い毛の部分は、貧富の差なのだ。豊かでいい暮らしをする富裕層は、毛がいくらでも伸ぴる首筋から耳付近に集中し、なんとも始末に悪い。どんどん伸びるからで、この手合いに限って金に困らず、それどころか日々、どんどん金が手元に入り、使い道に困っているのだ。そこへいくと頭頂部分の毛は全然、生えず、むしろ日々、心細く減り続け、広がるのである。これは恰(あたか)も貧困層の益々(ますます)、強まる生活苦に似てなくもなかった。貧富の差を縮めるには金の流れの仕組みに一定のルールが設定されなければならない。豊かな生活を継続すると、なんらかの一定のリスクが伴う・・というものだ。どんどん伸びて減らない裾毛(すそげ)を軽く処理でき、逆に減った毛は一定量、減ると逆に生え始める・・というルールである。高桑はそのとき、ふと思った。そんな都合のよいルールなどできる訳がない…と。現に、薄くなった頭頂部の毛は生えて濃くはならない・・としたものだ。毛生え薬があれば問題はないが、それは医学的な発明を待たなければならないのだ。貧富の差も同じで、富裕層は余剰(よじょう)の金を貧困層にトリクル・ダウン[滴(したた)り落とす]訳がなく、益々、増える富にニンマリと北叟笑(ほくそえ)むくらいのものである。これは数年前の年末、OECDが指摘していたな…と高桑は巡った。その状況は、酒好きの者が一合(いちごう)枡(ます)に並々(なみなみ)と注(つ)がれた酒を溢(あふ)れさせまいと舌で愛(いと)しむように舐(な)め啜(すす)る姿に似ていなくもなかった。貧富の差をなくすには、酒を一合枡に注がないことだ・・と高桑は瞬間、思ったが、それはまた話が違うな…と、すぐに全否定した。

                             


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