水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

隠れたユーモア短編集-39- 細かいこと

2017年08月27日 00時00分00秒 | #小説

 きっちりしないと気がすまない人がいる。そんなこと、どうでもいいじゃないかっ! …と傍目(はため)には思える細かいことでも、その人にとっては許されない重要なことなのだ。実は、この細かいことには、隠れた悪い内容[魔]が潜(ひそ)んでいるのだが、世間一般はそれに気づかない場合が多い。だから、細かいことを気にする人は医学、技術、科学など、なんらかの特異な才能の持ち主と言っても過言(かごん)ではない。ただ外見上は、どこか変な人に映るのが難点だ。
 プレゼン[プレゼンテーション=会社説明会]の前の日の夕方、会社の仕事が終わり、課員達が退社した課内で二人の男が話している。
「さあ、これから美味(うま)いものでも、どうだい?」
「いいですね! でも、これはやっとかないと明日、さし障(さわ)りがありそうですから…」
「どれどれ…。なんだ! プレゼンのコピーじゃないか。明日でいいよ、明日で! 十分に時間はあるから…」
 課長の豚岸(ぶたぎし)は細かいことだ…と軽く見た。
「いえ、明日にしましょう! プレゼンが終わってから」
 係長の牛舟(うしぶね)は何かあるといけない…と、重く見た。
「そう? なら、そうするか…」
 次の日の朝、急に原因不明の停電が起き、コピーが出来なくなった。だが、すでにプレゼン用のコピーは牛舟の残業で完成していた。
「ははは…細かいことじゃなかったな! 助かったよ!」
「よかったですね、課長!」
「ああ…」
 その日の夜は、二人にとって美味い肴(さかな)と美酒(びしゅ)のお疲れ会になった。


                             


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