水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

隠れたユーモア短編集-33- 小さな恋?

2017年08月21日 00時00分00秒 | #小説

 

 夏は小さな恋のシーズン・・と言われる。なぜなのか? までは知らないが、おそらくは猛暑で男女とも思考回路が緩(ゆる)んでお馬鹿になり、よい意味で小さな恋を実らせる開放的な気分が生まれる・・という内容が隠れているのではないか? と思われる。
「どうだったね、結果は?」
「いや、それが…」
「やはり、無理か…」
 会社内の、とある場所である。出勤早々、専務の岡村は部長の戸坂に小声で訊(たず)ねた。岡村の息子は戸坂の娘に小さな恋をしていて、戸坂を介(かい)して交際をしてくれとの打診を父親の岡村へ密かに頼んだのだ。岡村としては、そんなことは直接、お前が訊(き)けっ! と叱(しか)ったものの、息子(むすこ)に何度も頼まれては、情けないヤツだっ! まあ、一応は頼んでおいてやる…と、とうとう引き受けてしまった経緯(いきさつ)があった。
「はい! 今年は小ぶりな上に数が少ないそうでして…」
「んっ? 恋だよ?」
「はい、鯉です…」
 岡村はもう一つ、戸坂に頼みごとをしていた。新築した家の庭池に飼う錦鯉の一件である。
「息子の?」
「いえ、池の…」
「ははは…そっちかっ! いや、娘さんの返事だっ」
「ああ! 恋の方でしたか、ははは…」
「で?!」
「いや、そちらはまだ聞いておりません。どうも…」
 戸坂は恐縮してペコリ! と岡村に頭を下げた。飛んだ小さなコイ違いだった。

                             


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