代役アンドロイド 水本爽涼
(第268回)
「本当かよ」
「嘘を言っても始まらん。現実に今だって動力式の一人用グライダーが飛んでるじゃないか。車が飛んでも怪(おか)しかないだろ?」
「まあ、それはそうだが…。重い車が飛ぶとは、すぐには信じられんな」
「ははは…。無論、軽量化してだ。それに飛ぶ原理がまったく違う」
俺は原案だけで、あとは沙耶が考えたと迄は言えなかったが、保は自信ありげに言い切った。保としては成功してもらいたい一件なのだが、その実、失敗した方が厄介なことにならないのではないか…と思っていた。自動補足機のマスコミ騒動は尋常ではなかったから、その記憶が保をアグレッシブにさせずにいた。中林と話していても保の意気がまったく上がらないのは、そのせいもあった。
「おい! どうした? 少し元気がないようだが…」
中林が保を見遣(や)った。
「いや、ちょっと疲れが溜まっているからだ。どうってことない」
「そうか ? なら、いいんだが…」
親友の中林には保の小さな異変が、すぐ分かる。目敏(ざと)く、それを指摘したのだった。人間の保とは違い、不必要な雑念を思わない沙耶は益々、機械工学の知識を深めていた。そして、その実行の日は次第に近づきつつあった。
『沙耶さん、私(わたくし)の方は、ほぼ大丈夫なようです。そちらは、いかがですか?』