水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

短編小説 突破(ブレーク・スルー)[5]

2012年09月17日 00時00分00秒 | #小説


  突 破[ブレーク・スルー]
   (第五回)
 
 母に対して、背を180度回転させたとき、圭介の面持ちは心なしか曇っていた。
 行きつけのファミレスで簡単な夕食を済ませ、ふと腕を見る。既に六時は回っている。自宅に戻る気分も希薄で、パチンコへと心が急いた。
 いつもならば集中力を浴びせて、大よその場合は箱の一つや二つは積む圭介なのだが、今日は何故か駄目だ。サラリーマン医師のような三島の宣告の声が、今時分になって氷解し、身体中を駆け巡る。焦り踠(もが)くほど、台の銀球はズンズン減少する。継ぎ足しても確変が来ない。何かが違うが、違うのは自分だと圭介は思っていない。そして、結果は惨憺(さんたん)たるものとなった。
━━ こんなこたぁ、今までなかった… ━━
 帰り道に、そう巡る圭介であった。
 そんなこんなで朝となり、目覚めた折りにも熟睡感がない。心の片隅には三島の声があり、不安感から浅い睡眠に終始したのだ…。ブラックの濃いコーヒーを啜りながら、虚ろに圭介はそう思った。
 会社へは事情が既に云ってあり、課長の倉持も、「次長、どうぞ…」と協力的だったので、二日ほど休ませて貰うとは告げた。だが、部長が傍らの席で睨みを利かしている手前、倉持にも部長の前で一応の了解を
取った方が出世的に得策だと閃いて、
「申し訳ないが、そういうことだから宜しく頼むよ…」と発したのだ。
 


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