突 破[ブレーク・スルー]
(第五回)
母に対して、背を180度回転させたとき、圭介の面持ちは心なしか曇っていた。
行きつけのファミレスで簡単な夕食を済ませ、ふと腕を見る。既に六時は回っている。自宅に戻る気分も希薄で、パチンコへと心が急いた。
いつもならば集中力を浴びせて、大よその場合は箱の一つや二つは積む圭介なのだが、今日は何故か駄目だ。サラリーマン医師のような三島の宣告の声が、今時分になって氷解し、身体中を駆け巡る。焦り踠(もが)くほど、台の銀球はズンズン減少する。継ぎ足しても確変が来ない。何かが違うが、違うのは自分だと圭介は思っていない。そして、結果は惨憺(さんたん)たるものとなった。
━━ こんなこたぁ、今までなかった… ━━
帰り道に、そう巡る圭介であった。
そんなこんなで朝となり、目覚めた折りにも熟睡感がない。心の片隅には三島の声があり、不安感から浅い睡眠に終始したのだ…。ブラックの濃いコーヒーを啜りながら、虚ろに圭介はそう思った。
会社へは事情が既に云ってあり、課長の倉持も、「次長、どうぞ…」と協力的だったので、二日ほど休ませて貰うとは告げた。だが、部長が傍らの席で睨みを利かしている手前、倉持にも部長の前で一応の了解を取った方が出世的に得策だと閃いて、
「申し訳ないが、そういうことだから宜しく頼むよ…」と発したのだ。