雑感の記録。

秋の夜長はダラテンで

騙されると満たされるということ

2009年10月19日 | book & comic
前に買ってきた小説は、一日一冊ペースで読破していってまして。
一冊読んで映画を一本観て、そんな悠々自適過ぎるスローライフ。
今時こんな優雅な主婦も居ねぇよってぐらい。


■綾辻行人 「十角館の殺人」



震撼する一行の魔力。
ある孤島、一家惨殺事件が起きた館に出かけたミステリ研究部員を襲う連続殺人。
粗筋としてはこれだけで十分。
後は読んで種明かしの段階で震えてください。
僕はチビりそうになりました。


解説でも述べられてるとおり、
登場人物はミス研の部員で、「エラリィ」「カー」「ポォ」などと、
超有名どころの古典ミステリ作家をあだ名に使い呼び合ったり、
外部とは遮断された孤島での連続殺人、部員6人に見立てられたプラスチックの札。
後者は作中でも触れられているように、やはり古典ミステリの奇作、
アガサ・クリスティの「そして誰も居なくなった」を意識したもの。

この一例に限らず、オマージュというかリスペクトというか、
作品自体が今は昔の「本格派」ミステリへの敬意に満ちていること。
作品の舞台としての背景作りも兼ねているのですが、
作中のエラリィと呼ばれる部員は、多分に作者の意見、
特に海外の旧本格ミステリに対しての意見を代弁している箇所も見受けられるし、
序文の「敬愛すべき全ての先達に捧げる」って一文も良いね。
この作品が過去のミステリ作家に対しての作者なりの敬意といっても良し。


そもそもこの読書ラッシュに入る前から、読む本が旧ミステリ寄りだったんだけど、
両親の実家から海外の大御所作品を持ち帰っては読み、
読み終わったらまた持ち帰り…という読書ライフだったので、
古き良き作家の名前や、魅力に満ちた作品の登場人物名が出て来てくれたのは、
良いエッセンスに感じられたんだと思います。
ミステリ初心者にも読めて面白く思える作品だと確信できるんですが、
読む前に海外の有名所はある程度押さえておくと、なお楽しめると思いますよ。



■歌野晶午 「葉桜の季節に君を想うということ」



思い込みの恐ろしさ、フェアな裏切りの気持ちよさ。
骨子は主人公・成瀬が友人から霊感商法の依頼をされる事から始まり、
それと時を同じくして、彼は飛び込み自殺を図った女性を助け、その女性に引かれていく。
この全く方向の違う二つのシナリオが、どういう形で着陸するか。
敵は自分自身の想像力である。


文学作品というのはミステリに限らず、
文章からあらゆるモノを汲み取り、自分の中で作品世界を形成する必要があると思う。
それを恐らく「読む」というのだろうけど。
ミステリを"読む"ときというのは、想像力があればあるほど、種明かしの段階での衝撃は大きくなる。
先に挙げた「十角館の殺人」もそうだけど、一冊数百ページの作品中で、
たった数行の文章により、今まで自分が思い描いていた光景が一瞬で真逆に塗り替えられる。
想像力が逞しければ逞しい程に、広く描かれた絵は隅まで反転していくし、
積もりに積もった疑念の塵は跡形もなく掃除される。
この落差が何とも言えない気持ちの良さなのだ。
自分自身、想像力が高い人間だとは思えないし、読書をする上で一番欲しいモノは想像力だ。
あればあるだけ、高い所から気持ちよく突き落としてくれるのだから。


時代背景の設定もあって、今の時代かつそれなりに若い(20~30代ぐらいか)人向けに最適化されてる感。
オチに納得できなかった人向けに、わざわざ作者からの注釈も後書きに付いてる。
アフターケアも万全で御座いますし、若い人は若いうちに読んだ方が良いと思いますよ。
あとカバーの美しさ。粗筋では惹かれなかった自分を購入に踏み切らせたのは、
この美麗ジャケットといっても過言でなし。
ミステリとは思えない、妙にロマンチックなタイトルもまた良し。
読んでいる過程では、タイトルの意味など想像もつかないのですが、
最後まで読み終わるときっちり納得できると思います。
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