中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

技を手渡す

2014年05月16日 | 制作工程

初心者が帯用の整経をしています。
綾をとっているところです。大事な箇所です。
正確に早く・・・

細かいことを手とり足取り指導し、私が今まで培ってきたことの全てを伝えます。
私もそうであったように、昔であれば細かいことは言わずに「師匠や先輩のやることを盗んで(見て)覚えろ」と言ったのでしょうが、今は丁寧に事細かに説明し、手本を示さなければならない時代にあります。
指導者のエネルギーと忍耐力がむしろ試させれるところです。


テンションを如何に揃えるかの工夫を実際にやってみせます。
棒をターンするときも無駄に大回りをしないよう中指と薬指の間から糸束を密着させ回します。

手延べ整経は狭い場所でもできますし、私のような一反整経には向いていますが、テンションを揃えるのには技量を要します。毎回が工夫の連続です。


整経を終えると仮筬通しです。4本ずつ荒筬に糸を引き込みます。
糸を綾のところでパッと見て4本取ります。数えてはいけません。
昔、お金や紙の枚数を数えるのに扇状に広げ4枚ずつパッと左手の親指で数えていくのを銀行マンなどがしているのを見てカッコイいいなぁと思いましたが、アレです(最近は見かけませんが)。
一瞬にして綾竹の手前と向こうに糸が2本ずつあることを確認します。

ただ私が使う糸は生糸ではないので糸同士がくっついていてなかなか難しいのです。
筬通しという真鍮製の平べったいシンプルな道具の上下を使い分けてやります。単純な作業のようですが、私はこの仕事が好きです。微妙な加減で4本を1度で取れると気持ちがいいですし、取れなくてもそこからいかに早く余分な糸を離すかが楽しいのです。飽きることはありません。


簡単な仕掛け(木っ端に釘を打っただけのもの。34年前にハンズで20円で買いました。)で綾竹と筬を固定して反物の幅分を出します。
このあとは以前の記事でも紹介した「経巻き」へ進みます。

しかし手技を身に付けるということはノウハウさえわかればできるというものではなく、手渡された技を後は自分のものとして身につけるにはやはり一生をかけて熟練させていくものだとは思います(続けられればの話ですが)。
学び手の素直さ(とても大事です)、真摯な姿勢を抜きには到達できることではないと思います。その学ぶ姿勢に指導する側も動かされるようなところがあります。指導しながら今でも当たり前と思っていた事の中に気付きがあります。

古い友人が「あなたの感性は受け継げないけれど、技術と精神を受け継ぐ人が出てくれるといいのだけれど・・」と言ってくれるのですが、私もいつの間にか歳を取ってしまいました。もう時間がたくさんあるわけではありません。
プロとしてモノを作って食べていく覚悟の上に成り立つ手業の世界が無くならないでいてほしいと思います。











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