中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

第6回紬きもの塾――柿、桜で染める

2018年07月27日 | 紬きもの塾’17~’20


毎日最高気温を更新して今週月曜日には東京でも40℃を超えました。

この暑さの中、冷房無しで、染色をするのことに慣れない方たちが無事に作業を終えることが出来るのか、、とても心配していました。
暑さ対策、着てくるものなどについても前もって注意しておりましたが、みなさんいろいろ工夫して準備してくださいました。

まずは染色の流れや注意点の説明などをして、工房の庭木を伐るところから始めてもらいました。

糸染めには柿の枝を使い、帯揚げには桜の枝と葉を分けて煮出し、灰汁媒染とアルミ媒染の二通りに染め分けました。
12時半から5時半過ぎまでビッシリの作業でした。

汗だくになりながらもとても真剣に取り組み、また楽しそうで、明るい笑い声、そして染められたものを見て「わ~きれい!」「わ~きれい!」という声がみなさんから聞かれました。私も何度見てもこの時期の植物の生命感に「わ~きれい!」を何度も言ってしまいます。

真夏の染色は暑くて大変ですが、すぐ乾きますので効率よく仕事を進められます。
半日しかない中でも、しっかり染められたと思います。


柿の枝を細かく切る。今回は葉は使いません。


150gの染材を煮出しています。


煮出している途中も小さなガラス瓶に染液を取り、やめ時を見極めます。長くすれば良いというものではありません。


糸を絞ったあとに風を入れるやり方を伝授。強く引っ張ったり、糸に素手でたくさん触ってはいけないことなども話しました。
糸を傷めないためにとても大切なことです。


放冷中も糸を繰る。温度が下がる時にも色素を吸収するのでムラになりやすい。


温度が下がるまで留め釜をして色素を定着させる。


干して乾かすことでまた色を定着させる。干すことも染めること。
柿でピンクベージュが染まりました。


帯揚げは奥が桜の枝の灰汁媒染。手前が葉と枝の混合のアルミ媒染。
ボールを使って糸を染めるように布をムラなく染めるには工夫やコツ必要です。
ここには書ききれませんが、紬塾ではその説明もします。

帯揚げは持ち帰って自分で洗って干し、1週間ほど室内で陰干しして色を安定させ、スチームアイロンを掛けてもらいます。
乾くと色は半減しますがどんな感じになったかは次回の紬塾に持参してもらいます。どんな仕上がりか楽しみです!



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百生やつるひとすじの心より

2018年07月20日 | 工芸・アート


暑中お見舞い申し上げます

西日本を中心とする豪雨で多くの方が亡くなられました。
また被災して今も困難な状況の中におられる方々、ご関係の皆様にお見舞いを心より申し上げます。
東京も今年ほど厳しい夏はなかったように思います。暑さには強いほうですが、梅雨明け後も湿度がとても高く身体に応えました。
海水温の上昇、温暖化をなんとか食い止めてほしいものです。

この酷暑の中、工房では秋の展示会向けの作品制作をしていますが、涼しくなりましたらアップいたします。
さて、工房内のささやかな床の間スペースに一服の“涼”を求めて加賀千代女、小川郁子、中野みどり、古いものと新しいものを取合せてみました。(^_^;) 



掛け軸は江戸期の俳人、加賀千代尼の句幅。
取合せとして、「江戸切子矢来紋蓋物」(小川郁子作)
敷布は紬織り藍染格子縞「「秋雨」(中野みどり作)

掛軸は10年近く前に古美術店で求めました。
「百生(ひゃくなり)やつるひとすじの心より」 加賀千代尼(1703-1775)


たくさんなっている瓢箪を詠んだ句です。瓢箪の季語は秋に分類されますが、来月になれば立秋ですから盛夏に掛けておく軸かと思います。
句の意味はなんとなくいいなぁ、、、でしたが、表装の裂地にもとても惹かれました。
当時のままの表具と思いますが、天、地は透ける生地に緑色の和紙で裏打ちがされています。それが生成りの絹を通して薄緑に浮かび上がっています。キビソ糸で織られていて表具に多く使われたと思います。糸の太細の落差の表情がたまりません。


中廻しと一文字の裂地は繊細な組織の織りでキビソとのギャップが大きい取合せもすごくいいです。地の目が通ったとても良い表具です。薄くて扱いにくい生地だと思いますが、手織りしかなかった時代の地の目を見れる職人技です。

千代女の「朝顔に釣瓶とられてもらい水」は有名な句ですが、この句も千代女のやさしさが感じられて味わい深くとても好きになりました。


取合せの小川さんの蓋物は2~3年前の個展会場でいただきました。
カットも色も他にも何点かありましたが、この透明な生地に伝統的な矢来紋の深い切込みが私にはむしろ斬新で力強く、小川さんの力量を象徴しているものに思えました。
木の蓋は外注するそうですが、身と蓋の取合せには苦労もあるとのことでした。
先日サボア・ヴィーブルでの個展を終えられたばかりですが、その時、工芸評論「かたち」の笹山さんが『人は日々』シリーズとして会場でインタビューした時の様子を動画にしたものが下記よりご覧いただけます。
敷布は10年ほど前の仕事ですが、同じ経てで縞帯を3本織った時のものです。そのうちの一本を私も半幅帯にしてよく使っています。
もう一本は、少し前の「和楽」記事に、森田空実さんが名古屋帯で締めてくださっていました。
私の半幅帯の着姿はこちらで。 

小川さんの個展会場での動画はこちらから。他の方も含めご覧ください。
「個展会場の臨場感と作家の「素(日々)の語り」を聴いていただくことを主眼としています」ということです。



中野みどりHP
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第2回 紬きもの塾――糸の力、色の神秘

2018年07月06日 | 紬きもの塾’17~’20


糸や色、布の風合いの話の回が紬塾の核になるところです。
布を見る上で、着物を着る上でも参考になるような話をします。
みなさんもとても熱心に聴講してくれました。

観察が大事ですので、まずは真綿や未精錬の糸、精錬後の糸、真綿紬の糸の様々もしっかり見てもらいました。
先に解説などしないようにし、知識はあとからポイントだけお話します。
繭から糸を繰る、真綿から糸をずりだすワークショップも行いました。

繭から繰り出される糸の美しさに感嘆の声が上がります。

黒っぽい紙に糸を巻き付けながら糸を繰ると、最初は太い糸束が出てきます。
その糸がだんだん蚕が吐き出した1本の糸になります。
繊細で震えるようなウェーブがきれいです。
お蚕さんは不眠不休で頭を大きく振りながら8の字をかくように2日ほど糸を吐き続けて繭を作ります。
その繭から私達が着る着物やシルク製品が作られるのです。


また草木の生木で染めた色に目が吸い付けられるようにみなさん見ていました。

人の肌にも、どの色を当ててみても似合わないということがないのです。
化学の色は、色相によっては人の肌に馴染む馴染まないがありますが、色素の複雑さと生き生きとした自然物にしかない発光するような色は私達の肌と呼応するのだと思います。


糸綛をノーメークの顔の近くに当てて見てもらいました。
ピンクベージュ、イエローベージュの糸、どちらも似合わないということはありません。

紬塾初回に、私が着ているピンク系、イエロー系の紬をみなさんに両方羽織ってもらいますが、今までどちらも似合わない方はいなかったと思います。
もちろんより似合う、、ということはありますが。

身近な自然がこんなに美しい色を宿し、与えてくれるのです。大切に有り難く利用しない手はありません。

最後は部屋の灯りも消して夕暮れのほの暗さの中で染糸を見てみました。
みなさんも改めて「この光の中でもきれい・・」「深みを増すよう・・」とつぶやかれていました。

次回、染織コースの方には実際に糸や布を工房の庭木で染めてもらいます。
結果だけではなく、過程も体感してもらいます。





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