中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

紬塾 第3回「とことん着尽くす」― 着物の更生・運針

2024年06月22日 | 紬塾’21~’24
紬塾では、環境や、エコの問題を話題にします。みなさんからも日々エコのことで工夫していることを伺ったりするのですが、紬とエコが繋がらない方もあるかもしれません。
紬のことや着物のことを学びに来たのに・・。

紬の前身は“絁(あしぎぬ)”と呼ばれる絹織物と言われています。
節のある織物で武士や僧侶などが着ました。
平安時代の法令集「延喜式」の中にも“絁”が出てきます。
学生時代に平安時代の衣の文化についての課題があって、調べた時に「絁」の文字を覚えています。

諸説あるのでここには書きませんが、いずれにしても、所謂生糸の平絹織物ではなく、繭を一度に沢山引き出す節糸や、出殻繭から直接引き出すずりだし糸や、繭を真綿にして引き出す真綿紬糸など、節は出るけれども無駄なく使い、織られたものです。
堅牢な織物として、その風合いや、野趣味、柔らかさも人々に愛され、今日では紬として続いているのです。
そこにはひと手間も、ふた手間もかけた創意工夫があって出来るものなのです。

また、着物の和裁の知恵というものも凄いものがあります。
昔は解くことを前提に縫われていて、ミシンのようなきつい縫い目ではなく、玉止めを取ればすうっと糸が抜けるようにできています。
衿肩明きだけ鋏が入っていますが、前身ごろと後身ごろを逆に使うこともできるのです。
この日着ていたこの紬も前後を入れ替えて仕立てかえてあります。
前身ごろに大きなシミをつくってしまい、表裏を返し、更に前後も入れ替え帯でカバーできるようになったのです。(^^ゞ

堅牢に織られた紬は3代に渡って着ることもできると言われていますので、これこそとことん使う究極のエコではないでしょうか?



襤褸(ぼろ)の写真集、「襤褸の美」(額田晃作)をいつもお見せするのですが、凄まじいものがあります。
何十枚もの継ぎ当てのある布団側や野良着。
しかしある種の美も湛えているのです。
日頃の自分のエコ意識などの生ぬるさを突きつけられるような思いになります。


私の母も着物地や子供たちの学生服のズボンやスカートで普段使いの座布団側を沢山縫っていました。
上の画像で私が手に持っているのは、扇風機を保管する時のカバーを古い母の夏のスカート(母が自分で縫ったギャザースカート)から作ってありました。

他にも沢山リメイク品があるのですが、運針だけで縫っているものがほとんどです。
子供の頃の銘仙の着物で縫った風呂敷も沢山あります。
今のようにビニール袋や衣装ケースのない時代、衣服を風呂敷で包んで茶箱に保管していました。


上の画像は、銀行の粗品の手拭いで、子供たちが飯盒炊爨の時に持って行くお米を入れる袋も作っていて、お見せしました。

母は自分用に、自家用に作っただけで、まさか娘が他人に見せるとは思ってもなかったでしょう。苦笑いしているでしょう。(#^^#)

秋にはみなさんにも何かあるもので創意工夫して縫ってもらうべく、夏休みには運針練習をしてもらうことになっています。
布を見詰める良い機会になればよいと思います。

エコ意識はクリエイティブな世界に繋がっています。
安いものをたくさん買って捨て続けるのではなく、気に入ったものを大切に修繕しながら使うことは、ものへの愛情も深まり、自分の気持ちも安定します。創意工夫は脳の活性化にもつながります。



五本指のお気に入りのソックスは二度三度とアップリケ状に継ぎを当てて履いています。
靴下の継ぎ当ても楽しいですよ!








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

着物を着ること、装うこと

2024年06月15日 | こぼれ話(着物)
先日、少人数の夜の会食に出かけました。
心尽くしの美味しいお料理はもちろんですが、主賓の国内外で活動されている方のフラットなものの見方に、学びがあり楽しい充実した時間となりました。

紅一点でしたので、私にしては華やかに装ってみました。(^^♪
桜染めの赤味を含んだ黄色地に薄紅色の細い縞です。
節のほとんどない、玉糸をたて、よこに使い試織したものです。



帯は20年前、たまたま銀座の画廊の前を通りがかった時に、ショーウィンドウに外国の古い美しい布が飾られていて、中へ入ると帯に仕立てたものも数点あり、その中の絹のサリーから仕立てたこの帯が気に入り買い求めました。

母を亡くしたばかりの悲しみのどん底にあった時で、私の体調も懐具合も悪かったのですが、母が「買いなさい・・」と背中を押してくれたような気がしました。
華やぎのある帯ですが、草木染の着物とも合う色合いです。
前柄の裏面(太鼓の左側)も素敵なのですが、今日はお祝い絡みの会ですので、赤を効かせた方を使いました。


野薔薇の洒落紋は、草木で染めた紬の経糸を十数色、職人さんにお渡ししてそれで刺してもらいました。
普通、日本刺繍は無撚糸の糸を使いますが、これは撚りが入ってます。
野趣のある、世界に一つの紋です。
この着物については拙著、「樹の滴-染め、織り、着る」にも掲載されています。

季節の料理とお酒。庭の植物を眺め、楽しく学びのある会話。
人との繋がりの中で、こんな時間を持てたことを幸せだと思います。

着物を着ることは、身体を包むだけではない、その場に何を着ていくのか、心を尽くして考え、選んでいくこと。それはとても高度な精神世界です。

昔の人たちは布や着ることに対して、今以上に大切にし、また拘りがあったと思います。

紬塾後半の、取り合わせの回の時に、ただの色合わせ、コーディネートをすることだけではないこともお話ししますが、"着ること(装うこと)"は人の生き方にも関係してくる奥深いものです。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする