中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

女わざー森田珪子さんの講演会を聴いて

2014年06月19日 | 女わざの会

当ブログでもご紹介した、江ノ島のかながわ女性センターで行われた『暮らしを彩る手わざ』と題した「女わざ」の森田珪子さんの講演会に昨日行ってきました。

震災で家も全壊し、本当に大変だったのですが、
でもとにかくお元気な変わらないお姿を拝見でき本当に嬉しかったです。
ご友人が作ってくれた服を着て嬉しそうな森田珪子さんを写真に収めさせてもらいました。

講演は、きちっと1時間で大事な話を広い見識と経験を踏まえ話をしてくださいました。
素晴らしい話をいろいろとお伺いでき、わざわざ行った甲斐がありました。
紬塾の方も4名参加してくださって嬉しかったです。
20~40歳ぐらいの方も5~6名くらい、トータル20名ぐらいでした。

森田さんが行きたいわけではなかったけれど、結婚して東北へ行くことになった時、小学校の恩師が「寒いところへ行ったらいろいろ見れるよ。醸成、発酵させるものがあるから。」と言葉をかけてくださったそうです。
食べ物もそうですが、冬の間に外で仕事ができない故に裂き織りの炬燵がけを織ったり、刺し子をしたり、使い古された小さな布でパッチワークや継当てを美しくしたのでしょう。

それらのことは貧しさや気候風土だけでは片付けられない、人間に備わった美しいものを手で作りたいと思う気持ち、またそれができる能力を遺伝子として私たちは与えられているのでしょう。
遺伝子をなおざりにした暮らしを考え直すことは今大事な時ではないかともという趣旨のことも話されていました。



この写真は森田さんの収集された資料の「手甲」です。
表地は別珍で裏はネルのような生地でした。
甲には美しい刺し子が施され、内側にも美しい針目が補強とデザイン性を兼ね備えてありました。
「好きな人に会うときに見せたかったのだろうか・・私のような無骨な荒れた手でもこれをはめると綺麗に見えるでしょ?」と笑いながら手にはめてかざして見せてくださいました。
女の手わざです。

他にもこん袋と呼ばれる(冠婚葬祭など、炊き出しの時などに米を入れる)小さな着物などのハギレのパッチワークの美しい手わざの袋も見せてくださいました。
ただの米の袋ではなく用途と美しさとその土地に受け継がれてきた形の意味合いなど、上手な人から手ほどきを受け、つくり継がれてきたのでしょう。

でももちろん今は人々の暮らしから忘れ去られていこうとしていますが、森田さんが作り方なども記録してくださっています。
ただ古い時代のものとして片付けるのではなくその仕事の中から今でも自分の暮らしの学びに繋げられることはあるはずです。

講演の後はみなさんミニタペストリーの制作を無心でやられてました。
卓上機に経糸も張られ、昭和の並幅の格子の布団側を裂いた緯糸も用意されていました。
準備が大変だったと思います。
本来は使い古した布を裂いたわけですが、もったいないような「小奇麗な」感じでした。
森田さんもこの点についても触れられていました。

裂き糸に何を使うかという選択から始めると、もっと自分の着るもののこと、布のこと、繊維のこと、暮らしのことと向き合えると思いました。
このワークショップの本当の意味はただ手慰みに機織りをすることの体験だけで終わるものではありません。

今の暮らしの中には古布というものがありません。着なくなった服はゴミに出され、リサイクル業者によって再利用はされますが、目の前からは消えていきます。

「買う=捨てる」という今の暮らしの図式を、「買う愉しみ=長く使う愉しみ=再生(更生)の愉しみ」に現代なりの転換をはかることは心の安定やものや人との絆を生むことにもなります。

現代の無駄の多い暮らしを少し見直し、そして豊かに生きることは人を身体の芯から鍛え、むしろ澄んだものの見方や安定した心持ちにしてくれるということを再確認しました。

ものを作るにせよ、使うにせよ質を高めていく上で欠かせないことに思います。
自分に出来るところからしていけば良いのではないかと思います。

裂き織りは布を裂く手間はかかりますが、織るのは早いです。
初めての方もどんどん織っていました。
元の生地と、裂いて織った布の感じは予想を超える面白みがあります。
私もたまに着尺で残った経糸を利用して織ることがあります。
母が服地などもたくさん裂いて球にしてくれていますので時間が取れるようになったらやりたいです。
紬塾でも上記を踏まえて裂き織りの講座を考えてみようかと思い始めました。




女わざの会誌を私につなげてくれるきっかけを作ってくれた笹山央さんと、講演終了後に話をする森田さん。



週末の更新では6月28日、29日に迫りました笹山さんの「現代工芸論』の出版を記念しての
「集い」のお知らせをします。



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武蔵野美術大学特別講義――「紬きもの塾」移動教室⑤

2014年06月13日 | 「紬きもの塾」移動教室



ことしも武蔵野美術大学特別講義へ今年も行ってきました。
学生たちの感想が送られてきました。
感想に添えられた似顔絵、ボサボサ頭と鼻眼鏡、よく特徴を掴んでますね。

今年は時期を少し早めて、6月5日に行いました。
昨年の感想の中に、もっと早くこの講義を聴きたかったという学生の声もありましたので、秋に向かっての制作に役立ててもらえたらと早めました。

今年の学生はおとなしい(反応がイマイチ静か・・・!)というような噂も聞いていましたので、作戦を立てて行きました。

いつものように前半は糸や紬織りとは何か・・の話と糸取りの実習も進めていきました。
休憩をはさんだ後半は、染め、織り、デザイン、着物の取合せ文化などの話、最後に私の私物の紬をきてもらう・・というのがいつものパターンでしたが、今回は後半の始めのほうで先に私の紬を着てもらい、半幅帯も私のものを使って締めてもらいました。

「着物を着たい人、2名いませんか?」「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」おとなしい人たちのはずでしたが、、、5人が真っ先に手を挙げました。ジャンケンで2人を決めてもらい、さらにはピンク系の梅染の着物と黄色系のコデマリ染のどちらを着たいかも、やはりジャンケンになりました。

着始めると、周りで見守るクラスメートたちから「可愛いい!」「似合うよ~」「綺麗!」と声がかかり、パシャパシャとシャッター音も鳴り、盛り上がりは絶頂に!
着物をほとんど着たこともない人ばかりでしたが、纏った本人たちも喜びの表情でいっぱいでした。
寄せられた感想の中にも、「植物の自然な色は誰でも似合う色だ」というのもありました。
半幅帯の文庫結びも自分でやってもらいました。「わ~意外に簡単!」とも言ってました。

テキスタイル科の学生ですから、布染めや織りも実習がありますので、半幅帯ぐらいは自作してみてくださいと、長さや幅、寸法のことなども教えました。

着物には全く無関心そうな人たちでしたが、やはり風合いの良い布や自然な無理のない色合いは、先入観がないだけに直に触れてみると素直に受け入れられるように思いました。

今回は感想の中から特に着物について書かれたいくつかご紹介しましょう。

「親から子へ受け継ぎ、何十年も使える。人の手で織り自然の色を纏う、とても温かくて素敵だと思いました。」

「繭から1本の糸をつむぐこともすごく繊細な作業で、それを体験したあとに実際の糸(染められた)や着物を見ると、どれだけの時間がかかっているのか、すごく大切にする気持ちがわかる。
日本の文化や、物を大切にすることは着物だけでなく生活のいたるところにあって、今の日本でも忘れてはいけない・・・というより忘れたくない大切な文化だと実感。自分でも大切な一着を普段着として着られるようになりたい」

「この講義を受ける前まで着物のイメージは上品で高貴な方が着るもので、あまり自分が着るイメージはありませんでした。でも着物の着方、たたみ方など経験したことのないことができ良かったです。長く着続けることの着物に魅力を感じた講義でした」

「先生が着ていらっしゃったお着物もとても綺麗で、実際に触らせてもらって手触りが優しく、うつくしいなと思い、とても興味を持つことができました」

「草木染の方法と、着物の着付けは前から本当に知りたかったことなので嬉しかったです。先生もおっしゃっていましたが、着物は周りの人々を幸せにしてくれる力があるなあと改めて感じました。
成人式で着た振袖は母から受け継いだ絞りの素敵な着物です。早く私の娘にも着せたいなぁと思いました。着物に魅了された3時間でした。幸せな気持ちになりました」

「私は留学生として、韓国には日本の着物文化のようなものが有りませんので、すごくうらやましいです。今日は着物の美しさを再び感じました」

そしてさらには私がこの日着ていた着物や半幅帯、自作の銀の帯留めも「先生可愛い!」と好評で、学生との記念写真も一緒にと、撮られました。これは今回初めての経験でした。でも楽しかったです。


このあとの講義はみなさん真剣な表情で聴いてくれました。
作戦、成功!でした。

早いうちに質の高いものと出会えるように、大学側も、ものをいきなり作らせるのではなく、良いものをジャンルを問わずたくさん観たり触れたりする機会を学生にあたえてほしいと思います。

様々な素材や特性、技法、そして人々のあいだでどんなふうにものが作られ使われてきたのかなど、工芸の根本をもっと深く知ってもらうことが大切と思います。

これから現代の工芸が生き残れるのかは若い世代にかかっています。
質の高い手仕事を権威付け、ただ眺めさせるだけではなく、生きたかたちで市中の人々に知ってもらうことが何より大切です。

絶滅危惧種の「工芸」ですが、なくしてはいけないと思います。
それは人の仕事の原点だからです。

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「『現代工芸論』出版記念の集い」お知らせ

2014年06月08日 | お知らせ


『現代工芸論』出版記念の集いのお知らせです。
 
  日時――6月28日(土)29日(日)12:30~17:00
  会場――仏蘭西舎すいぎょく(板橋)

  ※28日はすいぎょくの喫茶コーナー(飲み物のみ)の営業があります。

29日の参加を希望される方はお早めにお申込みください。(定員30名)
講演会とコンサート、一方だけの参加でも大丈夫です。
 
詳細はこちらから。

工芸評論家・笹山央さんの本は硬い内容ではありますが、おかげさまで好評を頂いております。
関連ブログはこちらから。
そこでこのことを更に直に皆様とお会いして内容を深めていくことができたらと思い「集い」を企画いたしました。

企画を練っているところへ古くからお付き合いのある瑞玉ギャラリーの同じ敷地にあるレストラン仏蘭西舎すいぎょくが厨房のリニューアル期間中貸しスペースとして使わせていただけるというお知らせが入りすぐお願いした次第です。
住宅地ですが緑があり、建物には北窓があり、絵画や工芸品を観るのにふさわしい光が入るスペースだと以前から思っていました。
着物を着ての集いもやりたいなあとも思っていました。

笹山さんの講演と井上まさじさんの絵画、そして古楽系のソプラノ歌手名倉亜矢子さんの取合せです。

三者とも自然体でやるべきことを淡々と地道にこなされている方々です。
押し付けがましいところは一切ないのですが内側が鍛えられているスタンスがスッとしています。そこが共通点です。
三人の方々に豊かで確かな時間を作っていただけるものと確信しています。

笹山さんの話のテーマは「工芸とは?――手仕事はなぜ必要か――」
講師を務める多摩美の学生たちや、かたちの会でも冊子に語り続けてきた内容です。
作り手、使い手問わずご参加ください。

井上まさじさんは北海道立近代美術館に最近10点ほど作品が収蔵されたということでその記念も兼ねています。
先日お電話で話をさせていただきましたが「収蔵おめでとうございます!」と申し上げると「別に大したことではないから」といつも通りに淡々とされていました。
でも一般の方の目に触れる機会も増えるのですからファンとしてはよかった!と思います。
画像では全くその良さが伝わりませんが実作をぜひご覧いただきたいと思います。
新しい試みをいつも機が熟すのを待ちながら前を向いて描き続けている方です。
私も何点か頂いてますが、どれもいくら見ても飽きが来ないのです。
新作も楽しみです。

名倉亜矢子さんはソプラノ歌手ですが中世~バロックの曲を中心に活動されている方です。
発声が自然な呼吸法とともにあり半艶消しのようなやすらぎのソプラノです。

以前にもかたちの会の企画で鶴川の可喜庵でサロンコンサートをしていただきましたが、聴衆のほとんどの方が涙を流していた感動のコンサートでした・・・
部屋の空気が一新されるような歌声です。
私は蚕が吐き出す糸のようだと思っています。
その時のモノラル録音はこちら

2008年にリリースしたソロCD「やすらぎの歌」は、レコード芸術誌上で「プライヴェート・ベスト5」に選出されたということですが、このCDも私は何度も聴いています。癒されます。
今回もそのCDの中に入っている曲も演奏していただけます。
小型のゴシックハープを使っての弾き語りとなります。
日本の歌も楽しみです

また音楽の指導にも力を入れておられます。
プロクラスから子供、高齢の方まで指導されています。

そこで何と!コンサートのあとに「ミニワークショップ」を特別にしていただきます。
声と気持ちをスッと宙に飛ばしてみませんか?
指導までしていただけるとてもとても贅沢な時間です。
またとない機会ですので是非ご参加ください。

29日は講演とコンサートの間(14:30~15:00)に飲み物サービスの時間がありますので余裕をもってご来場ください。

予約お問い合わせはこちらからどうぞ。
当日のご連絡は080-6775-4892へお願いします。

かたちの会推奨の工芸品(陶・ガラス・木工の器など)もサブコーナーに展示いたします。
私は新緑染の春夏ストールを出品します。

サブコーナー詳細は後日またお知らせします。



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第3回紬きもの塾ーとことん着尽くす、第4回紬きもの塾ー糸をつむぐ

2014年06月03日 | 紬塾 '13~'16
今回は午前、午後を通しで紬きもの塾を行いました。

午前は久米島式の方法で真綿から少し太めの糸をつむいでもらいました。
午後は着物の更生の話を実例を見てもらいながら進めました。そして後半は麻の伊達締めを縫うべく運針の練習をしました。


糸つむぎは糸を見るのではなく左の指先で引き出した真綿の一定量を見定め、右手の指先に水か唾を付けまとめていくことが大事です。重ねた真綿の上の方から綺麗に片付けていくよう注意深く作業を進めます。なるべく均一にします。

真綿の繊維をちぎらないよう(毛羽立ちの原因になる)滑らかにつむぎます。
繭から引き出す糸と違って、真綿にする段階でも繊維が切れてしまってますので紬糸は毛羽立ちやすく、なるべくつむぐ時に長繊維の状態を更に損なわないようにするという意識をもって行うことが切です。

それにしてもみなさん夢中でつむいでいました。もっとやりたいということでした。
この仕事で暮らしを立てることはできません。でも人のやるべき仕事だとは思います。


画像はつむいだ糸を綛揚げしているところです。溜まった糸の上におはじきを置き糸同士が絡まないようにします。

さて、午後からの運針もみなさん難しいようで、、、^^
まずは針に糸を通さないで空で運針の練習をしました。

右手中指の第一関節のあたりに指ぬきをはめます。
針の頭を指ぬきに当てて針を持ち、人差し指と親指を交互に進めてもらいました。
が・・・指ぬきに(革製が滑らなくてよいです)針の頭が固定できないで苦労していました。
手芸など好きでやっている人も結局自己流で縫っていただけで運針の基本は知らないのです。
「小学校で運針を習いたかった~!」との声もありました。
少し練習するとそれでも針を進められるようになり「ワー縫えてる!」という歓声も上がってきました。
できるようになった人から糸こきの仕方も指導しました。針を抜かずにシュッとやれるようにコツを掴んできました。

よいしょっ!よいしょっ!‐ー‐ー‐‐ー‐・(~_~;

目は不揃いでもまずは基本の型は身につけたほうがよいです。

伊達締めは、みなさん完成しませんでしたが、今回は基本の縫い方をみっちりやりましたので,
あとは一人ひとり家で実践あるのみです。

30度超の暑さが梅雨入り前にやってきました。
夏の着物も少しでも涼しく着たいです。
麻の伊達締めは襦袢の上に使うと良いです。
着物の上には博多などの(糸質の良い、締め心地の良い)すべすべした伊達締めが相応しいと思います。

手持ちの古布(絹や麻、メリンス)があればそれを使うのが一番です。
本来は新しい布から伊達締めや腰紐は縫うものではなかったと思います。
今回は麻の襦袢地をみんなで分けました。5尺9寸~6尺(1尺≒37,9cm)あれば十分です。

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