中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

個展のお知らせ

2010年05月27日 | 個展・展示会

明後日29日(土)から6月1日(火)までの間、町田市鶴川の可喜庵で、
かたち21の工芸評論家、笹山央さんの企画で私の個展を開催します。

サブタイトルを「美しい布を織る」としましたが、「美しい布」とは何なのか、
美しさはどこから生まれてくるのか、を問いかけての発表としたいと思っています。
私は高校生のときに、日本民藝館で古い丹波布や芭蕉布を見て感動しましたが、
それらが持っている真っ直ぐで、やさしい美しさを紬の中にずうっと求めてきました。

飾り立てなくても、自然が持つ力を抽き出し、
自然の中で生かされている人の力とを合わせて生み出されてくるもの。
おいしい水を飲んだときのような、おいしい森の空気を吸ったときのような、
胸のすくすがすがしいもの。
太古の昔から人が当たり前にしてきた仕事を大切にしていくしかないのだと思います。

新旧合わせて20点ほどの着物と帯を、自然光の入る室内でご覧いただきます。
時間によって見え方が違ってくるところを是非見ていただきたいと思います。

またサブコーナーでは、かたち21セレクトの実力派工芸作家の作品も展示販売しています。
こちらも自然からの贈りものだと私は同感しています。

詳細についてはかたち21のブログ(こちらから)で紹介していますので、ご覧ください。
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第2期「紬塾」 第2回 「紬」とは? 

2010年05月21日 | 紬塾 '9~'12

今回の紬塾のテーマは

1.「紬」とは?
2.糸のかたち
3.生木での染色
4.幸田文の、着物をめぐる文章についての受講者のみなさんそれぞれの感想やコメント

でした。


ここでは1.の「紬」とは? についてご報告します。
受講者のみなさんに、「紬」に対して持っているイメージを話していただいたのですが、
一人ひとりの発言を要約しますと――、

  普段着。
  ハレの場にはそぐわない。
  素朴な印象。
  ざっくりとしてフシのある着物。ぬくもりがある。
  先染めの織りの着物。糸は生糸と違って太い。
  真綿から紡いだフシのある糸で織られている。温かみのある風合い。
  現代ではおしゃれ着として使われるけれども、フォーマルな場所では着れない。
  真綿から紡いだ太い糸で織られている。風合いがある。
  糸にもいろんな種類がある。
  昔は普段着として着られたけれども、今は略礼装的にも着られる。

などでした。



[中野のコメント]

染織辞典なんかに書かれているのでは、真綿から紡いだ糸をタテ糸にもヨコ糸にも使って
織られた布を「紬」というとなっています。
しかしタテ糸にも紬の糸を使うと織りにくくなりますので、
現実の産地では生産性も上がらないし、コストも高くつくということで、
タテ糸は生糸あるいは生糸に近い玉糸、
ヨコ糸に真綿の糸あるいは玉糸を使っているのが多いようです。
現在の大きな産地ものとしては、タテ糸にも紬糸(真綿から紡がれた糸)を使っているのは
結城ぐらいと言ってよいでしょう。

ぬくもりがあるとかざっくりしているとか、
みなさん紬に対していいイメージを持ってくださってますが、
実際には、そういう紬は今は非常に少なくなっています。
私はそれをもう一度、かつて自家用に織られていたような真綿紬のよさをみなさんにお話して
いきたいなと思っているわけです。

また、今の紬に対してのもっと一般的な評価は、「硬い」「薄い」、そして
「細い糸を密度を詰めて織り上げ、平絹のような光沢を出そうとしている」
というイメージで見られています。
ですから最近は、フシがはっきりと分かるようなきものはあまり見てないはずだと思います。
逆に言うと、それだからセミフォーマルな着方もできるようになっているわけですね。

しかしそのように「硬く」「薄く」「密度を上げて」織ると
ざっくり感とかぬくもりとかが失われていきます。
糸の肥痩やフシがあるのを利用して、適度に隙間を作って織っていくことが、
隙間に空気の層ができて通気性とか保温性を持つようになります。
それがまた風合いや堅牢性を生み出すわけです。
ここに書ききれないこともありますが、私はその点を押さえた上で、
昔のままでもなく、現代の紬を目指したいと思っています。

布を見るときには表面的な色やデザインに目を奪われがちですが、
タテ糸ヨコ糸にそれぞれどんな糸が使われているのかを、
先入観を持たないで素直によく観察してみることが、
いい布を見分けるポイントになると思います。



「糸の話」では、精錬前や精錬後の節糸の匂いをかいだり、
感触をみたりしました。




個展(5月29日~6月1日)が迫ってまいりましたが、まだ製作中です。遠くからの
問い合わせもいただいているそうですが、また間際に更新したいと思います。


中野みどりのHP

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「中野みどり紬のきもの展」プレビューから

2010年05月09日 | 個展・展示会
昨日の東京・銀座での、可喜庵に先がけてのプレビューにおこしくださいましたみなさま、ありがとうございました。
8畳間の狭い空間で、着尺と帯合わせて15点ほどをご覧いただきました。
3時半から5時にかけては混み合ってしまい、ご迷惑をおかけしました。

しかし4時を過ぎましたあたりから、私はバタバタとして応対させていただいておりましたが、
やわらかな静かな雨が部屋のなかに降ったように思いました。
それは大地をうるおし、地中深くに滲み込んでいく「春の雨」(前回記事参照)でした。
日ごろ現代美術を扱っておられる銀座の画廊の方が、展示している着物の一点を見つめて、
「これはアートですねえ」と言われたのです。

そのとき会場には初対面同士の人たちが座り込んで、お互いに言葉を交わしたり、
自分で着尺を体に当てて表情を明るく変えていたり、
その姿に周りの人が言葉をかけたりしていました。
そして人々の気持ちの高まりの気が立ちこめてきて、一体になったように感じられました。
その全体のシーンがまるで雨上がりのもやのなかに融け込んでいるように見えたのですが、
私はそういうことを含めて「これはアートですねえ」という言葉に同意したい気持ちです。
アートは個人の自己表現だけにとどまるものではないと思います。

それにしても春の雨を降らせてくれたのは、今は天の人となった立松和平さんだったのでしょうか。
ご来場くださったみなさんの中にもなんらかの恵みの雨がありましたら、この上ない喜びです。



「春の雨」(桜染グレー着尺)


とり急ぎお礼まで。
企画をしていただいたかたち21の笹山さんは写真を撮る間もなく、
画像を添えてご報告できないのがちょっと残念ですが‥‥。





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反物の仕上げ

2010年05月01日 | 制作工程





個展のプレビュー(5月8日・都内にて)に間に合うよう頑張って織っていた
桜染めのグレーの着尺が、無事織り上がりました。
今日は反物の仕上げをしました。

まず湯に浸けて、糸につけた糊を洗い落とします。
軽く脱水をして、庭で伸子張りをします。
乾き具合の程よいところで伸子をはずします。
次に室内の竿にかけ、布の収縮が自然になるよう糸に空気を含ませます。

それから長さを確認し、織り上げたときの長さとの兼ね合いを見ます。
そして砧打ちをするのですが、縦方向に打つか横方向に打つかを決めて打っていきます。
砧打ちをすることで柔らかさとなめらかさが増し、更に風合いがよくなります。
砧打ちを終えてもう一度長さを確認して、必要な長さに切り離します。

ネップの多い糸(紬糸・節糸)を使っていますので、
検反をしながら余分なネップを取り除いて、全体の景色を見ていきます。
水をくぐり、日の光と空気を含み、蚕が吐き出した糸の形が戻ってきます。
布に立体感が出ます。

本来の絹糸はピカピカツルツルしたものではなく、鈍い光を放つものです。
光線が乱反射して、布の奥の方から見えてくる色があります。
その見え方は、時間により、天候により、季節によって違っています。
変化し続ける布です。

藍の絣糸をほんの少ししのばせた縞にしました。水を表したつもりです。
「春の雨」と題しました。

やわらかな春の雨は大地をうるおし、木々を芽吹かせ、穀物を始めとする農作物を育てます。
山に降った雨は地下水となり、川に流れ込みます。
循環する恵みの雨です。


糸のこと植物の色のこと着物のこと、自然が持つごく当たり前の美しさについて
みまさまと個展で語り合えたらと思っております。
是非ご高覧ください。





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