中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

紬塾 第3回「とことん着尽くす」  ― 着物の更生・運針

2023年06月24日 | 紬塾’21~’24
いつものように着物の更生方法や、私物でその実例を見てもらいました。
また日常の暮らしの中でも、ものを大事にしていくことなど、みなさんが普段気をつけていることなども話し合いました。
トップの写真は、額田昇作コレクション『ぼろの美』を見てもらっているところです。凄まじい図録です。

山育ちの母が戦争中に一番困ったことは、食べること以上に、着ることだったと語っていました。配給も無かったと。
そういうこともあって、布を大切にとことん使う人でした。

ものの溢れる時代ですが、ただ節約とか、始末に暮らすとかだけではない、人と布の関係性なども話しました。

以前のブログ、2016年06月13日2018年08月30日などにも綴っていますので参照ください。



秋に麻の伊達締めを縫いますので、最後に運針練習もしました。
今回は糸を付けずに、針、指ぬきの扱いなど、運針の型の練習でした。
秋まで、家で練習してきてもらいます。

母のぼろの遺品の多くは、並縫いで接ぎ合わせたものがほとんどです。
立派なものを作ろうという野心はなく、手元にある布を慈しみ、布のいのちを全うさせてあげようというものばかりです。
運針は暮らしを、人生を豊かにするものだと思います。



この日の私の着物は、大きなシミをつけてしまい一旦は着るのを諦めた着物ですが、洗いも自分でやって、身ごろを前後入れ替えたり、表と裏も返しているものです。
一番大きなシミの箇所は背中ですが、裏から見るとわかるのですが、表からはほとんど分からなくなりました。(^-^;

帯は越後上布の着尺から仕立替えたものです。30年くらい前に、そごうの横浜美術館から出て、エスカレーターで下る時に、催事場で偶々見つけ、引き寄せられたものです。これは私が引き継がねば、、と勝手に思って購入しました。(*^_^*)
格子の藍は黒に近い勝色で、とてもいい色です。
糸も本当に綺麗です!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、コロナの5類移行に伴い、定点把握で感染者の状況が見えなくなっていますが、第9波に入って、拡大傾向が続いています。検査や治療薬などが有料となり、検査を受けない方も多いと聞きます。
家庭内感染が増え、入院ベッドも塞がりつつあるようです。

政府の無為無策もここまできて、とどめを刺した感があります。
NHKはマスク外しの政府キャンペーンを後押しし、公共放送が、国営放送になるというのは先の大戦でしたことの繰り返しになります。

6月に身内も、紬塾の参加者にもコロナに罹った人もいます。
マスク、換気、手洗いなど対策を緩めずにいきましょう。
政府は全く関心ないみたいですが・・

Twitterなどで、誠実な正確な情報発信をしてくださっている方もたくさんあります。是非チェックしてください。

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紬塾’23染織コース― [真綿から糸をつむぐ]

2023年06月16日 | 紬塾’21~’24
23年度の染織実習コースが始まりました。

5人の方に2グループに分かれてもらい、真綿4.5gから糸を、久米島方式でつむいでもらいました。
初期の方たちは2gぐらいでしたが、何故かだんだん増えて、大変なことになってきました。。(^-^;


まずは真綿を台に掛けるところから。

4.5gというのは着尺の緯糸だけの重さの約1/90程ですが、全てつむぐのに2時間近くかかりました。

秋に小さな布を織るための、着尺糸の2~3倍の太さで、つむぐのは難しい太さです。単純な道具で、あとは人の感覚を働かせるだけの仕事ですが、現代人には、なかなかこれが難しい。。普段使わない脳の刺激になったと思います。





過去のブログもご参照ください。
2018.6.252019.6.07 など。

大事なことは、原始から人は布を織るように生まれてきているのですから、その糸をつむぐのも当然のことです。
大変ではありますが、紬塾に糸つむぎも加えているのは、根源的なところから体験してもらいたいからです。

麻にせよ、木綿にせよ、紬にせよ、布を織ることや、糸つむぎは、今の時代は趣味的なことのように捉えられがちですが、機械的なものが出てくる以前は、生きるためのとても厳しい、時間のかかる過酷な大仕事でした。

でも不思議に、今まで指導してきて、途中で投げ出す人も、いい加減な仕事をする人もいませんでした。
みなさんが無心で真綿と向き合っている姿に、人の根源的な仕事であることを再確認します。機械ではできない人のなせる技です。

私は紬の道を選んで良かったと、こころの底から思います。


今期もかなり、、、たくましい糸が引けましたので、織り上がりも楽しみです。^_^


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「着る」ことについて

2023年06月01日 | 着姿・作品
紬塾では、毎回着物でみなさんをお迎えしますが、個人的なお洒落のためだけに着ているわけではないのです。
私が着ている紬は各回の内容に即して選んでいます。このことも具体的な実例として、参考にしてもらえたらと思っています。
なので、ほぼ着る着物は決まってしまうのです。帯だけなるべく変えるようにしています。

先日の紬塾でも、布のバイアスが綺麗に出る着物は着やすいことなども、私の着姿も参考にしてもらいました。色の話では褪色のこともでましたが、藍の褪色についても話題に上りました。


密度高く、固く織られた紬はつっぱって美しいバイアスは出ません。密度が緩すぎれば、ドレープの山は崩れ、お尻や膝がすぐ抜けてしまいます。柔らかくて、でもしっかりしている生地は着やすいのです。
以前、お客様から「中野さんの着物は体調の悪い時に着ても楽だ」という趣旨のことを言われたことがあります。
私自身も本当に調子の悪かった時に自作の紬に半巾帯で凌いだことがあります。安らぐ感じがあります。本来の紬は体に馴染む着やすいものだったはずです。

なぜ、柔らかさと、堅牢性を保てるのかも紬塾で話ました。
私の仕事の核となるものですので、ここでオープンにもできませんが、ヒントはブログや作品集「樹の滴」に散りばめているつもりです。

布の端、耳もきれいに織るための工夫があります。風合いも1種類の糸を機械的に入れて織るだけでは生まれません。
私が10丁の杼を使い、柔らかなよこ段を織っている映像を見てもらいながら、その説明もしました。
10丁の杼でも、杼の置き方を工夫すると、耳をきちっと絡めるように織ることができます。
耳がわかめのような着尺をインスタなどでよく見かけますが、あれでは仕立の方は苦労されるでしょうし、仕上がりは美しくなりません。何より背縫いの経糸が定まらず、地の目が割れることもあります。
もう見るに耐えかねるものを販売して、お金を払った方が損をするようなことはあってはならないと思うのです。
何よりせっかく買っても着にくさでがっかりして、着物を離れてしまう、そして作家ものはダメだということになってしまいます。
着尺の基礎をきちっとわかって仕事して欲しいです。
自家用のものなら多少の不出来は構いませんが、お客様に販売するものはそういうわけにはいきません。

また、大枚を投じて着る人も、色や柄だけに囚われず、経糸、バイアス(密度バランス)、反物の耳、手触りなども見てもらいたいと思います。

この日の着物は色褪せた単衣の浅葱色小格子です。何度もブログに登場していますし、作品集の中でもエピソードを交えて紹介している、独立間もない30代初めに織った紬です。
初個展の後、作るだけで自分が着たことがないのでは本当に良いものは作れないと思い、この一反を自分用に単衣に仕立てたのです。

裏返して、擦れた裾も5分ほど切り詰めています。いろいろな帯とよく合いますので、たくさん着ました。真冬と盛夏以外、着ています。
畳で、擦れる膝から下は色が抜けて、一部は甕覗きのような色になっていますが、初めて見る受講生からは「素敵な紬ですね」と声を掛けてくださいました。そろそろ座布団側にでもしようかと思っていますが、これでも良いと思う人がいたら、もうひと働きしてもらうのも良いかもしれません。

詳細は中野の着姿にもアップしました。


帯は茜染めの茶の帯です。着物を着始めた30代半ば、高島屋の岩手の物産展で、草紫堂さんの前をたまたま通りかかって見つけて購入したものです。工芸的な手仕事に惹かれて買いました。親元にいた頃で、着物が売れると帯や羽織を買う、、ということをしていました。
母からは「貴女みたいなのを七儲けの八遣いと言うのだ」と呆れられていました。確かに・・。(^^ゞ

しかし、紬や帯の寿命の長いこと、上質の手つむぎ糸、手織りの着物は高価ですが、飽きることなく着続けられるというのは、仮に着物と帯で100万円だったとしても、50年着続けたなら、2万円/年ほどです。
決して高いだけではないはずです。着る喜び、心の安らぎもあります。次世代に残せるものでもあります。究極のエコでもあります。良いことがたくさんあります。長く愉しみましょう!!

そして次回の紬塾は「とことん着る」話です。
着る紬もアレと決まっています。(#^^#)

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