中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

繋ぎ織りー母子草の小径

2020年01月24日 | 着姿・作品
 
身近な植物から、赤と黄色の色素を抽出することができますが、この着物はリンゴやコデマリの小枝をアルミ媒染した黄色です。黄色の中にも赤い色素も含まれていて、人の肌と映りの良い色です。電灯の下では少し強く感じるのですが、自然光では優しいベージュも感じる色合いです。
残糸を使った繋ぎ糸を、さりげなくタテ、ヨコにランダムに配していますが、無地感覚と言ってもよいぐらい控えめな格子です。
繋ぎ糸は結び目のぷつっとした感じや、そこで別の色に急に変わったりする面白さがあります。予期せぬ面白みでもありますが、ある程度は意図的に考えて繋いでいきます。織り物、特に紬でやる面白さがあります。
 
ただ、それを古めかしいものにしないよう、垢ぬけた感じにすることは大事だと思います。
わかりづらいと思いますが、緯糸もさりげなく絣状のもので、格子が強く出ないようにしてあります。
 
私はデザイン画というものをほとんど描きません。絣の時だけは、絣の入る位置を決めなければなりませんので、位置関係だけ一分方眼紙に印付けはしますが、完成形を思い描いて色鉛筆で描いたりはしません。
 
友禅の方などは、きっちりスケッチや下図を描かなければ、仕事にならないと思いますが、織り物は糸を見て、糸の本数で決めていけばいいのです。頭の中にある以上のことが生まれてくる可能性の方が大きいからです。
 
この反物も一反がひと柄になっていて、同じところはどこにもないのですが、うるさかったり、押し付けがましくはならず、着る人に添い、取り合わせも自由になるようにだけは考えますが、ほとんど成り行きです… (^-^;
 
着物の銘は「母子草の小径」です。春先から咲き始め、6月ぐらいまで咲き続ける植物です。春の七草(御形)にも入っています。
控えめながら、道端でふっと目をとめ見つめてしまう花。白いビロードのような産毛に覆われています。子供のころから親しんできましたが、母子草の小径があったなら、歩いてみたいです。花言葉は「無償の愛」だそうです。。
 

昨年、この着物で工房へお越しくださった方は、人生の岐路に立ち、迷い、悩み、でも新たな道を決断し、歩んでいかれようとしています。
この着物を決断した時も、「自分を律していたい。この着物から力をもらい、そして着物に負けないよう似合う自分でいたい。」と。
 
こんな思いで着て下さっていただき、作り手として大変ありがたく、幸せなことです。今までも、みなさんが特別な思い、一大決心ででお決めいただいたと思っていますが、帯一本でも、ショール一枚でも、帯揚げ一枚でさえ、自分とものの命のやり取りをしながら決断されていると思います。
 
この日は紅型テイストの帯を合わせてお越しくださいました。夕方の蛍光灯の中で撮りましたので、色と布の生き生きした表情は写せなかったのですが、、。黄色系が一番難しいです。PCはまだいいのですが、スマホの画面ではイマイチです。
以前にお会いした時はお祖母さまの紺地の有栖川の帯で、落ち着いた取り合わせをしてくださってました。
 
黄色は太陽光の色、希望と勇気をもらえる色、映画「幸福の黄色いハンカチ」のラストシーンも思い浮かびます。
いつも前向で賢明で優しい方ですので、必ずや道は開けると思います。母子草の小径を前を向いて歩んでほしいです。人生の節目節目に、折りに触れ、お召し頂きたく思います。
 
若い母子草さんから、「私たち、いい女でいましょう!」と、私も同列に含めて(^-^;、エールを送っていただきましたので、是非そうありたいと、私も努力します!たまには口紅ぐらいつけなければ、、。(*^^*)/
 
最後に、客観写生の俳人、高野素十の俳句2句と、母が60歳で初めてスケッチブックを買い、描いた母子草の写生を添えます。
 

われに一日母子草にも一日かな  

父子草母子草その話せん   高野素十

素十はなんでもないこと、あるがままを見つめ、平易な言葉で作句し続けました。

それぞれの思いで読み込ませてくれる大きな世界を内包する鑑賞ができます。

 

「母子草」        84.5.17 川崎市麻生区王禅寺にて 
 
母の青春時代は戦争でしたので、絵を描いたり、見たりの機会もなく、絵の勉強とは無縁できました。でも自然をよく見ている人でした。
鉛筆と数本の色鉛筆で描いていますが、これも客観写生ですね。
 
 
 
 
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「#中野みどり紬作品集」インスタグラムを始めました!

2020年01月17日 | お知らせ

少し前まで、私は作品の写真をほとんど撮ってこなかったのですが、昨今のネットでの情報発信は画像なしではありえませんので、やむを得ず写真を撮るようになってきました。

しかし、実際の自然物の色や紬の風合いを写し取るのは、カメラの性能が良くなっても、プロのカメラマンであっても、非常に難しく、積極的には公開もしなかったのですが、作品の一部の比較的感じがつかめるものだけに限り、布アップ、着姿などの作品アーカイヴとして、インスタグラムにも投稿を始めました。ホームページに掲載しているものからアップしていきます。

現在はショールのみですが、今後は作品の着姿やディテールをアップしていきます。私は個人的にはインスタを利用していませんが、一覧でまとめて見ることができますので、見やすいとは思います。

スマホで撮ってすぐ上げるわけにはいかず、写真の色を画像編集ソフトで調整してからになります。しかし、最初の写真が良くないと調整では限界があって、撮影の時間帯がとても重要です。生き生きした光線がないとうまく撮れません。曇りや人工の照明の中では自然な感じが出にくいので、日々実際の自然光の中で色を見ている者にとっては違和感があるのです。

また、時間帯でその表情が変わりますので、これが絶対!というものもありません。ご覧の環境(PCやブラウザの違い)によっても違ってきますし、そもそも画像を使ったSNSには向かないとは思っていますが・・。(^-^;

制作に集中する中で、そのことに時間をあまりかけられませんが、画像も丁寧に扱っていきたいと思います。私は織り物の中でも節のある紬糸の味わいと自然な色にこだわって制作してきました。

紬布の優しさと強さ、生き生きした表情、風合いを少しでも感じていただければ幸いです。そのことの実現に時間をかけていますので。

たくさんの投稿はできませんが(制作自体がとても時間を要しますので‥)、すでにアカウントをお持ちの方はよかったらフォローをお願いします。コメントの受付は今のところできませんが、ご了承ください。

何かお問い合わせなどはダイレクトメッセージ(DM)でお願いします。

※ トップの画像のショール、茶の帯はともに販売済のものです。

 

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喜多川歌麿にみる着物

2020年01月04日 | 工芸・アート
新春のお慶びを申し上げます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

東京は穏やかな三が日を過ごすことができました。
今日から仕事を始めています。
今年はどんなものを織ろうかと計画に思いをめぐらせています。

昨日は江戸東京博物館で大浮世絵展(~1/19)を観てきました。大変な混雑でしたが、私は特に喜多川歌麿を集中して見ました。
なんといっても歌麿は美人画ですが、私は顔の表情などよりもつい着物に目がいってしまいます。当時の流行もうかがえますし、素材感や、技法、紬塾でもいつも話に出る、異なるものを取り合わせる面白さ、そのサンプルのようなものが多いのです。江戸の粋な色使いなども参考になります。
それを描き分け、版画にする当時の職人の技量の高さもすごいものがあります。
帰ってからも図録を繰りながら、ネットで画像検索などしながら楽しんでいます。

いわゆる大首絵の美人画が、風紀を乱すとして作れなくなった時に、歌麿は町民の日常生活をテーマにすれば、それを逃れられると考え、制作したようです。

トップの写真は、「針仕事」(重要美術品/大英博物館蔵)という庶民の仕事をテーマにした作品で、3枚続きで見ごたえがありました。
画像では細部がわかりませんが、針山の針や、左下ににぎりバサミや物差しなどリアルな感じになっていて、版画を見る人たちが、楽しめるようになっています。ずうっと見ていたかったです。(@_@‐



もう一つ「台所美人」(東京国立博物館所蔵)はミュージアムショップで買ったハガキですが、2枚続きの右側です。こちらは今回の展示作品ではありませんが、この着物を見るだけでも絞り、型、絣、縞織りなどが調和して、細部を覗き込みたくなります。浮世絵の美人画は服飾史の資料的価値も高いと思います。

ただ、残念なことに、会場内の解説文の中にも着物に関しての説明はほとんどなく、染織を専門とする学芸員以外は触れられないということなのか、とても大事なことが抜け落ちているように思いました。



当時大流行した有松絞の大胆な柄の浴衣が描かれています。

立っている人の襦袢の衿も麻の葉の絞り。煙まで表現されて、煙そうな顔をしています。

前掛けだと思うのですが、絣もいい柄です。

時代は変わっても美しい布や、着ることを大切にしたいと年頭に再確認しましたが、
着物を着る人、着たいと思う人が、絶対数としては本当に少なく、なんとか増えてほしいと思います。

今年も善い紬を制作していきます。また、20年度の紬塾でも善き方と一緒に紬や着物のことを深めていきたいです。

紬塾は最終回が2月に変更になりましたが、またご報告します。



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