中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

ビワ染めの帯揚げと枇杷俳句

2019年04月26日 | 制作工程


来月の工房展(5/28-6/3)向けにモッコク、リンゴ、ナシ、ビワなどで帯揚げを染めています。
モッコクはグレイッシュピンク、リンゴは黄色系、ナシはピンク系、ビワはオレンジ系を染め分けています。

今までビワの枝葉でピンク系(灰汁媒染)、グレー系(鉄媒染)、茶系(銅、灰汁媒染併用)など糸染めにも帯揚げにも使ってきましたが、今年は太い枝の剪定があり、樹皮と芯材を分けてピンクを染め分けようと意気込んでかかったのですが、樹皮からも芯材からも、灰汁をかけてもピンクは染まらず、最初はウコン染めのような濃い黄色になり、予定と違って、焦りました。。
しかし、生き生きした色ではありましたので、数回染め重ねをしていくと、帯揚げとして使える色になってきました。

上の写真はビワのオレンジ系で、まだ仕上がってはないのですが、これから更に重ねるか、あるいは化学染料と併用にするかなどしばらく眺めて決めていきます。今の段階でも落ち着いたオレンジ系のグラデーションになっています。
秋の単衣のころにも使えそうないい色です。茜ほど赤くない茶味を含んだ大人オレンジです。写真では伝えにくい色ですが、実物はもう少し茶味があります。

ビワの花について以前のブログにも書きましたが、地味な白い花を長く咲かせますが茎は茶色の産毛があり、甘い香りはあるものの、大きな葉に隠れるような感じで、あまり注目もされないと思うのです。
しかし、ゆっくり花を咲かせ続け、時間をかけてあの甘くみずみずしい独特の果肉をもつ実を熟れさせる枇杷に心惹かれます。

枇杷の実は俳句に詠む方も多いでしょうが、花は詠まれるのだろうか?と調べると、案外ありました。

枇杷の花は冬の季語で、実は夏の季語になります。それぞれ8首ほど選んでみました。
花は侘しさや寂しさが詠まれ、実になると、甘美さや生命感が詠われています。

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<枇杷の花>

くちそそぐ花枇杷鬱として匂ひ  橋本多佳子

輪番にさびしき僧やびはの花  黒柳召波

職業の分らぬ家や枇杷の花   正岡子規

むく犬はどこに眼ありや枇杷の花  中村草田男

医師もどり喪章をはづす枇杷の花  大島民郎

枇杷の花侘しき夕日とどめをり  椎橋清翠

枇杷の花薄日さす寺の古疊  鵜沢四丁

枇杷の花大やうにして淋しけれ 高浜虚子


<枇杷の実>

蜜着の枇杷の皮むく二人の夜   鷹羽狩行

黒衣より掌を出し神父枇杷をもぐ  津田清子

燦々とをとめ樹上に枇杷すする   橋本多佳子

枇杷買ひて夜の深さに枇杷匂ふ   中村汀女

枇杷啜る妻を見てをり共に生きん  石田波郷

木の上にひとり枇杷くふ童かな   正岡子規

一人居のともしび色の枇杷食べて  細見綾子

黒髪を持つ憂さ枇杷の熟るるころ   三木 照恵

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枇杷は古来漢方薬や民間療法にも使われたパワーのある、人にも有用な植物です。
煮出していてもとろみ成分がとても強く、チップと染液を分けるための濾す作業に時間がかかります。
しかしいかにも肌に良さそうなヌメリ感です。
染め上がった色も人の肌を生き生きさせてくれる色です。 

あとひと月もすると枇杷の実の熟す季節になりますが、実も薬効成分が高いようですので、野鳥と共にありがたく頂きたいと思います。(^q^)

さて、工房は世の中の10連休とやらとは全く関係なく日曜以外は仕事をしています。(^_^;) 
工房展の詳細は連休後半にお知らせいたします。
 





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「女わざの会」会誌、櫻工房オンラインショップに登場!

2019年04月19日 | 女わざの会


すっかり遅くなってしまいましたが、「女わざの会」会誌を櫻工房オンラインショップに上げましたので、お知らせいたします。

岩手県の森田珪子さんが主宰されている「女わざの会」が活動の記録として、1983年から年1冊まとめてこられた会誌全23号のうち第1~20号および第22号を櫻工房オンラインショップでご購入いただけます。

「女わざの会」主宰の森田珪子さんは、結婚をきっかけに東京から岩手県の前沢(現・奥州市)に移り住み、地域に伝わる様々な暮らしの「わざ」と出会いました。
そこで衣食住にまつわる手わざや愉しみ、民話や伝承、遊び、行事などを近隣の方達と共に次世代へつないでいく「女わざの会」の活動を長年続けてこられました。
毎回10人ほどの方が集まり、地域の様々な伝承の“わざ”を実践しますが、その会報を楽しみに待つ読者も全国におられました。

会誌の中では、季節の料理や郷土菓子、針仕事、染織、昔話、地域の行事や遊びなど様々な話題が、森田珪子さんの温かく力強い文章でつづられています。
また、装丁、手書きの文字、豊富な挿絵は全て夫の版画家森田純(故人)さんによるものですが、優しい眼差しを感じる挿絵達もこの会誌を読む大きな愉しみひとつです。
タイトルは「女わざ」ですが、「技(わざ)」のみならず「芸(わざ)」であり、「態(わざ)」である。
つまり、暮らし方、生き方に通じるメッセージがこめられています。
性別、年齢を問わずお読み頂きたいと思います。男性にも読んでもらいたい内容です。



全21冊セット(1から20号+22号) :  6,400円(税込)
後半11冊セット(11から20号+22号):  3,400円(税込)
送料 : 510円 (レターパックプラス) ※振込確認後の発送となります。
櫻工房オンラインショップはこちら→



この会誌は、見方によっては料理や裁縫のレシピ集であり、興味のある号だけ抜き出して読みたい、という思いを持たれる方も多いかもしれません。
しかし通読して、この会誌の面白さ、東北の生活文化の奥深さ、森田さんの活動の本質にふれて頂きたいので、敢えて全冊まとめての販売とさせて頂きます。

様々な知識や情報が詰まっていますが、実践を重んじる会ですので、過去の号を参照しながら記述されている箇所もあります。
昔ながらの「わざ」が掘り起こされ、時にはアップデートされていく様子も面白さのひとつです。
巻頭と巻末では時勢や会の様子とともに森田さんの思いが語られ、号を重ねるにつれて、活動に賛同する人々からの反響や、やりとりの様子が読みとれます。ローカルな交流の中から、海外の「女わざ」もしばしば登場することにも驚かされます。

森田さんの、知的で、力強く、温かな、そして時に痛快な語り口にハマると次また次と読み進めたくなります。全冊まとめてお手元に置かれることをおすすめいたします。
工房内でもご覧いただけます。紬塾や工房展などの際によかったらご覧ください。

紬塾染織実習コースの方は、その中から一つ選んで実践したいと思っています。

紙のメディアを作ることは大変なエネルギーがかかります。
珪子さん、純さんの底力があったからこその会報ではありますが、賛同する多くの方の支えもこの会報の背後に見えてきます。

25~26年前、この冊子を岩手のギャラリーで見つけて買ってきた『かたち』の笹山さんが以前のブログで「現代の生活文化の死角を衝いてきているところもあるのです。」と書いています。
SNSの情報発信は瞬発力があるかもしれませんが、こういう活動の情報から時間を掛け、じっくり身につけていくことも今の時代こそ忘れてはならないと思います。

過去の「女わざ」の記事も初めての方は参考になさって下さい。





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MIHO MUSEUMと伊勢現代美術館を訪ねて

2019年04月12日 | 工芸・アート
滋賀県甲賀市信楽町にあるMIHO MUSEUMと三重県・南伊勢町の五カ所湾にある伊勢現代美術館、伊賀の茶陶の三田窯へ行ってきました。前日までの20度超えのポカポカ陽気から一転、真冬のような寒さの中でしたが、山桜は5~6分咲きぐらいで、葉の茶色と混じり合い山の遠景も堪能してきました。





まず初日は伊勢現代美術館で開催中の陶芸家谷本景展(~5月12日)に行きました。
谷本さんは、三田窯の当主ですが、若い頃にフランスで版画を学んだりされた方で、ここ10年は特に抽象的な現代感覚な作品を意欲的に発表されています。古代の銅鐸をイメージしたもの、陶板による平面表現など古代と現代をつなげるかのように、普遍性をもった制作をされています。その中でも特に土の風合いそのままの陶板が私は気に入りました。。




伊勢現代美術館は伊勢市からバスですとアクセスはあまりよくないのですが、ゆっくり時間をとって訪ねたいとても良い美術館です。
初代の館長のコレクション、そして現代作家の企画展やレンタルスペースで若い作家も紹介しています。開館まだ16年ほどですが、初代館長は数年前に亡くなられて娘さんが遺志をついでいらっしゃいます。屋内外の空間、展示彫刻館「宇空(うくう)」も併設されていて、そこもとてもとてもいい空間でした。








「歩く人」(林武史作)という作品の上を歩く人。。


谷本景さんの夫人の由子さんがこの4月から「作古庵」をB&Bの宿として始められて、そこに泊まらせてもらいました。
由子さんも陶のオブジェなどを制作されています。敷地内にアトリエが有ります。


アトリア前の石の大きなテーブルの前で1点写真を撮らせてもらいました。囚われないダイナミックな作風です。
制作についての取材も兼ねていましたが、じっくり制作についてお話を伺うことができました。

作古庵は古い家をリノベーションしてありますが、梁や襖、板戸など、使えるものは生かして、土壁の仕上げで、由子さんのコレクションの家具、調度品も素晴らしいお部屋でした。
オーナ夫妻の作品を始め、コレクションされている海外のアート作品も飾られていて、楽しめます。
Aribnbから申し込めます。



翌日はMIHO MUSEUM「大徳寺龍光院 国宝 曜変天目と破草鞋(はそうあい)」を見てきました。

非常に混んでいました。立ち止まってじっくり見ることができませんでしたので、2回列に並んで見ました。
上の画像や今まで見た印刷物とは大きく違う印象を受けましたが、それでも曜変の静かに発光する虹彩と、侘びた感じも持ち合わせているというか、唸る美しさでした。曜変天目国宝三碗の中では、私はこの斑紋の小さな茶碗の景色が最も好みです。
自然光で見たらさぞや美しいことでしょう。
曜変天目を再現した桶谷寧さんの曜変天目は手にとって時間帯を変えて何度も見ていますが、肉眼でもその色の変化を見せてくれてました。撮影するなら曜変の本質を熟知したカメラマンが、先端技術を使った撮影でないと撮れないようです。印刷も高精細技術が必要です。



今回の一泊の旅は、着物は拙作の単衣紬で出かけましたが、出掛けに雨が少し降っていましたので、予定の羽織はやめ、大島の雨ゴートと紬のショールで出ましたが、思いがけない寒さの中、紬のショールは暖かくとても助かりました。念の為シルクのタンクトップを肌襦袢の下に着ていたのでそれも良かったです。
リバーシブルの抽象文様の半幅帯に自作の銀の帯留め「元始」と小川郁子さんの切子帯留めの替えを一つだけもって最小限のコンパクトな荷物で出かけましたが、結びも吉弥から割り角出しに変え、プチバリエーションを楽しみました。(*^^*)

他のジャンルの方の仕事からよい刺激を受け、英気を養う旅となりました。

さて来月6日から紬塾11期のスタートです。
紬基礎コースはあと2名大丈夫ですのでお早めにお申し込み下さい。
紬の着物の本当の真価を一緒に学んでいきたいと思います。
詳細はこちら。












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