中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

雨ゴートで外出―「味覚のシンフォニーを愉しむ」

2017年10月23日 | 着姿・作品
先週末、台風が近づいていた雨の日に、朝から着物で外出しました。
一日中シトシトと雨は降り続きました。

かたち塾の「五感の探索――味覚のシンフォニーを愉しむ」が行われました。


雨コートは藍染大島紬の仕立て替えたものを着て行きました。肩裏は付いていますが単衣仕立てです。
7年前に亡くなった父のアンサンブルで、とても生地質がよく、細かな経緯絣でコートにするのはもったいないぐらいのものでした。
ただ、私は着物として自分で着ることはないと判断し、思いきってコートにしました。羽織からは道中着も作りました。
仕立替えをお願いしした店の年配の店主が生地を撫で「いいものですねぇ」と眺められていました。
大事に着ていきたいと思ってます。
衿は千代田衿にしてもらいました。

雨ゴートも紗、単衣、袷があるとやはりいいです。
古い着物などからでも防水加工をして自分の寸法に合ったものを作るのが良いと思います。
ただ、対丈になりますので、身丈が難しいですね。
私のは身長から割出した標準寸法(身長×0.83)ですが、幅で取られるようになったせいか、、、ちょっと短めです。(^_^;)
ただ、長いと階段などで前身頃を踏んでしまうようなことにもなりますので、着物を着る時に、雨の日は短めに着付けるか、裾をまくりあげて帯のところでクリップで止めるのも良いかもしれません。

履物は雨下駄を履きます。階段は今も慣れませんが、なるべくエスカレーターやエレベーターを利用して足元の負担を軽くしています。
草履よりも下駄のほうが好きです。

雨の日には着物はやめようか、、と思うこともありますが、真綿系紬に関して言えば汚れも付きにくく、また汚れも落ちやすく、濃い地色のものなどはコートの備えさえしておけば土砂降りではない限り着たいと思います。

着物初心者にはハードルが高いかもしれませんが、一つずつ揃えながら自分に力を付けることは、とらわれない自由を得られるようなものです。
階段を一段、また一段と登ることは楽しみでもあります。

この日も最初は雨で心配もしましたが、行ってみれば日本料理店の坪庭の緑も雨に濡れ、美しさを際立たせていました。
部屋の照明も少し落としていただき、一品一品五感を澄ませて味わわせてもらいました。着物もその場の助けになったように思います。

店主で料理人の方への質疑の時間もあり、お話を伺えてとても納得するものがありました。
季節や自然観を大事にしながら、食材の少ない時期にも創意工夫されていることなど伺いました。
掛け替えのない大切な時間を参加者の皆さんと分かち合わせてもらいました。
帰ってからも余韻が残りました。。。

会の内容はかたち塾の会報を楽しみにして下さい。 
会報は一部売はしておりませんが年間5回分で3,000円となります。(今期で終了します)
ご希望の方はメールで、かたちの笹山さんにお申し込み下さい。




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第7回紬きもの塾ー紬布を織る

2017年10月14日 | 紬きもの塾’17~’20
染織実習コースの4回目。小さな布を織る実習です。
小さいと言っても中身はかなり濃いものとなっています。単なる織体験ではありません。

私がいつも使っている経糸は節や毛羽もあり扱いにくいのですが、それと同じものを用意しました。
私が織る時と同じような杼の投げ方、踏木の踏み込み方、筬打ちの仕方、1時間半ほどの間にたくさんのことをしていただきました。
みなさん真剣勝負で一生懸命機に向き合い、自分にも向き合っていたと思います。
普段余り使わない脳の部分をかなり使ったと思われる高揚感がみなさんにありました。


今、ご入院中のお祖母様に見せてあげたいと、一番バッターで一生懸命織りました。色の響き合いがとてもきれいです。


織る人の傍らで、次の順番を待ちつつ緯糸を管に巻いている人。


足元は滑りにくいよう木綿の足袋を用意されました。


一分方眼紙に3寸の長さでメジャーを作ります。慣れていれば即興でやれることですが、初めての方ですので大まかに糸量を計算し、目安を作っておきます。5本書かれていますが右端が本番用です。つむいだ糸もストローに巻きました。


機の前にコンピューターを使ってデザインを拡大したものを用意した方もあります。
しかし、紙に書いたようにはいかないのが紬織りです、、。(^^) 


経糸の中に挟まれた緯糸をご覧ください。織前に対しての入れる角度(傾斜)も糸の太さによって毎回変えます。一つ上の写真の方は浅い角度です。太さの違う糸をたくさん使っていますので。
初めての方にはかなりハイレベルな実習ですが、初心者向けなことを低く見てはいけないのです。やる意味がなくなります。
仮に上手く出来なくてもなぜうまくいかなかったかを考えればそのことこそが学びになります。


メジャー通りではないですが、途中アレンジも加えながら柔らかな奥行きのある美しい布が生まれました。


おやつは庭の無農薬の柿と、天然酵母、国内小麦の鶴川の隠れた美味しいパン屋さんのココア生地のパン、有機栽培インスタントコーヒーでした。

さて、以下は今期の4名の方が織り終えての染織実習のレポートです。
普段文章を書き慣れていない方の中には思いをうまく書ききれなかった方もいると思いますが、行間にある素直な思いをお汲み取りいただきながらお読みいただければと思います。

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この染織実習は、下記の4回の講座で構成されていました。
①角真綿から糸をつむぐ
②その糸を柿か桜で染める
③織りの設計をする
④織る

作業内容は以下の通りです。
ハンカチ大の角真綿4gから34mの糸をつむぎました。
昨年の紬塾で繭から糸を引き出した時に、糸がきらきらしていたことがとても印象に残っていました。真綿はどんな感じなのか興味がありました。真綿はとても軽くて重さを感じません。まるで綿あめのようでした。糸をつむぐ際にはすっと糸を引き出すことができました。ただ、引き出す量の調節が難しく、糸の太さにばらつきができてしまいました。
糸は柿の枝で染めました。柿の枝を切って、色が出やすいように小さくチップにするところから始めました。植物の量は染めるものの重さを目安に決めます。植物を煮出した時、ほんのり柿の香りがしました。染める作業は重労働で、たくさんの糸を染めるのは大変なことだと思いました。
織りの設計はイメージがつかめず、その上寸、尺といった単位が身についていないので混乱しました。私の糸は太いところ、細いところがありますが、織幅で長さを割る98越し分ありました。3寸の中に約98越し分使えるという計算を立てました。
織りはまず糸を管に巻き取ることから始めました。紡錘状に巻き取るのですが、先生の所にある糸は巻き取りやすいのですが、自分の糸は毛羽で絡まってしまって時間がかかりました。
機に座って織るのは、大変な集中力が必要でした。一つのことに気を取られると、次にすることが後手に回りあれっ?ということになります。3寸の布を織るのにどのくらいの時間がかかったかは覚えていないのですが、かなり集中した時間でした。贅沢なことに先生がお使いの道具を使わせていただき、このような経験ができたことを感謝申し上げます。織りの際には杼を機にぶつけてしまったりと、不調法で申し訳ありませんでした。

「自分で真綿からつむいだ糸を染めて布を織った」ことは貴重な経験になりました。
今回教えていただいた一つ一つの工程は、大昔からたくさんの人たちが工夫してきたことをさらに中野先生がよりよく考えられた方法なのだと思います。本来、一枚の布にはたくさんの叡智が込められていたのだということに気づきました。これから先は、そのことを思って着物を選び、着ていきたいです。 (U.E)


実習では真綿からの糸つむぎ、染め、デザイン設計、織りを体験しました。
糸つむぎの際、無理に綿を引き出さないということや、染める時に湯通しで使った水など使える水は再利用するというように、素材を丁寧に扱うこと、染材として使う柿や桜の枝葉をより細かくすると染まりやすいなど準備に手間を惜しまずに工夫することの大切さを学びました。
デザイン設計では、これまでの紬塾に参加された方々が作られた布を見せていただきましたが、お一人お一人の柄が綴られていて何よりも柔らかな風合いに魅了されました。
織りの際には、織る時に力を入れ過ぎないこと、とのことで柔らかに織ることで柔らかさと同時に堅牢さもある布を作られていることを知り、堅牢さ=強く打ち込むことかと思っていたのでとても不思議で新鮮に感じました。
また、糸が太さや細さによって盛り上がり影が落ちるところや、糸の量、織り込まれた後の色など様々な要素が加わり、想像した柄とは全然違うものになり改めて糸という物を使って作る、織るという行為、さらに蚕から手で紡いだ糸の持つ表情の豊かさに触れることが出来本当にうれしかったです。
そして実習を通し美しく風合いのある布はあらゆることに心をくだき、愛情を注がないと作れないのだととても感じました。
織り実習の後、余った糸を持ち帰らせていただいたのですが糸が、ウェーブしていて光沢がありとてもきれいで命のあるものから頂いたのだと改めて感じました。
実習ではなかなか思うように出来ないことが多く、改めていかに普段の生活の中で手を動かせられていないかを実感しました。
自分が学び取れたことはほんのわずかと思うのですが、少しでも日常に取り入れていきたいと思います。 (S.S)


糸つむぎの実習では、真綿の端を引いていくと長い繊維がするするっと出てきたのですが、中野先生が仰る「自然に自然に」というのが私には中々難しく、それでもとても楽しい時間でした。
また染めの実習では、桜の葉を水で煮出していると桜餅の様ないい香りがして、まるで料理をしているかの様でした。ひとつひとつの植物からどんな色が出てくるのか、とても興味が湧きました。
そして自分でつむぎ、染めた糸でどう織るかを考え、色と色が隣り合ったらどんな布になるのかとわくわくし、いよいよ織るという時にはとても緊張しました。経糸に、真綿の緯糸を一越一越入れていくと、その度に表情が変わるのがとても楽しく、織りあがった布の風合いの良さに見惚れてしまいました。

4回の実習で、大変貴重な経験をさせていただきました。実際に見る、触る、やって見る事の大切さを感じています。 (Y.H)


4回の実習で、角真綿を手つむぎし、柿の枝で糸を染め、設計して、織る、という工程を教えていただきました。
初回の手つむぎの実習では、角真綿から糸の引き出し方、毛羽の押さえ方、ひく時の力加減など、やり方を丁寧に教えていただきました。
なるべく太さを均一にするように気を配りましたが、作業は感覚的でかなり難しかったです。
2回目の染めの実習は、染材の分量や、色の見極め、湯の温度など作業中に常に気配りが必要な工程だと感じましたが、私たちは、先生のおっしゃる通りに進めれば良かったので、桜の葉を煮出す良い香りを嗅ぎ、布や糸が染まっていく過程を観察し、心が癒される楽しい時間でした。
3回目の織り設計では、糸の長さを計算で求め、尺貫法で自分の糸が何越し分あるかを計算し、色糸と合わせて3寸分の布の設計をしました。
この工程は、かなり頭が混乱しました。後の織り実習で分かったことですが、この設計は、必ずしも厳密である必要はありませんでした。3寸の布を織るために、自分の糸だけでは足りないので、足りない分を何色の糸を混ぜるか、指し色は何色にするか、くらいを決めておき、織りながら変更することが可能でした。
そして、最終回の織り実習。実習のクライマックスで、期待を裏切らず感動的でした。自分が紡いだでこぼこの糸が、先生の機織り機で、ひと織りごとに、ぬくもりのある紬になっていったのです!自分の糸がとても愛おしく感じました。

私が今回の実習を経験して一番印象に残ったことは、織りあがった布を見ながら先生がおっしゃった「ハーモニー」という言葉です。「ハーモニー」=「調和」というのは、手つむぎした均一でない糸が経(たて)、緯(よこ)に織りなす風景で、個性の違うものがまとまり、全体としてバランスがとれた美しさだと受け止めました。
「蚕が生み出した糸、植物の温もりのある色、重層的な色の組み合わせによる風合い、こうした素材の持ち味を十分に引き出して布を織り、着物という形に仕上げ、自分で纏う。着物は、着る人の命が果てても次世代へ引き継がれ、着物で着られなくなれば、布になり、紐になり、最後は土に還る。その循環の中に自分がいる。」ということが、中野先生が実践し、教えてくださったことなのだと理解しました。
実習を終え、中野先生への感謝とともに、自然の恩恵、手作業の工程を継承してきた先人にも、感謝の気持ちが沸いてきました。
貴重な機会をいただき、ありがとうございました。 (O.M)






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味覚のシンフォニーを愉しむ――第14回「かたち塾」のお知らせ

2017年10月07日 | かたち塾、アート鑑賞いろは塾


今年の曇り空の中での中秋の月。雲の切れ間から顔を覗かせてくれました。住宅街の明かりと共に携帯カメラでパシャリ!
月は雲の中にあっても美しいものだと思います。

さて、第14回「かたち塾」のお知らせです。
秋の味覚をランチのコース料理で静かに味わいたいと思います。
カッコつけない、飾り立てない、自然体の優しい料理です。

かたち塾は初めての方もご興味のある方はどなたでも参加できます。
お早めにお申し込みください。紬塾の方もぜひご参加ください。

お問い合わせ、お申込みはこちらから。
メール確認後、折り返し詳細をご案内いたします。
返信がない場合は080-6775-4892(かたち21)へお問い合わせ下さい。

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タイトル―――味覚のシンフォニーを愉しむ
講 師――――笹山 央(かたち塾代表・工芸評論)料理店店主(料理人)
日 時――――2017年10月21日(土)  お申込みの締切は10月18日(水)
会 場――――東京都港区青山にある和食料理店
受講料――――10,000円  料理とお飲み物代含みます。
受講者数―――10名様まで(要予約)

これまで〈見る〉ことを中心に〈聴く〉〈嗅ぐ〉と五感のはたらきをテーマにした塾を開いてきましたが、今回は“味わう”にスポットを当てます。

私の場合、ここでの食事は単に「美味しいものを食べる」というだけではなく、コンサートを聴いたり、観劇したりするときの時間の流れに浸るような感覚を愉しんでいます。

小さな店ですが、 全席に窓があり、四季ごとに造作が変えられる坪庭の風情も愉しみの一つです。
向かいの壁に植栽の影が映り、それが時々刻々と変化していくのですが、抽象的動画を見ているような面白さがあります。

食後にはご店主にも、質疑応答形式でお話を聴くことになっています。 (かたち塾長・笹山)





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