中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

[こぼれ話] 絵巻の余白、きものの余白

2009年08月12日 | こぼれ話



8月9日は母の命日。朝、庭の草花を供える。
昼過ぎまでの所要をすませ、夕方、青山にあるお墓に参拝する。
地下鉄の外苑前駅構内でサントリー美術館のポスター「美しきアジアの玉手箱」展(シアトル美術館所蔵作品による)を目にして、
六本木まで足を伸ばすことにした。

日本やアジアの美術工芸好きとしては、何点もの印象に残る作品に見とれた。
特筆すべきは、シアトル美術館が誇る「鹿下絵和歌巻」(本阿弥光悦書、俵屋宗達画)でしょう。
10mもあるという絵巻が、まず益田鈍翁によって二つに切断され、
前半部分は後年さらに小さく切り分けられ、売りに出されてしまった。
美術作品は長さや重さで切り売りされるものではないでしょう。
宗達が描いたのは鹿の姿だけではなく、その大きな動きやしなやかな動きを余白を含めて描き込んでいるようなもの。
その描かれた余白を裁ち切ってしまうとは…。
部分だけ見ても伝わってこないものがあります。気の流れを断ってはいけません。

しかし後半部分だけでも残ったこの絵の余白をひと続きで見ることができて、本当によかった。
会場は日曜日にしてはとてもすいていて、宗達の「気品」という空気に触れて、
心洗われる思いがした。

切断された和歌巻と、すばらしい着物が安易に切り刻まれていることとがどうしても重なってしまう。
着物のデザインは、人の顔や帯という存在を含めて、「間」というものがすごく考えられているもので、
その絵柄の部分だけを取り出してもあまり意味がない。
広い空間で群れている鹿の動きは、小さな柵に押し込められて描かれた鹿の姿とは違う。
野生の鹿のスケール感と、日本の着物をまとった立ち姿のスケール感には、合い通じるものがあると私には思える。
大切なもの……それはむしろ漂う空気、空間にある。

是非すいている時間帯を選んで、ご覧になってください。
展示ケース近くの階段の途中から眺めると、全体が見渡せます。
オペラグラスがあるといいかもしれません…。
着物を着ていくと入場料を300円割り引いてくれます。9月26日まで。
展覧会の詳細についてはサントリー美術館のHPをご覧ください。



[母と小鹿の思い出]



小学1~2年生のころ、ディズニー映画の『バンビ』を母に連れられて見た。
見終わって、母は売店で5~6cmぐらいの小さな木彫りのバンビを選んでくれた。
それから50年ほどが経つ(足し算しないでね…)。黄色のリボンも色褪せた。
安価なお土産品だけれど、手馴れた削りで、小鹿の動きが感じられる。



中野みどりのHP



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