中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

第3回 紬塾「とことん着尽くす」――『ぼろの美』額田昇作コレクション

2018年08月30日 | 紬きもの塾’17~’20
                             「『ぼろの美』額田昇作コレクション」より

8月最後の週にずれ込んでしまいましたが、第3回紬塾「とことん着尽くす」の講座を行いました。

親から譲り受けた着物など古い着物の生かし方、更生の知恵など具体的に私の私物をご覧いただき説明しました。
母の遺品から、子供の頃の着物をはぎ合わせた手縫いの風呂敷や、戦時中に着ていた着物から作り変えた服なども見てもらいました。

また、18年前に出版された『ぼろの美』額田昇作コレクションも短時間でしたが紹介しました。
みなさん関心をもって見てくれていましたのでブログでも少し紹介いたします。

画家の額田さんがぼろの美に魅せられ打ち込んで収集したコレクション図版集です。
発売されてすぐに購入したものですが、今も手元において時折眺めています。

ぼろのコレクターはたくさんいらっしゃいますし、実物を見ることもありますが、この方のコレクションは特にアート、現代作品を見つめるような視点で選ばれたものが多いように思います。
それらのとことん使われ、幾重にもたたみ掛けるように継ぎはぎされた布は、自然発生的な、導かれるような模様やかたちを成し、美しく、またアート性を感じます。

文中に額田さんは『絵もこのように描けないものか』と書かれています。
画家のみならずこれらの布を見ると自分の仕事と重ねて衝撃を受ける方は多いと思います。
布を織るものとしてはいつもこれらの仕事を根底に据えておきたいです。

ほんの一部ですが本の中から写真を紹介します。
まずは手織り布自体の美しさ、針目の美しさ、特に擦り切れる部分に思いがけない模様が生まれてくる面白さ。
重ね配置される無数の布の調和。自然と人為が織りなす、見ても見ても見飽きないものです。
生きるか死ぬかの瀬戸際の繕い仕事から生まれてきたことは言うまでもないことですが、でも美しいものを使おう、作ろう、纏おうとしているからこその仕事に思えます。

入手困難な本ですが、図書館などにあるかもしれません。





                                        酒袋

                                                  右は麻袋


このコレクションでも思いますが、とことん使うに値するものを今の私達も使うことが大切ではないでしょうか?

継ぎ当てには不思議な力が宿ります。身近なものに継ぎはぎをするのは楽しいですし、布や糸質などの発見もあります。
工房の30代のアシスタントも、以前会社勤めの頃は服などをたくさん捨てていたようですが、最近はズボンやシャツに継ぎをあてて着ています。


麻のシャツの擦り切れたところに当て布をして並縫いをしたもの。あて布の色柄が見え隠れして面白いですね(額田コレクションの後に恐れ多いのですが、、)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次回紬塾はいよいよ運針で伊達締めとヘンプ蚊帳生地タオルで汗取り(補正用にもなる)を縫います。
運針は練習してきてください。指ぬきも自分のサイズに直してきてください。よろしくお願いします。







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暑さ対策(4)ーヘンプ手拭いで作る貫頭衣

2018年08月25日 | 自然環境・脱原発


夏休みは毎日縫い物や繕い、リメークなどをしていました。夢中で楽しい時間でした。

綿麻素材の少し長めの手拭い2枚で仕事着として貫頭衣を並縫いだけで縫ってみました。
胸のところだけ裏打ちをしてこれ一枚で着れるようにしています。
開いた袖口、裾、Vの襟元から風が抜けてとても涼しいです。
切り込みは入ってませんので解けばまた2本の手拭いになります。

肩にタックを2本寄せたのがポイントです!

来年運針だけで貫頭衣を縫う講座もできればいいなぁと思っています。。

酷暑をエアコンだけに頼らず(必要なときは使うべきですが)着るもので工夫することも大切です。
私が子供の頃は夏にTシャツなどを着ている人はいませんでした。
麻の開襟シャツやサッカー、リップル、縮みなどの生地に凹凸のある服を着ていました。
下着も夏は編地ではなく織地のものを着ていました。
いつのころからか(50~60年前)カットソー素材が中心になりインナーは伸び縮みのするものに変わりました。しかし、編地のものはループを作るように編まれています。それだけ糸を多く使っていますので放湿、発散性には劣ります。
盛夏にもエアコンを使わない暮らしでは編地は向きません。

日本人は通風ということを考えることで、着るものはもちろん、住居にあっても、日本の高温多湿を凌いできたのです。
私は大学でたまたま被服学概論の講義も受けたのですが、繊維の特性や衣服の形による身体に与える影響なども学びました。

夏には体温を逃がす煙突効果のある衣類、逆に冬は襟元を締め、ズボンの裾ももんぺのようにゆったりして(体温を溜める)裾はすぼまっているものが一番体温を逃さず温かいです。
被服学の立場からの熱中症対策がメディアで語られないのは残念なことです。

人は本来自然に本能的に身を護る術を知っていると思いますが、あまりにまずエアコンが当たり前なことに疑問を感じます。
もう少し賢く暮らさないと地球は終わってしまうのではないかと危惧の念を抱かざるを得ません。

今年は異常な暑さと気象庁も言ってますが、この酷暑、集中豪雨が例外的とはもう思えません。
地球温暖化を食い止めるために世界中で様々な取り組みがありますが、個人もできることから始めたいです。
電気も再生可能な自然エネルギーを基本とした生活クラブの電気の共同購入をしていますが、まずは無駄な電気は使わないことが一番です。
CO2削減のためのたくさんの工夫を日々していますが、明日の紬塾でたっぷりお話します。

お粗末ながら、一句ひねってみました。^^;

風来たる木の葉をくぐり葦簀(よしず)抜け  

涼しさが届きますでしょうか? 


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夏着物と節糸紬半幅帯

2018年08月10日 | 紬の上質半幅帯

この酷暑の中でもこの近江上布を3回ほど着用しました。
麻縮ですので肌に触れている部分は風が通り涼しく、麻のUVカット効果で強い日差しも跳ね返してくれるように思います。
ただ、帯周りは麻布といえども幾重にも重なり蒸します。私は時々身八つ口をパタパタさせ風を入れたり、胸元も襟のところから体温を逃したり、帯も緩めに結び、体内の熱を放出するようにしています。また、長襦袢はラミー麻、肌襦袢やステテコはヘンプ麻をもちろん着用しています。

しかし今年の暑さはさすがに着物を着るには覚悟がいります。連日“命の危険”な暑さでしたから、着るには体調などにも注意して、無理はしないほうが良いです。

この近江上布は青山にある全国伝統的工芸品センター(現在の伝統工芸青山スクエア)で30年近く前に購入したものです。
修業を終えてすぐの若い頃は平日は染織の仕事、週末だけ工芸品センターの展示場販売スタッフとしてアルバイトをしていました。
全国の伝統工芸産地の工芸品が常設、また毎月開催される特別展もあり、いわゆる産地ものの振興をしている財団法人のギャラリー&ショップです。
染織品を始め、他の工芸品全般も勉強したかったこともあり、土日だけのアルバイトをしていました。ここでの経験が紬塾の講義でも役に立っています。

ある時そこでいくつかの産地による、夏の着物展がありました。私は夏の着物も大好きで、特に麻織物が好きです。この近江上布はオーソドックスな柄ですが、私でもなんとか買える価格でもあり、迷わず購入しました。
地味な着物ですが若い頃からよく袖を通してます。自分で手洗いもしています。上質のラミー麻でツヤもあり、なめらかな糸質です。


30年ほどの月日は流れいろいろなことがありました。
紬織りを一人で続け、なんとか工房を維持しながら生活も立ててきました。
少しずつですが、自分用の着物や帯も買いながら自作の紬と取合せたりして着ることの勉強もしてきました。
30代半ばで買った一枚の麻の着物が、30年前のことを思い出させてくれます。
着物を仕立て、麻の襦袢をつくり、一歩ずつ、着ることの難しさや苦労を味わいながら、今のようにネットもなく、身近に着物や仕立てに詳しい人もなく失敗もし、無駄な買い物もし、でも着てみたいと思い、選び、歩き出したのです。。


取合せの綾織半幅帯は四季を通してよく使っています。夏場も使っています。
太い節糸をベースに、細い玉糸を段のベースに使い緯絣を配しています。
ほんの少ししか絣糸がなかったのでポイント柄にしています。

半幅帯は手と垂れを逆に使うことも出来ます。ポイント柄の出方が予想と違っていてそれも面白いと思います。
結び皺はスチームアイロンで取れます。

汚れが目立ってきたら自分で解いて洗ってスチームアイロンで仕上げ、仕立て直せばよいのです。毛羽も取れ良くなります。
ただし、紬といっても盛夏にも使えるタイプは真綿系でないほうが良いと思います。
節糸、玉糸を中心に使ったタイプで、芯も夏芯をいれてもらいます。

別の半幅帯の取合せ。

こちらのページ下の方の中野の取合せもご覧ください。

人生はいつか終わります。健康であったとしても一人で元気にあちこち出掛け、活動できるのも後10年ぐらいでしょう。自分が選び着てきた残された着物たちは私の人生の縮図かもしれません。そう思うと悔いのないようにものと出会い、真剣に選び、使いたいと思います。
紬塾では過去の自分の失敗談や苦労話も時折交えて着ることの話もしています。
8月下旬の基礎コースの講義は着物をとことん着るための話です。

櫻工房ではこの秋の展示に備えて半幅の制作も予定しています。
真綿紬ではなく玉糸や節糸使いで盛夏にも使える重宝なものを作ります。
上質な手織りの半幅帯はシンプルな結びでも存在感があり、お太鼓では重すぎる場にもふさわしいと思います。
体調の悪い時、高齢になっても、また今年のように暑いときも楽です。
洗い張りしながら使う一生モノの半幅帯、お太鼓結びに慣れている方もいかがでしょうか?

一枚の着物や帯と共に歩む人生もいいものだと思います。

さて、工房の夏休みは8月12日~19日までです。
休業期間中もオンラインショップのヘンプ肌着などご注文を承っておりますが、
メールの返信および商品発送は8月20日以降となりますのでご了承下さい。 

お盆休みにはお墓に参ったり、普段できない縫い物、繕い物、音楽鑑賞、溜まった新聞を読むこと、自然の観察など日々出来ないことをして過ごします。(^_^*;)

暑さが続いておりますが、涼しい格好(ヘンプステテコ、エアコン無しの部屋着に最高です!)で熱中症にかからないよう読者の皆様もご自愛下さいませ。








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新女わざの会 主宰・森田珪子さんと梅干し

2018年08月04日 | 女わざの会
当ブログでも何度か書かせていただきました、女わざの森田珪子さんから「新女わざ通信N.16」と今年漬け上がったばかりの梅干しが送られて来ました。
下の写真の色の浅いオレンジ色のは杏です。梅酢で漬けてあるので味は梅干しですが、食感がサクっとしています。


通信の冒頭にはこんな事が書かれています。
「春雪がちらつく頃、ほのかな香りを庭に漂わせてくれた梅が、半夏生の頃には実を結び、8月には梅干しに生まれ変わった。ちょうど盂蘭盆会の頃。作業を見守っていたであろうご先祖様も『古い梅干しもいいけれど、できたても格別だね』と喜んでいるに違いない」と。

30年前にかねさんという方に梅干作りの手ほどきを受けたそうです。そのかねさんも93歳になられましたが、今年の梅干作りにも来て、若い人たちと紫蘇を揉んだそうです。

工房スタッフと共に、汗をいっぱいかいた午後のお茶の時間に梅干しを頂きました。
普段は生活クラブを通して奈良県王隠堂の梅干しを食べていますが(梅干しは作ったことがありません。梅酒はありますが、、^^;)、漬けたての梅は本当に格別です。以前にも森田さんに頂いて、その美味しさは知っていましたが、今年のこの暑さの中では本当~に身に沁みる美味しさです。
命を繋ぐ食べ物です。


また、一緒に岩手の一関の「亀の子せんべい」という長生きできそうなお菓子も送っていただきました。
これも小麦粉とごまと砂糖のパワーあふれるお菓子でした。
由来を読むと東北の女わざ的な生まれです。
歌舞伎座近くの岩手県のアンテナショップでも買えるのでまた行ってみたいと思います。

森田さんは85歳になられていますが、電話の声も大きく、でも慈しみにあふれる優しい声。
いつも意義深い話を聞かせてくださるのです。
東北の奥深い暮らしの文化は今の時代にもう一度見直さなければと思います。

ヘンプの蚊帳タオルで汗取りを今期の紬塾の人達は縫うことになっていますが、その時に女わざの冊子や本も紹介します。森田さんに伺った岩田帯からヒントを得たものです。
私の紬織りのバックボーンにあるものは女わざの会にもつながることです。暮らしに根ざして地に足の着いたもの作りをしたいのです。

この豊かな味わい深い梅干しを食べながら本当のことはすべてこの中にあると思いました。
熟した梅の実と海からの塩と赤紫蘇と天日と人の叡智と手わざと時間と――。

この暑さを1日1個の本物の梅干しで乗り切りたいと思います。



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