中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

真夏日の整経と工夫

2017年08月26日 | 制作工程
シンプルな縞の着尺+帯を整経しました。
整経としては同じ繰り返しの簡単なタイプのものです。

40年近く織り続けていますので真夏を40回過ごしたことになります。
この間冷房なしの環境で仕事を続けてきましたが、歳を取りましたので、そろそろエアコンを使おうか、、、と考えなくもないのですが、結局今年も冷房を使う気になれず扇風機やエアコンの送風で過ごしてきました。

今年は8月に入って雨降り、冷夏でしたが、この日は暑さがぶり返しとても湿度も高い日でした。朝9時から10時過ぎまで、一気に済ませました。

工房は風通しのいい所ですが、整経の時には節糸など毛羽の多い糸を使っていますので、風で糸が揺れて絡み合ってしまいます。
なので糸には風を当てないよう直接風が入る窓の障子も締めて行います。


扇風機を首振りにせず自分の身体にだけ当てますが、さすがに締め切った部屋は室温、湿度もかなりになります。キツイです。必死です!


整経で重要な綾取りも手の湿り気でいつものように早くは出来ません。


お尻を向けて失礼しております。。。
若い頃は正座クッションなどは使いませんでしたが、数年前から腰への負担を軽くするために使っています。


整経ムラを少なくするために足を開くように座り、身体の左右のブレを安定させます。


糸束をつかむ右手だけは濡れタオルで汗を拭いながら糸の滑りを悪くしないようにします。


節糸の中でも特に引っかかりやすいタイプの糸の木枠には皿を乗せ糸が出やすくします。


整経を終えたところ。
間違いがないか糸束を切り離す時、綾を整経台から抜く時、今でも心臓がドキ、ドキします。


整経が終わると糸束を台から切り離し、鎖編みにします。

糸の長さは20メートルにもなりますので、ダブルに編んでいきます。

右、左、交互に編みます。

集中力を保つために様々に工夫をしますが、衣類も重要です。
この日は25年以上着続けている袖口から風が抜けるフレンチスリーブの綿ブロードの開襟シャツに麻のパンツ。
下着は綿麻の薄手のラン型インナー1枚で(良品ですが現在売られていない‥)、通気、放湿性のよいものを身に着けます。下着は特に大事ですね。

整経の話に下着の話まで出てくるのは関係ないこと――ではなく、よい仕事をするためには集中できる身支度から始まっています。
着飾るお洒落用の着物を織っているけれど、布を生み出す現場は厳しいものです。アクセサリーを付けたり、お化粧をしたり、着飾って出来るものではありません。織物指導をしていた頃もそういうことから指導していました。

整経は織物の良し悪しの基礎、土台を決めるようなものですので、今でもとても緊張しますし、体調にも気をつけます。
このあと仮筬に通し、経糸を千切りに巻き込み機に上げ、経継、織付けと進めていきます。

良い整経、良い巻き込みは真っ直ぐな布を織る絶対必要条件です。
気温、湿度にも影響される難しい手延整経ですが、更に様々な工夫と技術の研鑽に務めたいと思います。




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帯結び――関西巻きと関東巻き

2017年08月18日 | 着姿・作品
帯を締める時に左から右(時計回り)へ巻きつけるのが関西巻き。その逆の右から左(反時計回り)へ巻きつけるのが関東巻きと言われています。

私は手先を肩に預けないで胴に巻くやり方のせいかどちらからでもほとんど何の抵抗もなく締めていますが、関西巻きが出来ない、あるいはやりにくいという声を多く聞きます。
着物に慣れている慣れていないには関係ないようです。
右脳か左脳タイプかなどの脳の関係もあるかもしれませんが、、。

全通柄ならやりやすい方から巻けばいいわけです。
腹の両面にあるポイント柄や両面が違った色合いの縞帯などはどちらからでも結べるといいですね。

私は帯を創る時に前柄を両面使えるよう少し違えて作ることが多いです。
縞や格子の帯でも全くのシンメトリーの場合を除けば、前柄を見比べてみると違っている場合がありますので、季節や着物によって、帯締の色によって変えてみると良いと思います。

経縞や格子織物の場合はお太鼓と前は続いているものなので、染や刺繍などのポイント柄とは少し条件が違いますが、非対称の縞や格子は二つ折りの前部分をよくご覧いただきたいと思います。

下の写真は名古屋帯の藍縞帯ですが、不規則な縞です。

自作の此の手縞に合わせた初夏の装いです。


藍の縞が上下に別れる感じの方です。帯揚げは絽目のものです。


12月の装いは久米島に合わせています。藍の縞が固まって上の方にきます。帯揚げは上と似た色ですがやや深いネイビーブルー。


前回のブログでご紹介しました上の名古屋の縞によく似ている半幅帯も表裏でやや色糸の配色が違いますので、少し橙色がはっきりする面で同じ宮古上布に締めてみました。少しはっきりした縞になりましたので、帯留も存在感のあるものを使ってみました。詳細はこちらで。

少しの違いでもやはり印象は変わります。この着物にはこちら、この季節にはこちら、この帯締には、、、などいろいろやってみると良いです。

どちらから巻くのが正しいのか?などという質問をする方もいますが、柄がうまく出る方、あるいは取合せによって両面使い分ける巻方をするというのが正解です。

一本の帯で二通りに締められるというのはお得です。(^_-)!
是非結びに慣れて両方楽しまれると良いと思います。

関西、関東、文化圏の違いで帯の前柄の付け方が違ったり、長襦袢の形が違ったり、好まれる色合いも違ったりしますが、それはそれで時代や歴史的背景などもあるわけですから興味深いところです。

帯によっては仮紐やクリップを使って締めることもありますが、紬塾では手先を肩に預けないで胴の幅分の手先を巻きつけ、捻るだけのやり方をしますので皆さん案外初めての方もどちらからでも結べています。
ただ、たくさん着ている方ほど“慣れ”がありますので、自分のやり方をすぐ変えられないケースも見受けられましたが、、。でもまた慣れればいいことです。(*^^*)

色々なやり方も試しながら、ものに合わせて自分のほうが自在に対応できるのが私は良いと思います。
脳の活性化にも繋がります。






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盛夏の装い――宮古上布に紬半幅帯 (続)

2017年08月10日 | 紬の上質半幅帯
夏の染色をひと月間やり終え、慰労も兼ねて先月末に都心まで会食に出かけました。
宮古上布に自作の半幅帯を取合せました。蒸し暑い日でしたが、周りの方にも涼しげに感じてもらえるよう心がけ取合せを考えました。

半幅帯の緯糸にベトナムの黄繭の節糸を使っています。
太細のある面白い糸で、光沢があります。
同じ経てで緯糸を変え3本織ったうちの試織用としての1本です。

この宮古上布は古いもので、身丈を出すために胴にハギを入れ仕立替ました。
苧麻の糸の細さを纏う時、まずは身の引き締まる思いになります。
蝉の羽を纏うような軽さです。色は黒に近い藍染です。
自然の恵みと人の手わざの極みに畏敬の念を抱きます。

宮古上布の新しいものは蝋引きしたような(糊付け後の砧打で仕上げる)照り、艶がありますが、この古い上布は何度も水をくぐった柔らかなマットな麻布の表情になっています。
宮古上布といえば高級織物の代表格で私などには分不相応としか言えないのですが、この素朴な丸紋のさっぱりした上布なら着てみたいと思いました。
新しいものの生産量も激減しているようですが絶やしたくない織物です。
気力、財力ある方は是非新しいものを着てほしいです!(^^)

宮古上布の詳細はこちらから。

古いインドネシアの蜻蛉玉があしらわれた帯締は村田染織ギャラリーオリジナルのものです。
自分の紬を着始めた頃、更紗の帯を村田さんで何本か頂きましたが、その時一緒に揃えました。
南方の蜻蛉玉は沖縄の染織品によく合います。
ピンクベージュの帯締めの色も、全体の自然な色相のハーモニーに溶け込んでいます。

日傘はムガシルクの薄茶地に辻が花染め。
写真では質感、色があまり出てないのですが、野蚕の立体感のある糸で織られた生地です。
荷物を一杯詰めた(~_~;)竹バッグはもちろん林まさみつさんです。繊細な夏着物にも安心して持てます。

麻の着物は帯回りを除けば暑いということはありません。
帯芯もかなり薄めのものを使い、緩めに締めています。
夏着物の上に伊達締めは締めません。

下着はヘンプ麻の肌襦袢とステテコにヘンプ×リネンの蚊帳生地タオルで汗取りをしています。ヘンプ蚊帳タオルもすぐれものです。このタオルを初めて手にした時、直感的に汗取りを思いました。
麻わた付などの肌襦袢も使ってきましたが、もっと涼しいです。構造的な違いです。
麻絽の長襦袢の上には麻の伊達締め。少しでも通気よい素材で工夫して着ます。

麻は人類が生きていく上で偉大で無くてはならない植物、繊維だと思います。
夏だけの素材と思っている方も多いですが、多孔質の繊維で冬は暖かさを保つことも出来ます。

着姿ページでも紹介しています。
2011年8月の関連ブログ記事もご覧ください。

それにしても温暖化を少しでも防ぐためには都心に木蔭を増やし、コンクリートやアスファルトで覆わない大地が増えるようにしなければなりません。
土地に対して緑化の義務化をもっとしてほしいとずうっと思ってます。

四季に恵まれた日本にとって一本の大きな木や街路樹、公園の植栽、ビルの屋上の緑化など、お金をかけてでも整備することは大事だと思いますし、一人ひとりの心がけで緑を増やすことは出来ます。もちろん生態系の配慮もしなければなりませんし、都市型の緑化は単純ではないとは思いますが、できることもたくさんあります。

人々が四季折々に街の自然を愛で、憩える場があることは日本の文化的豊かさの象徴です。
2020年、東京の真夏の最高のおもてなしは「緑蔭」だと思います。

過剰なまでの冷暖房、照明、利便性のみの追求。
東京は好きな街ですが、一歩外へ出ると都心は息苦しく ストレスに感じることも多いです。
 
集中豪雨、ゲリラ豪雨も多発していますが、環境問題は目先の経済より命に関わるもっとも重要な問題だと思います。

町田へ戻ると都心との気温の差を実感します。
窓を開け庭の緑をくぐり抜けた風に吹かれると暑さの中にもほっとするのです。

日々の暮らしでゴミをなるべく出さないよう工夫することも温暖化防止や自然環境を守ることにつながります。
紬塾でもそういったことも含めて話をしていますが、自然素材で着物を創ることや美しい着物を着ていくということは一人ひとりにそういったことの自覚がないといけないのだと思います。

日本の高度な手わざの夏の着物がなくならないよう切に願います。

今夏あと何回か夏着物を愉しむ予定です。浴衣も愉しみたいです。 
とは言え暑さの中で着物を着るには覚悟も入りますが、無理は禁物ですね。

工房は本日より8月16日(水)まで夏休みになります。
お問合わせの返信なども17日からになります。

読者の皆様も残暑厳しき折、ご自愛くださいませ。






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第5回紬きもの塾――桜、柿で染める

2017年08月02日 | 紬きもの塾’17~’20


今期の紬塾も5回目を通過、5合目まで来ました。
曇天の蒸し暑さの中、自分で紬いだ糸と帯揚げ、半衿などを工房の桜と柿を使って染めました。
参加者のお一人が自分の記録のため撮っていた写真を何枚かブログに使わせていただきました。

工房は庭木の剪定を終えたばかりでしたが、今日この時間のために桜も柿も一部剪定せずに残してありました。
高枝鋏は初めて使う方も多いのですが、伐るところを指示してそこを伐ってもらいました。


その枝をハサミでチップにしました。細かくするほうがよく抽出されます。ハンマーで叩いたりしてもいいです。
樹皮と芯材を分けたりもします。この時に樹皮や芯材の様子、匂い、質感に触れることができます。ここから草木で染めることが始まります。
ん?右の方のハサミの持ち方逆ですね。。


柿は枝のみ使いました。もう少し早い時期の若葉ですと緑味の黄色も染めることが出来ます。煎液はかすかにぬめりがあります。


桜は枝と葉を分けて使いました。葉ももう少し細かくちぎるほうが色が出やすくなります。今日は時間がなくて、ザッとちぎっただけで煮浸しの感じですね。。
煮出すととてもいい香りで、みなさん美味しそう!などと鼻をクンクン聞かせていました。(^ω^)
自然ないい香りは呼吸を深くしてリラックスできます。笑顔も自然にこぼれます。


染め方の詳細は誤解を招くといけませんので書きませんが、工房秘伝のタレ!?に漬けて・・留め釜中。
糸を染めるようにしてムラなく染めてしまいます。(^_-)


染の放冷の時間を使って休憩もとりました。紅芋餡の葛菓子をいただきました。
みなさん何がおかしいのか嬉しそう・・(*^ヮ^*)
何故か麻のコースターが妙に散らばってますね。。^_^;;

植物は日々刻々と色素の状態も変化していて今日はどんな色になるのだろう?と楽しみでもあり、コワゴワな気持ちもあります。濁りやクスミが出ることもあるからです。
皆さんが半襟や帯揚げを家庭で染めるために、媒染剤がなくても堅牢で深い色に染められる方法なども説明しました。

よく染液の状態を観察することです。草木染めと言っても媒染剤色のものをよく見かけますが、自然な味わいの色もいいものです。

「自分の好きな色はOO色」という思い込みを離れて「色とは何か――」を多少なりとも垣間見て頂けたのではないかと思います。

草木を生の状態で染めるということは時期、染液の煮出し方、時間の経過、媒染でも色は大きく変わってきます。
染め重ねでも違います。

今回2枚ずつ染めたアルミ媒染の帯揚げと、灰汁媒染の帯揚げを4人でジャンケンで分けました。共に黄色系に染まりました。
この時期、この染め方の桜の色です。また後日ご紹介できると思います。








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