中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

第2回 紬きもの塾「紬織りの糸・草木の染色・織りの映像交えて」

2019年06月27日 | 紬きもの塾’17~’20


この日曜日は基礎コースの紬塾2回目でした。
紬糸や草木で染められた色について、着物や帯としての織物の風合い、堅牢性について5分ほどの織りの映像も交え見てもらい解説しました。また、糸を引き出すワークショップもしました。よく観察することは作る上でも、着る上でも基本です。

説明が先になって、単に知識や一般的イメージを植え付け、先入観を強くしてはいけませんので、まずは一人一人がよく観察、感じたこと、気付いたことを発表してもらい、そして次は繭から糸を引き出したり、真綿から糸をつむいでもらいました。その後に私から、紬糸の基本的なことの解説、発表してもらったことの裏付けにもなることに触れながら、絹の糸、紬織の原点を少しですが体感する学びになるよう行いました。

植物の色についてもじっくり見てもらい、照明を消した薄暗がりでも見てもらいました。色を見るときは光源が大切です。色を○○色と決めつけない見方も大切です。目の前にある事実を観るわけです。

織物の堅牢性と風合いの関係など、背縫いの地の目が割れたりしないような生地の選び方など説明しました。



手で感触を確かめてますね。。



また、機の構造やたての節糸の毛羽、開口させた時の状態なども実際に踏み木を踏んで見てもらいました。




みなさんも着物でお越しくださいましたが、曇りながら蒸し暑い日でしたので、私は藍の小格子にざっくりした半幅帯でお迎えしました(もう少し引きで撮って欲しかったのですが…(^-^;)。
浅葱色のこの紬は35年ぐらい前の仕事で、その頃は藍の着物をよく織っていましたが、紺屋さんも少なくなり、その後はあまり織ることはありませんでした。この着物も褪色がかなりあり、私一代で終わりそうです。6月、9月の普段着です。帯をあれこれ変えてどれだけ着たでしょうか‥。洗い張りもして着ています。

この着物については作品集「樹の滴」にも詳しく書きました。よかったらご覧ください。

半幅も30年ぐらい前に半幅帯として初めて手掛けた試織用のものです。
久々にリバーシブルのピンクの縞のほうにしてみました。3回目のピンクを身に着けたい年ごろとなりました。。(^^









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鈴木真砂女の俳句と夏着物

2019年06月11日 | こぼれ話(着物)
私は単衣や夏の着物が好きです。たまに出かけるときにしか着ませんが、何か特別な気持ちになります。
真夏に羅(うすもの)を涼しげに着ている姿を街で見かけたりすると、思わず見とれてしまいます。
今まで何度かハッとする美しい着物姿に遭遇したことがあります。
特に高齢の方で毅然と、でも自然体の方を見るとよきお手本として心に留めておきます。
夏の着物姿はその人の生き方、考え方までよくあらわれるように思います。

知人が「鈴木真砂女全句集」(角川書店)にたくさん着物や帯の句があることを教えてくれました。
図書館で借りてきました。

真砂女(1906年 - 2003年)さんは銀座の有名な小料理店「卯波」の女将で、また俳人でもありました。
以前はテレビなどでよく拝見しました。小さな店の中できびきび小走りに働いてらっしゃいました。

最初に結婚した夫は子供一人を残して失踪、実家に帰ったと思ったら、大きな旅館の後を継いでいた姉の急逝。親の説得で亡き姉の夫の後添いになるものの、別の男性を好きになり51歳で夫を捨て、家業を捨て上京。知人らの協力者から借金をして銀座に小料理店を持つようになる。

俳句は日々の何気ないことを詠んでいるようで、胸に迫りくるものがあります。愚痴や弱みを人には見せずとも、句には日々の思いが正直に詠われていると思いました。

夏帯、単衣帯、羅(うすもの)、浴衣、足袋、夏足袋を季語として入れた句のなんと多い事か。
袷の句もないことはないのですが少ないのです。
店で暮らしを立てるために生きるために着た戦闘着としての着物の句です。
真夏も当然着物で働いたから自然と汗を滲ませながら締めた夏帯や単衣帯の句がたくさんあります。
足袋もたくさん出てきますが、足元と、帯が要。自分の精神を立たせる重要なものです。そういう意味では厳しい俳句です。

41歳~70歳までの句から20句だけピックアップしてみました。

・夏帯や客をもてなすうけこたえ
・羅や人悲します恋をして
・夏負けせぬ気の帯を締めにけり
・夏帯や運切りひらき切りひらき
・夏帯やおのれ抑うることに馴れ
・明日死ぬもこころ平らや紺浴衣
・買い出しの日の夏帯を小さく結び
・単衣着て常の路地抜け店通い
・単衣着て老いじと歩む背は曲げず
・ほととぎす足袋脱ぎ捨てし青畳
・水無月やあしたゆうべに足袋替えて
・気疲れの帯解きたたむおぼろかな
・わがくらし夏足袋に汚点許されず
・暑に抗すとりわけ足袋の白きもて
・恋すでに遠きものとし単帯
・夏帯に泣かぬ女となりて老ゆ
・単帯をとこ結びに日曜日
・愛憎のかくて薄るる単衣かな
・衣更えて小店一つをきりまわし
・単帯しゃっきり締めてにくまれて
・なりわひの足袋穿けど足袋は継がず

晩年の70歳以降になるとようやく装うための楽しみの着物の句も出てきます。

・格好よく帯の結べし薄暑かな
・牡丹に仕立ておろしの絣着て
・辻が花一度は着たし菊日和
・働いて作りし花見衣かな
・秋扇少し覗かす好きな帯

俳句文化もすごいものですが、鑑賞はそれぞれにしていただくとして、着物(単衣、袷、うすもの、縞、絣など)、帯(夏帯、単帯、半幅帯など)、足袋だけでも俳句は作れ、そこに何かしらの象徴的な意味や思いを表現できるというこの着物文化も絶やしたくないですね。

この夏は何度着物に袖を通すでしょうか?
着るのは少し大変なこともありますが、暑さ対策などして、無理をしすぎないよう着物を着たいと思います。
私は足袋に継ぎを当てちゃうタイプですが‥。(^-^;




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真綿から糸をつむぐ―紬きもの塾19 染織実習1

2019年06月07日 | 紬きもの塾’17~’20

工房展の前に染織実習コースの方に糸つむぎの講習をしました。

糸つむぎは、私は郡上紬の宗廣先生から受け継いだ久米島式を採用していますが、結城紬のつくし方式の良いところも加え、また自分なりの工夫もしています。やや太めの糸(着尺の緯糸向き)を引き出すのに向いています。

色々な引き出しかたがあるのですが、大事なことは真綿の長繊維をなるべくちぎらないよう気をつけると毛羽立ちの少ない糸がつむげます。
私は真綿をほとんど引っ張らずにそのまま台に掛け、上の真綿から1枚ずつ綺麗に片付けながらつむいでいきます。
上の画像は真綿を4g掛けたところ。

まずは私が2尺ほどデモンストレーションしながら引き出し方のポイントを説明します。
その時、よく見ていることが大事です。手の位置や動かし方、真綿の量をどれぐらい摘まむかなど真似することがまず大事です。
理屈が先に立つとなかなかうまくいきません。理屈は後からついてきます。

どうしても素材や道具を自分に引き寄せようとしたり、制圧するようなやり方をしてしまいがちですが、それではうまく糸を引き出せません。

真綿は理に適わないことには付き合ってくれません。正直です。
真綿の繊維の量をいつも同じぐらい摘まむよう見極め、単純な道具を上手に使いこなしながら、力強く大らかな味わいのある美しい糸をイメージしてつむぐことが大切です。
織をしている人の方が糸のかたちをイメージしやすいです。初めての方は難しいと思いますが、それでも最初から上手な方というのが稀にいらっしゃいます。。^₋^

今回は4gの真綿を1時間半かけて引いてもらいました。
一反分の緯糸は約380g~400gですので100分の1位つむいでもらいました。

上の画像は真綿がたっぷり引き出されています。ちょっと多すぎですが、、。(^^;

程よい真綿の量を見極め、上の方からをひとまとめにして、

右手の指に水を付けながら捻るようにして左手元までしっかり抑えていきます。

つむぎ終わったら綛揚をします。おはじきは糸を綛揚げする際に糸同士がくっついて引っ張り上げられないようにするためです。
豆などでも良いです。
着尺用3本合わせぐらいの糸をつむいでもらいました。これはつむぐにはとても難しい太さなのです。
でも、とにかく4gの真綿から安定した太さの糸がつむげました。

みなさん真剣に取り組んでいます。

この糸は7月に工房の庭木で染め、11月には実際に織ってもらうことになります。

いつかせめてマフラー分ぐらいは全てつむいで織ってもらいたいですが、、。
真綿から糸をつむぐことは大変な労力を要する仕事ですが、心を無にしていける仕事です。
有史以来、人が生きていくための根源的な仕事でした。
多くの方に体験してもらいたいです。

仕事としていくには賃金も法外に安く、お小遣い稼ぎぐらいにしかならないので、後進が育ちませんでした、というより育てようとはしてこなかったと思います。以前手紡ぎ糸を購入していた長野の糸商さんはもう十数年前に廃業されてしまいました。私は機織りがきつくなったら、糸つむぎをたくさんしたいと思っています。

繭から引き出す座繰り糸は赤城でもまだいらっしゃいますし、後継者の育成もされているようですが、昔あった座繰りの太い糸は引ける方がいなくなったということで、寂しい限りです。私はショールなどに以前はたくさん使ってきました。

紬は経糸が大事なのですが、緯糸の真綿の毛羽ばかりが目立つ紬も多いです。
タテヨコバランスの取れた、それでいて味わいのある力強く洗練された紬を織りたいです。

詳しい紬糸のことは次回紬塾の講義で話ます。






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