中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

秋色の染色

2019年10月19日 | 制作工程

台風19号の襲来から1週間が経ちました。
被災地の皆さまに謹んでお見舞いを申し上げます。
時間はかかると思いますが、被災地の一日も早い復旧をこころよりお祈りいたします。
 
15号に続いて本当に広範囲にわたり大変なことになりました。さまざまな被害状況をTV、新聞、ネットで見聞きするにつけ、胸が塞がれる思いです。救助、救援の方々も大変なご苦労と思います。
 
私は生活クラブを通して食材を主に購入していますが、農産物、卵、酪農関連などの生産者で深刻な被害が出ているようです。15号に次いで、欠品が続くと思います。
生活クラブからは、物資や炊き出し等の支援活動をしてくれているようですが、会員のカンパも募っています。
 
来年以降もまたこのような豪雨や台風は地球温暖化により起こりうると言われています。
温暖化対策、治水の見直しなど最優先の課題です。憲法改正に躍起になるより、戦闘機を買うより、目の前の「国民の生命と財産を守ること」をしてもらいたいです。
他にも福島の汚染水、汚染土、廃炉の問題、さまざまな困難な問題山積です。一国民として暗澹たる気持ちになります。地球も人も壊れていくことにならないように、今、踏ん張らねばという気持ちです。
 
 
さて、工房ではアシスタントは着尺の織りに専念し、私は先月からずうっと染の仕事をしています。
ご近所から頂いたヤマモモを無媒染で微妙なベージュを染め分けました。
 
こちらは藍下の黒染め、鉄紺。
 
茶系も何度も染重ねをしています。
 
秋になると本当に不思議にダークな色、温かみのある色など恋しくなります。自然界と同調したくなるのですね。その時期の色を染めるのが一番ピントが合います。
 
植物染材の赤系と黄色系を使い分けていきます。後は媒染材も幾種類か使い分け、掛け合わせもします。
例えば茜なら茜だけで染める、藍なら藍だけで染める、桜なら桜だけで染める。もちろんそれが基本になるわけですが、人が着るものとして利用するには赤、青、黄、黒を混ぜることで新たな幅のある色が生まれてきます。古の人たちも様々な工夫をして色を生み出しました。
昔は黒紋付も藍下、紅下で純黒を染めました。
日本の植物だけで黒を染めようとすると途方もなく時間がかかり、墨黒ぐらいにしかなりませんが、今は外材のログウッドで黒を染めることができます。ただ、単体で使うと紬としては深みがありません。私は他の染材を混ぜて使います。
 
草木染の手引書はないと言ってもいいでしょう。基本の知識と経験知を頼りに創意工夫し、光の中で確認しながら、時に鏡の前で身に当てながら、身にまとう色を求めています。
 
糸はしばらく寝かせますので、来年以降に使い始めます。その寝かせる時間も大事で、色を落ち着かせていきますが、私の中では織りの構想もふくらませつつ、集約させていきます。

 
帯揚げもダーク系や冬の暖色系を何度も染重ねています。乾かし、陽にかざし、色を確認しながらビミョーに染めます。(*^-^*)
本当は100でも200でも染め分けたいのですが、本業の紬を織る仕事もしなければなりませんので、ほどほどにしなければ、、。1点物の贅沢な特別の帯揚げです。写真は仕上げ前の段階です。
 
今年3月のこまもの玖さんの展示ではオレンジ系、コーラルピンクが人気でした。案外京都の問屋さんでもない色と言われました。茜と他の植物を掛け合わせて大人の落ち着いた赤系をもう少し染めようと思っています。
 
次回、11月10日の紬塾は「取り合わせ」です。帯揚げの新色も取り合わせてワークショップをしたいと思います。お楽しみに! (^^♪


 
 
 
 
 
 

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紬塾「とことん着尽くす」――浪費社会の中で

2019年10月04日 | 紬きもの塾’17~’20
 
先月末の日曜日は紬きもの塾「とことん着尽くす」でした。
10月に入っても真夏日となっている東京ですが、この日も、30度に達する暑い日でした。床の間に庭の斜面で見ごろを迎えていたハギの花を投げ入れて、みなさんをお迎えしました。私はいつもの単衣紬に単衣・夏用の帯を締めました。
 
帯揚げは分かりづらいですが、祖母の着物の胴裏地(薄手の節絹)を薄茶に桜で染めたもので、秋の気配も取り入れました。しかし、汗をかくことは必至でしたので、襦袢は綿麻半襦袢にしました。
 
この紬自体が、着物の更生の話の一例になりますので、この回にはいつも着ているのですが、若気の至り(!?)で、大きなシミを前身ごろに付けてしまい、アルカリ剤で洗い、生地を裏返し、前身ごろ、後身頃をひっくり替えして、仕立て直してあるもので、講義の中では、武勇伝と共に、恥ずかしながらご紹介してます。(#^^#);
 
みなさんからも着物の更生品や、リメイクした小物や浴衣からスカートにしたものなどお持ちいただきました。長襦袢の袖丈が短いものの直し方で、肩山を切って足し布を入れるというのは初めて知りましたが、目からうろこでした。私の方からも母の羽織や着物からコートなどの仕立て直しを参考に見てもらいました。手縫いの襤褸雑巾の果てまでお見せしました。最後はトイレの床など拭いてお役御免となります。
 
   
体調不良でお休みだった方からは、薄手のリネンのパンツに何か所も継ぎを当てながら使い続けているということで画像(上)を送ってくださいました。ロングスカート下に使っているということですが、必然が生み出す素敵な継ぎ当てですね。
私も仕事用のパンツは膝やお尻、内腿が擦れてどれだけ継ぎを当てたかわかりません。でも、継ぎ当てしてからの方が、もっとそのものに愛着がわくのは不思議です。いわゆる教科書的な継ぎ当てとは違って、ワンポイントアクセントや、アート性も加味された楽しい継ぎ当てです!
他にも野菜や果物の皮も上手に利用しているなど、すべてのものを慈しみながら、工夫されているとのことでした。
 
また、義理のお父様を亡くされ、四十九日の法要を高岡の方で済まされたばかりの方は、義理のお母さまから、小さな袋を旦那様の分と渡されたそうです。中にはお義父様が、着ていらした寝間着の布切れが入っているとのことで、命日までは身近に持っていて、見守ってもらい、無事を見届けて、仏様は空へ還るのだそうです。「遺骨のかけらを身につける方がいるように、義父の体や魂そのものとして、形見分けのように分けてくれたのだと思います。」とのことでした。
人の着るものに魂が宿るということでしょう。人と布の密接な関係を改めて思います。
着るものを、布をおろそかにしてはいけないと思います。
 
また、着物以外でも、普段の暮らしの中でもとことん使う、あるいは資源、エネルギーの無駄をしないことなど話し合いました。創意工夫は創作の仕事と同じです。
 
紬の着物を着ることと、自然環境問題は密接だと思っています。自然素材を、また季節を纏う取り合わせもとても大切だからです。まずは資源や、エネルギーの無駄を省き、とことん使い、別の形にしても再利用する取り組みを普段の暮らしの中でも身に付けておきたいものです。
 
軽減税率という名のもとに、悪法が始まりました。自衛のために消費税が上がる前に買いだめするのもいいですが、最初から無駄な買い物も多いのでは、、とTVの買いだめする人たちを映す報道を見て思いました。洗剤や柔軟剤、そもそも本当に必要でしょうか?浪費しながら、買い込む。日本人はこんなに愚かだったのでしょうか?
 
少なくとも戦前の暮らしはこんなではなかった。戦後、民主主義の世になり、戦争のない世になり本当によかったけれど、豊かな自然や文化を捨て、そして得たものは、大量のごみや環境汚染、そして格差社会でした。
 
私は電気釜も大型テレビも大型冷蔵庫も全自動洗濯機も乾燥機も持っていません。土鍋でご飯を炊けばエネルギーも少なく、おいしく炊けます。停電でもカセットコンロがあれば7分で2~3合なら炊きあがります。電子レンジはもともとついていたので使っていますが、ほんのわずかな時間しか使いません。
洗濯もすすぎの楽な炭酸塩を使います。天日で干します。
染色でも水やガスの無駄を省くよう後先を考え、工夫しながら、やりくりします。ここに細かくは書けませんが、自然素材を使いながら、資源を無駄にしたり、環境を汚染してはいけません。
 
かと言ってものを持たないミニマリストにはなりたくありません。衣食住、慎ましくも上質なものを大事にしたいです。日々の器やアート、庭の植物、着物。経済の許す限りのことしかできませんが、人間らしく生きる大事なものです。
 
着物というのはシンプルな日本的な合理性に裏付けされています。それは奥深いけれど安心な世界です。
とことん着ることはみじめではなく、知的で、創造的で幸せなことです。着物だけでなくすべての物事に通じると思います。
 
 
さて、最後は問題の運針でした。。。
やはり運針はみなさんご存じなく、針に糸は通さずに手拭いの端をチクチクしてもらいました。苦戦しておられましたが、最後は写真で見ると、なんか出来てそうな、、感じになってきました。(*^-^*) 
型が少しはつかめたと思います。次回、もう一度やってみることになりました。
 
運針ができれば、服の直しや、ちょっとしたものならミシンを使わずとも気楽に縫えるようになります。そして、手縫いは解くのも早いのです。縫い直しが着物はよく行われるのは解けるように縫われているからですね。
ぜひ次回までに練習を重ねてもらいたいと思います。一生の楽しみになりますよ。
 
 
 工房の床の間にてポーズとってます。
 
 
 
 
 
 
 
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