中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

[第11期 紬きもの塾'19]募集は明日3月30日(土)から受付開始です

2019年03月29日 | お知らせ


今日は寒の戻り、花曇りです。朝からガスストーブを点けています。
染井吉野より1週間ほど遅れて咲き出す工房の桜はまだ1~2分咲きです。

さて、「紬塾19」紬基礎コース受講生募集の受付は明日(3月30日(土)午前8時から)からです。HPからメールでお申し込みください。→

染織実習コースは次年度以降のお申込みとなります。
過去の紬塾ブログで内容をご確認の上、お申し込み下さい。

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歌人・馬場あき子さんの着物、祖母の着物に思うこと

2019年03月23日 | こぼれ話(着物)
先日、NHKの[こころの時代~宗教・人生~ 「歌詠みとして今を生きる」]という番組に歌人の馬場あき子さんが出演されていました。
以前はよくTVでお見かけしましたが、91歳になられた今もお元気にご活躍されているご様子を拝見しました。
プロフィール、短歌との出会い、戦争、学生時代、教員時代、能のこと、短歌のこと…。
お話の内容も大変興味深いものでしたが、そのお話される姿の美しさにもハッとしました。

お召になられていた着物は最初の映像では、藍鼠地の縞物に、白地に薄墨で抽象文様を描いたようなシックな素敵な帯をされていました。ごく淡いグレーの帯揚げ、柔らかな橙色の帯締め、袖口の襦袢はピンク色が少し覗いていました。
帯がアップになることはなくチラッと覗くだけでよく観察はできませんでしたが、とても上質のものだと思いました。

実母を早くに亡くし、祖母やおば達に大切に育てられ、後に美しい継母に育てられたということなども語られていました。
その美しい継母にいい格好を見せたくて、それまであまり勉強はしてこなかったけれど勉強をするようになり、本もたくさん読んだということでした。
そういう方々から受け継いだもの、また善いものを見る機会も多かったのではないかと思います。
馬場さんは能の研究者でもあり、能舞台の前で、訪問着に箔使いのような見事な袋帯をされたお姿も映像で流れましたがその品格に惚れ惚れしてしまいました。
上質ではあるけれど、決して華美な感じではなく、落ち着き、品格、風格、90歳を過ぎた媼の美しい姿がそこにありました。

着物を着ることはただファッションとしてだけではなく、その人そのものをそこに反映させる、恐ろしくもありますが、滲み出てくるものは、その人のありのままの姿であるようにも思えます。
戦前の日本人は着物に対して貧しき者も富める者もそれなりのこだわりをもち生きていた。そのことは人の誇り、矜持でした。


明治生まれの私の母方の祖母は70代で亡くなりますが、三重の山中で暮らしていました。
上の画像は母が祖母の形見分けで、緞子の丸帯の一部をもらってきたものです。地味な祖母らしい好みですが、実際はとてもいい糸質で色も草木染めと思われます。
祖母の残した少しばかりの布にもその矜持を感じるのです。慎ましやかでありながら、毅然と布を見極めている姿が浮かんできます。

祖母は、モノクロームの遺影の中で細かい絣の黒っぽい絹物を着て、白茶地に品の良い細かな模様が(松葉と梅の花のような‥)織り出された絹の織り帯をして写っています。

母によると、ある日自分で街の写真館へ行って撮ってもらったようです。来るべき日の準備を祖母にとって一張羅と思われる絣りの着物を選び、一人で一里も離れた街まで出かけた。
二人の子供を授かったものの夫を母が小学生の時に亡くし、それからも先妻の子供3人を一緒に育てながら、看護師もしながら、林業を受け継いだ長男、孫二人と暮らしていた祖母でしたが、亡くなった時には村々から老若男女が葬儀に来てくれたということでした。
葬儀の時にはこの人には世話になったので、着物の片袖でもいいので欲しいという人もいたと母は私に話してくれました。


祖母の遺影は母の形見として私が引き継いできました。額に入っていませんでしたが、私が額装し、毎朝手を合わせています。見守っていてほしいのです。
その遺影の中で着ている着物は祖母が自分で自分に相応しいものを選んだのでしょう。時代背景や教育、置かれた環境などが色濃いように思います。

歳をとったら黒っぽい着物を着て、半襟も黒くし、細かい柄の帯を小さく結んで・・。
明治、大正の頃は女性は人間としての尊厳や自由さえ認められていませんでしたので、祖母も歳をとったら地味でなければ、、などと思っていたと思います。親の決めた人と一緒になり、嫁しては夫に従い、仕え、子を生み育て…老いては子に従う、というプレッシャーの中であったことは間違いないでしょう。女性の参政権さえない時代だったのですから。

村で困っている人の力になりたいと法医学の古畑種基先生のお父様が開業医で、その病院で手伝いのようなことをしながら、産婆と看護師の資格を取りました。長男は祖母が働くことはあまり良く思ってなかったと、母から聞いたことがあります。“職業婦人”という言い方があって、当時は世間でも嫌がる風潮があり、男としては世間体もあり嫌だったらしいです。今では考えられないようなことですが、、。

しかし祖母は子に従わず、必要としてくれる人のために身を尽くしたのだと思います。でもその長男も継母である祖母をとても大切に慕っていたようです。

私は祖母と離れて暮らしていましたので、母が時折話してくれた昔話だけが思い出となっていますが、母が最後に入院した時に、私は藁をもすがる思いで祖母に母を助けてもらいたく、遺影(まだ額装はしていませんでしたが)を病院へ持っていって母に見せてあげたことがあります。母はしばらく写真と向き合いましたが一礼をして、「もう心配を掛けたくないので家に持って帰ってくれ」と私に言いました。私ならそばにいてほしいと思うのに親子であっても親に対して甘え、心配を掛けてはいけないという昔の教育を受けた者の厳しさを感じました。

私はたっぷり親に甘え、言いたいことを言い、自分の好きなように人生を進んできたけれど、最後に母が言ってくれた言葉は「あなたは好きなように生きてきて、それでも自分のものを掴んだんだね。これで良かったんだね」と。

封建的な教育を受けながらも本当のことに気付いていたリベラルな女性たちは多かったと思うのです。
母は婦人参政権運動の草分けの市川房枝さんを尊敬していましたから。
未だに選択的夫婦別姓さえ認められない日本は相変わらず自立できない国ですね。。

さて、話がすこしそれたようになりましたが、でも生きることは着ることであり、着ることは生きる姿である。自由に自立した生き方は着るものにも反映されて来ると思います。生き方も着方も一体であると思うのです。

特に女達が着ることや布に対する執念が強いのは、見栄からくるものだけではない、根源的な生きる本能の強さのように思います。
何を着るかは人それぞれですが、使い捨てられる衣服からは培われない学びが、上質の着物にはあるということを先輩方の着物姿からも学ばせてもらうことができます。

祖母と馬場さんの着物は対局にあるようですが、その違いは問題ではなく、何を選び、着るかを見極めているかだと思うのです。私の場合は、自分自身を知り、磨くにはまだまだ時間がかかりそうですが、、、少しでも高めていけたらと思います。

お彼岸に布や着物を通して祖母や母を偲び、また現役で活躍される馬場あき子さんの着物姿からも学ばせてもらいました。





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紬の着物の後継ぎ

2019年03月19日 | 着姿・作品


先日の「紬+帯揚げ百彩」の際に、私が以前着ていた紬を引き継いでくださっている方がお越しくださいました。
久しぶりに我が子との再会になりました。
帯はお手持ちのいろいろなものと合うということで「活躍してます!」とおっしられていました。
一回り半ぐらい?若い世代の方です。


この日は落ち着いたモスグリーンのザックリした浮織の八寸の帯を合わせておられました。カジュアルな着こなしです。
この着物は「華かさね」と銘を付けていますが、私の中では少し華やかな場面での装いを想定していましたが、こんなふうに普段にもどんどん着ていただけるのも良いことだと再認識しました。コデマリやリンゴの枝葉で染め、袖口の赤系は茜染めです。

いつも紬塾の初回に黄色系の着物、ピンク系の着物を羽織ってもらうのですが、その際にも使っていた着物です。
身近な植物からは黄色系と赤系(淡い)が染まりますので、ごく自然な無理のない色です。肌映りがよく、どなたにも年齢を超えて似合う色でもあります。


上の画像が紬塾の時のまとってもらっている風景写真です。
この梅染めのピンク系の格子も後継者を探しておりますので、HPからお問い合わせいただければと思います。
ピンクはちょっと、、と敬遠する方も、当ててみるると思わずニッコリ!、「いいかも‥」とおっしゃる方が多いです。
洗い張り、仕立替えまで承ります。

すべて人の手でつむがれた糸を使っています。また長く着て頂けるよう堅牢に染め、織っています。
その仕事を次の世代の方に引き継いでもらえることは大事なことだとです。
繭から命あるものを頂くのですから、そういうものを大切に身に付けたいですし、作り、伝えたいです。


さて、この日私が着ていた紬は、梅染めの絣り刺し子織り(単衣)です。画像は少し青味がかっていますが、こちらもよく着ております。
とても生地感は良く、シワにもならず、重宝なのですが、元々サイズがやや大きめで、またこの一年でかなりスリムになりまして、、洗い張りするほど着てはいないのですが、やはり仕立て替えようかと今年は思いました。また、歳を取ると、身長も縮みます。身丈も今後を見越して少し詰めようと思います。
紬着物はやや小さめが着やすいですね。余った布をあちこち押し込んだり、引っ張ったりの処理をしないで済みます。

この日の取合せは拙作の帯、グリーンがかったグレーの「緑蔭」です。帯揚げは梅染めのオレンジ味のある薄茶、帯締めはグリーンがかったベージュです。
濃厚な凝った紬を、帯や小物たちが静かに見守っているという取合せにしてみました。

この紬もいずれどなたかに引き継いでもらえたらと思います。
この着物の取合せはこちらの着姿ページでご紹介しています。



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「紬+帯揚百彩」展ー明日17時まで③

2019年03月08日 | 個展・展示会


「中野みどりの紬+帯揚百彩」ー草木の色を取合せてー、無事終了しました。
生の草木の色の美しさの一端を多くの方にご覧いただきました。うっとり眺めては「何とも言えない色」という言葉を多くの方が発せられていました。
ご来場下さいました皆さまありがとうございました! 3/9記


こまもの玖さんでの「中野みどりの紬+帯揚百彩」展、初日は紬のトーク&取合せワークショップを行いました。
定員オーバーとなりましたが、なんとか1時間半きっちりでプログラムをこなしました。

曇り空の中でしたが、みなさんとても感動してくださったようで、終わってから感想なども頂きました。
短い時間でしたが、紬、染めの大事なことをコンパクトにお話させていただきました。
質問などもいただいたり、熱心に聴いて頂き、盛り上がりの最高潮に達した取合せワークショップは私にも発見がありとてもうれしく思いました。玖さんの豊富な帯締めがあればこそだったと思います。



お客様のお手持ちの草木染め紬が、なかなか出番がないということで、帯合わせのご相談もお受けしました。
今まではグレー系や寒色系を好まれていたとのことですが、今回美しいピンク系の花織帯をお気に召していただき、小物合わせも玖さんと一緒に決めさせていただきました。※画像掲載はご許可を頂いております。

この着物と帯から新たな発見や気付きが生まれてくるような予感がいたします。


帯揚げを含め、作品はすべて一点物です。ブルー系もこれからの季節は必須アイテムですね。あと、暖色の中で使うとアクセントカラーになり効果的な場合もあります。

帯揚は綸子系などがたくさん出ておりますが、まだ縮緬や絽縮緬などはありますので、お早めにお出かけ頂きたいと思います。どの色も不思議な魅力をたたえてくれています。

合わせたい着物や帯などお持ちいただくなり、着物に合わせて帯をお探しの方、帯に合わせて着物をお探しの方も合うものがあるかわかりませんが、何かハギレなどをお持ちいただければお探しのお手伝いもさせて頂きます。


また、玖さんの方で、私の紬に合う長襦袢や八掛けも用意してくださってます。ちらっとしか見えないのでこんな可愛らしいのもいいですね。裏勝りの面白さ。


帯締めも素敵なものがあります。セレクトさせて頂き展示しました。ワークショップ参加者のお一人がこの帯締めを使い、雛飾りのお供えの菱餅に見立てた取合せも素敵でした。

最終日は晴れの見込みですので、日差しの中で生き生きした自然な深い色を御覧いただきたいと思います。淡い色のものにも奥行きがあります。微妙な色をご覧ください。

明日9日(土)午後5時までです。私は13時半頃から出ております。
お待ちしております。





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中野みどり「紬+帯揚げ100彩」展-草木染め紬ショール②

2019年03月01日 | 個展・展示会


ショールは櫻工房オンラインショップに公開しました。

玖さんでの展示の準備に追われています。
ギリギリセーフでショールの湯通し仕上げを済ませました。
春向けの明るい色目のものも織りました。

早速アシスタントの肩に掛け、写真を撮りました。夕方になってしまい、色がイマイチなのですが、それでもなんとか感じはわかって頂けると思います。
アシンメトリーなよこのラインの間隔に動きが生まれていい感じです!(*´∀`)


梨染のグレーの平織りの中に、バーガンディーと卵色の細い綾織段を入れました。


こちらは柔らかな桜染めのはちみつベージュで平織りを、ピンクベージュで斜子織りの大きな段です。
斜子織りはドレープがきれいに出ます。


斜子の部分はモッコク染めの上品な色です。フワッと優しい色で肌の色がきれいに見えます。

どちらも羽織の上でも、シャツやジャケットにも合わせやすい無地感覚のものです。
もちろん秋冬にもタテ四つ折りに畳んで首に巻きつけてもいいです。
春先もカーディガンやジャケット代わりにお使いいただけます。

立体感のある手紡ぎ糸、節糸で織ってますので、薄いようで体温を溜めてくれて温かいです。
正直、この一点物ショールは糸もたくさん使いますし、合わせ糸を作るのも手間がかかりますし、、また節糸を織るのは毛羽との戦いです。
八万円台の価格もかなりの出血大サービス価格です。(^^ゞ

でも着尺とは違う自由さや楽しさもあってやめられません。。

ただ、力のある節糸の太目のものはもう作られなくなっていて、手持ちの糸もあと僅かになってきてます。
ツルッとした糸や、ただ太いだけの棒のような糸は使う気になれません。。。
糸がなくなれば終わりになる貴重なショールです。草木の生木の色は肌映りもよく、使うほどに、洗うほどに柔らかくなるので惜しげなくお使いいただきたいと思います。広幅(51~52cm)ですが、おしゃれな!男性にもお使いいただけます。(*^^*)

95年からショールは手掛け始めて、数えてみたらなんと140枚も織っていました。
すべて一点物で同じものはありません。

着尺や帯の合間に少しづつ織っていただけですが、沢山の方にお使いいただけたおかげです。2枚、3枚とお求めくださった方もあります。ありがとうございます!末永くお使いいただければ嬉しいです。

こまもの玖さんで紬のショールもご覧ください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

中野みどり「紬+帯揚げ100彩」展-草木の色を取り合わせて

3月6日(水)~9日(土)

時間:12時―19時(最終日17時まで)
於:こまもの玖

※3月6日トーク&ワークショップ(13時ー15時30分)はクローズドイベントです。(キャンセル待ち)

詳細はこちら。 






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