中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

「速水御舟――日本美術院の精鋭たち――」

2013年08月31日 | 工芸・アート
アート鑑賞いろは塾9月7日(土)の推奨展覧会「速水御舟――日本美術院の精鋭たち――」 を山種美術館で観て来ました。なかなかよかったです。

速水御舟といえば『名樹散椿』、『炎舞』(ともに 重要文化財)が最も知られた作品ですが、今回は『名樹散椿』の展示はありませんでした。以前の茅場町の山種美術館で『名樹散椿』は観たことがありますが、すごい迫力でした。画像で見ると平板になってしまいよくわからないのですが、、、。

今回初めて観た絵で、関東大震災直後に描かれた『灰燼』がとても印象に残りました。
花や風景の絵が多い中で、突然あらわれました。瓦礫に後光が差しているような強いものでした。

どう印象に残ったのか、観終えてから言葉化してみると鑑賞もさらに深まると思います。

それから今展もそうですが、日本画は軸装品が多いです。
私の軸装品の鑑賞の楽しみは表装の取合せを見ることにもあります。

日本の軸装というのも、ものすごい美意識によって成り立っていて、絵や書を人に例えるなら、表装は着物や帯にあたるでしょう。
中廻しと呼ばれる絵のすぐそばに使われている布地が着物ならその上下を挟む、あるいはぐるっと囲む一文字はさしずめ帯でしょうか?
たいていは無難な線でまとめられているものが多いと思いますが、古い時代の素晴らしい布や、大胆な取合せ、絵の内容との表具師の取合せのセンスにハッとすることがあります。

絵を殺さずに表具も静かに主張しつつ両者が生き生きとある。
合わせすぎると絵が死んでしまうものです。
着物と帯などもそうではないでしょうか?

取合せの美は日本の美です。
そんな点も一緒に鑑賞すると着物の取合せの参考になることもあるのではないでしょうか。

11月中旬に、櫻工房内で「取合せの会」および「取合せについて」のミニ紬きもの塾も予定しています。またブログでお知らせします。

さて、今回のアート塾も言葉にしてみるということがテーマですから、聴き逃せません。
私も楽しみに参加します。
講師の笹山さんは、わかりやすく話してくれますので初めての方でもご安心を!是非ご参加ください。
詳細はこちらから。

11月には湘南方面でも「アート塾」開催予定です。

詳細は講師の笹山さんのブログフェイスブックで近くなりましたらお知らせします。











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水のいのち

2013年08月10日 | 自然環境・脱原発
合唱をしている人なら誰でも知っているといわれる1964年に作られた「水のいのち」(高田三郎作曲)を聴きました。
アカペラを楽しむ会のKさんがメンバーに入っている、男声合唱団お江戸コラリアーずの演奏会で。

50代までは合唱とは無縁できましたので(音楽は子供の頃から好きでしたが)、私は初めて聴く曲でしたが歌詞(高野喜久雄)を聞き漏らすまいと目を閉じて聴いていました。
『1.雨 2.水たまり 3.川 4.海 5.海よ』の組曲になっています。

曲もいいのですが、詩のもつ力が当たり前だけれど凄くて、
断片的に思い出される言葉が家に帰ってからも頭にこびりついてしまいました。
特に最初の“雨”が好きです。


日本にはこんな素晴らしい詩を作る人がいて(たくさんいると思いますが…)曲をつけ、
歌い継がれていることにも感動します。
お江コラの力量も加わりとても素晴らしかったです。

他の曲も良かったです。
「特攻隊員戦死者の手記による(信長貴富作曲)」も胸迫るものがありました。
「死にたくない!生きたいんだ!」という特攻隊員の叫びが表向きの言葉に反して聞こえてきました。
始めに観客に背を向けて並び立つ演出もハッとしました。
歌だけではなく演技もよかったです。

さて昨年のお江コラ定期演奏会の「大漁唄い込み」(斎太郎節変奏曲)がYouTubeで聴けます。
これも生演奏は迫力が凄かったです。興奮しました!
男声コーラスならではの曲ですね。

また、震災前の2010年に郡山で歌った『くちびるに歌を』。これは歌う方も感極まってくるそうです。
そしてこの時聴衆の拍手は鳴り止まなかったということです。
そして震災直後にその録音をアップされたのですね。


もう一つYouTubeで見つけたこの曲は実際には聴いていませんがPikse litaania (雷鳴への連祷)も大好きです!
声という素材を組み合わせ音を添え、何か造形作品を見せてもらうような感じさえします。


若い人が中心ですがKさんのような高齢!?な方もいて、声にも幅があります。
指導者、リーダーのレベルも高いのだと思います。品格を感じます。
これからも世界の、日本の良い曲を選んで聴かせてもらいたいです。
一般に知られてない曲でも、古典、現代問わず、私はよいものなら聴きたいです。

染織品も美術品も良いものは普遍性をもっていますから。

お江コラのHPはこちらです。
「モノ・語り」もご参考まで。


東日本大震災以降の日本の状況を思うと胸が塞がれます。
放射性物質を含む汚染水は止まりません。

今年になって東京の放射性降下物質も増えていたようです 。
あまり報道されてませんが、天気予報の中でやっているどうでもいい洗濯物情報はやめて、
風向きなどによる放射性物質の情報を伝えて欲しいです。
風の強い日はマスクをしたほうがよいとか、マスク情報に…。


放射性物質は海へ、空へ、そして大地へ舞い降り農作物に降り注がれ、赤ちゃんや子供、若者の体内にもいつのまにか取り込まれ体内被曝する。
そんな循環は嫌です!!

ただちには死なないかもしれないけれど10年後か20年後か50年、60年後か病が発症する可能性があります。


私たちは水なしに生きられないし、魚を食べる文化を捨てることもできない。
空気を吸わないわけにはいかない。

日本の四季、自然、日本人の感性、文化を壊していくようなことは絶対にしてはならない。
子供の頃「天に唾をはくようなことはしてはいけない」と聞かされましたが、
今が正にその状況です。

少しでも自分に出来ることで水や自然を汚さないようにと心がけていくしかありません。
染色でも、日々の暮らしに使う水でも汚さないよう、工夫し、大切にしているつもりです。


お江戸コラリアーずが歌った『水のいのち』はいのちの水のことを改めて強く考えさせてくれたのです。








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第5回紬きもの塾  桜で染める

2013年08月01日 | 紬塾 '13~'16


今年も暑い盛りに桜染の講習をしました。内容は過去の紬塾ブログも参考にしてください。

一人で染色するときは自分の仕事を次々と段取りよくやることに専念すればいいのですが、
二人ひと組になってもらい3組に別の作業を同時進行してもらうには、私は頭をフル回転させながらみんなに指示をし、していることのチェックもしなければなりません。
歳のせいかなぁ?結構疲れました~

さて今回は先日手つむぎしてもらった糸と古くなった半衿、帯揚げの白生地を染めました。

媒染は無媒染と灰汁媒染をしました。
本来は灰汁媒染は時間をかけるものなのですが、多少短縮版で行いました。

桜は葉と小枝を一緒に煮出しました。
枝葉を分けてもいいのですが、今回は煎汁で分けてみました。

煎汁はだんだん薄くなるというだけではなく色の違いも出てきます。
部位を分けたり何煎目かを分けたり媒染剤で分けたり、またその順列組合せでも広がっていきます。
更には季節でかなりの違いもあります。
工夫と自由な発想をもつことの面白さを桜は教えてくれます。

学校でも社会的にも刷り込まれている先入観、固定観念、あるいは人がなるべく考えないように過剰に簡単、便利な暮らしの道具たちのせいか、人間本来の感覚は残念ながら鈍ってしまっているように思います。

このささやかな染色体験が少しでも感性を刺激し良い方へ生かしてもらえると嬉しいです。

大事なことは一人ひとりが自然やモノをよく観察して自分で気付き発見し、考え工夫して実践することです。

「煮出しの時間は何分ですか?」という質問に、「煮出しの色を見ながら決めます」と答えました。
そういうふうに書かれた染色の技法書はないでしょうね。。。

でも私はそれが本当の技法書や教えだと思います。

昨年出版した作品集『樹の滴―染め織り着る』も「これまでにないもの」と言われましたが、
シュルレアリスムな(!?)超現実(主義・主張ではない)、本当の現実を書いた技法書も書いてみたくなりました。
売れないでしょうけれど、、、実現したらその技法書自体がアートと言えるでしょう。
本当のことを気づかせてくれるのがアートや自然です。


参加者にも今まで草木染の講習を受けたり、化学染料を中心とした仕事をしている方もいたのですが、私のやり方はそれとはだいぶ違ったようです。

みなさんに感想を聞くと、今まではものを見ないでマニュアル通りにしていただけだったり、思い通りの色になるまで無理やり染めていくやり方だったり、糸の洗い方一つでも違っていたということでした(綛の持ち方一つで糸は毛羽立ったりします)。

煮出しを担当してくれた方が、「桜の煎汁はかすかにとろ味を感じた。そして美味しそうに(桜が)ほっこりたけた煮物のような匂いになったとき、煎汁は薄くなっていた」と感想をもらしてくれました。

料理の感覚もおいしいお茶を入れることも、草木の生木を使うときは一緒です。
美味しいコンソメやお出汁を取ることが料理では大事ですが、桜のお出汁で糸や布を炊くのです。
よく煮含められるよう火加減や時間は状態を見ながら、またしっかりとした味になるよう時には一晩煮汁に漬け込むこともあるのです。

そして最後は日々の洗濯も染色の同一線上のもので、繊維の汚れや汗をどうとればいいのかを布と向き合っていくこと、と締めくくりました。

炭酸塩での洗濯が私はほとんどです。参加者にもお勧めしました。
糸の精錬(セリシン除去)もアルカリ剤(私は灰汁ですが)を利用しますが、汚れも落ちて白くなるのです。
衣類や布ナプキンについた経血もほとんど白くなります。

今年も水不足ですし、すすぎの簡単な炭酸塩を是非試してもらいたいです。
炭酸塩の洗濯ははネットで検索してみてください。
洗濯槽の汚れ取りにもいいようです。

汚れと向き合う洗濯も楽しです。










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