中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

宗廣力三先生の紬縞に思うこと

2019年12月28日 | 紬織り人間国宝・宗廣力三先生
 
京都の知り合いが秋に亡くなり、先日、偲ぶ会に行ってまいりました。
その際に、数珠を持って出かけたのですが、新幹線の車中で数珠入れを眺めていて、いい縞だとしみじみ思いました。
 
この半月型の数珠入れは、私の師である宗廣力三先生が89年11月に亡くなられた際の香典の返礼品として頂いたものです。おそらく郡上から南足柄に仕事場を移されてから、織られたものと思います。
単純な縞のようでいて、洗練された工夫が随所にあります。
 
高度なことというのはこういうことだと思うのです。強い表現でもなく技工をいかにも凝らしたものでもなく、長い年月の中で培われてきた紬糸一本一本の存在を見極められる力、かといって古い時代のものとも違う――。先生ならではの縞模様だと思いました。
 
 
 
よく先生は、“やすら”という言葉を使われ、「安らぐ、安らか」というような意味合いで使われていたと思うのですが、地糸と色糸を1本交互に入れるときによく、“やすらで”とおっしゃられていました。
これは経て縞ですが、ヨコの段を入れるときによく耳にしました。
生地アップの写真で、地糸と色糸が混ぜられ、奥行き感や、柔らかさ、優しい感じが出ているのがよくわかると思います。逆にベタ使い(地糸と混ぜないところ)のところは強く浮き上がります。
際にピンクの糸が1本、白の糸が1本、少し離れて添えられています。ここは地糸が2本入っています。何気ないひと工夫です。
 
 

下の名刺入れは拙作ですが、初期の頃の縞です。この経てで、着尺とを織りました。地の部分にも濃いベージュの縞を入れたりして奥行きを出そうとしています。藍の縞も濃淡2色使っています。
 
こうして並べてみますと、共にシンプルだけれど味わいや奥行きを、糸という他力をまず最大限に生かそうとしているところは師弟で同じものを目指してきたのではないかと、車中で二つ並べて感慨深く思いました。
 
若い時に身につけておくべきこと、働き盛りにすること、年齢を重ねてするべきことそれぞれ違いはありますが、でも初めから、何を大事にするかはそう変わらないように思います。
 
ものの大切にすべき本質は最初の方向性である程度決まり、あとはその本質を知るための様々なタイプの仕事をこなし、気付き、技を磨く。修練は一生続くのですが、年月を経て、未熟だった時の初心に戻り、また年を経たものに相応しい、今やるべき仕事は何か、自分にできる仕事は何かを改めて問うていくことかと思います。
 
そして、冒頭に書きました偲ぶ会で、亡くなったアーティストの知人をよく知る方から「中野さんの着物を着たかった‥」と聞いていたということを知らされました。残念ながら実現はしていませんでしたが、私より少し年上の方ですが、私の仕事を理解して下さったお一人で、その言葉は、私にとって、今後の支えになります。お世話になりながら、ご無沙汰して、不義理をしてしまいましたが、近いうちにお訪ねしたいと思っていた中のことで、とても残念でなりません。彼女のスタジオで会は行われましたが、藍微塵の紬に祖母の黒喪帯を締め、お別れをしてまいりました。道すがら、雨が降り出しました。
 
洛北や夕べ時雨て偲ぶ会        
                              合掌

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、今年もあとわずかになりました。工房も本日ほぼ仕事納めとなります。HPの更新などはまだこれからなのですが、、。(^-^; 
たくさんの方にお世話になり、ありがとうございました。お陰様で無事仕事をすることができました。来年も紬の糸や植物の色を見極めていけるよう日々精進をしたいと思います。
 
年末年始の休暇の期間を以下の通りとさせていただきます。
20212/29(日)~1/5(日) 年末年始休業

期間中にいただいたご注文、お問い合わせに関しましては、20年1月6日より対応させていただきます。ご不便をお掛け致しますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。
 
今年も、世界中で自然災害の多い年でしたが、日本もモタモタしないで率先して、CO2削減に取り組んでほしいと願っています。
何はなくとも、健康で文化的な暮らしができる環境が一番大事だと、すべての始まりだと思います。
 
大変な境遇の中で新年を迎えられる方もたくさんおられると思いますが、来る年は少しでも好転するよう祈ります。
読者の皆様もどうぞよいお年をお迎えくださいませ。
 
 
 
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第5回紬塾 名古屋帯を締める―前柄、太鼓柄をよく見る

2019年12月13日 | 紬きもの塾’17~’20
紬きもの塾は、前半は糸や染め、織りを中心に話を進め、後半はとことん着る着ものの合理性、そして実際に着物を着ることに関して学んでいきます。
11期の紬塾も残すところあと1回になりました。

今回は名古屋帯の寸法などの詳細を勉強しました。
今期参加のみなさまは、着物をよく着る方で、着付けの講師をしてらっしゃる方もあり、特に着方はやる必要もないかと思いましたが、帯結びに関して、太鼓のたたみあとが出てしまう、前柄の出し方で結びにくいものがある、短くて使えない、長くて締めにくい…など、帯に関してのお悩みがあり、問題点を徹底解明することにしました。

着付け教室で習った締め方に忠実なのはいいのですが、太鼓中心を把握されてなかったようで、今回スッキリ解決となりました!

帯も、ものによって、長さや柄の配置に幅があり、ワンパターンのやり方で締めますと、締めにくい帯、、、となってしまいます。
太鼓中心と前中心、関東腹、関西腹をよく見て手先の長さを決めていくと柄がうまく出てきます。
多少のことは融通が利くので、太鼓柄にせよ、前柄にせよ、中心にしたり、少しずらしたり、好みで締め分ければよいと思いますが、まずは自分の帯の全長、太鼓中心、前中心を測ってみるとよいです。

関東巻きしかしていなかった帯を、関西巻きにしたら、何のことはない、きれいに前柄が、中心よりやや左寄りに収まり、ご本人もビックリ!(*_*)
短くて太鼓柄が出ないとおっしゃっていた方は、帯枕の当てる位置が違っていて、確かに全長9尺の長さではちょっと短いのですが、なんとか使える範囲ということもわかりました。20~30年前の帯は、新しい帯反で仕立てても、仕立て上がり9尺3寸位でした。今は9尺8寸から一丈あるものもあります。着物も帯もなんでも大きめになり、使いにくくなっているようにも思います。

締め方は、捻じるやり方でも、仮ひもを使っても構わないのですが、手と垂れの交点から帯枕を当てる位置が太鼓柄の出し方に関わります。今はその長さをたっぷりとる締め方が雑誌などでも見受けられますが、帯枕を当てる位置は垂先から2尺3寸前後になります。そのように柄はついているはずです。



帯芯を使って柄の配置をわかりやすく見てもらうものを今回用意しました。
垂れは2寸(人差し指のながさ)のところに糸印を付けています。

太鼓中心(1尺8寸)から上下4寸のところに縫い印をつけてあります。
ここが太鼓になるところです。多少の中心のずれ(1~1.5寸)は大丈夫で、帯を二つ折りにたたんだ時の折りあとも正しく帯枕を当ててあるなら、太鼓に出ることはないのです。

今まで、私の帯を締めてくださっている方の中にも、何人か畳んである時の折り目が太鼓に出てしまっている方を見ましたが、帯枕の中(背中)に帯がたっぷり入ってしまっていることになります。また逆に、太鼓中心が太鼓の折り返し(立ち上がり)にたっぷり入りすぎて、中心が下の方になっていたケースもありました。もちろんそれでも意図的にそうするなら、それはそれでいいと思いますが、、。

前柄はさすがに自分で見えますので調整すればいいのですが、前中心の位置も4尺2寸から4尺4寸くらいあって、自分の好みの位置にずらして調整します。


この帯は関東、関西、どちらの巻き方でしょうか?上のトップの太鼓の画像を見るとわかると思いますが、関東巻きです。左右の地色(縞)が少し違っています。
この帯は私に肌映りのいいブルーグレー系が上の方に来るように巻くことが多いです。でも着物によって関西腹も使います。

このような段縞の場合でも、前中心をどこにするか、鏡を見ながら決めます。
制作する際も、もちろん中心を決めてはいるのですが、ずらしてダメということでもないですので、着る方が全体を見ながら決めればよいわけです。

この日は、久し振りに若いころに買った(これも母に借金して買ったのですが、、、^-^;)、薩摩絣を着てみました。ブログの前記事の弓浜絣とは対照的な綿絣です。この自作の紬帯は芯が柔らかく、少し締めにくいのですが、超長綿の薄手の滑らかな木綿にはかっちりし過ぎず、良いかと思います。

帯芯と帯地との関係で帯の表情も変わります。仕立て屋さんも悩むところだそうです。仕立て依頼の際に希望が言えるようになれば一人前でしょうか・・。

それから、どなたも尺指しをお持ちでなかったのですが、着物をずっと着ようと思う方は二尺指しと一尺指しはぜひ持ってほしいと思います。
とてもシンプルに長さや幅を掴むことができます。自分の着物の寸法も覚えやすいです。

他には半衿付けも衿芯を半衿でくるみ、それごと洗うやり方も参考までにご紹介しました。自然な衿の形になります。

今回も盛りだくさんでヘビーな内容でした。
帯結びに関してのお悩み相談も「ミニ紬塾@工房版」でも承ります。



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お正月に着物を始めよう!―「ミニ紬きもの塾@工房版」

2019年12月06日 | お知らせ
師走に入ってあわただしい日々と思います。
工房でも大人可愛いい吉野格子の帯と、深みのある大人の紫茶色の崩し縞着尺を同時進行しています。
また、週末の紬塾では帯結びや帯の柄付けの確認をしますので、その準備など忙しい日々です。

さて、年末年始、着物を着る方も多いと思いますが、今年こそお正月に着物を着てみたいと思っている方、あるいは思いはあっても、なかなか踏み切れずにいる方も、時間の余裕のある時に、家の中だけででも着物に袖を通し、練習を兼ねて着るのもよいのではないでしょうか?



上の写真は、修業を終えて独立間もないころ、母に借金をして、鼓に桜と流水の絵絣を、弓浜絣の復興に尽くされた嶋田悦子さんに手紡ぎ糸で織っていただき、お正月に、家の中や、近所の神社の初詣でへ着て行ったりしていました。これが20代の私にとっての晴れ着であり、普段着でもありました。

好きな藍染め、太めの手紡ぎ糸の温かさ、おおらかな素朴な模様に心安らぐ思いと同時に、本物を目指した織り物で私も生きていくんだ!という自分なりの原点のような気持ちで織っていただきました。また、この地厚な木綿の一枚が、楽に着る着方の練習にもなりました。

特別に改まった晴れ着でなくても、手持ちの着物に、少しお正月らしさを加えて、自分のために着る、自分なりの晴れ着もいいと思います(もちろん着ていく場はわきまえなければなりませんが)。
着方に自信がないという方や、どんな取り合わせにすればいいのか、下着のことなどもわからないという方がありましたら、「ミニ紬きもの塾@工房版」にて随時、ご相談を承りますのでお問合せください。
工房でも紬着尺、帯、帯揚げ、帯締めなどもご覧頂けますのでその旨もおっしゃっていください。

タンスで眠っている着物を見直して、ぜひ着始めてほしいと思います。
とにかく家の中だけでもいいので、まずは着物に馴れること、着物に包まれてみることかと思います。どんなものを纏えばいいのか、着物が教えてくれます。
ご相談の内容を具体的にお書き添えの上、HPからお問合せ下さい。
折り返し、相談にかかる費用(内容にもよりますが、2時間以内であれば5,000円ほど)などもお返事いたします。
日曜日も対応できる場合もあります。もちろん、年内に限らず随時受け付けています。

私は毎年お正月には着物で外出しますが、今年は江戸小紋に紬の帯で、、と考え中です。着物はたくさんは持っていませんが、取り合わせを替えつつ楽しんでいます。
HP着姿にまたアップします。時々のぞいてください。




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