中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

愉しい非電化できもの貯金!

2011年08月27日 | 自然環境・脱原発


「コクリコ坂から」を8月初旬に近くの映画館で観てきました。
1963年の横浜を舞台にした高校生の物語です。「胸キュン!」となりました。*^。^*

さて、そのころ私は生まれてまして‥というか小学生だったと思います。^^;
手回しのローラーがついた電気洗濯機を主人公の女子高生海が使う場面があるのですが、
懐かしく思い出しました。
母の手伝いをして、洗濯物をいっぺんに沢山挟んで回せなかったりしました。
今は3,5kgの二槽式の洗濯機ですが、手洗い感覚で汚れと向き合って、時間をこまめに変えたり
天気によって脱水の時間も変えて(糸の糊付けのときも絞り具合を変えるのですが)、
職人技で使ってます。^^y
合成洗剤は使いません。以前のブログ(紬塾‘10 )にも少し書きましたが
石鹸か炭酸塩(炭酸ソーダ)のみで洗います。
藤村靖之さんの『愉しい非電化』という本に「洗剤を落とすために回る電気洗濯機」という章があります。
汚れを強力に落とす洗剤を使い、その洗剤を落とすために水をたくさん使っているとあります。
電気も水も洗剤も無駄ですし、環境にもよくないですね。

着物はその点、しょっちゅう洗うものではなく、裾が擦り切れたら洗い張りに出すと母は言ってました。
着物は合理的ですね。
麻の着物だけはシーズンの終わりに盥で炭酸塩を使いさっと洗ってます。
一旦外で乾かして(半乾きで取り込んでも構いません)、霧を少しかけ畳んで重しをのせ
2~3時間後にもう一度室内で完全に乾かしておしまいです。
アイロンもいりませんしこれも非電化のお手入れですね。

麻は洗うと縮みますので反物の時に湯通ししてから仕立てるとよいです。
それから今時の全自動洗濯機には乾燥機もついてるそうですが、麻には絶対やめたほうがよいです。
植物の茎を極限まで裂いて作る繊維ですから。それはあんまりです~。
夏場の衣類には特に炭酸塩(シルク、ウールには向きません)が活躍します。
是非お試しください。黄ばんだ肌着とかどんどん皮脂が溶け出て面白いです。

コクリコ坂に話を戻します。主人公の海は朝食の支度を毎日するのですが、
羽釜をガスコンロにかけマッチで火をつけご飯を炊いていました。
私は十数年前からご飯は土鍋か圧力鍋を使って炊いています。時間は火をつけてから消すまで
10分ほどです。あとは少し蒸らします。早くて美味しく炊けます。

マイコン制御で洗濯やご飯炊きをしてもらわなくともそれぐらいは人のやるべき仕事ではないかと
この夏はことさら強く感じます。自然の風や光や湿度を感じず、火加減も沸騰の音も気にかけず、
毎日少しの汚れに洗剤を使いたくさんの水を流し続け、天日があるのに1時間もかけ乾燥機を使う。

自然の恵の中で生かされていることを思うと、本来、人がもっている生きるための能力を使わず、
無駄にエネルギーに頼る生き方は楽しくないし、結局幸せではないと思うのです。
昔の人の言葉を借りれば「お天道様に申し訳ない」です。
もちろん人によっで事情も違いますから育ち盛りの子供が多いなど本当に必要な人もあると思います。
ただ過剰に電気を使わない暮らし方を考えるのも大事なことですね。

知り合いの着物好きの人が5人家族で各部屋にエアコンをつけ、多いときは月に5~6万円の
電気代を払ってきたと言ってました。
契約アンペアもすごくて、今回の原発事故もあり、子供も巣立ち、アンペアを下げるそうです。
浮いた電気代を貯めればきものや帯が買えますよね~。

私の工房兼住まいの電気代は夏のピーク時で5~6千円です。扇風機とエアコンの送風は使ってます。
織りの仕事のときは絹の綿ぼこりがたくさんでるのですが、掃除機もなるべく使わないよう
モップでホコリを集めてそれを吸い取るようにしていますし、夏はそんなにもう削れないのですが、
冬は電気の暖房器具に頼っていて月に1万5~6千円になります。
これをなんとかしたいと思っていたら前に紹介した藤村さんの本にハクキンカイロがよいというのがでていて
この冬はこれを使ってみようと思っています。
苦しい節電ではなく、なるべく非電化の暮らしでむしろ心地よく愉しく暮らしたいです。
浮いた電気代は究極のエコなきもの貯金にします!
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盛夏の装い――宮古上布と紬半幅帯

2011年08月11日 | 紬の上質半幅帯

日本の夏の麻織物は本当に素晴らしいと思うのです。見た目の透け感も涼しげですが、
実際に麻は肌に触れると冷たく感じますし、麻糸の張りが肌に密着せず風が身体を抜けていきます。

麻糸にも手績みと紡績糸がありますが、やはり手績みの糸は腰が違います。
もちろん価格は跳ね上がりますが、糸を作るだけでも2~3ヶ月もかかるということですから
それもやむをえないですね。

糸作りや織りの仕事は日本の歴史の中で搾取の上に成り立っていた面が長くありました。
今も決して報われているとも思えないのですが、低い工賃でも、人がやるべき尊い仕事だから
続いてきたのだと思います。
金額の高い、低いだけでものを見てはいけないと私自身は着物や布を見るときにその労苦を思うことにしています。
そして二代、三代と受け継ぐこともできます。長い目でみれば決してただの贅沢品ともいえないのです。

絶やしてはいけない仕事だと思いますが、夏に着物を着る人がいなければ終わってしまいます。
浴衣一枚からでも手仕事の本物を着ることだと思います。
もちろん経済もありますから無理はできませんが、間に合わせは結局間に合わないのだと、自分の失敗からも思います。 ̄ ̄;

一人の人が、一生に一反でも上質の手仕事の着物を買うことで着物文化も繋いでいけるのではないかと思います。

代々の古いものを受け継ぎつつ、そして現代の仕事のものも買って次世代に残していく。

魂のこもった仕事を引き受けるにはそれなりの経済も覚悟も必要ですが、本当にいいものは、手に入れた人をも高めてくれる力をもっています。
清水の舞台から飛び降りたあとにただケガしちゃった‥だけではなく、学びや、自分が磨かれるものがあるというのが大事なのだと思います。

周りに着物を着ている人が少ない昨今、本物の手本を見る機会も少ないですが、力のある布は人を引きつけるものです。
知識や先入観をむしろもたないほうがよいでしょう。

ピーンと来る一生ものの布に出会う愉しみを持ちたいです。布の力は侮れません。


古い宮古上布。私で三~四代目になると直しの痕から推測されます。
縁あって出会ったのですが、宮古上布の歴史的背景を思うと身を引き締めて大切に
とことん着させてもらおうと思います。
 自作の綾織の半巾帯を合せました。帯揚げも帯締めもないほうが涼しげですね。


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涼しげ

2011年08月04日 | こぼれ話(着物)
6月、7月は麻の着物でよく外出しました。
会う方からは「涼しそうですね」と声をかけていただくことが多いので、「はい涼しいです…」と答えるのですが、
周りの方には少なくとも涼しさを感じてもらえたなら嬉しいことです。^^;

たまに「この暑いのに着物で…(よくまあ~)」とおっしゃる無粋な方もあり
「いいえ涼しいです!」と反射的に答えてしまうのですが、~~;

幸田文(小説家 1904年~90年)『きもの』は紬塾のテキストでもありますが、
同じ幸田さんの随筆集に『月の塵』(講談社刊)というのがあります。
その中の1967年8月に書かれた「ひさご」という文章に、
最近涼しげな人をあまり見かけなくなったと、40代の女性が、
「襟も胸も膝も申し分なく開放されていて、涼しげではなく本当に涼しくなっている。
けれどもどうしてだか、涼しげに見える人はいないように思えるのが不思議できいてみた」と問いかけられ、
その時は何故なのか幸田さんは答えられなかったのですが、
一眠りした後にふっと解けた「和服だけしか着ていなかった時代には女はひとりでに、
和服による気取り、というものが備わっていたのだろう、と。
それが、げ、ではなかったろうか。今は消失したものである」と。
(「げ」とはたとえば「涼しげ」という場合の「げ」です。つまり「気」ですね。)

なるほど、確かに着物を着たときのある種の緊張感のようなもの、
それが気取りなのだと思うのです。
暑いときの着物は着てしまうと案外スキットした気持ちにもなりますし、
見る人にもそれが涼しげにも映るのだと思います。
さすが着物を着尽した人の言葉ですね。
この夏、“涼しげ”にきものを着てみませんか?



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