中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

真っ直ぐな布を織る

2017年02月21日 | 制作工程
今年に入ってから二反分の着尺の設計、糸巻き、整経、経巻、織付け、柄決めと集中して進めてきました。間もなく織り上がります。
染織のどの工程も熟練を要し、またどれも手の抜けないものですが、特に整経と経巻が真っ直ぐな布を織るうえで最も重要で、最も難しい作業です。

   
整経をしているところ。少し足を開いて身体を固定、安定させて座ります。静電気が起きにくいよう冬は鍋の湯で保湿します。

整経ムラを出さないように整経をすることはもちろん大事で様々な注意を払いますが、手延整経でムラをゼロにすることはできません。


ムラは経糸を千切に巻き取る経巻の段階でほぼ完璧に修正します。緩めに巻くことで僅かなムラがわかりやすくなりますので、一回巻き取るごとに手のひらでテンションを確認し、緩んでいる場合は人手があれば手で引っ張ってもらいながら巻ます。一人でする場合はゴム紐で括ったり、軽く自分の手で引っ張りながら丁寧に巻き取ります。

経糸がきちっと整っていると織るのもスムーズで、織り上がった布も耳がワカメのようになったり、逆につれたりせず平になります。


節糸、真綿紬糸を使っていますので、巻き込みながら糸に捌きを入れます。不要に触らずに捌きます。

経糸は人生に例えると宿命などと言われ、自由に変えられない例えにされたりしますが、整経は建物で言えば柱を立てるようなものでしょう。長さが違ったり、斜めに建てられた柱で真っ直ぐな強固な家を建てることは出来ないように、織り方でなんとかしようと思っても不可能です。

織の基本を身につけるには、経と緯が直角に交わらなければならないという意識をもっていなければ何年やっても身につくものでもなく、ただ織るだけになってしまいます。テキトーでもなんとなく布にはなりますが、その良し悪しは一目瞭然です。

アシスタントにも絶えず織り前が真っ直ぐになっているか、機の中心に経糸がかかっているのかなどチェックをするように指導しています。チェックというとすぐにメジャーなど使いたがりますが、そうではなくまず自分の感覚で僅かな違いも「変だ‥」ということに気づけるようになることが大切です。

先日の五感のワークショップでもそうなのですが、染織の仕事でも視覚、聴覚、触覚は日々使います。
紬糸の複雑な形や撚糸の状態を見つめることは言うまでもありませんが、草木の生木で染められた色の複雑さの微妙な違いを見極め、機の音を自分で聴きながらテンションを決め打ち込みの加減をする。ルーペで糸の密度を数えなくてもいい状態で織り進んでいるかを感じ取る。
糸の糊付けの濃度を手で確認する。計量器で測るのではなく濃度の感触を身体で覚える。
機に糸をセッティンぐする際に先に尺指で測るのではなくまずは自分の目でまっすぐに左右の幅を見ながら掛ける。
確認のためにメジャーも必要ですが、目盛りを見間違えていても全体を自分の目で見ていなければ、「変だ‥」ということに気付けないでしょう。
大事なことは自分の身体にメジャーを持つことです。
意識し五感を通して糸や色や織ることと向き合うことが美しい善い織物につながるのです。

次世代に真っ直ぐな布を手織りすることを伝えるのは言葉よりも手本を示す姿を見せることです。
そしてそれをよく見て真似事でもいいので身体で覚えることが何よりも大切です。
師の、先輩の姿を見ておけることは幸せなことですね。

※次期紬塾の詳細は3月1日にUpの予定です。

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永井朋生「音」を体験するワークショップ[Ⅱ]――五感を開く

2017年02月11日 | かたち塾、アート鑑賞いろは塾

                                竹のスリットドラムで演奏する永井さん

先日のかたち塾「音のワークショップ」の報告です。
紬塾からも3名の方が参加してくださいました。
動画も撮ったり、音の録音もしたり映像とみんなの演奏を重ねたものも作ったりしているのですが、結構いい感じですが、また機会があればUpします。

五感を開くシリーズとして今回は「聴覚」。音を探すところから始め、物理的な音の出し方(奏法)を自分なりに探しました。今回は2回目でしたので音楽としても成立するように・・との思いもありました(1回目も音楽になっていると評価していただいたのですが・・)。

講師の永井朋生さんの提案で今回は映像と合わせたり(永井さんが旅先などで撮影した自然や雪の降った街の中を行き交う人の足跡などのシンプルな映像など)、また持ち寄った楽器を他の人と交換したり(奏法が人により違うので全く別の音になります)、一人10秒ずつずらしながら演奏をしたり(デュエットで)、自分の世界観だけではなく他の人の音を聴いたり、急にレベルアップでとても内容が濃いものとなりました。

眠っている感覚を開いたという実感が家に帰ってから早速ありました。
テレビの番組の背景にある効果音に気付きやすくなったり、何気ない日常の物音にも急に耳が反応するようになりました。

人の野性として本来的に聴覚は備わっていて危険や必要な情報を得るためにあるはずですが、日々の暮らしは雑音も多くなり耳を閉ざしているようなところもあります。

永井さんの演奏では、新作楽器で、一本の竹から節ごとに切り離して作ったスリットドラムの自然な心地よい響き、紀州の備長炭を長さの順に並べた楽器の不思議な旋律、おりんやガスボンベから作ったドラムの共振音の広がり、ドレミの音程にはない既存の楽器とは違う永井さんが耳を澄まし探りあてた“ものの音”を愉しませてもらいました。

竹の節は根元に近いほど厚く、節の長さは上へ行くほど長くなりますが、音程は上の節ほど低くなります。まだ青い竹でしたが、乾燥したら音も違ってきますね。思わず身体が動き出すような気持ちのよい演奏でした。

今の時代は音楽というとすぐにドレミの西洋音楽を思い浮かべます。またスマホで一人で音楽を楽しむ人も多いわけですが、原始から人々は生きるために音から情報を得、感情を音に表し他の人々と共有してきました。
自然界と自分を繋ぐ音、人と関わる音――。
無音も含めた様々なもの音に耳を澄ましていたいと思います。

五感は「気」を澄ませた状態の中で磨かれます。
気を澄ませた状態というのは偏りや思い込みのない素の状態でなければなりません。
聴覚も日々の中で磨くべき、人に備わっている大切な機能だと改めて思いました。
塩香のワークショップで栃木美保さんは五感を磨くことは六感を開くことに繋がる
という趣旨の発言をされていましたが、六感は五感を日々磨いた先にあるアンテナとも言えるかもしれません。
かたち塾、紬塾はそこを抑えていきます。


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自然光の中で木々に囲まれ紬を織る

2017年02月06日 | 着姿・作品
立春を迎えて寒さの中にも木々の新芽の膨らみや春の光を感じます。
制作をする際に一番大事にしているのは自然と共にイメージを膨らませていくことです。
20年ほど前、作家の立松和平さんの取材を受けた時にも「自然とともに織っていきたい」と話したことをよく覚えています。
草木で染めた色や立体的な紬糸は光で見え方が大きく違ってきます。
織物の設計をするときは必ず午前中にします。もちろん午後も仕事は進めていますが、決めるときは午前中の光の中で判断します。
また季節による庭の木々の色合いも、空の明るさ、暗さ、彩度も感じながら無理なく生まれてくるものを大切にしています。
東京で庭や空間のある所に工房を構えることは結構大変なことではありますが、、微妙な自然の色を扱うには光と木は欠かせない条件です。
織りながら窓から差し込む光に乱反射する糸のかたちや色の発色、響き合いに「わ~きれい・・」と思わずつぶやいてしまうことがよくあります。

上の画像は少し前に納品を済ませた吉野格子帯「待春」です。自然な色の美しさを味わいながら柄を決め織り進めたものです(写真ではどうしても自然の色の力を再現できませんが・・)。

ただ、出来上がった織物は季節を限定するものでもなく、身につけてくださる方が四季を通して取り合わせを変えながら着こなしていただくものだとも思います。春に限らずいろいろな場面でお使いいただきたいと思います。

この織はアシスタントにしてもらいました。吉野の太い格子も和裁のヘラを使い筬とは別に打ち込まないと平らになりませんので手間がかかります。交差した部分が波立たずきれいに織れています。
青緑に見える太い縞は藍と緑を一本交互に混ぜることで生まれてきた色です。
細い黄色の縞も黄色とベージュを混ぜています。混ぜればよいというものではありませんが、うまくできれば柔らかさと奥行きが生まれます。

自己主張が前面に出るのではなく、安心して自然体で身にまとえるような紬織りを心がけています。
現在は早春の光の中で5月初旬の「紬の会」に向けて単衣にしても袷にしても良いタイプの着尺2点が進行中です。
いつどんなふうに着てもらえるかを想像しながら自然とともに創っています。




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