中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

紬糸の糊付け

2024年05月31日 | 制作工程
経糸の糊付けや経糸巻ををしています。

私が使う糸は節や毛羽のある糸が中心になりますので、糊(布海苔+生麩)を付けて使います。
糊は付ければよいというものではなく、必要最小限にします。
風合い、打ち込み具合とも関連します。


糊付けの日の天候によっても付ける濃度を変え、糸巻や織りがしやすいようにします。
とても、とても難しいですが、風合いや堅牢性を高めるために大事な工程です。
基本的には緯糸も同様にしますが、濃度に関しては、経糸よりは薄くつけます。


それから糊付けの後、絹糸のウェーブを戻すためにやる重要な工程があります。
動画のように(インスタに上げています)、糸を高く振り上げ、2~3回テーブルなどに打ちつけます。綛を持つ場所を変えまた2~3回。
これはフワッと空気を入れてやる感じで、鞭打つように強く叩きつけてはいけません。


そして、干す時に、糸巻しやすいようにと強くはたいたりしているのをよく見かけますが、私は絹糸のもつウェーブを生かしたいので、ほとんどやりません。なるべく糸に触らず自然なままに干します。

この糸達は電動の糸巻機では巻けないのですが、手でゆっくり巻くほうが風合いの良い紬が織れます。

また、この糸を巻く時間にもこの糸のチョイスでよかったのか…など、次の作品への思いを巡らせます。ギリギリまで考え変更したりすることもあります。
必要不可欠な大事な時間です。


庭の緑を眺めながら、野鳥の囀りを聴きながら、風を感じながら静かに糸を巻きます。都下の住宅地の工房には、野鳥が年間20種類くらいは来ます。
毎日バードバスの水を替え、水浴びの場を確保してあげます。


桜の木の下の苔が茂ってきました。3種類あるのですが、手で触れるとひんやりと気持ちよいです。
真夏には山鳩もここに蹲り、身体を冷やしています。

東京でもこの環境で自然と共に仕事ができることは本当に幸せです。

風合いの良い紬を織るためには、織る以前の糸の扱いや、自然と共にある時間も大切なのだと思います。


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経糸のかたち

2023年05月18日 | 制作工程
着尺用の経糸を巻いてます。

紬は経糸の仕事(糸選び、精練、染色、糊付け、糸巻、整経、経て巻)が織り物の善し悪しの7~8割を決めてしまうものだと思います。機に掛けるまでが、緊張の連続です。

今まで400反以上織ってきましたが、どれだけ座繰り機を回したでしょう。
左右の肩の四十肩、五十肩を何度もしてしまいました。
50歳を過ぎた頃、痛みで右手が使えなくなり、それでも仕事を休むこともできず、左手で巻くこともありました。



ただ、こんなに巻いても節糸や真綿の糸は表情があり飽きることはありません。
ネップ(節)の形や硬さを見ながら取り除いたり、残す判断をしたり、形を整えたりします。取り除けばいいというものではありません。
糸を見ながら、指の腹で糸を確認しながら巻くので、スルスルは巻けません。
一綛に半日かかることもあります。



手間はかかりますが、糸巻を電動に変えるつもりはありません。
蚕の吐き出した波状の糸のかたち、人が繭を目で管理し、繰りながら糸にするかたち。それを損ねないよう、人の身体の速度で巻き取っていく仕事です。

一つとして同じ糸はありません。毎回新たな気持ちで糸と向き合い、この糸がどんな布になって表情、風合いをつくるのかを想像しています。

2回目の紬塾で、糸について、繭や真綿から糸を引き出すワークショップ付きで詳しく解説します。
紬の布を見る時の参考にもなります。

以前の2015.12.292013.7.1のブログにも経糸の大切さ、綴っています。



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紬のショールの連作を織っています!

2022年10月02日 | 制作工程
秋の訪れを日々味わっています。
工房の銀木犀もいい香りを放っています。

ショールの連作を続けています。
経糸は同じですが、緯糸でかなり雰囲気は変わります。
どんなものになるか私にも分かりません。
設計図は描きませんので。描いてもその通りにはならないからです。
季節を感じながら朝の光で判断しています。



平織、綾織、七子織などの織りの違いと、糸質の違うものを織り混ぜ、風合いのある温か味、野趣味、そして洗練を併せ持つものを目指しています。

それは扱いにくい粗い糸も使うことになりますので、経も緯も糸巻にとても時間が掛かります。ネップも取ればいいというものでもなく、残せばいいというものではなく、一つ一つを見極めながら織り上がりを想像し、処理していきます。

以前、平絹系の精緻な織物を織る知り合いが、経糸に赤城の節糸を使ってみたが、引っかかりなどで織れなかったと言っていました。織るのにも、糊付けなどにもコツがあり、とても難しいのです。

今までショールは100点近く制作しましたが、全て草木染の一点物です。
もう味わいのある糸を作る人もなく、今残っている貴重な糸で制作しています。
毎回新たな気持ちで、もう再び出会えないであろう糸と向き合い、取り組んでいます。
まだ3点目の半ばですが、今月中には何とか、、と思っています。
完成しましたらお知らせします。

櫻工房onine shopで販売中!


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繋ぎ糸 の仕事—―『中野みどり紬織45周年記念展』に向けて

2021年08月28日 | 制作工程
残暑お見舞い申し上げます。

お盆明けからまた暑さがぶり返しております。
またコロナも大変な状況で、先行き不透明ですが、ワクチン一本槍の科学に基づかない方策、何とかしてほしいです。。(-_-;)

紬塾も10月までお休みですが、みなさまお元気でしょうか?

私は10月にはこの紬織りの道に入って45年目を迎えますが、その45周年展用の最後の着尺を織り始めたところです。
繋ぎ糸を使った、少し時間がかかりそうな仕事です。

繋ぎ糸の話をいたします。

宗廣力三先生の下での修業ののち、独立して自分の着尺、帯、ショールなどの作品を織るようになってから400点以上になります。

経糸を機に掛け、最後まで織りますが、次に掛ける新しい糸と繋ぎ、綜絖にそのまま通すために8~9寸の経て糸を残します。
また、継ぎ草と言って、経糸が切れたりしたときのために、繋ぐための糸を整経の時に少しですが、余分を取っておきます。

それらの織り捨て分の糸を使って、再び織り糸として生かしていきます(繋ぎ糸を作るために新しい糸を切って使うわけではありません)。

45年の節目にその糸を見極めながら、過去の作品を思い浮かべ、繋ぎ、また一枚の布に再生できることは意味のあることとも思います。



古い糸も入りますので、強度などの確認もしながら、また絹糸は湿気などでカビが付くこともあり、先ずは洗います。
洗われた糸たち。シャンプーしてさっぱりしました!


また箱に納めて出番待ちです。


今回は薄グレー地のよこの段に使いますが、繋ぎ糸と言っても何でも繋げばいいのではなく、生かせなければなりませんので、繋ぎのベースは藍染めの濃紺とヤマモモの白汚しをある規則性を持たせて繋ぎました。

トップの画像にあるように、その間に他の色糸を少し挿していこうと思います。系統別に繋いでいきます。

多くの色糸を使いたいとは思いますが、カラフルにしたいわけではなく、静かな景色を思い浮かべながら選んでいます。

あくまでもパッと見には何気ない着尺にしたいのです。
こっそり、密やかに花を付けてる草の花のように。

かたちの「侘び」のブログでも繋ぎ糸のショールの画像をアップしていますが、繋ぎ織りもまさに侘びの精神です。あるものを最大限に生かしながら、自分を越えた世界へ導いてくれるものです。


糸の出方は一段ごとに毎回違います。一反に50カ所の段が入ります。
無作為に入れているような、意図的に入れているような、毎回新たな気持ちで織ります。
繋ぎ目(結び目)が面白いのですが、うるさく感じるときは少し切り詰めます。

また先日の半巾帯の時のような荒行に入ってしまいました。( 一一)
前にも着尺や帯の作品で繋ぎ糸を使ったことはありますが、大変でしたのでもう二度とやらないとその時々は思ったのですが、、。
我ながらこの懲りない性分に付き合うのは大変です、、。(;^_^A

さて、展示の詳細はまだ未定なこともありますが、一応下記のような予定です。

最新作から、回顧展として、公募展に出品していたころの旧作もまじえて展示します。
また、以前にもご紹介しましたが、中野帯作品と小川郁子作の帯留めの取り合わせも是非ご覧ください。 

……………………………
会場:ギャラリーコンセプト21(東京・北青山)
期間:2021年11月3日(水・祝)~8日(月)
 
出品品目:着物(仮絵羽)、着尺、帯、ショール、草木染帯揚げ
     江戸切子帯留め、切子小品/小川郁子作

企画:かたち21








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秋色の染色

2019年10月19日 | 制作工程

台風19号の襲来から1週間が経ちました。
被災地の皆さまに謹んでお見舞いを申し上げます。
時間はかかると思いますが、被災地の一日も早い復旧をこころよりお祈りいたします。
 
15号に続いて本当に広範囲にわたり大変なことになりました。さまざまな被害状況をTV、新聞、ネットで見聞きするにつけ、胸が塞がれる思いです。救助、救援の方々も大変なご苦労と思います。
 
私は生活クラブを通して食材を主に購入していますが、農産物、卵、酪農関連などの生産者で深刻な被害が出ているようです。15号に次いで、欠品が続くと思います。
生活クラブからは、物資や炊き出し等の支援活動をしてくれているようですが、会員のカンパも募っています。
 
来年以降もまたこのような豪雨や台風は地球温暖化により起こりうると言われています。
温暖化対策、治水の見直しなど最優先の課題です。憲法改正に躍起になるより、戦闘機を買うより、目の前の「国民の生命と財産を守ること」をしてもらいたいです。
他にも福島の汚染水、汚染土、廃炉の問題、さまざまな困難な問題山積です。一国民として暗澹たる気持ちになります。地球も人も壊れていくことにならないように、今、踏ん張らねばという気持ちです。
 
 
さて、工房ではアシスタントは着尺の織りに専念し、私は先月からずうっと染の仕事をしています。
ご近所から頂いたヤマモモを無媒染で微妙なベージュを染め分けました。
 
こちらは藍下の黒染め、鉄紺。
 
茶系も何度も染重ねをしています。
 
秋になると本当に不思議にダークな色、温かみのある色など恋しくなります。自然界と同調したくなるのですね。その時期の色を染めるのが一番ピントが合います。
 
植物染材の赤系と黄色系を使い分けていきます。後は媒染材も幾種類か使い分け、掛け合わせもします。
例えば茜なら茜だけで染める、藍なら藍だけで染める、桜なら桜だけで染める。もちろんそれが基本になるわけですが、人が着るものとして利用するには赤、青、黄、黒を混ぜることで新たな幅のある色が生まれてきます。古の人たちも様々な工夫をして色を生み出しました。
昔は黒紋付も藍下、紅下で純黒を染めました。
日本の植物だけで黒を染めようとすると途方もなく時間がかかり、墨黒ぐらいにしかなりませんが、今は外材のログウッドで黒を染めることができます。ただ、単体で使うと紬としては深みがありません。私は他の染材を混ぜて使います。
 
草木染の手引書はないと言ってもいいでしょう。基本の知識と経験知を頼りに創意工夫し、光の中で確認しながら、時に鏡の前で身に当てながら、身にまとう色を求めています。
 
糸はしばらく寝かせますので、来年以降に使い始めます。その寝かせる時間も大事で、色を落ち着かせていきますが、私の中では織りの構想もふくらませつつ、集約させていきます。

 
帯揚げもダーク系や冬の暖色系を何度も染重ねています。乾かし、陽にかざし、色を確認しながらビミョーに染めます。(*^-^*)
本当は100でも200でも染め分けたいのですが、本業の紬を織る仕事もしなければなりませんので、ほどほどにしなければ、、。1点物の贅沢な特別の帯揚げです。写真は仕上げ前の段階です。
 
今年3月のこまもの玖さんの展示ではオレンジ系、コーラルピンクが人気でした。案外京都の問屋さんでもない色と言われました。茜と他の植物を掛け合わせて大人の落ち着いた赤系をもう少し染めようと思っています。
 
次回、11月10日の紬塾は「取り合わせ」です。帯揚げの新色も取り合わせてワークショップをしたいと思います。お楽しみに! (^^♪


 
 
 
 
 
 

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手結い絣り2

2019年09月28日 | 制作工程
工房では久しぶりに絣の着尺にかかっています。
以前にもブログでご紹介しましたが、手結い絣りという沖縄に伝わる技法を使います。
前回は布幅に対して小綛を少し大きく作り、遊び分を持たせたもの。今回は布幅に対して、ほぼ同寸に作ります。
動きの幅が違いますが、制約の多い絣です。しかし、その制約ならではの美しさというものもあります。
シンプルで何気ない絣ですが、織るのは更に難易度の高い籠目です。
この着尺は、たてに縞が入っていませんので、絣を一越、一越ずらすときの目安がなく、すっきりした籠目のラインを出すには、集中力をもって織らなければなりません。
画像はまだ織り付け部分で、色の感じ、ぼかしなどを見ている段階です。

絣の位置を青花で墨付けをしている。

括りの幅が広いので、下にポリエチレンのシートを巻き付けます。

その上に梱包用の紐を割いてきっちり巻き付けていきます。

シボのあるタイプをの使います。良く締まります。
一度使った紐もポリのシートも保管して、2~3度使いまわします。
なるべくごみを少なくするようにしています。


括りの後は草木の染めです。長時間漬け込んで、括りの際までよく染まるようにします。


途中、床に叩きつけるようにして、糸束の中に風を入れます。


この手結い絣は最初の小綛作りが最も重要なのです。
この綛作りで仕事の7割は決まると思います。
特に耳糸に遊びのないこの「籠目」のような手結い絣は、完璧な綛を作っておくと後の織りが楽になります。

手結い絣は集中力が要求されます。心の乱れが正直に現れます。(-_-;)
どんな織り上がりになるのか、、来月一杯はかかりそうです。

お彼岸すぎると紬が恋しくなってきますね。いよいよ紬の季節到来です!
今は単衣の紬が重宝する時期です。来週は単衣紬で外出したいと思っています。(^^♪
今週末は紬塾も後半のスタートとなります。





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ビワ染めの帯揚げと枇杷俳句

2019年04月26日 | 制作工程


来月の工房展(5/28-6/3)向けにモッコク、リンゴ、ナシ、ビワなどで帯揚げを染めています。
モッコクはグレイッシュピンク、リンゴは黄色系、ナシはピンク系、ビワはオレンジ系を染め分けています。

今までビワの枝葉でピンク系(灰汁媒染)、グレー系(鉄媒染)、茶系(銅、灰汁媒染併用)など糸染めにも帯揚げにも使ってきましたが、今年は太い枝の剪定があり、樹皮と芯材を分けてピンクを染め分けようと意気込んでかかったのですが、樹皮からも芯材からも、灰汁をかけてもピンクは染まらず、最初はウコン染めのような濃い黄色になり、予定と違って、焦りました。。
しかし、生き生きした色ではありましたので、数回染め重ねをしていくと、帯揚げとして使える色になってきました。

上の写真はビワのオレンジ系で、まだ仕上がってはないのですが、これから更に重ねるか、あるいは化学染料と併用にするかなどしばらく眺めて決めていきます。今の段階でも落ち着いたオレンジ系のグラデーションになっています。
秋の単衣のころにも使えそうないい色です。茜ほど赤くない茶味を含んだ大人オレンジです。写真では伝えにくい色ですが、実物はもう少し茶味があります。

ビワの花について以前のブログにも書きましたが、地味な白い花を長く咲かせますが茎は茶色の産毛があり、甘い香りはあるものの、大きな葉に隠れるような感じで、あまり注目もされないと思うのです。
しかし、ゆっくり花を咲かせ続け、時間をかけてあの甘くみずみずしい独特の果肉をもつ実を熟れさせる枇杷に心惹かれます。

枇杷の実は俳句に詠む方も多いでしょうが、花は詠まれるのだろうか?と調べると、案外ありました。

枇杷の花は冬の季語で、実は夏の季語になります。それぞれ8首ほど選んでみました。
花は侘しさや寂しさが詠まれ、実になると、甘美さや生命感が詠われています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<枇杷の花>

くちそそぐ花枇杷鬱として匂ひ  橋本多佳子

輪番にさびしき僧やびはの花  黒柳召波

職業の分らぬ家や枇杷の花   正岡子規

むく犬はどこに眼ありや枇杷の花  中村草田男

医師もどり喪章をはづす枇杷の花  大島民郎

枇杷の花侘しき夕日とどめをり  椎橋清翠

枇杷の花薄日さす寺の古疊  鵜沢四丁

枇杷の花大やうにして淋しけれ 高浜虚子


<枇杷の実>

蜜着の枇杷の皮むく二人の夜   鷹羽狩行

黒衣より掌を出し神父枇杷をもぐ  津田清子

燦々とをとめ樹上に枇杷すする   橋本多佳子

枇杷買ひて夜の深さに枇杷匂ふ   中村汀女

枇杷啜る妻を見てをり共に生きん  石田波郷

木の上にひとり枇杷くふ童かな   正岡子規

一人居のともしび色の枇杷食べて  細見綾子

黒髪を持つ憂さ枇杷の熟るるころ   三木 照恵

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



枇杷は古来漢方薬や民間療法にも使われたパワーのある、人にも有用な植物です。
煮出していてもとろみ成分がとても強く、チップと染液を分けるための濾す作業に時間がかかります。
しかしいかにも肌に良さそうなヌメリ感です。
染め上がった色も人の肌を生き生きさせてくれる色です。 

あとひと月もすると枇杷の実の熟す季節になりますが、実も薬効成分が高いようですので、野鳥と共にありがたく頂きたいと思います。(^q^)

さて、工房は世の中の10連休とやらとは全く関係なく日曜以外は仕事をしています。(^_^;) 
工房展の詳細は連休後半にお知らせいたします。
 





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梅染め「帯揚げ百彩」(続)

2019年02月01日 | 制作工程




前記事でも書きましたが、蕾のついたしだれ梅で帯揚げや糸を染色中です。
剪定枝の一枝だけ瓶に活けて部屋の中に置いておきました。
3日後に開花しました。桃色の八重咲きです。可愛いです!!芯の緑も効いています。
こんなに美しい花を私達に見せてくれる植物を染めさせてもらい、身にまとわせてもらえることは幸せなことです。
そして身につけると優しい気持ちになります。


中位の太さの枝は鉈でチップを作ります。タテの繊維に沿って“へぐ”ように薄くします。


材からはお湯を入れてすぐに色が出始めます。


煮出しの状態は小さなガラス瓶に入れ光に透かして色を見ます。煮出し時間はチップによっても部位によっても違いますので、よく観察します。
沸騰後2分が左、3分が右です。すぐ火を止め濾します。長く煮出せばいいというものではありません、、。
色が薄くなるだけではなく、濁りが出ることもあります。
色の観察は染めている最中や、火を止めて、留め釜の時にも吸収の状態を見ます。

紬塾の実習の時に染色をしている方たちから本に書いてるのと違う、習ったやり方と違う…、とよく言われます。
私の今までの経験、学び、発見したことに基づき、自分でよく観察、確認しながしながら進めるのが“技”というものだと思っています。


ショールや帯に使う少し太めの節糸も染めました。媒染前の色。


銅を使ってベージュより少し濃い茶系を染めています。乾くと色は半減しますので、それを見越して染めます。


帯揚げは梅だけでも20色染分ました。
室内の竿にかけて色を眺めながら染め重ねの必要があるかないかも見ながら、1週間ほど空気酸化させ、その後、湯のしやさんに出して幅出し、シワ伸ばししてもらい完成します。

枝はすべて使い切りましたが、まだ煮出した染液が少し残ってますので明日の朝の光で眺めて染め重ねを判断します。



冬の間だけパンくずや米、みかん、リンゴ、落花生、脂身など、野鳥たちに餌をやり、水を置いておきます。
この日はメジロのツガイが来ていました。メジロの緑の羽根は何で染めたのでしょうか?
森や林の中で目立ちすぎないよう、神様が絶妙な色に染めてくれたのでしょう。

野鳥の羽の色を見ていると、鮮やかではあるけれど、やはり灰味を含んだ色相です。
自然観察は本当に飽きることがありません。
仕事の合間に目を休めさせてもらっています。

3月6日~9日まで「紬と帯揚げ100彩」-草木の色を取り合わせて-
南青山のこまもの玖さんで着物、帯、帯揚げ、帯締めなどを取合せた展示をさせていただきます。
また、仕上げを済ませてからご紹介します。



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梅染め帯揚げ

2019年01月25日 | 制作工程

                             夕暮れの中の一点物^^;梅染帯揚げ

3月上旬の展示向けに帯、着尺、ショール、帯揚げの染を同時進行させています。
頭の中は毎回新たな仕事ばかりですので、いっぱいいっぱいですが、気持ちを集中させてかかっています。


近所で、しだれ梅の剪定したものを捨てるために束ねて置かれているのを偶然発見!!
家の方に伺うと、花咲く直前ですが、伸びすぎてしまったので、、ということでした。
バケツ1杯分だけいただいてきました。細い枝がほとんどですが、これで3Kgほどあります。帯揚げを染めるには十分な量です。糸も染められそうです。


今年の初染に固い蕾のついた梅の枝を染められるのは何と幸せなこと。。
固い蕾から、ほんの少し濃いピンクが覗いています。薄いピンクの花をつけるそうです。


ここ数年、長い間の手の使いすぎで指の関節が痛みます。
チップ作りは主にアシスタントやスタッフにしてもらいます。
煮出しの1煎目では梅酢のようなとてもいい香りがします。


まずは白生地を湯につけてよく洗います。梅の3煎目だけで3枚の生地を1回だけ染ました。
淡い赤みを含んだクリーム色です。手前は白生地のままのもの。

乾かしてから次の染に入りますが、まずは無媒染の状態の色をよく見て次の方向性を見ていきます。
この染材は赤みが強いのか、黄色味が強いのか‥など。
次は煎汁によって使い分けたり、媒染剤を選んだり、煎汁をすぐ使うか、一日置くかなどの判断もします。
ここから染め分けが始まります。

染材採集の時期、何煎目か、媒染剤の種類、染め重ね回数、生地の質感など、色は限りなく生まれてくるように思います。とは言っても身近な草木の多くの色素は黄色、赤、そして緑葉などから染めるうす緑系です。
しかし化学染料と違うのは、色素以外の成分などで、いろいろに絡み合ってくるところが、頭でイメージしたものではないものと出会えるから面白いのです。
外から教えてもらえるところがスゴイところです。

自分の好みとか、個性とか、そんなものありません。
こんな色にしてやろう!みたいな姿勢ではなく、どんな色が生まれてくるか、創意工夫はしますが、毎回新た。
ワクワク、ドキドキで飽きることはないのです。
ここには書けませんが、裏技も使いながら、色を見て、状態を見て数日掛けて一枚一枚染め上げていきます。

しかし、色の標本を作りたいわけではないので、データというものをほとんど残しません。
あまり意味がないと思ってます。
そして大事なことは、帯揚げとして、あるいは着物の糸として使えるかどうかを判断しながら染めることです。

国産の白生地も手紡ぎの糸も素材としてとても高価なものです。失敗は許されません。
しかし、いつでも、すべて上手くいくとは限りません..。なのでとても緊張します。
身も心も澄んだ健康な状態でないといい色は引き出せないようにさえ思います。

トップの画像は梅を染め分けて干している途中経過です。。
カラフルではないけれど深い、奥行きのある色を染め分けたいです。

夕方5時にまだ庭に日が残っています。日一日と日脚が伸びます。
寒中ではありますが、染色するには乾きも早くいい時期です。
しばらく梅の染め重ねをしていきます。

3月6日~9日まで「紬と帯揚げ100彩」-草木の色を取り合わせて-と題して、
南青山のこまもの玖さんで着物、帯、帯揚げ、帯締めなどを取合せた展示をさせていただきます。
また詳細はブログでお知らせします。


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真夏日の整経と工夫

2017年08月26日 | 制作工程
シンプルな縞の着尺+帯を整経しました。
整経としては同じ繰り返しの簡単なタイプのものです。

40年近く織り続けていますので真夏を40回過ごしたことになります。
この間冷房なしの環境で仕事を続けてきましたが、歳を取りましたので、そろそろエアコンを使おうか、、、と考えなくもないのですが、結局今年も冷房を使う気になれず扇風機やエアコンの送風で過ごしてきました。

今年は8月に入って雨降り、冷夏でしたが、この日は暑さがぶり返しとても湿度も高い日でした。朝9時から10時過ぎまで、一気に済ませました。

工房は風通しのいい所ですが、整経の時には節糸など毛羽の多い糸を使っていますので、風で糸が揺れて絡み合ってしまいます。
なので糸には風を当てないよう直接風が入る窓の障子も締めて行います。


扇風機を首振りにせず自分の身体にだけ当てますが、さすがに締め切った部屋は室温、湿度もかなりになります。キツイです。必死です!


整経で重要な綾取りも手の湿り気でいつものように早くは出来ません。


お尻を向けて失礼しております。。。
若い頃は正座クッションなどは使いませんでしたが、数年前から腰への負担を軽くするために使っています。


整経ムラを少なくするために足を開くように座り、身体の左右のブレを安定させます。


糸束をつかむ右手だけは濡れタオルで汗を拭いながら糸の滑りを悪くしないようにします。


節糸の中でも特に引っかかりやすいタイプの糸の木枠には皿を乗せ糸が出やすくします。


整経を終えたところ。
間違いがないか糸束を切り離す時、綾を整経台から抜く時、今でも心臓がドキ、ドキします。


整経が終わると糸束を台から切り離し、鎖編みにします。

糸の長さは20メートルにもなりますので、ダブルに編んでいきます。

右、左、交互に編みます。

集中力を保つために様々に工夫をしますが、衣類も重要です。
この日は25年以上着続けている袖口から風が抜けるフレンチスリーブの綿ブロードの開襟シャツに麻のパンツ。
下着は綿麻の薄手のラン型インナー1枚で(良品ですが現在売られていない‥)、通気、放湿性のよいものを身に着けます。下着は特に大事ですね。

整経の話に下着の話まで出てくるのは関係ないこと――ではなく、よい仕事をするためには集中できる身支度から始まっています。
着飾るお洒落用の着物を織っているけれど、布を生み出す現場は厳しいものです。アクセサリーを付けたり、お化粧をしたり、着飾って出来るものではありません。織物指導をしていた頃もそういうことから指導していました。

整経は織物の良し悪しの基礎、土台を決めるようなものですので、今でもとても緊張しますし、体調にも気をつけます。
このあと仮筬に通し、経糸を千切りに巻き込み機に上げ、経継、織付けと進めていきます。

良い整経、良い巻き込みは真っ直ぐな布を織る絶対必要条件です。
気温、湿度にも影響される難しい手延整経ですが、更に様々な工夫と技術の研鑽に務めたいと思います。




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櫻工房の庭木で染める・続

2017年07月19日 | 制作工程


櫻工房の庭木の枝葉を使っての染の作業も2週めに入っています。

東京は雨の少ない梅雨となっていますが、染色をするにはよく乾きますのでいいのですが、温暖化による地球規模の気象の異変が心配されます。

染色の時には水を使いますが、無駄にしないよう気を使いながら様々な工夫をします。
清水でよく洗うべき時には惜しまず使い、下洗いの時にはその水を順繰りに使いまわすこともします。
洗い水を捨てる前に必ずいいのかな?と自問してからにします。
染色のノウハウだけでなく、そういうことも含めしっかり身につくと仕事全般に無駄な動きがなくなるのです。アシスタントも身についてきました。

さて先週は淡い色系統から中間色でしたが、今週は中間色から濃色へと染色作業が進んでいます。
藍染にも少し草木を掛けて調整して使いやすい色にします。

濃い色は1回や2回では草木の生木の場合は染まりませんので、時間を掛けながら染め重ねていきます。
濃色処理剤もありますが、糸の芯まで色を含ませていきたいので私は使いません。
真綿の糸や普通練りの糸は染め重ねで糸を傷めてしまいますので、そのことは気をつけて見なければなりませんが。


生木での染色作業はまず染材のチップ作りからです。
細い枝は剪定バサミで斜めに切って切り口を大きくして抽出しやすくしていきます。


梨の樹皮は梨の果実の皮と一緒ですね。この枝からきれいなピンク系がでます。


枝が太くなりハサミで切れなくなると鉈の出番です。この枝はシラカシです。


こちらは桜の中くらいの太さの枝の樹皮です。桜のささがききんぴらでも作りたくなる美味しそうな感じです。
木によって堅さや匂いが違います。


この小さな鉈は30年近く前に知り合いから頂いた生け花で使うもので、片刃でとても切れ味が良くまだ研いだこともありませんが活躍してくれています。サクサク切れます。この小ささが女の手に合います。

知り合いのお義母様(渡辺と名入です)が生け花の先生で、その遺品を整理した際に出てきたものです。
この鉈を「染の仕事に使えるのでは・・」と送ってくださったことにとても感謝しています。


また、桜の木の切り株も住宅地の庭の八重桜が大きくなりすぎたということで強い剪定をされた時に出た幹です。

私が草木で染をしていることに関心を寄せてくださっていた方が声をかけてくださいました。
程よい大きさで扱いやすく、振り下ろされるこの鉈を受け止めてくれています。無くてはならない道具です。 

人の繋がりがあって、助けがあってモノも繋がれこれまで続けてこれたのだと今更ながら感謝の思いを新たにしています。

まだ来週もこれらの道具と共に染めの作業が続きます。






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櫻工房の庭木で染める

2017年07月11日 | 制作工程



庭木の剪定があり大量に枝が伐られました。上の画像は庭の真ん中にある桜の木の剪定中。
染めで使う分を取り除いた残りは剪定ゴミとして出します。束ねる作業をしてくださっています。町田市では堆肥にするようです。
森のような庭も好きなのですが、東京の住宅地ですので剪定をしないわけにはいきません。


この画像は柿、桜、モッコクなどを使って染め分けられた糸を干しているところです。
直射にもしっかり当てます。染め重ね堅牢にします。
限られた染材から様々な工程における工夫もして、色調の変化をつけていきます。

自然な無理のない美しい色に惚れぼれしながら仕事を進めています。
何色と言えません。優しく力強く気品のある色です。
自然界にあるこの色を身につけない手はありません。。

この後更に染め重ねや掛け合わせなどをして色数を増やしていきます。

あとはリンゴ、梨、シラカシもまだ手付かずですが、木蔭のバケツに活けて保管しています。生きた状態がやはりきれいに染まります。
最終的にどんな感じになるか私もワクワクしています。
帯揚げも同時進行で気合を入れて染めています。

梅雨明け前とはいえ暑い日が続いています。風もありよく乾きますので染め→干すの染め重ねをするには良いです。
少なくとも今月一杯は染めの作業が続きそうです。
工房は風通しは良いのですが、染色中は熱気、湿気で更に暑くなります。
水分補給や梅干しをしゃぶったり、熱中症に注意しながらの日々です。
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草木で染められた紬糸のストック

2017年07月05日 | 制作工程


新しく染めの作業に入る前に糸棚のチェックをしました。

上の画像は高さ1.6mほどの収納棚の糸ですが、左が真綿系(半つや消し)、右が座繰り糸(光沢あり)。
様々な染材で染められたものです。
ほんの少し残った糸は桐の文箱へ。帯を織る時などの差し色に結構出番があります。
僅かな残糸もとても大切なのです。
この棚は機の傍にあって扉を開けば糸が見渡せ、すぐに取り出せるようにしています。

普段から大量の糸を用意してあるのですが、展示会続きで染の時間をあまり取ることが出来ず、色の偏りもでてきました。
しかし、少なくなったと思っていましたが、改めて見ると結構ありますね。。。^_^;;
たくさんの草や木を染めてきました。自宅の植物ばかりではなく、ご近所でいただいたり、友人、知人が送ってきてくれた植物もあります。

草木は鮮度が大事ですので夜中まで一人必死になって染めていた頃を思い出します。
色々な工夫で一種類の植物からでも様々な色相に染め分けることもできます。キリがないのです。
何を織るでもなく取り敢えず染めずにいられないような時もありました。
ここに上げている色糸は身近な植物ばかりです。ごく自然な色です。


こちらの画像は1.8mの高さ、90cm幅のスチールラックは奥行きも深い棚ですが、上の扉の中はベースによく使う白茶系、ピンク系グレ-系などを中心にほぼ目一杯入ってます。 


桜染はスチール棚の深い引き出しに2杯分。かなり少なくなりましたが、、。


湿気は厳禁の鉄媒染のグレー系は桐の茶箱型衣装ケースに。


1~2綛の少なくなった糸は見やすいように帯箪笥の盆の中に。


二つ絣、四ツ絣や差し色的に使うことの多いコブナグサの黄色なども帯箪笥に。

この他に藍染は柳行李、紫根染め、茜染、ショールや帯などの太い糸は衣装箱や収納BOXにもあります。

デザインに関して、私は色糸(白を含む)を見ながらイメージを膨らませ織物設計を考えるやり方で、デザインが先にありきではないので微妙な色や糸質の違うものなどたくさん染めておく必要があります。

自分の中にある感覚だけではなく、外にあるもの(植物染の様々な色相、糸のかたち、糸質)に刺激され発想が膨らむといいと思っています。
色素としての色がそこにあるだけでなく、紬糸の素材感が生み出す色があるわけです。

更に織物はタテ、ヨコ合わさって生まれてくる織り色、布の風合いが生み出す陰影も最終的な色になります。
色が畳みかけられる重層的な世界が紬の場合は特にあります。

繊細さに気付く目と外にあるもので生じてくることの両方を大切にしながら意識して制作していかなければなりません。

植物でも媒染剤によっては鮮やかな強い色を染めることも出来ますが、私はナチュラルで微妙な色を中心にした紬を織りたいと思います。
強い色のものは取合せなどで使う余地も残さなければいけませんので。
この点が着るための現代の着物を織るということでは最も大切と思います。

今あるこの糸たちだけでも一人では一生かかっても使いきれませんが、すべて人の手で紡がれ、挽かれた糸ですから染めたからには無駄には出来ません。
自然で、着る方にとって自由度の高い紬を織りたいと思っていますが、着てくださる方がいるかぎりはどんどん織りたいと思います。。。(*^^*)

暫く染の日々が続きますが、今この季節にしか出ない色があります。
いつも植物が教えてくれる新たな発見があります。

生き生きした清き色が染まるよう祈るような気持ちで向き合います。









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絹糸の精錬と人の叡智

2017年06月30日 | 制作工程


梅雨の晴れ間をぬって節糸や玉糸の精錬をたくさんしていました。
蚕が吐き出した糸はすぐ使うのではなくアルカリ液の中で練る作業が必要です。

樫の灰から灰汁を作りその上澄みを使って練ります。
糸に触れた時の感触で練り具合をみます。
練り減り率をきっちり出します。

普通練り(セリシンを完全に取り除いた柔らかな絹糸の状態)は25%と言われていますが、草木で何度も染め重ねをする場合はやや若練にします。
私は若練の中にも練り具合を色々用意して織るものによって使い分けています。
未精錬の糸は固いので擦れ易く、筋切れすると聞いたことがあり私は使うことはありません。

当初はマルセル石鹸練りをしていましたが、灰汁練りに変えてから試行錯誤をしてきました。
今は精錬の釜の止め時を人差し指と親指の間で糸をきしませ、ヌメリや繊維の膨らみの感触でほぼ掴めるようになりました。
精錬は染る前の大事な工程であり、織物の骨格をなすものともいえます。色の発色にも影響します。

上の干してある画像は比較的おとなしめの玉糸です。
写真のピントが手前に合っているのでわかりづらいですが、左と右の糸の違いがわかりますか?撚糸の違いがあります。左が甘撚りです。ちょっとフワッとしてます。


こちらは左が正繭と玉繭との混じりの糸、右は赤城の節糸の若練。
枠はずしの節糸は白くはないけれど糸の波状形(営繭曲線)がしっかり残っていて力強い美しさです。この糸の形が本来の紬の美しさの原点だと思います。

それにしても蚕が吐き出した糸の回りは接着剤の役目のセリシンで25%も固められているのは繭を固く作る必要があるからですが、お蚕さんも偉いけれど、繭をお湯につければそこから1本の繋がった糸を挽き出していけることに気付き、またその糸を灰汁で煮ればしなやかな光沢のある繊維が取れることにも気付き、撚り合わせ、何千年も前から織物に利用してきた先人も偉いですね。

この神秘の糸を絶やさないよう微力ながら私も上質な織物を織ること、着ることを推進していきます。
時代は進んでも、太古の昔に思いを馳せものを作り使うことは大事だと思います。




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真っ直ぐな布を織る

2017年02月21日 | 制作工程
今年に入ってから二反分の着尺の設計、糸巻き、整経、経巻、織付け、柄決めと集中して進めてきました。間もなく織り上がります。
染織のどの工程も熟練を要し、またどれも手の抜けないものですが、特に整経と経巻が真っ直ぐな布を織るうえで最も重要で、最も難しい作業です。

   
整経をしているところ。少し足を開いて身体を固定、安定させて座ります。静電気が起きにくいよう冬は鍋の湯で保湿します。

整経ムラを出さないように整経をすることはもちろん大事で様々な注意を払いますが、手延整経でムラをゼロにすることはできません。


ムラは経糸を千切に巻き取る経巻の段階でほぼ完璧に修正します。緩めに巻くことで僅かなムラがわかりやすくなりますので、一回巻き取るごとに手のひらでテンションを確認し、緩んでいる場合は人手があれば手で引っ張ってもらいながら巻ます。一人でする場合はゴム紐で括ったり、軽く自分の手で引っ張りながら丁寧に巻き取ります。

経糸がきちっと整っていると織るのもスムーズで、織り上がった布も耳がワカメのようになったり、逆につれたりせず平になります。


節糸、真綿紬糸を使っていますので、巻き込みながら糸に捌きを入れます。不要に触らずに捌きます。

経糸は人生に例えると宿命などと言われ、自由に変えられない例えにされたりしますが、整経は建物で言えば柱を立てるようなものでしょう。長さが違ったり、斜めに建てられた柱で真っ直ぐな強固な家を建てることは出来ないように、織り方でなんとかしようと思っても不可能です。

織の基本を身につけるには、経と緯が直角に交わらなければならないという意識をもっていなければ何年やっても身につくものでもなく、ただ織るだけになってしまいます。テキトーでもなんとなく布にはなりますが、その良し悪しは一目瞭然です。

アシスタントにも絶えず織り前が真っ直ぐになっているか、機の中心に経糸がかかっているのかなどチェックをするように指導しています。チェックというとすぐにメジャーなど使いたがりますが、そうではなくまず自分の感覚で僅かな違いも「変だ‥」ということに気づけるようになることが大切です。

先日の五感のワークショップでもそうなのですが、染織の仕事でも視覚、聴覚、触覚は日々使います。
紬糸の複雑な形や撚糸の状態を見つめることは言うまでもありませんが、草木の生木で染められた色の複雑さの微妙な違いを見極め、機の音を自分で聴きながらテンションを決め打ち込みの加減をする。ルーペで糸の密度を数えなくてもいい状態で織り進んでいるかを感じ取る。
糸の糊付けの濃度を手で確認する。計量器で測るのではなく濃度の感触を身体で覚える。
機に糸をセッティンぐする際に先に尺指で測るのではなくまずは自分の目でまっすぐに左右の幅を見ながら掛ける。
確認のためにメジャーも必要ですが、目盛りを見間違えていても全体を自分の目で見ていなければ、「変だ‥」ということに気付けないでしょう。
大事なことは自分の身体にメジャーを持つことです。
意識し五感を通して糸や色や織ることと向き合うことが美しい善い織物につながるのです。

次世代に真っ直ぐな布を手織りすることを伝えるのは言葉よりも手本を示す姿を見せることです。
そしてそれをよく見て真似事でもいいので身体で覚えることが何よりも大切です。
師の、先輩の姿を見ておけることは幸せなことですね。

※次期紬塾の詳細は3月1日にUpの予定です。

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