中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

今年もお世話になりました!

2017年12月30日 | こぼれ話(着物)



今年の最後は年明けから織るものの整経をアシスタントにしてもらいました。どんなものになるでしょうか・・?

今年もいよいよ押し詰まりました。
本日、工房は仕事納めです。お世話になりありがとうございました。

今年の10月には紬織の修業に入ってから40年を迎えました。この間多くの方に支えていただきました。
40年を振り返りながら、これからの進むべき道を考えるこの半年でもありました。

十数年前10ヶ月ほど無理がたたって身体を壊し織の仕事ができない時期がありましたが、それ以外の日々を紬を織ることに明け暮れ、お陰様でなんとか暮らしも立てることもできました。

修業時代に始まり、苦しいこと辛いこと、いろいろありましたが、この仕事をやめたいと思う日は一日もありませんでした。
苦しいこと、辛いことがあってもいつの間にか糸と向き合えば無の境地に入って仕事を進めています。糸や色や布の風合いが美の世界へ引っ張ってくれるのです。
人は布を織るように生まれ、布がなければ生きていかれないように生まれついています。

紬塾へもこの9年間、一人二人とどこからともなく!?(^^)お集まりくださり、来年は10期目になります。
紬とは、美しいものとはなんだろうと・・と関心を持って一緒に学び、深く考えてくださっています。

創るにせよ、着るにせよ、こんな時代であっても、温かく力強い紬布に惹かれる人は絶えることはないように思います。一人でも多くの方に紬や着物をいいものだと思ってもらえたら嬉しいです。
来期、10期の募集については1月の下旬にご案内いたします。

手仕事なら、紬なら良いとは思いませんが、善い紬を絶やさないようしっかりした技術を後進に伝えながら制作も進めていきます。
工芸は善きものを作ることが基本にあります。その基本だけは伝えたいと思います。

来年2月の下旬に工房展を予定しています。現在その作品制作に追われていますが、春にも使える新作のショールやマフラーもこれから織ります。またご案内いたします。

お正月は普段できないでいる読書、音楽を聴いたり、年に一度の朝酒を愉しんだり(#^^#)、ゆっくり過ごします。
着物で佳きものを観に外出する予定もあり楽しみです。
新たな年を迎える節目に身も心もリセットして、また染織の仕事をさせていただきたいと思っています。

工房は年明け6日から仕事始めとなります。
来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

世界が平和になることを心から切望しつつ、読者の皆様もどうぞそれぞれの佳いお年をお迎えください。


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きもの研究家、森田空美さん『Ash&Light 灰色光』 が届きました!

2017年12月19日 | お知らせ
自然光ではやや赤味を含むグレーの節糸の布の表紙。本文の紙の断面は銀が加工され光っています。
 背の上下に見えている布(花布)もこだわりのストライプ。草履であれば鼻緒を固定する前坪のような。。

きもの研究家の森田空美さんの著書『灰色光』が届きました。
上の画像の通りとても美しい本ですが、タイトルはきものスタイルブックとしてはややショッキングです。

「色数を控えてなお華やぐ洗練の秘密は、グレイッシュな透明感と淡い光」と。

すべての色を含む灰色。
灰は全てを燃やしたあとに残り、そしてまた大地を豊かにし、色を生み出す再生の原点。

灰色をただ色名の中の一色で選んでいるのではなく透明な灰味を奥行き、深みとして捉える。
上質ならではの奥から生まれる華やぎ。本質的美しさは何かを問う。素材であり、技術であり、今という時代。

雑誌『和楽』に森田さんのスタイリングで呉服屋さんの商品をモデルさんが着用して今までに掲載されてきた中からセレクトとされたものが中心ですが、新たにご自身の着物で「きもの、私の装い」として撮り下ろされたものが後半にあります。

きものに魅せられ40年だそうです。"あとがき"にはこころに沁みる文章が綴られています。
一部抜粋させていただきます。

「私たちがきものを愛し、日常に生かしていくこと。それこそが日本の伝統文化を応援することにつながると感じます。奥深いきものの魅力を、ひとりでも多くの方にお伝えすることが、私の使命なのでしょう。」

このようなご覚悟の上での着物雑誌などメディアでの仕事であり、現代のつくり手による着物のコレクションも、そうした思いで選ばれ、取合せ、それを自らも愉しむと同時に、次世代に伝えるために日々お召になられてきたのだと納得を致しました。

私もたくさんの着物や帯、ショールなどをお召いただき応援していただきました。
心より感謝を申し上げますとともに、私自身も糸や色と向き合い現代の紬を織り続け、伝えることを使命としたいと気持ちを新たにいたしております。創ることも着ることもいのちを懸けることです。



本の印刷では実際の色より濃く上がったようですが、私の着物は写真写りが悪くて、、(~_~;)、微妙な織と色が印刷や画像では伝わりにくいのです。
今回このご本の中で森田さんがお召くださっている着物と帯の生地アップ画像も恐縮ながら併載させて頂きます。

紬織縞着物「木の葉時雨」
少しずつ残った糸を繋ぎ、ごく僅かの濃い残糸も繋いで配した規則的でもあり不規則性も覗かせるように意図した縞です。
緯糸も濃淡のある糸を混ぜながら小さな格子を織るような感じで織りました。私が太めにつむいだ絣状に染めた糸を4~5寸間隔で一越だけ斜子に織っています。上の画像で太い糸が見えてますのでわかると思います。これが微かなアクセントにもなります。

紬織吉野格子帯「錦秋の光」
秋の深い色と季節の終わりにいのち燃やす激しさも秘めて色を選びました。格子は光沢のある玉糸、地糸はマットな質感の真綿紬糸を使いました。
森田さんは、木の葉時雨にこの帯を合わせ「紅葉から落葉へと、季節の移ろいを伝えるような気持ちで着こなします」と書かれています。
ここでの小物の取合せは茶の帯揚げ、紫の帯締、ともに帯に馴染ませる感じにされています。

もう1点、添田敏子さんの型染め帯と合わせて頂いたモデルさん着用のものもベージュ系ですが色の再現泣かせの着物です。。
ベージュ地の細かなヨコ段です。柔らかで何気ない印象のものです。
隣り合う色をどれくらいの濃淡で入れると立体感や華やぎ、深みが出てくるのか、何気ない仕事のようではありますが時間を掛け糸を選びます。糸の色だけではなく番手の違うもの、紬糸も真綿系、繭から直接引き出す座繰り系などがありますので質の違うものも織り交ぜます。ヨコの段が強すぎず弱すぎず、とても難しいです。陽の光と相談しながら織り進めます。

あとがきには「真の美を求めるつくり手の、創造へのひたむきさと尊い刻(とき)の重みが、輝きとなるからでしょうか」とも綴られています。

そうあらねば、そうありたいと私も願います。


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本は限定部数で、すでに残り少ないそうですが、当ブログ、又は櫻工房FBページをご覧になったことを明記の上でしたら、この本の編集をされた田中敦子さんにメールでお申し込みいただけるとのことです。
ご希望の方はお早めに。<価格 17,280円(税込み)>
完売しました。

森田さんは着物のスタイリング、着付けの指導もされています。
自然で美しい着姿を学べます。
お教室のオフィシャルサイトはこちらです。







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着物でパーカッション

2017年12月18日 | かたち塾、アート鑑賞いろは塾
永井さんリードのもとで演奏中。

先日パーカッショニストの永井朋生さんを講師にお願いしてかたち塾「音を体験するワークショップⅢ」を開催致しました。
ワクワク、ドキドキあっという間の3時間でした。余韻が未だに残っています。

2014年の冬、永井さんの心揺さぶられる演奏に出会ったことから音のワークショップが始まりました。

音を探すところから、鳴らし方、響き、リズム、そして自然な情景を写した映像と重ねてみると、ほぼ無作為に奏でた私達の音が思いの外合うことなどを体感しました。

また、合奏になることで一人だけではない他の様々な音に触発されたり逆に控えたり、人との会話のようになります。
リズムやルールが発生すると、そのことにとらわれがちになり、ノリまでに至るにはもう少し時間がかかりそうです。

ただ、このワークショップを音楽というジャンルでくくるというだけではなく、自然素材、身近な素材を日々使い、作り、ものと関わって暮らす中にたくさんの音があり、音そのものを大切にしたいという思いが湧いてきました。

音の世界も自然の合理、物理的要因の中で生じる素直なもの。いい音の出会いがいいコミュニケーションを作り世界を開きます。いい言葉を投げかければいい言葉が返ってくるように。

音の根源は生き物の原点、本能。古くなったり、色褪せることもなく、色付け、イメージ付けされたプリミティブではなく、音そのものと向き合うことがプリミティブ。

原始と現代は自然界において一続きのもので、広義のアート(紬も)は日々を根源に立ち返らせてくれる。それは安らぎ、喜び・・こんなことを終了後も思いを巡らせています。


今回3回目もそれぞれが音の出るものを探して持ち寄り、更に永井さんの方から様々な打楽器も持参してくださり、その両方をルールを作って取り混ぜたセッションとなりました。終わった時にはみんなが思わず緊張から開放され笑顔と拍手が起こりました。拍手も根源的音ですね。


こけしが打楽器?と思われるかもしれませんが、鳴子こけしの首を軽く回すと“キュッキュッ”と鳴るのです。バーズコールという楽器と同じような原理です。卵ケースに米を入れてきた方もあります。


私は庭の椿の実をガラス瓶に少量入れてみました。茶筒も叩くと案外いい音です。ペットボトルに少量の水を入れて振ったり、、。


縦長な大きな松かさの鱗片をはじくと小さいけれど乾いた音が出ます。永井さんがいたく気に入ってました。

私の中では音楽というジャンルとかではなく音という素材をまず楽しむという感じで参加しています。
紬を織る時にさまざまな糸や色糸を混ぜながら織ることにも似ています。望む姿勢は同じです。
しかし今回はリズムとグルーブ(ノリ)を主眼に置いたものでしたので、好きに鳴らせばいいわけではなく、結構大変で汗をかきました。

さて、今回は3人が着物で演奏をしましたが、袖とかも邪魔にもならず、洋服より体幹が決まる感じでパーカッションと着物いいかも、、です。
鳴子こけしを持参された方は私のグレーとグリーンの段の半幅を黒地の結城に締めて来てくださいました。時間がなく写真に収められず残念でした、、、がとてもカッコよかったです。


松かさを持参した人は工房作品の着物と帯です、帯や小物も限られていて十分な取合せではありませんが、紬塾にも参加した方でこれからの方です。いずれHP着姿集にもUpします。

私は久米島に自作の太い引き出し真綿の糸を使って織った縞の半幅縞帯です。文庫に結びにしました。


プリミティブな物に向き合い、しかもみんなでセッションするというのは自分だけではできないいろいろな学びがあります。
今後もまた機会を見て続けたいです。今回は部屋の関係ですぐいっぱいになってしまいましたが、次回よかったら“根源”に興味のある方ぜひご参加ください。音楽の知識や技術はいりません。

“着物でパーカッション”もいいですよ。







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第9回紬塾「自然で楽な着方」――着物を着る

2017年12月05日 | 紬きもの塾’17~’20
紬塾も残す所あと1回です。いよいよ着物の着方に入りました。

全く着物を持っていない方、着たことのない方も浴衣や私の紬を使って着てみたら、案外形になっていたのでご本人もホッとされたようでした。
下着や襦袢はいいものを揃え、きちんと着て、滑りにくい生地の紬や木綿の着物は楽にゆったり着れば良いと思います。
帯も仮紐を使わないでなんとかお太鼓の形になりました。

あとは何を纏うのか、どんなものを着たいのか、じっくり研究して自分にふさわしい、一生大切にしたい上質の佳い着物と出会うことです。

幸田文『きもの』の中にるつ子が好きな格子のきものを胸から下はハギだらけになっているけれど着続けている話が出てきますが、そういうものに出会えると良いと思います。

あと、着物や帯の仕立の寸法の話も今回は時間をかけました。
合わないものを初心者が着るほど難しいものはありません。

一般に身丈、裄丈は大きめに作られがちですが、紬や木綿の普段着をゾロっと着るのはヘンです。微妙な寸法は着ていかなければなかなかわかりませんが、どういう着方をしたいのかも追々自分で追求していくと良いと思います。

着物は簡単ではないけれどちょっと乗り越えさえすれば奥深さがわかってきて、むしろもっと着たくなるものではないでしょうか?
また、取り合わせる帯や小物を選びあれこれ逡巡する時間も自分を磨く楽しい時間です。

受講者のお一人、お茶をされている方が染めの着物しか持っていないということで綸子縮緬の着物でいらっしゃいました。
20歳頃に作られた着物を一度染め替えをされたものです。質の良いいい色の着物でした。
ただ、裾の八掛が擦り切れてしまっているということで仕立て直しをしたいということでした。

そんな時に自分のサイズを見直してまた一生着続けられると良いと思います。
上質の着物は長く使うことができ、愛おしさも増してきますし、結局お得なのだと思います。

染と織では生地感が違いますのでやはり着付けも微妙に違えると良いと思います。
私はコーリンベルトは使いませんが、滑りやすい素材の場合などはそういうものもお使いになれば良いかと思います。


着物の着方を簡単に言ってしまえば、着物を羽織る、自分の体型に沿わせて着物の裾を床スレスレに決め、動かさないようにして前身頃を合わせ身を包み、腰紐でおはしょりを作る。上身頃、おはしょりを整え衣紋を抜いて衿を合わせ胸紐(伊達締め)で押さえる。
これだけのことをクリアすればよいだけです。

お太鼓結びは慣れるまで少し時間はかかりますが、お茶の割り稽古のように服の上に伊達締めだけ締めて練習すると早く覚えられます。

自然で楽そうで、なおかつきれいな着付けの方を見るとうっとり、ホッとします。
きっちり補正下着で整えた木目込人形のような着方は私は苦手で息が詰まりそうになります。不自然な感じがします。
少なくとも紬の着方に関して言えば自然で楽なのがいいと思っています。


本日の私の着姿は地厚な3シーズン単衣紬(修業時代の最後に真綿から糸をつむぎ母のために織ったもの)にオールドの両面使えるジャワ更紗を締めてみました。

毎日着ているわけではないので完璧な着付けもできません。
静止画像は恐ろしくもありますが、、、写真に収めることで着方のチェックにはなります。
できれば自撮りではなく誰かに後や横からも撮ってもらうと参考になります。

帯も暫く使ってないと手を長めに取ったほうが良かったのか、短めが良かったのかなど忘れていたり、生地質や、帯芯の堅さも違います。お付き合いを長くしていかないとそれぞれの帯の個性を自分のものとしてこなすことはなかなかできません。

帯揚げの処理なども慌てるときれいにできてないこともあります。
しかしなんとかなる範囲であればとりあえずいいかな・・?と思います。(^_^;)

撮影用のモデルさんの着付けのようにしなければと思うと本来の着物を着る楽しみから離れていきます。
自分の体型に沿わせて着物の前身頃を合わせ身を包み、おはしょりで着丈を決め衣紋を抜いて着れているなら、多少の皺や襟元の緩みぐらいは徐々に直していけます。

とにかく着てみようという気持ちを大切にしてほしいです。

次回最終回はもう一度名古屋帯の仮紐なしのやり方をおさらいします。
帯が短い場合や地厚な生地の場合のクリップ使いもやってみます。



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