中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

絹糸の精錬と人の叡智

2017年06月30日 | 制作工程


梅雨の晴れ間をぬって節糸や玉糸の精錬をたくさんしていました。
蚕が吐き出した糸はすぐ使うのではなくアルカリ液の中で練る作業が必要です。

樫の灰から灰汁を作りその上澄みを使って練ります。
糸に触れた時の感触で練り具合をみます。
練り減り率をきっちり出します。

普通練り(セリシンを完全に取り除いた柔らかな絹糸の状態)は25%と言われていますが、草木で何度も染め重ねをする場合はやや若練にします。
私は若練の中にも練り具合を色々用意して織るものによって使い分けています。
未精錬の糸は固いので擦れ易く、筋切れすると聞いたことがあり私は使うことはありません。

当初はマルセル石鹸練りをしていましたが、灰汁練りに変えてから試行錯誤をしてきました。
今は精錬の釜の止め時を人差し指と親指の間で糸をきしませ、ヌメリや繊維の膨らみの感触でほぼ掴めるようになりました。
精錬は染る前の大事な工程であり、織物の骨格をなすものともいえます。色の発色にも影響します。

上の干してある画像は比較的おとなしめの玉糸です。
写真のピントが手前に合っているのでわかりづらいですが、左と右の糸の違いがわかりますか?撚糸の違いがあります。左が甘撚りです。ちょっとフワッとしてます。


こちらは左が正繭と玉繭との混じりの糸、右は赤城の節糸の若練。
枠はずしの節糸は白くはないけれど糸の波状形(営繭曲線)がしっかり残っていて力強い美しさです。この糸の形が本来の紬の美しさの原点だと思います。

それにしても蚕が吐き出した糸の回りは接着剤の役目のセリシンで25%も固められているのは繭を固く作る必要があるからですが、お蚕さんも偉いけれど、繭をお湯につければそこから1本の繋がった糸を挽き出していけることに気付き、またその糸を灰汁で煮ればしなやかな光沢のある繊維が取れることにも気付き、撚り合わせ、何千年も前から織物に利用してきた先人も偉いですね。

この神秘の糸を絶やさないよう微力ながら私も上質な織物を織ること、着ることを推進していきます。
時代は進んでも、太古の昔に思いを馳せものを作り使うことは大事だと思います。




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初夏から梅雨時の単衣紬ー大人の取合せ

2017年06月23日 | 着姿・作品


先日工房へ私の紬でお越しくださいました方の着姿をご紹介いたします。

お召し頂いた単衣紬着物と縞帯は私の作です。
帯留は小川郁子さんのものをしてきてくださいました。
薄ピンクベージュの帯揚げも私の染めです。(*^^*)

上の写真は室内で撮影したもので緑味が強くでていますがもう少しグレーよりです。
こちらの着物は書籍『森田空美のきもの美巡礼』、拙著作品集『樹の滴』でも取り上げられています。


着物は始めから単衣の時期の紬としてハリ感を残した固めの糸で織ったものです。
赤城の節糸を経てにも緯にも使っています。
帯は着尺と同じ真綿系のもので、私の母のために織って仕立ててあった未使用のものをとても気に入ってくださりお分けしたものです。
他にも取合せられる帯はいろいろお持ちですが、この時期に特に爽やかな取合せでお越しいただきました。
もちろん帯揚げ、帯締を替えれば秋単衣にも。

私よりほんの少しお姉さま、、と思われる60代の方です。
ご高齢のお母様の介護を妹さんとで交替でされ、またお孫さんのお世話などもあり、自分の時間が取れず好きな習い事もついに遠ざかっているとのことでしたが、「今日は時間がようやく取れたので久しぶりに着物で来ました」とのことでした。

お忙しい中でもお召いただき本当に嬉しく、有難く思います。
近況の雑談をしながらも着物の取合せの話、気軽に着る時の半幅帯の結び方などもやり、しばし寛いだ楽しい時間を過ごさせていただきました。

夫の海外赴任、子育て、親の介護、孫達の世話など自分の思い通りの時間はなかなか持てなかったかもしれませ。
でも今こうして自分の目で選んだ着物を取合せを考え大切に着て、一人静かな自分の時間を持つことが出来るのは今までの日々の様々な積み重ねがあってのことでしょう。

苦楽をたくさん胸にしまって静かに着物を愛でる眼差し面持ちに大人の女の充実した貫禄が滲み出ているようでもありました。

善きものに触れ、自分の精神を高め、こころを落ち着かせ、心地よい時を持つことができるよう私も努力したいと思いました。

誰にでも似合う、自然で上質である(簡単なことではありませんが・・)着物を目指して創り続けてきましたが、進むべきはこの道でいいのだと、こうして着て下さる方々にお会いすると改めて確信を持つことが出来ます。

人生とともにある一枚の着物にお選びいただき作り手として光栄に思います。

着姿ページでもご紹介しています。



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第4回紬きもの塾―「とことん着尽くす」と「観ることの創造性」

2017年06月19日 | 紬きもの塾’17~’20


今回はいつもの着物の更生などの話に加えて、日常の中でもものをとことん使っていくことの例や、私の母が小学生の頃の銘仙の着物や娘時代の着物(上の写真)から作った風呂敷などを例に、小幅の布をはぎ合わせ布団や座布団などに利用されてきたことも話ました。
大正生まれの母は着物に限らず子供たちの学生服のスカートやズボンも傷んでないところをはぎ合わせて自分が使う座布団側などにしていました。
はいだ布は何故か力が宿るように思えます。襤褸の美、力です。
そして麻の伊達締めも途中まで縫いました_ _ _ _ _ _ , (^^;)

また、新企画で「観ることの創造性」というテーマで工芸評論家の笹山央さんにも3時の休憩を挟んで話をしてもらいました。
テストケースでしたが、皆さん熱心に聴講してくれてました。

その中で「観照」という普段あまり使わない言葉ですが、哲学でよく使われる言葉がでてきました。
古代ギリシャ文明のころから「観ること」は重視され、人間の主要な活動であるところの制作や公共的活動より以上に観照ということをより優位に価値づけていたとのことです。
文化を推進するのは観る側の人々であることを、茶の湯の文化や浮世絵の話などわかり易い例を挙げて話をしてくれました。

それは決して難しく考えることでもなく、身近な自然をよく観ることや料理を愉しむことでもあると。
そして「観る」を深化させるのは絶えざる訓練の積み重ね、日々の蓄積であるということでした。

紬塾でも布を観る目を養ってもらいたいと糸のところからよく見つめてもらっています。そのことが良い布と出会い文化を作ることにもなります。
時間の関係で質疑応答は出来ませんでしたが、次回はなんとか組み入れたいと思いました。


笹山さんが主宰するかたち塾は今週末の6月25日(日)に国立新美術館で行われますが、今回のテーマは「ジャコメッティを愉しむ」です。
「見えるとおりに描く」ことに生涯を賭け、真摯に見つめ続けたジャコメッティについてのレクチャーもぜひ聴いてほしいと思います。
奥の深い話ですが、笹山さんは小難しい理屈を並べるような話をしませんので、どなたでも気軽にご参加ください。
ものを観るのが楽しくなります!

六本木にある国立新美術館1階のカフェでレクチャーが行われます。 → 六本木駅近くのカフェに変更
前もって観ておいてもいいですし、後日観るのでもいいと思います。
詳細、お申込みは笹山さんのブログをご覧ください。受付後、メールを改めて差し上げます。
紬塾の方は私宛のメールでも結構です。
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八寸帯「卯月野」

2017年06月09日 | 着姿・作品

先日の工房展へ八寸帯を締めてお越しくださいましたお客様の着姿写真をご紹介します。

お手持ちの着物は知り合いのお母様がお召しだったものでかなりの傷みもあったという藍の紬です。身ごろを入れ替えたりして単衣に仕立て替えられたそうです。

取合せとして私の八寸帯を合わせてくださっています。
経糸、緯糸若練の玉糸を使っています。サラッとした風合いでハリ感があります。
細い縞は無地感覚で、様々な着物に寄り沿ってくれると思います。
卯の花の頃をイメージして「卯月野」と銘をつけました。

トンネル仕立て(トンネルかがり)という仕立て方で、二重太鼓のように見える、あるいは涼しげに見えるということもあるようですが、上質の生地ものには針目をなるべく加えないほうが良いという考え方もあるようです。

この帯は夏帯として創り、太鼓と前に透かし柄が入っているのですが、太鼓の裏を表にし太鼓から締めていくやり方にすると、本来の前柄が腹の下に巻かれることになり、透かしのない無地部分が上に出てきます。このやり方は私もお客様から初めて伺い目からウロコでした!(@@)


お母様から帯の前が汚れた場合など全通ならば逆から結べばいいと教わったそうです。
一応夏帯として作ってあったポイント柄の帯を5月の単衣の時期から使っていけますので素晴らしい方法だと思いました。

このあと、私も早速全通柄の帯で太鼓から結んでみるとなんと、、、結びも楽でした!
これは全通であれば帯が短い場合にも使えます。よいことを教えていただきました!!

帯留めは昨年の紬の会でお求めくださった小川郁子さんの珍しい色の貴重な切子を取合せてくださっています。
ごくごく薄いピンクの帯締めもセレクトさせていただいたものです。
全体を寒色系でまとめているようですが、冷たい感じではなく深みのある白い帯と、帯締のほのかなピンクが装いに奥行きを与えていると思います。

年配の方の人生経験の豊かさをも彷彿とさせる貫禄の着こなしの中に、初夏の爽やかな風が吹いていたのでした。
本来の夏帯としての着姿もまた拝見できる日も楽しみです!

こちらの着姿ページに詳細があります。



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第3回 紬きもの塾――真綿から糸をつむぐ

2017年06月06日 | 紬きもの塾’17~’20


4名の方に久米島式で真綿から糸をつむいでもらいました。
今までより真綿の量を増やし、時間も長くしました。

着尺用2~3本合わせたくらいの一番つむぐのが難しい太さでつむいでもらいました。
真綿の糸の特徴を知ってもらいたいからです。
単に簡単なことを初心者だからといってやってもらうのではなく、本当のことに少しでも触れてもらえればと思います。

今回の4名の方は厳しい指導のもと!?(^-^)かなり太目の糸を忠実につむいで下さいました。
細いほど均一になりますが、紬らしい味わいは失われます。

私は糸をつむぐことも好きで、在庫の糸がなくなったらまたつむぎたいと思っています。

糸つむぎで大事なことは真綿の繊維の量、状態を瞬時に見極めながら取り出してくることです。
細くなったからとあわてて真綿を右手で引っ張ってきて足すのはよくありません。
右手の指先で糸にまとめたところは結果なだけです。
その結果で慌ててももう遅いのです。

真綿の三角になったところを見ればよいのです。
左手の指の腹を当てる角度や量を加減しながら真綿を引き出します。
単純な道具で、単純な動きですが、それゆえに個人の感覚の違い等もでてきます。

簡単ですが難しくもあり、でもずうっとやり続けたくなる側面もあります。
布を纏って生きる人間の根源にある仕事です。
しかし、真綿から糸をつむいでくれる方はごく限られてしまいました。

この糸は無撚糸ですが、撚りを掛けなくても染めたり、糸巻きをしたり出来るところが、しなやかで長繊維の絹ならではのことです。

次回7月にはこの糸を使い植物で染る作業になります。





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工房展「紬の会'17-着る愉しみ」終了しました!

2017年06月02日 | 紬の会
 柿染め白地段着尺「真珠の彩り」

「紬の会'17-着る愉しみ」展、5月の連休に始まり、昨日工房展示も無事終了致しました。

ご来場くださいましたみなさま、ありがとうございました。
作品集「樹の滴」を読まれた遠方の方も実作を見てみたいとお越しいただきました。

みなさんから自然な色や風合いの布に「本当に綺麗でいつまでも見ていたい」という声も聞かれました。

暑い日が多かったのですが、私の紬でわざわざお出かけくださいました方々にも心より御礼申し上げます。
手元を離れた作品が使う方の着こなしの中で生き生きとした美しい表情を見せてくれていて、本当に嬉しく思いました。

工房では作品をご覧頂くだけではなく、紬を着る上での帯や小物の取合せ、着物のマイサイズの再確認、洗える襦袢の検討のご相談、名古屋、半幅帯結びのミニ塾なども行いました。

暑くなってきましたので、ヘンプの肌着も好評でした(Mサイズステテコ残り僅か)。
ヘンプ・リネンタオルの汗取り(補正にも)の縫い方説明もいたしました。

また、たくさん着物を持てない方などには特に有効な、単衣紬を長く着ていく場合の話などもしましたが、櫻工房ならではの紬の会となりました。
個別にミニ紬塾として着るための様々な相談事も随時受け付けておりますのでお問い合わせ下さい。

上の写真は今回出品しておりました「真珠の彩り」と題した着尺の部分ですが、注目してくださる方も多く、光線による色の違い、深さに私自身も改めて驚きました。
写真では捉えられない何とも言えない色合いです(グレーのように見えるかもしれませんが、白系です)。
夕方も蛍光灯は点けずに自然光の仄暗さの中でご覧いただきました。
 
白い着物は難しそう、、と思われがちです。
しかし、どなたにも顔映りがよく、張り詰めた白ではない包容力のある豊かな色で、ちょうど今月、6月の誕生石は真珠ですが、真珠の装身具はどなたをも品よく引き立てるように、この着尺も相通じるものがあるように思いました。自然のなせる技です。

これからしばらくは緑を濃くしていく庭木を少しずつ染めながら在庫の糸をもっと増やしていこうと思います。
植物から引き出せる色の幅を広げていきます。
白の中にも無数の白があるように植物と紬糸(絹)が醸し出す生きた色の世界を極め、それを生かした織物を織れたらと思います。

今後も堅牢で美しい現代感覚の紬織りをめざして日々精進してまいります。

今後とも宜しくお願い申し上げます。





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