中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

紬の取り合わせの妙とは

2022年12月27日 | 着姿・作品
先日、帯揚げと帯締めの取り合わせをさせて頂いた方から、「(小物を)たくさん揃えなくても、色味を妙を楽しむ秘訣は?」と、質問を受けました。

私の着物の取り合わせを HP「着姿」の“中野の着姿”やblogで見て下さっているそうですが、取り合わせの微妙なところが今一つわからないということです。私も自分で染めていながら、帯揚げもそんなに枚数はないので、十分な取り合わせではないですが…。

トップの画像は自作の着物と帯ですが、3月の装いです。
着物が凝ったもの(刺し子織り)ですので、帯はプレーンな感じのもので合わせました。
織物でも季節感は大事にしたいので、明るさを感じるオレンジ系の茶の帯揚げ、グリーンベージュの帯締めで芽吹きの早春のイメージを出しました。
着物は茶系の暖色ですので、帯と帯締めに寒色を合わせ、バランスを取っています。

草木染や落ち着いた色合いの着物に小物が浮いてしまったりすることがあります。色のトーンが離れすぎると浮いてしまいます。
かと言ってワントーンで揃えすぎるとつまらないですし、差し色になりながらも悪目立ちはしない、という路線が目指すところかと思います。全てを主張させるのではなく、脇役に徹するものがあってもいいです。その時、何を主にしたいか、どこを生かしたいかを決めます。



直ぐ上のこの画像は11月の装いで、黄葉をイメージした辛子色の帯締めと、こっくりと赤味を含んだ焦げ茶の帯揚とで秋から冬への移ろいを表しました。

同じ着物と同じ帯でも随分印象が違います。単なる色遊びのコーディネートではなく、日本の季節感を取り入れたいと思っています。

お客様で、私の着物に手持ちの小物で合うと思っていたが、家で合わせたら、トーンが合わないと仰り、微妙な色違いの帯揚げをたくさん揃えて下さっている方があります。オフホワイトが1枚あれば何にでも合う――のではなく、オフホワイト系も色相の違いは沢山ありますので、季節、その日の天候などで色の見え方も違うため、着物や帯、自分の感覚に合うものを選ばれているのでしょう。
こだわれば、確かにたくさんの色を揃えたいところではあります。

でも、沢山は揃えられない場合は、選ぶ時にパーンと撥ね返すようなビビッドなトーンや、クリアな淡い色も紬などには軽すぎてしまう場合もありますので、灰味を含む色を選ぶと包容力のある取り合わせが可能かと思います。
異なるものを合わせながらも一つの調和があればよいと思います。

そして取り合わせというのは単品で見るものではなく、隣り合う色、隣り合う素材感によっても違います。できればそのものに合せて見るのが一番です。
それと、私の帯揚の生地は丹後縮緬ですが、素材の良いものを選ぶことも大切です。小物だから、少ししか見えないからと、適当でいいのではなく、ものの力と力、質の高さと高さを取り合わせることが大事でしょう。
小さなものほど目立つかもしれません。

いつだったか街で出会った人で、まず下駄の素敵な鼻緒に目がいって、徐々に上に視線を移動させた経験があります。料理人さんなのか、大きな買い物かごを持ち、麻の作務衣も素敵でした。

羽織の紐から選び、着物、帯へと一式を選ぶのもいつかやってみたいですね。(^_-)-☆

草木の色の世界は複雑ですが、自然の合理にかなったものと思います。
日々、自然物の色をよく観察し、光の違いも大事にしたいです。

紬塾でもワークショップ付きで、日本の取り合わせの話をしますが、その次の回の時に即、実践して来て下さる方もあるくらい、目からウロコの話をしています。

来年は「紬きもの塾」も開催予定ですので、関心のある方はHP、blogでお知らせしますので、ご覧ください。

工房は、新年は1/5(木)からです。
どうぞ読者のみなさまも良いお年をお迎えくださいませ。





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Nさんの着物取り合わせの記録より

2022年12月09日 | 紬の上質半幅帯
18年度の紬塾に参加され、拙作の半巾帯や着物を着てくださっているNさんが、久々にメールを下さり、取り合わせの写真(スマホ自撮り)を送ってくださいました。写真も沢山送ってくださったのですが、ご本人の了解を得て一部、コメントと共にご紹介します。

お祖母やお母さまの遺された着物が沢山あり、それも引き継がれています。
トップ画像の半巾帯「糸箱」を合わせてくださっているものもその一枚で、「この着物も、祖母のもので、母もお気に入りだった、袷のお召です。所々に牡丹色が浮き出ています。三代にわたってのお気に入りの着物です」ということです。

紬塾でも、「とことん着る」をテーマに話してきましたが、あるもので活かせるものはぜひ活用しながら、また新しいものも取り合せて、古めかしくならないよう、現代の着方をすることを提唱していますが、それを実践して下さり、本当に嬉しく思います。

着用時の取り合わせをスマホで自撮りするようになったご本人からは、
「着る着物の偏りをなくすため記録用に始めましたが、画面を見るたびガチャガチャしていてお見せできるものではありません。色を繊細に感じることができないのです、学び、感じ続けなければなりません」と仰りながらも、「先生の半巾帯を合わせることで、半巾帯でもきちんとした品のある着姿になります。帯自体も合わせやすいので、他の着物、何にでも合わせています!いわゆる半巾帯の仕上がりにはならないところが、本当に重要なのです。着付けの時間が短縮され、また背中が楽なので、ちょっと着物着ようかな、という気持ちになるので、着る機会が確実に増えました!」とも。
主に街着として、ちょっとしたお出かけに着てくださっているそうです。

まだ若い方ですが、これから年を重ねたり、体調を崩したりするときにも気持ちの負担にもならず、でも上質の半巾帯は“きちん”とした感じにもなり重宝します。


もう一枚は凝った型染めの小紋に合せてくださっています。
「グリーンの着物は、祖母のお気に入りだった単衣の小紋。身丈が短いですが、将来の繰り回しのことを考え、継ぎを入れずに頑張ってます。」
そうですね、着物として着潰すなら胴に継ぎ足せばいいですが、羽織などに仕立て替えるなら、そのまま着る方がいいですね。それと、今時の身丈は妙に長くて、おはしょりを上に持ち上げたり、長さを調整するのが当たり前のようになっていますが、案外短めが着やすいです。

Nさんは本当に熱心な受講生でしたが、当時も着物の取り合わせノートを最後の回に見せていただきました。
この時のことは以前のblogにも書きましたのでよかったらご覧ください。紬塾を終えての感想も一番上のかたです。

当時のノートも進化しているようです。謙虚に学び続けてくださり嬉しく思います。



また、私の着物も引き継いで着てくださっているのですが、それにもいろいろ取り合わせてくださっています。今回は無地紬の八寸を合わせた写真をご紹介します。
「着物を着始めた頃、柄と柄の組み合わせが苦手で、母の小紋に合わせるために無地のものを選びました。今回の写真は、黄色の帯締めは春、多色の帯締めは秋の写真で、季節感を気にしたつもりです。」



紬塾でも取り合わせの回で季節や場、心情などを意識して取り合わせる話をしますが、これも実践してくださってます。

梅染格子着物「淡紅梅」は私が2回目の個展の際のメインにした、シンプルのようでいて、内容は凝った格子の紬です。その後、仕立てて着ていたのですが、3年ほど前にその着物を解き、洗い張りして、引き継いでもらったのです。この件に関しての詳しいblogはこちら。

「淡紅梅」に関してNさんは、
「柄のある紬が欲しいと思っていたので後継を立候補したのです。私にとっては洋服では着ない、着物ならではの色柄ですから、「あー着物が着たい!」という気分の時にぴったりの着物です☺︎そして、100%褒められるのです!」
洋服ではピンク系は絶対着ない、という方も草木染のこの系統のピンクや黄色は不思議に手が出てしまうみたいで、何人もそういうお客様がいらっしゃいました。
兎にも角にも、私の後を有効に、愛情をもって活かして頂き、生みの親としてはこんなに嬉しいことはありません。

半巾帯も名古屋帯と変わらない価格になりますが、ご要望があればまた織らせてもらいたいと思います。
HPからお問合せください。在庫も1点ございます。

いろいろリンクが多くて、長くなりましたが、、HPの着姿集の「淡紅梅」「帯の着姿集ー半巾帯」にも追加しましたので、時間のある時にそちらも是非ご覧ください。



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中野みどりの紬のショール連作を公開します

2022年12月01日 | 紬のショール
         “ 冬木ま直ぐおのが落葉の中に立つ  大野岬歩 ”

様々な植物の紅葉を楽しみましたが、12月に入り、落葉を迎え木々は冬の装いとなりました。落ち葉は土に還り、また腐葉土としての役目が始まります。

秋からずうっと掛かっていた連作ショール、遅くなりましたが公開いたします。

今回は経糸は黒×オフホワイトのバイカラーですので、使う向きでかなり雰囲気を変えられます。服や季節に合せて使い分けることもできます。

色に関しては、私の撮影技術や画像編集ではなかなか難しく、手に取ってご覧頂くのが一番です。
立体感のある紬は、糸と光の乱反射で、季節、時間帯により、自然光であっても色は変化して見えます。

生地アップをご覧頂くとわかると思いますが、経糸に節のある糸を多用し、糸巻も、織るのにも手間がかかりました。織物の基本は経糸にあります。そこを軽く見てはいけません。機械には掛けられない、手仕事ならではの真価だと思っています。


経糸の節があることで織り密度をやや緩くできま、平織でもドレープ、バイアスがしっかりと立ちます。

立体感を出すために、着尺糸の2~5倍位あるものをいろいろ混ぜています。糸の太細や質感の違うものを敢えて混ぜることは、風合いや、使いやすさにも繋がりますが、異なる素材と一つの世界を作るアート性も加味されます。

価格の違いは使われている糸の重さも考慮しています。
重い方が暖かさはありますが、薄手のものも手つむぎの絹100%ですので、畳んで使ったりすれば冬も十分な暖かさがあります。真冬は羽織やコートと併用してお使いください。
部屋でシャツやセーターの上に軽く結んで掛けるのもよいです。

手洗いで、更によい風合いになっていきますので、洋服にも惜しみなくどんどん使っていただきたいです。使い始めは結んだりすると皺もできるのですが、だんだん皺になりにくくなります。冬の静電気もだんだん軽減します。
すべて草木染ですので、洗う際の浸け置きは避けて、軽く押し洗いしてください。洗い方はこちらで。

では一点ずつご紹介します。
以下に掲載の6点中、後半の3点は千成堂着物店での取り扱いとなります。
千成堂着物店さんのウェブサイトでご確認ください。

櫻工房のオンラインショップでは4点の販売となります。
直接町田市の櫻工房でも手に取ってご覧いただけますので、ご予約の上、ご来房下さい。

【茶系大格子(S-32)】





こっくりとした茶系の大格子です。一番地厚なものです。
綾織と平織を交互にしています。ダークな茶も、赤みを含んだ茶で顔周りを暗くしません。

【黄ベージュ×グレー×茶大格子(S-33)】




顔周りに濃淡どちらを使うかでかなり印象の違う作品です。
トップ画像は明るい方を顔周りに使ってみました。やや薄手で、春先にもよさそうです。すぐ上の画像の使い方ですとシックな秋冬の印象に。

【赤茶×グレー大格子(S-35)】





冬のコートなどは黒やグレーが多いですから、小物は赤系も映えると思います。こちらも厚手で、織も凝りまくりました! (*^o^*) 


以上新作3点+1点は櫻工房のオンラインショップでの販売となります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【七子織薄ピンク細段(千成堂着物店扱い)】



こちらは赤城の節糸をベースに、薄ピンクに染めたベトナムの極太の節糸を細い七子織で立体感を持たせました。エレガントで上品な印象もあります。やや薄手で、冷房の中などでも一年通してお使いいただけます。





【市松大格子 グレージュ×薄ベージュ(千成堂着物店扱い)】





大きな市松の格子です。よこ糸は薄ピンク綾織×グレージュ平織でシックな中に顔色がよく見えるよう配色しました。自己表現やデザイン、色が先にありき、ではなく、使う人のことをいつも思って作ります。こちらは中厚手タイプ。

【綾織段 ピンク×草色×茶(千成堂着物店扱い)】






ベースは無地と細いグレーの段で構成し、アクセントに茶、サーモンピンク、草色の段を拝しました。こちらも色糸選びに悩みながら、地の部分も凝りました。(^<^)
洋服のコートなど、二つ折りにして首に巻き付ける使い方をするとアクセントカラーの3色の見え方も面白いと思います。やや薄手。

以上3点は千成堂着物店さんのウェブサイトをご覧ください。

ご紹介は以上です。

本来の紬らしい味わいのあるショールを織るのも、赤城で作られていた太細のある座繰りの玉糸はもう作られていませんので、染めて残っているものだけで終りです。その限られた糸を使い、あと数点織って、私のショールの仕事もキリをつけようかな、、と考えています。






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