備忘録として

タイトルのまま

阿倍仲麻呂

2013-12-30 23:22:54 | 古代

新聞紙上で紹介されていた新刊の上野誠「遣唐使 阿倍仲麻呂の夢」を読んだ。仲麻呂は遣唐使として唐に渡り現地で異例の出世をし、帰国途上に遭難し、望郷の念から百人一首の「三笠の山にいでし月かも」の和歌を残し、唐で没した。という知識しか持っていない。まずは略歴から述べる。

  • 701 大宝元年生誕 (698年説もあり)
  • 716 仲麻呂16歳で遣唐使に任命される
  • 717 遣唐使長安へ
  • 718 遣唐大使らは帰国
  • 724 聖武天皇即位
  • 733 遣唐使 栄叡、普照
  • 735 玄、吉備真備ら帰国
  • 743 鑑真第一次、二次渡航失敗
  • 748 鑑真第五次渡航失敗、海南島漂着
  • 749 鑑真失明、祥彦没、栄叡没
  • 750 遣唐使に藤原朝臣清河、大伴古麻呂、吉備真備らを任命
  • 753 朝賀の際に新羅との席次問題
    • 仲麻呂、鑑真、吉備真備ら帰国の途に
  • 755 安禄山の乱
  • 762 玄宗皇帝没
  • 770 仲麻呂没

安倍一族

桜井市付近に本拠地を置く。日本書紀に名前が見られ代々外交や軍事に関わる役職についている。安倍比羅夫は数回蝦夷討伐を行い、663年には白村江の戦に従軍する。

旧唐書

九州王朝説の根拠のひとつである倭と日本国の使節が争ったというのは717年の遣唐使の時のことである。「日本国は倭国の別種である。倭国自らがその名が雅でないとし名を改めて日本とした。別の言い伝えでは日本はもともと小国であったが倭国の地を併合したともいう」

「仲満(仲麻呂)は中国の風を慕い、帰国せず留まり、姓名を晁衡(ちょうこう)と改めた。衡は京師に留まること50年、書籍を愛し帰国の許可を与えても帰らなかった。」

科挙

仲麻呂が科挙に合格していたという記録はないが、仲麻呂が唐朝で就いた役職から、科挙に合格していたと推定されている。最高位は秘書監で従三品、その後、鎮南都護、安南節度使、贈潞州大都督。仲麻呂が受けたと推定されているのは、科挙のうち最難関コースの進士科で、試験科目は「帖経」儒家の経典の知識を問うもの、「詩賦」詩や賦の優劣を競うもの、および「時務策」時事問題に関する論文である。唐だけでなく歴代の中国王朝は外国人、異民族、異教徒でも能力があれば重用したと言える。仲麻呂だけでなくマルコ・ポーロやイスラム教徒の鄭和なども重用されている。

送別詩

玄宗皇帝、王維らが仲麻呂の帰国に際し送別詩を送り、仲麻呂はそれに答える詩を残している。また、李白は仲麻呂が帰国の途上、遭難死したと聞いて死を悼む七言絶句「晁卿衡を哭す」を残す。王維の詩は、中国の古典に対する基礎知識がないと理解できない。詩の送り手と受け手双方の知識人の中に「共有された知」がある。論語や礼記や易経や春秋左氏伝などの儒教関係経典、淮南子列子楚辞などの古典、史記、漢書、三国志、山海経などの歴史書である。卑弥呼関羽も出てくるので王維は三国志と魏志倭人伝の記事も知っていた。漢書李陵伝からの引用もあるという。史記の楽毅や信陵君も登場する。

王維:699-759 唐の詩人、書家、画家。李白や杜甫と並び称される。字の摩詰(まきつ)は、仏教の維摩経の維摩詰からとっている。維摩は俗に居ながらにして文殊菩薩や釈迦の弟子たちと知恵を競った。

和歌 

天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に いでし月かも 

この有名な百人一首にもある仲麻呂の歌は、唐土にて月を見て詠んだ歌と注釈されている。仲麻呂作とされるこの歌には、実作説、偽作説、仮託説、伝承歌説があるらしい。実作説は少数派らしい。偽作説には、そもそも中国語による漢詩だったという原漢詩説がある。仮託説と伝承歌説は、作者不明の歌を仲麻呂の作とした(仮託)というもので、それを伝承したものが伝承歌説である。この歌は905年編集の古今和歌集に収められている。935年の土佐日記で紀貫之が土佐の室戸の室津で潮待ちで焦燥する中、仲麻呂が異郷で詠んだこの歌のことを書いている。

筆者は本書の題になってる「仲麻呂の夢」が何だったかを明確には書いていない。17歳の若年で遣唐使となったとき、遣唐留学生の誰もがそうであったように唐で最新の学問を身に着け帰国し国作りに貢献することが夢だったはずだ。ところが、仲麻呂の才は図抜けていたため最難関の科挙の進士に合格してしまう。合格後、仲麻呂は成行きのまま唐朝に出仕し、順調に出世し高官を歴任する。当時、世界最高峰の文化を有する中国の知識人の中の「共有された知」の世界に身を置いてしまえば、小さな日本に戻る選択肢などなくなってしまったのだと思う。仲麻呂の夢が、最高の舞台で力を発揮する方向に変わったとして、誰がそれを非難できるだろうか。


最新の画像もっと見る