備忘録として

タイトルのまま

写楽豊国説

2007-11-10 15:02:17 | 江戸


写真(上:写楽の岩井半四郎、下:豊国の岩井半四郎)
梅原猛の”写楽仮面の悲劇”を読んで、自分ではすでに斎藤十郎兵衛で決着していたつもりだったのが危うく豊国説に傾きそうになった。梅原猛の写楽豊国説の最大の根拠は作品の類似性であり、写楽と豊国が同じ役者を描いた作品、特に顔の描写法を細かく分析し、その同一性をもとに自説を展開している。読んでいる最中は豊国の凄さばかりが強調され、いかにも両者が役者の内面を描き出そうとしていること、顔の描写法が同じであること、作品の発表をほぼ同時に始めたことなどが延々と述べられているので、梅原猛の誘導にまんまとハマってしまった。本の中で梅原猛は写楽と豊国が描いた同じ役者絵を並べて比較しているのだが、本を読んだ後冷静に写真を比べてみると、確かに似たような描き方をした作品があるのは事実だが、ここに掲載した写真のようにまったく似ていない作品のほうが多いと思った。両者の作品を概観しても、豊国の役者絵は、のっぺりした顔とまったりした体の姿勢が一般的で、写楽のデフォルメによって醸し出される役者の個性、歌舞伎の場面のリアルさや躍動感においてはるかに及ばないと思う。作品から見た私の印象は写楽は豊国ではありえないということだ。その他の理由”しやらく”の反対読み”くらはし”(豊国の本名)、落款の類似性(ないように思う)、東洲”とうくに”=豊国”とよくに”などは他の”写楽は誰だ本”で言われている様々な根拠と同じで考慮に値しない。
写真下(左:写楽の坂東三津五郎、右:豊国の坂東三津五郎)

ただ、このようにして他の浮世絵師の作品と比べると、写楽の非凡さが浮き彫りになり、素人の能楽者が描けるものではないという気がしてきたのも事実である。後は斎藤十郎兵衛が描いた絵でも出ない限りほんとうの証明は困難だろう。
今回も梅原猛の思い込みの強さを思い知った。