備忘録として

タイトルのまま

この世界の片隅に

2017-01-27 21:10:02 | 映画

 『この世界の片隅に』2016、監督・脚本:片渕直、声の出演:のん(すずさん)、細谷佳正(夫・周作)、尾身美詞(義理の姉・径子)、評判の『シンゴジラ』や『君の名は。』を差し置いて、2016年キネマ旬報ベストテンの1位に選ばれたと聞き、すぐに近所のシネコンに観に行った。土曜日の朝の映画館は私のような中高年でいっぱいだった。おそらくキネマ旬報の記事を読んで思い立ったのだと思う。『君の名は。』は若者向けなので、中高年からなる審査員が『この世界の片隅に』を選んだのは必然だろう。映画は昭和10年代から戦争終了まで、広島と呉に生きた一人の女性を描く。当時の(銃後?の)庶民の生活に、戦後派の自分が懐かしさを感じたのは、戦時下の食糧不足、言論統制、艦載機からの爆弾投下や銃撃、身近な者の死などを、父母から聞いていたからだろう。それと舞台となった広島に一時期住み、原爆ドームや江波や呉の見覚えのある風景が丁寧に描かれていたことも懐かしさを覚えた理由だと思う。上のポスターは公式ホームページより。洋画ポスターはいつものIMDbより。

 主人公のすずさんの成長と結婚、戦時下の生活、戦争の悲劇、逆境の中で生きる姿が淡々と描かれる。昭和20年8月6日も8月15日も当然彼女のところにやってくる。困窮や悲しみの中にも喜びをみつけ生きるすずさんに感情移入した。庶民は生きる時代を選べない。こんな時代に生まれたのが不運だったとあきらめるしかないのだろうか。今の平和な生活を絶対に手放してはいけない、反戦の声を上げ続けなければならないと強く思った。というわけで、『君の名は。』ではなく、こちらに軍配をあげる。★★★★☆

 『星のむこう、約束の場所』2004、監督:新海誠、声の出演:吉岡秀隆、荻原聖人、南里侑香、『君の名は。』の監督作品だったので機中で観た。津軽海峡をはさんで本州側の日米同盟と北海道のユニオンに分断された日本を背景に、手作り飛行機で津軽海峡を渡り北海道にそびえるタワーを見に行こうと約束した中学生3人を描く。ユニオンが造ったタワーはパラレル宇宙とつながっていると考えられていて、少女はそれを作った学者の孫である。パラレル宇宙の出来事を夢で感知する少女は、いつしか眠りに入り政府の監視下で夢を見続けることになる。ある日、日米とユニオンの間で戦争が始まり、それでも少年は少女を連れ出し約束を果たす。運命や社会に翻弄されながら自分の意志を貫こうとする若者を描くところは『君の名は。』と同じ。でも、『この世界の片隅に』を観た後では、架空ではあっても、戦争を安易に描きすぎだと思ってしまう。★★☆☆☆

 『Deja Vu』2006、監督:トニー・スコット、出演:デンゼル・ワシントン、ポーラ・パットン、バル・キルマー、ジム・カビーゼル、500人以上が犠牲になったフェリーボートの爆破事件を追う捜査官は、4日前を監視できる装置を開発したチームとともに爆破犯を追う。以前観た映画を機中で再鑑賞した。大好きなタイムトラベル物で、過去を変えることで現在や未来を変える話である。同じタイムトラベルを扱っても、過去は変えられないとする話の方がどちらかといえば多いような気がする。ドラえもんの『日本誕生』では、過去を変えてはいけないので時間を守るタイムパトロールが出てきた。代表的なタイムトラベルを扱う映画『Back to the Future』は過去と未来を縦横に駆け巡り、不都合な未来を変えようとする。あっちの未来やこっちの未来というパラレルワールドの概念も使われる。2作目のスポーツ年鑑で大金持ちになるビフはトランプがモデルらしい。他にも起こってしまった出来事を、過去に遡って変えようとする映画は、『ターミネーター』シリーズや『Source Code』などがある。『All You need is kill』も過去をリセットするということでは同類だ。近い過去にタイムトラベルすると過去の自分に出会うことになる。『ハリー・ポッター・アズカバンの囚人』では、ハリーは過去の自分を救う。でもそれは過去の出来事を変えるのではなくて、過去にあった不思議な出来事が実は未来の自分がしたことだったという謎解きをして見せるものだった。この手の映画には無理や矛盾はつきもので、あまり詮索せずに素直に受け入れることが映画を楽しむ秘訣である。

 事件の捜査官デンゼル・ワシントンは、4日前の出来事を見ているうちに爆破犯に殺される前の女性に恋してしまい、事件前に戻り女性を救おうとする。過去には過去の自分とタイムトラベルした未来の自分が同時に存在するのだが、二人は出会うことはなく、事件の終了とともに未来の自分は消える。映画の最後、その時代(過去)の捜査官が女性の前に現れたときのHappy Endにホッとし、『オブリビオン』のトム・クルーズのクローンを思い出していた。★★★★☆

 『Timeline』2003、監督:リチャード・ドナー、出演:ポール・ウォーカー、ジェラルド・バトラー、ケイト・エリクソン、アンナ・フリーエル、同じくタイムトラベル物。14世紀の英仏100年戦争の遺物を発掘していた考古学者が、遺物の中に自分たちを指導していた教授の書いた”Help me”という手紙を見つける。その手紙のインクは炭素年代法で600年前と鑑定され、教授が14世紀にいる(いた?)ことに驚く。若い考古学者たちは教授を救うため、教授が使った時間転送装置で14世紀にタイムトラベルし、その時代に深く関わっていくことになる。送られた時代と場所は、現代人が想像できないほど生死が紙一重の戦場だった。送り込まれた考古学者たちの必死の行動は、歴史を動かすことになるが、それは必然だったという落ちになる。すなわち、発見された考古学的遺物は彼らのとった行動と矛盾しなかったのである。『Deja Vu』と同じく、愛は時空を超えるのだ。★★★☆☆

 『Florence Foster Jenkins』2016、監督:スティーブンス・フレアース、出演:メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーグ、メリル・ストリープがドナルド・トランプに噛みつかなければこの映画はパスしていた。音痴のオペラ歌手を主人公にした映画が面白いはずがないと思い込んでいたからだ。実際、そんなに面白い映画ではなかった。主人公フローレンスに遠慮して何も言わない観客の中でただ一人、音楽ホールには場違いで上品とは言えない女が、フローレンスの歌声を聞いて本当に転げ廻って笑う場面が痛快だったのと、夫でマネージャーのヒュー・グラントの献身ぶりに感心したところだけが見どころだった。メリル・ストリープの音程の外し方が名人芸だという評価があるが、音痴の自分にそれがわかるはずがない。この映画のお蔭で、自分にはミュージカル映画の評価は無理であることに気付いた。★★☆☆☆

今回のブログでもトランプが2回出てきた。しばらくはこんな世界の片隅にいてもトランプに振り回されそうだ。


メリル・ストリープのスピーチ

2017-01-22 21:59:36 | 話の種

ドナルド・トランプがアメリカ大統領に就任した。就任式のスピーチは選挙キャンペーンと同じで真新しいものはなく、彼はいつものように演説を”Together, we will make America great again!"で締めくくった。それよりも、1月9日のゴールデングローブ賞で行ったメリル・ストリープのスピーチが心に残った。ネット検索でスピーチの全文を報じたサイトがいくつも見つかった。Youtubeにもスピーチの様子がアップされていた。以下全文。

Please sit down. Thank you. I love you all. You’ll have to forgive me. I’ve lost my voice in screaming and lamentation this weekend. And I have lost my mind sometime earlier this year, so I have to read.

Thank you, Hollywood Foreign Press. Just to pick up on what Hugh Laurie said: You and all of us in this room really belong to the most vilified segments in American society right now. Think about it: Hollywood, foreigners and the press.

But who are we, and what is Hollywood anyway? It’s just a bunch of people from other places. I was born and raised and educated in the public schools of New Jersey. Viola was born in a sharecropper’s cabin in South Carolina, came up in Central Falls, Rhode Island; Sarah Paulson was born in Florida, raised by a single mom in Brooklyn. Sarah Jessica Parker was one of seven or eight kids in Ohio. Amy Adams was born in Vicenza, Italy. And Natalie Portman was born in Jerusalem. Where are their birth certificates? And the beautiful Ruth Negga was born in Addis Ababa, Ethiopia, raised in London — no, in Ireland I do believe, and she’s here nominated for playing a girl in small-town Virginia.

Ryan Gosling, like all of the nicest people, is Canadian, and Dev Patel was born in Kenya, raised in London, and is here playing an Indian raised in Tasmania. So Hollywood is crawling with outsiders and foreigners. And if we kick them all out you’ll have nothing to watch but football and mixed martial arts, which are not the arts.

They gave me three seconds to say this, so: An actor’s only job is to enter the lives of people who are different from us, and let you feel what that feels like. And there were many, many, many powerful performances this year that did exactly that. Breathtaking, compassionate work.

But there was one performance this year that stunned me. It sank its hooks in my heart. Not because it was good; there was nothing good about it. But it was effective and it did its job. It made its intended audience laugh, and show their teeth. It was that moment when the person asking to sit in the most respected seat in our country imitated a disabled reporter. Someone he outranked in privilege, power and the capacity to fight back. It kind of broke my heart when I saw it, and I still can’t get it out of my head, because it wasn’t in a movie. It was real life. And this instinct to humiliate, when it’s modeled by someone in the public platform, by someone powerful, it filters down into everybody’s life, because it kinda gives permission for other people to do the same thing. Disrespect invites disrespect, violence incites violence. And when the powerful use their position to bully others we all lose. O.K., go on with it.

O.K., this brings me to the press. We need the principled press to hold power to account, to call him on the carpet for every outrage. That’s why our founders enshrined the press and its freedoms in the Constitution. So I only ask the famously well-heeled Hollywood Foreign Press and all of us in our community to join me in supporting the Committee to Protect Journalists, because we’re gonna need them going forward, and they’ll need us to safeguard the truth.

One more thing: Once, when I was standing around on the set one day, whining about something — you know we were gonna work through supper or the long hours or whatever, Tommy Lee Jones said to me, “Isn’t it such a privilege, Meryl, just to be an actor?” Yeah, it is, and we have to remind each other of the privilege and the responsibility of the act of empathy. We should all be proud of the work Hollywood honors here tonight.

As my friend, the dear departed Princess Leia, said to me once, take your broken heart, make it into art.

名前こそ出さないが、トランプが以前、障害のあるニューヨークタイムズ記者を真似て揶揄したことを強く非難する内容で、メリル・スリープは、時折大きく息をして感情を抑えるように訴えかけていた。要旨は以下のとおり。自分なりに意訳しているので厳密ではない。

ハリウッドは様々な経歴や出自の人間から成り立っている、その人たちを追い出したら何も残らない。俳優は他人の人生を演じ、今年も人々に感動や共感を与える演技がたくさんあった。ところが、ただひとつの演技が私を打ちのめした。それは障害者を揶揄する演技であり、私の心は折れた。映画の中のことではなく現実の場で起きたのである。最高権力者が公共の場で弱者を嘲笑ったなら、人々はそれが許されると思うだろう。侮辱には侮辱、暴力には暴力で答えるようになる。権威ある者が立場を利用して他をいじめるとしたら、私たちの誰も勝てない。私たちはジャーナリストを守り、ジャーナリストは真実を守る。今は亡きレイア姫(キャリー・フィッシャー)がかつて私に言った言葉です。”傷ついた心(Heart)を、芸術(Art)に変えよう!”

このスピーチに対し、トランプは以下のTweetを返している。

Meryl Streep, one of the most over-rated actresses in Hollywood, doesn't know me but attacked last night at the Golden Globes. She is a.....Hillary flunky who lost big. For the 100th time, I never "mocked" a disabled reporter (would never do that) but simply showed him "groveling" when he totally changed a 16 year old story that he had written in order to make me look bad. Just more very dishonest media!

メリル・ストリープは、ハリウッドで最も過大評価されている女優だ。私を知らないのに夕べ私を攻撃した。彼女は(選挙で)敗れたヒラリーのflunky(腰ぎんちゃく)だ。私は障害者の真似などしていない。私を貶めるために彼が書いた16年前の話を完全にねじ曲げたので、単に”groveling”(卑屈にふるまった様子?)を見せただけだ。メディアは不誠実だ!

以前、メリルストリープのことを素晴らしい女優だと評していた人間が、悪口を言われ”最も過大評価されている女優だ”とケチをつけ言い訳をする。トランプの振る舞いや言動はあまりに子供じみていて下品で、これが世界一の大国の大統領かと思う。この男が核弾頭の発射ボタンを押す権限を持つことになるとは、何かの冗談ではないかと思ったりする。大統領就任式ではアメリカ各地で大規模なデモが発生し、今日も俳優ロバート・デ・ニーロが反トランプの先頭に立っていた。アメリカが健全なことは、ハリウッドと並んで目の敵にされているメディアが、トランプの言動をチェックし批判を続けていることである。どこかの国のメディアのように政府の顔色をうかがって自主規制をしたり、お抱えメディアとして政府の代弁者になってはいない。

今、アメリカだけでなくヨーロッパもアジアも中東も世界中が激動している。力を誇示する威勢のいい政治家ばかりが称賛され支持され、オバマのような理想主義者は退場し、世界は経済優先、利益偏重の分断と混沌の時代に入った。我々のような無力な民衆は、荒波の中で立ち尽くし、うろたえるしかないのだろうか。昨日シネコンで観た『この世界の片隅に』の戦時下を生きた人々が他人ごととは思えず胸に迫る。

トランプが過大評価されているというメリル・ストリープの映画のうち観たものを一応列挙しておく。

  • 『Kramer vs. Kramer クレイマークレイマー』1979 アカデミー助演女優賞
  • 『The River Wild 激流』1994
  • 『The Devil Wears Prada プラダを着た悪魔』2006
  • 『Mamma Mia! マンマミーア』2008
  • 『Julie & Julia ジュリー&ジュリア』2009
  • 『It's Complicated 恋するベーカリー』2009
  • 『Hope Springs』2012
  • 『Florence Foster Jenkins』2016 最新作

アカデミー最優秀主演女優賞をとった『ソフィーの選択』と『The Iron Lady 鉄の女』は観てない。メリル・ストリープの最新作と『この世界の片隅に』の映画評は次回とする。


The Sea of Trees

2017-01-07 11:12:11 | 映画

『The Sea of Trees、邦題=追憶の森』2016、監督:ガス・ヴァン・サント、出演:マシュー・マコノヒー、ナオミ・ワッツ、渡辺謙、主人公のアーサー・ブレナン(マシュー)は、Perfect place to dieとされる富士の樹海で自殺をしようと日本へやってくる。森に入り睡眠薬を飲んでいるとき森をさまよう男ナカムラタクミ(渡辺謙)に出会う。ナカムラとともに樹海を彷徨する中で、妻(ナオミ)との日々がFlash Backされ、徐々にアーサーがなぜ樹海で死のうと思ったかがわかってくる。自分の不貞が原因で夫婦間に亀裂が入り、贖罪の気持ちはあるものの、アルコール依存で自分をなじる妻を素直に愛せない日々が3年も続いていた。そんな時、妻に脳腫瘍がみつかり、闘病の中でお互いを理解しやっと絆を取り戻そうとした矢先に妻を亡くしてしまう。妻を亡くした喪失感と償えなかった罪の意識からアーサーは自殺をしようとしたのだった。ナカムラが何者かということはすぐに予想がつくのだが、映画の最後にアーサーはそれに気づき、妻のいない人生を歩み始める。

映画『巴里のアメリカ人』でジーン・ケリーが歌う「Stairway to Paradise」をナカムラが歌う、子供たちが森を彷徨う童話「Hansel and Gretel」、ナカムラの妻Kiiroと娘Fuyu、ナカムラの身体を覆うコートの下に咲く花、死人の魂はすぐそばにいる、などがKey Wordとして散りばめられる。中でもナカムラがつぶやく煉獄(Purgatory)が映画のストーリーの中心になっているように思う。ダンテの神曲でダンテは男に煉獄を案内され、煉獄の先にある天国では最愛の女性ベアトリーチェが待っている。アーサーが喪失感と罪悪感を克服し自殺を思い止まり生きる決意をした理由は、神曲のキリスト教的な世界観からはわからなかった。それよりも、病床のブッダを前に嘆き悲しむ弟子たちにブッダが言った次の最後の言葉のほうが彼の立場を代弁しているように感じた。

「やめよ。アーナンダよ。悲しむなかれ、嘆くなかれ。アーナンダよ。わたしはかつてこのように説いたではないか。すべての愛するもの・好むものからも別れ、離れ、異なるに至るということを。およそ生じ、存在し、つくられ、破壊されるべきものであるのに、それが破壊しないように、ということがどうしてありえようか。さあ、修行僧たちよ。お前たちに告げよう、もろもろの事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成しなさい。」

人生は諸行無常であり、死にゆくものにいつまでも関わるな。自分自身で生きる意味をみつけなさい。とブッダは教えている。

アーサーと同じように、ネットで「Perfect Place to Die」と検索すると、すぐにAokigaharaが出てきた。毎年数十人の自殺者が発見されているらしい。海外でも人気(?)で、映画では主人公に加えドイツ人の自殺体が出てきた。映画は暗いがいろいろなKey Wordsが思索を刺激してくれた。★★★★☆

『Rogue One、A Star Wars Story』2016、監督:ガレー・エドワーズ、出演:フェリシティー・ジョーンズ(Theory of Everything)、ディエゴ・ルナ、近くのシネコンで観た。Star Wars 第4話は、反乱軍が手に入れた設計図から弱点をみつけDeath Starの破壊に成功する。映画ローグワンはその設計図を手に入れるために帝国の要塞に忍び込んだ反乱軍戦士たちの戦いを描く。映画の主人公を含め反乱軍の兵士は要塞での戦いの中で全員死んでしまう。映画の最後、手に入れたDeath Starの設計図を指さしたC3-POの「それは何?」という問いに、レイア姫が「Hope!」と答える。CGで登場し若きレイア姫を演じたキャリー・フィッシャーの冥福を祈って星をひとつ追加した。★★★☆☆

『Jack Reacher:Never Go Back』2016、監督:エドワード・ツウィック、出演:トム・クルーズ、コビー・スマルダーズ、ダニカ・ヤロッシュ、トム・クルーズが特殊能力を持つアウトローの元軍人Jack Reacherを演じる第2弾。今回のJack Reacherは米軍のアフガニスタン撤退に際し武器横流し事件を摘発する女性将校を助け、悪徳軍人、武器商人、殺し屋と戦う。自分の娘と名乗る若い女性と行動を共にする。第1作のようなサスペンスがなく脚本が明らかに劣化していた。★★☆☆☆

『Magnificent 7』2016、監督:アントイン・フグア、出演:デンゼル・ワシントン、イーサン・ホーク、クリス・プラット、ハレー・ベネット、極悪鉱山主に搾取される西部の町の住人がガンマンを雇い、鉱山主に立ち向かおうとする。カバーされた黒澤明の『七人の侍』と比べいろんな部分が端折られ人物の掘り下げもない。原作『七人の侍』で最も重要で魅力の鍵だった村を要塞化する中で侍と村人の間に一体感が生じ、ともに野武士に立ち向かうという骨格がなく、勘兵衛に対応する司令官役のデンゼル・ワシントンへの求心力にも必然性が感じられなかった。結局、迫力(?)のガンファイトを見せただけで、黒澤明の『七人の侍』はもちろんのことユル・ブリンナーの『荒野の七人』とも別物として見なければいけない。時間つぶしのレベルにもない。★☆☆☆☆

『ビリギャル』2015、監督:土井裕秦、出演:有村架純、伊藤淳史、田中哲司、野村周平、学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に合格した実話の映画化。ビリギャルの学力レベルに応じた先生の熱血指導に、彼女の揺れる心理状態や家族関係を絡ませ、奥行きのあるドラマになっていて面白かった。★★★☆☆


墨田川両岸一覧

2017-01-06 22:55:01 | 江戸

元日初詣に向島の白髭神社へ行った。白髭神社は創建1000年余り、御祭神は猿田彦命(サルタヒコ)である。天孫降臨のときに瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)の道案内をした手塚治虫の『火の鳥』にも出てくるあの鼻の大きな国つ神である。日本書紀では、「其鼻長七咫、背長七尺餘、當言七尋。且口尻明耀、眼如八咫鏡而赩然似赤酸醤也。」とあり、鼻の長さは七咫(ななあた)、背の長さが七尺、まさに七尋(ななひろ)、口の端は明るく輝き、眼は八咫鏡のように赤酸醤(ほおずき)のように赤い異形の人である。アマテラスオオミカミが岩戸にお隠れになったときに活躍したアメノウズメは、猿田彦の前で岩戸のときと同じ所作をしたのちサルタヒコと結ばれる。

本社は琵琶湖の白髭神社で、全国に292の分社があるという。サルタヒコが天孫の道案内したという神話に基づき、人を正しく導いてくれることから御利益は「家内安全 身体健全 社運隆昌 商売繁昌等」とあった。そのため、様式にのっとり盛りだくさんにお祈りした。

神道信徒でも仏教徒でもない無信心の自分が正月だけ寺社で神仏頼みを続けてきたことに自己矛盾を感じていたのだが、『The Path』の礼を続けることが自己変革になるという言葉に勇気づけられ今年は迷いなくお参りした。そのあと、近くの長命寺で名物の桜餅を食べ浅草寺まで歩いた。浅草寺は参拝客が仲見世の参道を雷門から並ぶ予想通りの混雑だったので参拝はしなかった。とにかく外国人が多かった。

 

隅田川の東岸にある白髭神社は、北斎の隅田川両岸一覧に『白髭の翟松 今戸の夕烟』(しらひげのきじまつ、いまどのゆうけむり)として描かれている(下の絵、国立図書館web-siteより)。翟松(きじまつ)と名付けられた鎮守の森が対岸の右端に描かれている。現在の白髭神社に松は見当たらず写真の枯れ木は銀杏である。今戸は、下の写真を撮影した桜橋(通称X橋)西詰付近に地名を残し今戸神社がある。この写真は北斎の絵と同じように隅田川西岸から対岸の白髭神社方向を撮ったものだが、鎮守の森は建物の陰に隠れて見えず、予想通り約200年前の風景からは一変している。特に、川岸を走る首都高は無粋で景観を台無しにしているのは日本橋と同じである。

2017年の干支の酉に合わせるかのように北斎の肉筆画『鶏竹画』(下の絵)がヨーロッパで見つかったという記事が年末の朝日新聞一面に載った。明治期に来日した英国人建築家ジョサイア・コンドルの旧蔵品を東京の美術商がデンマークで落札したもので、北斎が40歳頃の作品だという。落款に”歩月老人 北斎”とある。”画狂老人 北斎”はよく見かけるが歩月老人ははじめてみた。北斎はマイケル・ジャクソンより200年も前にMoonwalkerを名乗っていたのだ。

北斎ついでに、新聞記事の数日前12月24日に新築のすみだ北斎美術館へ行き、特別展”北斎の帰還”を観てきた。隅田川両岸景色図巻という絵巻を展示する特別展である。北斎は、江戸末期の『浮世絵類考』で「隅田川両岸一覧の作者」と紹介されているように、浮世絵類考の作者は隅田川両岸一覧を北斎の代表作としている。両岸一覧は30ページほどの冊子で、図巻は長さ7mの絵巻である。ほとんどの日本の美術館同様、写真撮影は禁止だったので絵巻物の写真が撮れなかった。

美術館は下の素戔嗚を売り物にしている。原本が焼失し残った白黒写真から伝統的な着色技法と最新技術を駆使して元の色を再現したものである。こちらは待合ホールに掲げられていたので写真が撮れた。こんなマイナーな美術館にも中国人観光客がいたのに驚いた。相当の日本通かもしれない。

 下は美術館内にあった北斎と娘のお栄の蝋人形と美術館前の北斎通りと名付けられた通り。 

 

1年が経つのが早い。昨年を振り返ってみれば、ランニングライフに突入した年だった。

1月、同級生と同僚から2通フルマラソンを走ったという年賀状に刺激を受け、本格的にランニングを始めた。体重増と生活習慣病を自覚したことも走り始めた理由だった。ランニング効果はすぐには顕れず3月の定期健診では案の定、再検査通知がきた。

5月、手始めに10月のハーフマラソン大会に参加を申し込み、週2日から3日のランニングを続けた。炭水化物を減らす食事制限を続け、夏までに体重を6㎏落とした。順調にトレーニングを積んでいたのに、8月末のジョギング中に足首をねん挫し1か月近く練習を休んだ。

10月の大会は不安だらけだったが何とか完走した。

12月、高校の同級生がシンガポールハーフマラソン(SCMS)を完走した。一日の中で最も気温の低い早朝4時半とはいえスタート時点でさえ気温25度湿度95%で、陽が昇るにつれて気温のあがる過酷なレースである。高温、多湿により脚をつりながら、友人は予想タイムを30分ほど遅れて無事ゴールした。同じレースでトライアスロンをやっていたというイギリス人の若者がゴール直前で亡くなったほど過酷だった。

シンガポールでは早朝に何度か10㎞を走っているが、疲労が脚にきてそれ以上距離を伸ばせないでいる。10㎞で1㎏体重が減るので、体から1リットルの水分が失われているということだ。ハーフなら2リットル、フルなら4リットルだからこまめな水分補給なしでは脱水症状を起こさない方が不思議だ。今の自分のレベルでは到底シンガポールでハーフは走れない。シンガポールでは短い距離をロードで、涼しいジムで少し長めの距離を走り、日本帰国中はロードを10から15㎞走っている。ひとり練習はモチベーションを保つ苦心が必要だが、幸い同級生や同僚が練習に励んでいる様子やフルに挑戦するとか何時間で走ったとかいう知らせをくれるので、その都度刺激を受け練習に熱が入る。

今年のランニング目標はハーフを中心にレースと練習を重ね、来年にでもフルマラソンにデビューできればと思っている。今年はランニング以外の挑戦も増やしていきたい。