4月、5月の機中映画。上の4作はいずれも面白かった。ポスターはIMDbより。
「Saving Mr. Banks 邦題:ウォルト・ディズニーの約束」2013、監督:ジョン・リー・ハンコック、出演:エマ・トンプソン(日の名残り)、トム・ハンクス、コリン・ファレル、アニー・ローズ・バクレイ、ウォルト・ディズニーは娘の好きだった本「メリー・ポピンズ」の映画化を20年来待ち望んでいた。ずっと映画化を拒否していた原作者P L Traversは、自身の収入の減少もあり、映画化の条件として自身が映画制作に関与することを申し出る。ロンドンからハリウッドに出向き映画の内容に注文をつけるTraversの修正要求は細かく、冒頭から作曲家のSherman兄弟と脚本家のDon Da Gradiはその対応に腐心するが、そのうちミュージカルはだめ、アニメはダメ、赤はだめなど理不尽な反対が増えていく。彼女のメリー・ポピンズに対するこのような思い入れは、幼いころの父との体験(トラウマ)に起因していて、それが映画作りと並行して語られる。メリー・ポピンズを乳母あるいは子守(Nanny)として雇うMr. Banksは銀行家で、Traversの父親も銀行家だった。父親はアル中のため失敗と失業を繰り返し病気になる。幼いTraversはその頃雇った乳母(メリー・ポピンズと同じNanny)が父親を救ってくれると期待したが、乳母の介護もむなしく父親は病死する。P L Traversの実名はHelen Goffといい、Traversというペンネームに彼女の父親に対する思いがあることが映画の後半でわかる。映画タイトルのSavingには、父親を救いたかったTraversの強い思いが込められているので、邦題「ウォルト・ディズニーの約束」では作品の真意が伝わらない。
「Mary Poppins」1964、監督:ロバート・スティーブンソン、出演:ジュリー・アンドリュース、ディック・ヴァン・ダイク、この映画をいつどこで観たのか思い出せない。徳島の映画館で観たようにも思うし、テレビの洋画劇場だったかもしれないし、子供たちとレンタルビデオで観たようにも思う。メリー・ポピンズは東風とともにやってきて西風が吹くと去って行った。風の又三郎と同じだ。映画冒頭のクレジット・タイトルには、「Saving Mr. Banks」に出てくる作曲家Sherman兄弟と脚本家Don Da Gradiが出てくる。P L Traversの名は、原作者と並びConsultantとしてもクレジットされている。
正しい映画鑑賞法は、まずこの映画「Saving Mr. Banks」を観て、次に「メリー・ポピンズ」を観て、もう一度この映画を観ることである。そうすると原作者Traversの思いや映画製作の裏話がよりリアルに見えてくる。特に、「メリー・ポピンズ」では脇役だと思っていた雇用主のMr. Banksが、「Saving Mr. Banks」を観た後では、「メリー・ポピンズ」のストーリーの中心にいることがわかる。二つの映画を通して初めてわかる発見がいっぱいあり、それを見つけるだけでも楽しい。原作本「メリー・ポピンズ」を読むともっと別の発見ができるかもしれない。★★★★☆
「her 邦題:世界でひとつの彼女」2013、監督:スパイク・ジョーンズ、出演:ジョアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、離婚協議が進行中のライターが買ったコンピューターのOperating System(OS)はガールフレンドの代行をするソフトである。サマンサ(声はスカーレット・ヨハンセン)と名付けられたOS上のガールフレンドと会話することで充たされない心が癒されていく。サマンサには学習能力があり進化しながら彼を完璧に癒してくれる。同時並行して他者のガールフレンドやボーイフレンドも兼ねるサマンサに嫉妬するなど、バーチャルと現実が交錯し、そのうちサマンサなしでは暮らしていけなくなる。同じアパートの隣人(エイミー・アダムズ)も同棲していた現実の彼と別れ、完璧なOSの彼と付き合い始めた。学習につれてサマンサ自身にも感情が生まれ、バーチャルの自分と現実の彼の住む世界が違うことに苦しむようになる。日々進化を続けるサマンサはネットに出現したOS哲学者の影響で自立することに目覚め、いつか人間たちのもとから去っていく。バーチャルに翻弄されながらも現実世界では充たされない人間の哀歓が伝わってくる。こんなクオリアを持つAI(Artificial Intelligence)の出現はもうそこまで来ているかもしれない。本作はアカデミー脚本賞をとったが妥当だと思う。★★★☆☆
「The Best Offer 邦題:鑑定士と顔のない依頼人」2013、監督:ジュゼッペ・トメイトウ、出演:ジオフリー・ラッシュ(英国王のスピーチ)、ジム・スタージェス、シルビア・ホウクス、「ニューシネマパラダイス」の監督だということで観始めたところ、主人公と同様にいつのまにかミステリアスな若い女依頼人に魅了されていた。女依頼人の虜になる主人公は独身で初老で絵画や骨董品の一流の鑑定士でオークションディーラーである。オークションを利用して女性の肖像画ばかりの名画を収集している。女依頼人の虜になった主人公が気が付いた時には、コレクションのすべてが消え失せていた。若い女の虜になり騙され廃人同様になる初老の主人公が哀れだった。主人公が雇用主に興味を持つきっかけとなり、また詐欺の道具にもなる機械仕掛けの人形と同じような人形は映画「ヒューゴの不思議な冒険」にも出てきた。王の愛妾に色目をつかう列子の偃師の人形を思い出した。★★★☆☆
「12 Years a Slave 邦題:それでも夜は明ける」2013、監督:スティーブ・マックウィーン、出演:チエテル・エジャフォー、アシュリー・ダイク、ベネディクト・カンバーバッチ、マイケル・ファスベンダー、ブラッド・ピット、アカデミー作品賞をとった話題作で、南北戦争前、北部の自由な黒人が誘拐され南部で12年間奴隷にされていたという実話である。奴隷制度下で酷使される黒人に対する非人道的な話が連続するが、これまで黒人差別を描いた映画で見てきたような想定内の虐待話の連続だったことと、12年という年月の重みが家族と再会したときでさえ画面から伝わらなかった。話は重く救いがない中、奴隷解放主義者のブラッド・ピットが主人公の前に突然現れ、まもなく彼は開放される。この年のアカデミー作品賞としては対抗馬が弱く、この映画が妥当だったのだと思う。対抗馬の「アメリカンハッスル」はクリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、ジェニファー・ローレンスと芸達者で好きな俳優が揃ったが話についていけず途中で鑑賞を断念してしまった。もうひとつの対抗馬「Gravity」は映像美だけでは戦いにならなかった。★★★☆☆
「Ender's Game」2013、監督:ガビン・フッド、出演:アサ・バターフィールド(ヒューゴの不思議な冒険)、へイリー・スタインフェルド、ハリソン・フォード、映画「スターシップトゥルーパーズ」の敵と同じような地球侵略を目指すBag型のエイリアンと戦うために訓練を受ける少年少女たちの話である。若い戦士の成長物語という意味では「スターシップトゥルーパーズ」と同じくロバート・A・ハインラインのSF「宇宙の戦士」からの派生だが、主人公は海兵隊員のような肉体派でなく、コンピューター上で戦略を武器にエイリアンと戦う。「トゥルー・グリット」で鮮烈デビューしたヘイリー・スタインフェルドはまだ成長途上である。★★☆☆☆
「Jack Ryan:Shadow Recruit」2014、監督:ケネス・ブラナー、出演:クリス・パイン(People Like Us)、キーラ・ナイトレイ、ケヴィン・コスナー トム・クランシー作品で馴染みのCIA分析官ジャック・ライアンの若き日を描く。ジャック・ライアンが主人公の映画は「今そこにある危機」と「パトリオットゲーム」ではハリソンフォードが、「レッドオクトバーを追え」ではアレック・ボールドウィンが演じたものを観ている。「レッドオクトーバーを追え」はソ連の原子力潜水艦が乗組員ごと亡命する話で、艦長ショーン・コネリーが最高だった。スパイが妻に身元を明かす場面ではアーノルド・シュワルツネッガーの「トゥルーライズ」を思い出したが、こっちはもっとシリアスである。★★★☆☆