備忘録として

タイトルのまま

祭りのあと

2012-08-18 19:04:41 | 話の種

オリンピックが終わり日常が戻った。

数々の名勝負に一喜一憂した2週間だった。女子バレーボール準々決勝の中国戦はしびれた。なでしこの決勝トーナメントでのブラジル、フランス、米国戦や卓球女子団体戦準決勝シンガポール戦も勝者がどちらにころがるかわからないぎりぎりの戦いだった。

 その中でも金メダル3個を獲得した女子レスリングは圧巻だった。3連覇の伊調と吉田はすごいの一言である。吉田には圧倒的な戦いを期待していたのに、ほとんどの試合は判で押したそつのない堅実な戦い方だった。吉田は、2分間のピリオッドの1分30秒まで慎重に相手の出方を見ながらいなし、残り30秒で仕掛けてポイントを取る戦い方を徹底していた。ポイントを取った後、相手に反撃する時間は残されていないのである。早い時間でポイントを取られたらそれを取り返そうと捨て身の攻撃をしなければならないが、相手にその時間を与えない、捨て身の攻撃をさせない、ミスをしないという作戦は明白だった。残り30秒で確実にポイントが取れること事態、すでに吉田が圧倒的に強いことを証明しているのだが、試合としては面白くはなかった。というのは3連覇を至上命令としている、いや、されている吉田に対して無責任で失礼な発言だとは思う。

 逆に、伊調は北京よりも積極的に攻める姿勢を貫いた。特に、決勝戦の両足タックルはすごかった。その場面を繰り返しスローモーションで見たが、相手の選手は伊調が自分の足に入った瞬間はまだ両手を胸の前に構え目は前方を見ていた。突然目の前から伊調が消え呆然としているのだ。それほど伊調のタックルのスピードが速いのである。第2ピリオッドでは先に相手に片足をとられたが逆転して背後にまわり、次には自分が片足タックルでポイントを重ねて勝った。IOCオフィシャルサイトの解説者は、伊調が、”the most admired wrestler in the world"と最大限の賛辞を送った。試合後のインタビューで北京からロンドンの4年は短かったのでリオデジャネイロもすぐのような気がすると言い放ち、リオではさらに進化したレスリングを見せてくれるのではないかという期待をいだかせた。

MSNロンドン五輪 今日のベストショットより

 そんな超人的な二人よりも小原にメダルを取らせたいと思っていたのは、小原の長い戦いを知っていたからだ。最初で最後のオリンピックでの小原の戦いは堂々としたもので、決勝戦の第1ピリオッドは大差でとられたが、第2ラウンド以降は相手より素早い動きとスタミナで圧倒した。片手をマットに付け中腰で足をひらくアメフトの第1列のような姿勢で左右前後に機敏に動くその戦いは無敵の証明だった。金メダルが決まった瞬間はもらい泣きしてしまった。決勝戦の対戦相手スロバキアのStadnykも右目を打撲で黒く腫らしていて、二人ともお岩さん(古いか)のような顔だったが、銅メダルの二人も含め表彰式でのメダリストたちの笑顔は清々しかった。

 ここまで書いてきて、女子の試合ばかりが記憶に残っていることに気づく。レスリングの米満とボクシングの村田の金メダルは素晴らしいが二人の決勝戦は堅実すぎて面白くなかった。無責任な外野席の観客は、手に汗握るわくわくする試合が観たいのである。

今回、これらの試合は、IOCの公式ホームページのYoutube(http://www.youtube.com/olympic)で連日Liveで観ることができた。アテネオリンピックのときもシンガポールにいたが、テレビは高飛び込みや重量挙げなどマイナー競技ばかりを放映し、日本選手の観戦はできなかった。今回もこちらのテレビは団体と個人で銅メダルをとった卓球女子や近隣のマレーシアやインドネシアが強いバトミントンばかりを放映し日本戦はなかったのでネット放映が頼りだったが、主要な日本の試合はほとんど観戦できた。Replayも用意されているので、伊調と小原の決勝戦やサッカーの得点シーンなどは繰り返し観た。便利になったものだ。シンガポールの卓球選手は全員中国からの帰化選手だが国をあげて応援していた。団体で銅メダルを取ったのは建国以来初めてだったらしい。オリンピックの最中8月9日が48回目の建国記念日だった。

 ところで、今回のオリンピックでは審判の誤審が何度か取りざたされた。柔道の旗が再審議で180度ひっくり返ったのには驚いた。体操団体の内村のあん馬の点数も変更され銀メダルが転がり込んできた。なでしこ決勝戦の宮間のフリーキックは審判の目の前でのハンドだったのでPKが与えられてもおかしくはなかった。アメリカとカナダの女子サッカーの準決勝やフェンシング女子の試合でも問題があったらしい。その点、レスリングのチャレンジやテニスのチャレンジはビデオで観客もその場面を確認できるので非常にすっきりしていた。レスリングができるのだから柔道だって公開ビデオを使った判定を採用できるような気がする。

毎度のことだが祭りのあとの虚脱感で、オリンピックで中断していた読みかけの本にも触手が動かない。しばらくはオリンピックの余韻に浸っていようと思う。って閉会式からもう6日も経ったんだけど。


オリンピックは勇気のある者が戦う場だ

2012-08-05 13:11:42 | 話の種

 ロンドンオリンピックは中日を過ぎた。読書中の山折哲雄「仏教とは何か」を放り出して連日テレビとネットで日本選手の活躍を応援している。開会式はMr. Beanが”炎のランナー”になり、女王陛下が空を飛んで楽しかった。シンガポールでは地元ケーブルテレビMIOTVのESPNで中継があるが日本選手の試合を中心に放映しているわけではないので、もっぱらYoutubeのライブで観戦している。仕事が終わってから試合が始まるので、北京のときよりライブで観られる時間が長い上に、サッカーなどは夜中の試合が多く寝不足気味である。それでもシンガポールは時差が日本より1時間遅いので、日本で0時に始まる試合がこちらは11時となり日本での観戦よりは少しだけ楽である。

 8月5日現在、金メダルは体操の内村と柔道の松本の2個だけで期待していた数より少ない。この期待が選手に重圧を与えているのかもしれないけれど、柔道は力を出しきれない選手が多く体操の団体戦もミスが多くて重苦しかった。逆に競泳は力を出し切ってのメダルが多いような気がする。本来の力を出し切れる人、大会で力を伸ばす人、重圧につぶされる人さまざまである。強心臓と思っていた内村でさえ団体戦ではチームの出来不出来を一身に背負うチームリーダーの重圧に負けていたように見えたが、個人総合は見事に復活した。松本薫は重圧に打ち勝って金メダルを獲得した。試合が終わっての”パフェが食べたい”は、試合中の怖い顔から一転微笑ましかった。重量挙げの三宅は親子での長い厳しいトレーニングの末に銀メダルを獲得しもうやめるのかと思っていたところ、”自分は重量挙げが好きだから”競技を続けるという強い意志に頭が下がる。卓球女子団体戦の石川は最終セットの息詰まる接戦をものにしたが銅メダルのかかった個人戦はあっさり負けていた。競泳最後の400mメドレーリレーは4選手が力を合わせ強豪相手に競り勝ち、男女ともにメダルを獲得した。サッカーも男女ともにベスト4に進出し選手はグラウンドで躍動している。昨晩の男子サッカーエジプト戦では永井がディフェンスとキーパーがボールを確保しようとする隙間を一瞬で駆け抜け無人のゴールへボールを流し込み大活躍している。チームと個人では背負う重さが違っていて、チームだから個人の力以上が出せたり逆にそれが重圧になったりする。北京オリンピックのときに卓球代表の韓陽選手が”オリンピックは勇気のあるものが戦う場だ。”と言ったが、ほんとうに勇気が試されているのだと思う。

残り、女子レスリングとサッカー男女の金メダルなど結果も期待しつつ、出場選手みんなの勇気ある戦いを観たいものだ。