備忘録として

タイトルのまま

Coconuts

2012-09-29 00:03:42 | 東南アジア

 写真家本城直季流の上の写真は、マニラのSofitelホテルの部屋から撮った。ヤシの木を配したプールは南国リゾート気分が満喫できるつくりになっている。当方は仕事で行ったので、プールではしゃぐ親子を横目で見ながらプールを一回りしリゾート気分を少しだけわけてもらった。

 ヤシの木(Coconut)は南国には欠かせない風景である。下の写真は先週仕事で行ったミンダナオの村で背後にはヤシの木が群生している。村人が器用に木を登り実を落としてくれた。ヤシの幹には一定間隔に切れ目が彫ってあり、いつでも人が登りヤシの実を採ることができる。ヤシの実の殻をナタでざくっと切って開けた穴からジュースをがぶがぶっと飲んだ。熱帯の炎天下で仕事をしたあとのココナッツジュースはほのかに甘さがあって疲れを癒してくれる。贅沢を言えば、以前マレーシアの田舎の露店で飲んだヤシの実の中に氷を放りこんだココナッツジュースなら、なおいい。飲み終わったら次は穴を大きくして実の内側にへばりついているやや透明で白い果肉をヘラでこそぎ落として食べる。若いココナッツの果肉は軟らかくてうっすらと甘いが、古くなると固くなっておいしくない。

 

 商業的にココナッツは、その果汁から食用のジュース、ココナッツミルクやヤシ油がとれる。20年ほど前大流行したナタデココも果汁からつくる。医薬品や美容品にも加工されている。葉は編んで入れ物にしたり、実の殻は燃料や活性炭になり、繊維部分からはロープも作れる。幹は家や橋の材料として使われ、根は歯ブラシに使うらしい。とにかくヤシは捨てるところがないと言われるほどに有用なのである。フィリピンは世界最大のヤシの木の産地で、中でもミンダナオには多くのヤシ園がある。生産量2位はインドネシアだということだ。1か月ほど前にシンガポールからインドネシアのバタム経由でスピードボートで行ったスマトラのヤシのプランテーションは大湿地帯に建設され、プランテーションで6000人、ジュースや殻の加工工場で4000人が働いているということだった。この工場で缶詰にされたココナッツジュース(http://www.sambugroup.com/)は世界中で販売されている。

 昔二女がシンガポールで生まれたとき窓の外をふっと見やるとヤシの木が風に揺れていたので、ヤシにちなんだ名前を付けた。シャレで付けた名前を本人がどう思っているか確かめたことはない。


Kazuo Ishiguro

2012-09-16 00:02:56 | 映画

 以前、五つ星を冠した映画「日の名残り」と先日観た「Never Let Me Go(邦題:私を離さないで)」の原作者は、カズオ・イシグロというイギリス国籍の日系人である。「日の名残り」は世界的に権威のあるイギリスの文学賞ブッカー賞(Man Booker Prize)を1989年に受賞している。「Never Let Me Go」の上映に際しNHKでカズオ・イシグロの特集番組をやっていた。カズオ・イシグロには他に長崎を舞台にした「遠い山なみの光」や上海が舞台の「わたしたちが孤児だったころ」などの作品がある。イシグロは、長崎に生まれ気象庁に勤める父親のイギリス駐在に5歳のときに同行し、そのままイギリスで育ち、成人してからイギリス国籍を取得した。イギリス国籍を取ったとはいえ、イギリスの最も伝統的な貴族の執事の話を書くことができる日本生まれの作家がいるということに驚いた。NHK特集でのインタビューはすべて英語で、日本語ができないと話していたが、両親が日本人で5歳までは長崎で育った人が、日本語をまったく話せないということがあるのだろうか。

 ”Never Let Me Go"2010 監督:マーク・ロマネク、出演:キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイ、臓器移植を目的に作られたクローン人間を描いた映画である。普通の人間として育てられた自分がある日クローン人間であることに気付かされる。いずれ来る臓器移植とその後に訪れる死が避けられないことがわかってくる。根拠のない希望に翻弄され、それが幻であることがわかり絶望し絶叫する。何度か臓器移植が行われ徐々に体が弱っていく中、生きる希望が断たれる。そんな非日常でのクローン人間たちの心の葛藤が描かれる。映画の中のクローン人間の人生は過酷で救いがない。でもよく考えてみると、普通の人間の人生もクローン人間の人生と何も変わらないのではないか。ブッダが言うように人間が生、苦、病、死から逃れられないのであれば、クローン人間の非日常的な人生も普通の人間の人生もその長さが少し違うだけで本質的には同じである。クローン人間が絶えず意識する死を、健康な普通の人間は単に意識せずに生きているだけである。”ウォールストリート2”でゲッコーに反発する娘役だった主人公のキャリー・マリガンは魅力的だったが、映画は救いがなく観てて苦しくなった。ブッダに救いを求めなければ、ということで、★★★☆☆

  あと機中映画を4編

 ”Safety Not Guaranteed”2012 監督:コリン・トレボロウ 出演:オーブリー・プラザ、マーク・デュプラス 雑誌に掲載された「過去にいっしょに行ってくれる人募集、安全は保証せず」 という広告の取材に行った主人公ダリウスが会った男は少しサイコがかっていたので、主人公が危険にさらされるのではないかとはらはらしながら観ていたのが、最後に二人が旅立つ場面には意表をつかれた。Comedyにジャンルされているがシリアスに観てしまった。★★★☆☆

 ”Darling Companion”2012 監督:ローレンス・キャスダン 出演:ダイアン・キートン、ケビン・クライン、マーク・デュプラス 愛犬のFreewayを山で見失った家族に降りかかる騒動と人間模様を描く。”ゴッドファーザー”のダイアン・キートンや”Dave”のケビン・クラインが出てなければ観なかった。いなくなった愛犬Freewayが見つかり、飼い主ダイアン・キートンに走り寄り抱き合うときの愛犬のよそよそしさにはがっかりした。飼い主と愛犬の関係は、私が帰宅した時に愛犬Fukuが私に飛びつき顔をなめまわし尻尾をふりお腹をみせて喜ぶような、オデュッセイの愛犬アルゴスが主人と再会し喜びの中で死ぬほどに深いのである。犬の事を何も知らない監督が犬の映画をつくり、飼い主と愛犬が再会する大切な場面では犬の演技がイマイチだったので、★★☆☆☆

 ”Lock Out"2012 監督:ジェイムズ・マザー 出演:ガイ・ピアース、マギー・グレース、宇宙に置かれた刑務所で反乱がおき、視察に来ていた大統領令嬢を救うために主人公が単身乗り込んでいく。宇宙を舞台にした活劇できらいではないのだけれど話が単純すぎたので、★★☆☆☆

 ”Dark Shadow”2012 監督:ティム・バートン、出演:ジョニー・デップ、ミシェール・ファイファー、エバ・グリーン、ヘレナ・ボンハム・カーター、”Alice in Wonder Land"と同じコンビでジョニー・デップが魔女のエバ・グリーンによってバンパイアにされ、200年の眠りの後、現代によみがえりカルチャーショックを受けながら家の再興と魔女と戦う話。カーペンターズの懐かしい映像やマックなど随所に笑いが散りばめられ”Alice---”よりも面白かった。”Kingdom of Heaven”のシビル役で魅惑的だったエヴァ・グリーンの魔女はCool and Cruelでしびれた。その他女優陣も豪華で、最後水中に沈められたヘレナ・ボンハム・カーターが牙をむいたのも予想通りだった。★★★★☆


ロマンシング・ストーン

2012-09-02 12:09:12 | 映画

 United Airlineの機中映画のClassicsに、なんと懐かしい”Romancing the Stone"があった。この映画は1984年の作品なので、1987~91年の間住んでいた広島で観たと思う。当時は町中至る所に系列の異なるレンタルビデオ店があって、そのうち近所の3軒ほどのビデオ店の会員になり、アクションとアドベンチャー映画を中心に頻繁にレンタルし自宅鑑賞していた。当時はシュワルツェネッガーとスタローンのアクション映画全盛期だった。私は”ランボー”のスタローンではなく”ターミネーター”のシュワルツェネッガー派だった。”バック・トゥー・ザ・フューチャー”、”エイリアン”、”インディー・ジョーンズ”、”ビバリーヒルズ・コップ”、”ダイハード”、”リーサル・ウェポン”などの人気シリーズも最盛期でレンタルビデオ店は大繁盛だった。長女が6歳から9歳、二女が3歳から6歳、長男が0歳から3歳だったためドラえもんの映画など子供向けビデオももちろん借りていっしょに観ていた。”ロマンシングストーン秘宝の谷”とその続編”ナイルの宝石”も映画館ではなくレンタルビデオで観たと記憶している。以下、8月に観た映画を一挙公開するが、最近の映画は残念ながらハズレが多い。

 ”ロマンシングストーン・秘宝の谷”1984、監督:ロバート・ゼメキス、出演:キャスリーン・ターナー、マイケル・ダグラス、ダニー・デビート、とにかくこれ一作でキャスリーン・ターナーのファンになった。しかし、同じコンビの続編”ナイルの秘宝”や”ローズ家の戦争”は映画そのものが面白くなかったのは残念だった。キャスリーン・ターナーはもっと人気が出ると思ったけど作品に恵まれなかった所為かその後はパッとしなかった。監督のロバート・ゼメキスは何と言っても”バック・トゥー・ザ・フューチャー”シリーズである。マイケル・ダグラスの出演作品は”ウォールストリート”2作、松田優作の”ブラック・レイン”、”コーラスライン”や”カリフォルニアトレジャー”を観ているが父親のカーク・ダグラスと比べると可哀相だがインパクトはない。唯一”ゲーム”には星4つあげてもいいと思う。★★★☆☆

 ”バトルシップ”2012、監督:ピーター・バーグ、出演:テイラー・キッシュ、浅野忠信、ブルックリン・デッカー、真珠湾で米国海軍と日本の海上自衛隊が協力してプリデターのようなエイリアンと闘うというB級映画、テイラー・キッシュは”John Carter”と続けて主演した。ハリソン・フォードが出ていた”カウボーイとエイリアン”と同じくらいの駄作。☆☆☆☆☆

 ”ハンガーゲーム”2012 監督:ゲイリー・ロス 出演:ジェニファー・ローレンス、ジョシュ・ハッチャーソン 昔観たシュワルツェネッガーの”バトルランナー”や読んでないけど評判になった小説”バトルロワイヤル”を適当にパクッたような映画。主人公のジェニファーは、X-menファーストジェネレーションの青い変身娘で、スノウホワイトよりは可愛かったけど、結局少年少女の戦いを見せるだけの映画だった。シュワルツェネッガーの”バトルランナー”が最後に権力者を痛快にやっつけたのとは違いひずんだ社会に対する挑戦や反抗はなかった。だから、これもB級。★★☆☆☆

 ”崖っぷちの男”2012、監督:アスガー・レス 出演:サム・ワーシントン、エリザベス・バンクス、ジェイミー・ベル、エド・ハリス、濡れ衣を着せられた警察官が弟とその恋人の協力で警察内の犯罪協力者をあぶり出し無実を証明しようとする。大体内通者の想像はつくのだがそれでも主人公がどうやって崖っぷちから逃れるのかが読めない展開の中、徐々に女交渉人の信頼を勝ち取る過程がよかった。”アバター”や”タイタンの戦い”で売出し中のサム・ワーシントンはここでもいい役をやっていた。★★★☆☆

 ”タイタンの逆襲”2012、監督:ジョナサン・リーベスマン、出演:サム・ワーシントン、リーアム・ニースン、ロザムンド・バイク、”タイタンの戦い”2010の続編。ゼウス(リーアム・ニースン)、ポセイドン、ハデス、クロノスなどギリシャ神話の神々が大勢出てくる。前作同様CGだけで内容には乏しい映画だった。一応ギリシャ神話のおさらいができるので、★★☆☆☆

 ”ソルト”2010、監督:フィリップ・ノイス、出演:アンジェリーナ・ジョリー、CIAのスパイが実はロシアの二重スパイで、それがロシアを裏切り、最後は結局どっちだったんだとわからなくなってしまうアクション映画。アンジェリーナ・ジョリーの”トゥームレイダース”は当時原作ゲームにはまっていたので期待して観たのにハズレで、今度こそと観た”トゥームレーダース2”もはずれだった。さらに、だんなのブラピといっしょに出た”Mr.&Mrs.Smith”も期待外れだった。アンジェリーナ・ジョリーの映画はほとんどはずれで唯一よかったのはデンゼル・ワシントンと共演した”ボーン・コレクター”だった。この”ソルト”は結局どっちの味方なんだよと一応興味は最後まで継続したので、★★☆☆☆

 ”わが母の記”2012、監督:原田眞人、出演:役所広司、樹木希林、宮崎あおい、井上靖の同名小説の映画化。井上靖の自伝小説「しろばんば」、「夏草冬涛」、「北の海」を読んでるので迷わず見始めたが、母に捨てられたという屈折した感情が強調され井上靖の偏屈さばかりが際立ち過ぎていた。原作を読んでないので井上靖が母親に対して抱いていた感情が映画の描写どおりだったかどうかはわからないが、少なくとも自分の想像する井上靖像とはかけ離れていた。私の井上靖は、伊豆で祖母と暮らす感受性豊かな洪作であり、沼津で文学に目覚め多感な少年期を過ごし、金沢の四高で柔道に明け暮れる洪作であり、70歳で西域の砂漠を駆け巡る井上靖である。そのためずっと違和感を持ちながら映画を観ていた。批評は原作や母親のことを書いた「花の下」などを読んでからがFairだとは思うけど、★☆☆☆☆ 


アーナンダの徒

2012-09-01 18:56:40 | 仏教

 シンガポールは今、Ghost Festival期間中で、町中でお香を焚き、Ghost moneyとも言われるjoss paperを燃やしている。Ghost Festivalは以前にも書いたように、道教、民間信仰、仏教が混交したご先祖様を祀る日本のお盆である。ブッダの仏教はそもそも死後の世界を教えるものではなかったはずが、いつのまにか葬式仏教になった。

 これまで日本の仏教について書いた本はいろいろと読んできたが、手塚治虫の「ブッダ」を読んで、本来の仏教、ブッダの教えがどのようなものだったかをまったく知らないことに気がついた。遅まきながら、ブッダの教えと仏教の教えを知るために手始めに山折哲雄の「仏教とは何か」を読むことにした。

 本は、ブッダの人生を概観し、ブッダの教えがどのように後世に伝えられたかを語る。衝撃的だったのは、ブッダの一番弟子でブッダの涅槃にも居合わせたアーナンダがブッダの教えを最初に裏切ったという事実である。そしてその裏切りを受け継いだのが現在の仏教徒であり、山折は彼らを”アーナンダの徒”と呼ぶ。

仏教徒の裏切り

「大パリニッパーナ教」(大般涅槃経)によると、80歳になったブッダは弟子のアーナンダをつれて最後の旅に出る。旅の途上、ヴェーサリーという町に入ったとき、ブッダは旅の疲れから生命の急速な衰えを感じたが、弟子や人々が望むならもっと生き続けられるということをアーナンダにほのめかす。しかし、アーナンダは3度あったブッダのささやきに気づかず聞き流してしまう。そのようなアーナンダの態度をみてブッダは3か月後に入滅することを決意する。これがブッダの最愛の弟子であったアーナンダの最初の裏切りである。次に、アーナンダに、”私の遺骨の供養にかかずらうな。”という遺言を残す。ところが、アーナンダと他の弟子たちは、ブッダの遺体を火葬に付し遺骨を分配しストゥーパを建てて安置し、その後長きにわたり供養を始めるのである。仏教はこのようにブッダの教えを裏切ることから出発したのだという。

しかし、山折はこの裏切りは必然で仕方がなかったと結論付けるのである。なぜなら、偉大な師を亡くした弱い人間は、仰天し、錯乱し、悲嘆と苦しみの中でブッダの遺骨を崇拝することしか救いがなかったのである。だから、現代のアーナンダの徒は、その歴史の必然を受け継ぐしかないのだという。葬式仏教だと罵られてもである。

仏教思想のキーワード

法(ダルマ) 聖徳太子が仏法僧の三宝を敬えと言ったその法である。法は法則や真理、存在を指し、事物と観念が重層したものである。色即是空ということばは、事物(色=物質)が無常=変化=消滅であることを表す。逆説的に観念は常住=永遠=持続であることを示す。

無我 我(アートマン)は意識のもっとも深いところにある意識の根源であり、無我はそれが存在しないという考えである。我は霊魂や実在を示し、仏教はそれらを否定するからである。仏教の我と心は異なるので無我と無心は異なるが、日本では同義に使われることがある。

霊魂 ブッダは我の否定と同様に霊魂も否定する。輪廻転生を繰り返す主体(我)は、輪廻からの解脱を目指す仏教では否定されるべきものである。ブッダはもともと霊魂の有無の問題を説かなかったのである。これは孔子が鬼神を語らなかったのと同じである。ところが、アーナンダの徒は一生懸命葬式で霊魂を送ったり祖先の霊をお盆でお迎えしたりするのである。

宿業(カルマ) 人間の活動には善悪があり、ものごとには原因と結果(因果)がある。現在の現象が過去の行いの結果によるものであり、逃れられないとする運命論が宿業で、そもそもブッダにはそのような考えはなかった。誰でも仏になれるという最澄と仏に成れるものは決まっているという徳一の論争は、宿業に基づく議論であった。スティーブ・ジョブズはカルマを信じろと言ったが、ブッダはそんなことは言ってない可能性が高い。

山折の話は途中から浄土真宗と親鸞を中心とした日本の仏教に重点が移り、結局、ブッダの根本思想が何だったのかわからなくなってしまった。

 ところで、広隆寺には有名な弥勒菩薩半跏思惟像がある。また、聖徳太子ゆかりの中宮寺の半跏思惟像は一昨年の奈良の旅で拝観した。四門出遊を体験したころの悩めるシャカの姿を表現したものだという。悟りを開いたあとのブッダの姿ではなく、悩めるシャカの姿をあらわした半跏思惟像が飛鳥・奈良時代の日本で流行した。これは弥勒信仰の流入によるとされているが、日本人の心の中に、出家後のブッダよりも出家前の悩めるシッダールタに共感するものがあったからではないかと山折は述べている。聖徳太子が在家仏教者として政治をおこなったように、日本人が在家仏教を出家仏教より重視したからだろうという。