偶然、今を生きる”Live in the moment”がテーマの邦画と洋画を機中で観た。映画「くちびるに歌を」で中学生たちが歌うアンジェラ・アキ「手紙~十五の君へ~」の”今を生きて行こう”と、「Still Alice」で主人公のAliceが話す”Live in the moment”(今を生きる)は、言葉は同じでも、その意味はまったく違う。十五の君に未来はあるが、若年性アルツハイマー病で記憶を失くしていくAliceに本来の未来はない。未来の自分は今の自分ではなくなる。だから、Aliceの場合、この瞬間を精一杯生きるのだという決意の”今を生きて行こう”なのである。50数年人生を生き功なり名を遂げ人生の終末を迎えようとする人と、今は苦しくても未来に無限の可能性が広がっている若者では、今を生きる意味が違って当然である。ポスターはIMDbより。
「くちびるに歌を」2015、監督:三木孝浩、原作:中田永一、出演:新垣結衣、木村文乃、桐谷健太、恒松祐里、下田翔大、渡辺大知、木村多江、長崎五島列島の中学校の音楽教師ハルナ(木村文乃)は産休中の代用教員を、中学時代の同級生で、有名なピアニストになっている柏木(新垣結衣)に依頼する。柏木が指導することになった合唱部には、母親が亡くなった後父親が出て行き祖父母と暮らすナズナや、自閉症の兄をもつサトルら悩みや問題を抱えた部員たちがいた。柏木自身、恋人を事故で亡くしピアノが弾けなくなっていた。合唱部はコンクールに向けて「手紙」の練習を続けていた。歌詞の意味を理解するために柏木は部員たちに十五年後の自分へ手紙を書くよう課題を出す。自閉症の兄という重荷を背負ったかにみえる部員のサトルの手紙には、父母が亡くなったあとも自分が面倒をみる兄がいるからこそ、自分が生まれてきた意味があるのだと手紙に書く。父親に捨てられ傷つくナズナは自分たちのためにピアノを弾いてくれない柏木に反発する。ナズナの悲しみに気付いた柏木は、仲間に励まされて生きていた十五の自分がいたことを思い出し、ピアノを弾くことでナズナを励ます。柏木も部員たちとの触れ合いの中で、過去から逃げず前を向いて、くじけずに”笑顔をみせて今を生きよう”と決意する。そして、合唱コンクールの日を迎える。五島列島の美しい自然を堪能するには、機中の画面は小さく不鮮明すぎた。それでも、島の景色を背景にすっくと立つ柏木の気品と、はじける中学生の若さが感じ取れた。★★★★☆
「Still Alice」2014、監督:スティール・グラッザー、出演:ジュリアン・ムーア、アレック・ボールドウィン、クリステン・スチュワート、若年性アルツハイマー病を患い記憶を徐々に失くしていく主人公の言語学者を演じたジュリアン・ムーアはこの映画でアカデミー主演女優賞を獲得した。医師の薦めで自分の体験を人々に語る場面がある。 夫と出会った夜、執筆した本を初めて手にした日、子供を授かったこと、友人や旅のことなど、ずっと蓄積してきた記憶を失くすことに対し、自分は苦しんでいるわけではなく”I’m not suffering”、自分はもがいている”I am struggling”。かつての自分をつなぎとめるために闘い”Struggling to be part of things, to stay connected to whom I was once.”、今を生きること”live in the moment” が自分にできるすべてなんだと自分に言い聞かせる。最後に、今日話したことを明日はきっと忘れているけれど、かつて自分が(言語学者として)コミュニケーションに魅了されたように、今日ここで話をしたという事実こそが重要で、その機会を与えてくれたことに感謝する。それが今の自分のすべてであると締めくくる。記憶を失くすということは自分が自分でなくなるということなのである。ずっと以前、「Eternal Sunshine」を観た息子が、人間にとって最も重要なものは記憶だと思うと話したことをこの映画を観ながらふっと思い出した。★★★☆☆
「Kingsman:The Secret Service」2014、監督:マシュー・ボーン、出演:コリン・ファース(「King's Speech」など)、タロン・エガートン、サミュエル・L・ジャクソン(「Star Wars」など)、マーク・ストロング(「John Carter」)、ジェームズ・ボンドが所属したMI6ではないイギリスの秘密結社Kingsmanは長い間、悪と戦ってきた。組織のエージェント(スパイ)になるには厳しい訓練を受け試験に合格しなければならない。悪と戦う組織の活躍と、父親のあとを継いでエージェントを目指す若者の成長物語でもある。スパイになるためには、仲間を助けるチームプレー、死んでも組織の秘密を守る忠誠心、命じられれば愛犬さえ殺すクールなハートが要求されるのである。”靴が電話器になることもある”という昔のスパイコメディー「それゆけスマート」(Get Smartはリメイク)や007をパロディーにしたセリフや場面が出てくる。アクションとコメディーが散りばめられた楽しい映画だった。★★★★☆
「The Usual Suspects」1995、監督:ブライアン・シンガー、出演:ケビン・スペイシー、ガブリエル・バーン、ピート・ポスルスウェイト、IMDbで評価の高いこの映画を機中で観た。ある事件の容疑者5人が警察に捕えられるがいずれも無実で、釈放された後警察に復讐を果たす。しかし、5人は徐々に顔の見えない伝説のギャング「カイザー・ソゼ」に踊らされ、犯罪に巻き込まれていく。”Kobayashi”という弁護士が出てくる。あっとおどろく結末が待っているのだが、この映画にヒントを得たのか今では同じようなどんでん返しを用意した映画やTVドラマは多い。★★★☆☆
「Mordecai」2015、監督:デイビッド・コープ、出演:ジョニー・デップ、イワン・マクレガー、グィネス・パルトロー、ペテン師、テロリスト、MI6、画商らが名画の争奪戦を繰り広げるドタバタ劇。Big Nameに釣られて映画館で金を払って観ていたらと思うとぞっとする。機中映画は無料だが鑑賞時間を返してほしい。「パイレーツ・オブ・カリビアン」、「ローンレンジャー」などジョニー・デップの映画は肌に合わないのかもしれない。星ゼロ。
「Jupitar Ascending」2015、監督:アンディー・ワコウスキー、出演:チャニング・テイタム、ミラ・クニス、家族で清掃婦をしているジュピターは、実は宇宙を支配する一族のひとりでお姫様だった。不正に権力を相続し宇宙を悪で支配しようとする兄弟と戦うことになる。これも星ゼロ。
「The Hunger Games:Mockinglay Part 1」2015、監督:フランシス・ローレンス、出演:ジェニファー・ローレンス、ジョシュ・ハッチャーソン、ジュリアン・ムーア(「Still Alice」)、シリーズものの通例通り、陳腐でだんだんひどくなる。星ゼロ。