「The Theory of Everything、邦題:博士と彼女のセオリー」2014、監督:ジェームズ・マーシュ、出演:エディー・レッドメイン(レ・ミゼラブルの弁護士マリウス)、フェリシティー・ジョーンズ、宇宙理論物理学者スティーブン・ホーキングの伝記映画で、前夫人ジェーンの回顧録「Travelling to Infinity」をベースにしている。主演のエディー・レッドメインは筋委縮症のため徐々に自由を失っていく姿を熱演しアカデミー主演男優賞を獲った。学生の頃、ホーキング博士が宇宙の起源にベビーユニバースが出現するという説を発表したとき、購入した科学雑誌ニュートンで見た、ベビーユニバースを表すしずくが無数に垂れ下がっている原色のイメージ図を思い出す。映画ではブラックホールの中心に無限に小さい場で無限大の重力を持つ特異点(Singularity)があることを発表する場面が描かれていた。ホーキング博士は最近、タイムマシンで過去に遡るには無限大のエネルギーが必要であり実質的に過去への時間旅行はできないという説を、未来から観光客が来ていないことがその証拠だとジョークを交えて発表し、SFファンをがっかりさせた。映画の博士も、雑誌ペントハウスを看護師に見つかったとき、ちゃめっけたっぷりに言い訳していた。先日観た「The Imitation Game」の数学者アラン・チューリンもそうだったように、天才はだいたいが変人である。映画は、博士が業績を上げ高名になる一方で、ホーキングの看病に疲れてしまった妻の心の揺れを描く。結局、離婚し双方が新しいパートナーを見つける。二人とも筋委縮症を承知で結婚し覚悟の上で子供を設けているので、それが負担になったからと言って別れたことに共感できない。しかし、妻の負担が相当なものだったことは容易に想像できるので非難はできない。ホーキングはアインシュタイン同様、無神論者(atheist)で、映画ではそれがジェーンと離婚した理由の一つのように描かれていた。映画の題名の「The Theory of Everything」万物の理論とは、一般相対性理論やニュートンの力学や量子力学などの自然界に存在する力を統一する理論で、ホーキング博士ら多くの理論物理学者が追及している。博士とジェーンを見ていると人間相互の力学は複雑で、それを統一的に説明する理論はないのだと思った。★★★☆☆
「Birdman:or (The Unexpected Virtue of Ignorance)、 邦題:バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」2014、監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、出演:マイケル・キートン、エマ・ストーン(The Help)、ナオミ・ワッツ、エドワード・ノートン、アカデミー賞の多部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞を獲ったこの映画の前評判は高く期待して観た。かつてのスーパーヒーローで今は落ち目の俳優(マイケル・キートン)が、ブロードウェイの舞台で再起をはかろうとしている。しかし、共演の男優の傍若無人な振る舞いや薬物依存症だった娘や不倫相手に振り回され、観客や評論家からの重圧もあり、精神分裂症状態になり、バードマンの幻影があらわれ自分を嘲り始める。主人公とまわりの人々との会話は「Silver Linings Playback」と同じようにかみ合わないのだが、Silverの二人の会話は相手にお構いなく自分の話をしているだけで、不思議とコミカルに通じ合う部分に楽しさがあったが、こちらの会話は暗くネガティブで、分身は主人公を嘲るばかり、主人公の鬱屈した感情だけが際立ち、見てる方も気分が暗くなった。劇場から締め出され、下着のままで表通りを歩く主人公は痛々しくて笑えなかった。舞台のプレビューで評論家からひどい評価を受け、舞台初日、精神的に追い詰められたヒーローは、おもちゃのピストルを本物に持ち替え舞台の上で自殺を図る。病院で目覚めた彼は、Birdmanとなって窓から飛翔し魂を解放する。しかし、ずっと主人公に共感できないままだったので「カッコーの巣の上で」の最期に大男のチーフが精神病院を飛び出す場面で受けたような解放感をまったく感じられなかった。映画の副題(無知がもたらす予期せぬ奇跡)、直訳すると(予想外の無知の美徳)に映画を理解するヒントがあるのかもしれないが、とにかくよくわからない映画だった。★★☆☆☆
「Night Museum Secret of the Tomb、邦題:ナイトミュージアム/エジプト王の秘密」2014、監督:ショーン・レビイ、出演:ベン・スティラー、ロビン・ウィリアムズ、オーウェン・ウィルソン、今度は大英博物館に出張してドタバタ劇を繰り広げる。アーサー王の騎士ランスロットがあばれまわり大英博物館を飛び出し、近くのホールで上演中のアーサー王の舞台に乱入し、アーサー王役のヒュー・ジャックマン(本人)と対決する。博物館の目玉であるロゼッタストーンは残念ながら出てこなかった。セオドール・ルーズベルト役のロビン・ウィリアムズは昨年自殺し、本作が遺作になった。スミソニアン博物館を舞台とした前作「ナイトミュージアム 2」はアメリア・イアハート役のエイミー・アダムズが魅力的だったのでおまけの星を上げたが、今回の太った警備員(レベル・ウィルソン)におまけ星はあげられないので、★★☆☆☆
「Taken3」2014、監督:オリビエ・メガトン、出演:リーアム・ニースン、マギー・グレース、妻殺しの容疑を受けたブライアン(リーアム・ニースン)は、警察から追われながらも仲間の手助けで犯人を追いつめていく。1作目2作目で発揮された元CIAとしてのスーパー能力は見られず、ありきたりのアクション映画になっていた。保険金目当てに妻を殺すストーリーもありふれたもので意外性もなかった。シリーズものが徐々に面白くなくなる典型だった。★☆☆☆☆
「Foxcatcher」2014、監督:ベネット・ミラー、出演:スティーブ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、大富豪が金にものを言わせてレスリングの有力選手を集めアメリカ代表チームをコーチする。兄がコーチで弟が代表選手になるが、ソウルオリンピックで金メダルが獲れず弟はチームを離れ、残った兄に悲劇が起こる。とにかくこの映画は暗く救いがなかった。実話なので、映画にするよりドキュメンタリーにしたほうが少しはましになったような気がする。★☆☆☆☆
「バンクーバーの朝日」2014、監督:石井裕也、出演:妻夫木聡、亀梨和也、上地雄輔、佐藤浩市、石田えり、鶴見慎吾、高畑充希、宮崎あおい、バンクーバーの日系人たちのチームは、カナダチームに比べ体力差が大きく、当初はまったく勝てなかったが、徐々に日本人の俊敏さを活かしてバントや盗塁を多用し勝利を重ねるようになる。戦前に入植し差別の中で苦闘する日系人を描くストーリーが、かつてどこかで見たようなありきたりのエピソードばかりだったので、彼らの苦労や喜怒哀楽に共感できなかった。同じ史実を扱った映画「Kano」では甲子園での試合に迫力があり、劇中の応援団といっしょにチームの勝利を応援できたが、「バンクーバー・・」はクライマックスの試合にドラマ性がなく、ワクワクさせてもらえなかった。題材はいいのだから脚本次第で感動の映画にできたのにと思うと残念である。バンクーバーでもロケをしたというが、主要な場面はセットばかりで、バンクーバーの雄大な風景がほとんど活かされていなかったのも残念だった。★★☆☆☆
「バンクーバーの朝日」のポスターは公式サイトより、他はIMDbより