備忘録として

タイトルのまま

ホームズ秘蔵写真

2016-01-17 12:06:26 | 映画

Irene Adlerがホームズにとって特別な女性だったことは、アーサー・コナン・ドイルの「ボヘミアの醜聞:A Scandal in Bohemia」の冒頭に描かれたとおりである。

  • To Sherlock Holmes she is always the woman. I have seldom heard him mention her under any other name. In his eyes she eclipses and predominates the whole of her sex. It was not that he felt any emotion akin to love for Irene Adler. All emotions, and that one particularly, were abhorrent to his cold, precise but admirably balanced mind. He was, I take it, the most perfect reasoning and observing machine that the world has seen, but as a lover he would have placed himself in a false position. He never spoke of the softer passions, save with a gibe and a sneer. They were admirable things for the observer -- excellent for drawing the veil from men's motives and actions. But for the trained teasoner to admit such intrusions into his own delicate and finely adjusted temperament was to introduce a distracting factor which might throw a doubt upon all his mental results. Grit in a sensitive instrument, or a crack in one of his own high-power lenses, would not be more disturbing than a strong emotion in a nature such as his. And yet there was but one woman to him, and that woman was the late Irene Adler, of dubious and questionable memory.
  • シャーロック・ホームズにとって、彼女はいつも『かの女《おんな》』であった。他の呼称などつゆほども聞かない。彼女の前ではどんな女性も影を潜める、とでも考えているのであろう。だがアイリーン・アドラーに恋慕の情といったものを抱いているのではない。あらゆる情、とりわけ恋というものは、ホームズの精神にとっては、到底受け入れることができない。精神を冷徹で狂いなく、それでいて偏りがまったくないままに保たねばならないからだ。個人的な考えだが、推理と観察にかけて、ホームズは世界一の完全無欠な機械である。けれども恋愛向きではない。斜に構えねば、人の情については語れない。観察にはもってこいだ――情こそが人の動機や行動のヴェールをはぎ取る。だが、とぎすまされた推理の場合、ひとたびそのようなものが厳密に調整された心に入りこめば、乱す種となってしまう。そうすればどんな思考の結果も疑わしい。精密機器に砂が混入することよりも、所持する高性能の拡大鏡にひびが入ることよりも、ホームズのような心に強い情緒が芽生えることの方が、悩ましいことなのである。だがそんなホームズにも、ひとりだけ女性というものがあった。その女こそ、かつてのアイリーン・アドラー、まことしやかな噂の多い女だ。(大久保ゆう訳) 日本語訳は、late Irene Adlerを”かつての”とするが、lateは通常は故人に対して使う。

ホームズはボヘミア国王に依頼され、国王とアイリーン・アドラーの二人が写る写真を手に入れるために罠を仕掛けるが、アイリーン・アドラーに出し抜かれ写真の取得に失敗する。ホームズは、国王が探偵の報酬として差し出した大きなエメラルドの指輪を断り、代わりにアイリーン・アドラーの写真を所望する。左下の写真が、ホームズが報酬として手に入れたアイリーン・アドラーの写真である。そして小説の最後が以下である。

  • And that was how a great scandal threatened to affect the kingdom of Bohemia, and how the best plans of Mr. Sherlock Holmes were beaten by a woman's wit. He used to make merry over the cleverness of women, but I have not heard him do it of late. And when he speaks of Irene Adler, or when he refers to her photograph, it is always under the honorable title of the woman.
  • 以上がボヘミア王室を脅かした一大醜聞であり、ホームズの深謀が一女性の機知にうち砕かれた事件の顛末である。以前は女性の浅知恵と冷やかしていたホームズも、最近は一言もない。そしてアイリーン・アドラーに触れたり、写真を引き合いに出したりする際には、ホームズは常に『かの女』という敬称を使うのである。(大久保ゆう訳)

ワトソンが、ホームズの精神に恋を受け入れる余地はないと言っているにも関わらず、多くのシャーロッキアンは、『かの女』アイリーン・アドラーこそホームズが唯一愛した女性ではないかと考えている。ところが、ホームズは、アイリーン・アドラーの写真だけでなく別の二人の女性の写真(下の中央と右)も持っていたのである。下の写真はいずれもYouTubeからCaptureした。

左:Irene Adler、中:Mrs. Gavrielle Valladon、右:Mrs. Kelmot

ホームズを演じた中で最高の役者とされるJeremy Brett主演のイギリスGranada TVシリーズ第1話「ボヘミアの醜聞」では、Gayle Hunnicuttという女優がアイリーン・アドラーを演じた。左上のIrene Adlerの写真はそのGayle Hunnicuttである。BBC TVシリーズ「Sherlock」のシャーロックがIrene Adlerの写真を持っていた気配はない。中央の写真はビリー・ワイルダー監督の「The Private Life of Sherlock Holmes」でホームズの懐中時計に挟まれていたもので、彼女はイギリスの開発する潜水艦情報を手に入れるためにホームズに近づいてきたドイツの女スパイ(Genevieve Page)である。行方不明の夫を捜すGavrielle Valladon夫人としてホームズに近づく。夫を捜しにスコットランドへ向かうとき、ホームズと仮の夫婦 Mr. and Mrs. Ashdownを名乗る。この映画を45年ぶりにYouTubeで全編観ることができた。ホームズの兄マイクロフトをクリストファー・リー(LORの魔法使いサルマン)が演じている。右上のもう1枚の写真は、映画「Mr. Holmes」でホームズが救うことのできなかったMrs. Kelmot(Hattie Morahan)の写真である。ホームズは女性の写真の収集癖があったか、あるいはワトソン医師の分析とは相違し、結構惚れ易い精神を持っていたのかもしれない。しかも相手は人妻であり、二人とも非業の死を遂げている。(あとの映画2編は後世の人が適当に創作したホームズ像であることに注意)

ネットでシャーロック・ホームズやアイリーン・アドラーを検索していたら、「The Arthur Conan Doyle Encyclopedia」という掘り出し物サイトを見つけた。掲載した「A Scandal in Bohemia」の原文もそこからコピペした。このサイトでシャーロック・ホームズ関係の情報のほとんどが手に入る。ロストワールドの情報もある。

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14 Apr 2016追記

上の記事中、”シャーロックがIrene Adlerの写真を持っていた気配はない”と書いたが、『Sherlock The Abominable Bride 邦題:忌まわしき花嫁』でワトソンがシャーロックの懐中時計の中に写真を見つけたので、実は持っていたと訂正した。その写真(下)がネットで見つかった。これでシャーロック・ホームズの秘蔵写真は4枚になった。


Mr. Holmes

2016-01-08 22:41:48 | 映画

年末年始はSW7以外にもたくさんの映画を観た。駄作が多い中、「Mr. Holmes」と「The Martian」は格別だった。

「Mr. Homes」2015、監督:ビル・コンドン、出演:イアン・マッケラン(LORシリーズのガンダルフ)、ローラ・リンネイ(家政婦)、マイロ・パーカー(ロジャー)、真田広之(梅崎)、ハティー・モラハン(Mrs. Kelmot) 今まで観たシャーロック・ホームズものは、コナン・ドイルの原作にない脚本であってもシャーロックの性格や能力は基本的に踏襲していたが、この映画のホームズは僕らの知っている頭脳明晰で論理的で沈着冷静なシャーロックではない。30年前に探偵をやめ田舎(Sussex)に隠居しアルツハイマーの進む93歳の老いたMr. Holmesである。ワトソンが脚色した30年前の事件を題材にした映画「The Adventure of the Dove Grey Grove」を観て、ホームズはあまりのフィクションに憤慨するのだが、事件の顛末が思い出せず、なぜ探偵を辞めることになったのかさえ忘れてしまっていた。ホームズは記憶回復にいいという山椒(Prickly Ash)を求めて日本に出かけていく。映画は家政婦母子とミツバチを飼って暮らす93歳のホームズ、30年前の最後の事件、少し前の日本訪問の3つの話が交互に進行する。夫に依頼されて尾行することになったケルモット夫人は、早産した子供二人のお墓を立てることも心を癒すために始めた楽器アルモニカのレッスンも夫に止められ、苦しみや夫から逃れるため自殺を考えていた。ホームズは夫人の苦しみを知り、夫の意に反し彼女の前に現れ、彼女の心理状態を推理し自殺を思いとどまるように諭す。その場ではホームズの説得に納得したように見えた夫人だったが、自分の心理状態が明白になったことで死が避けられない思いがより強くなり自殺してしまう。この事件をやっと思い出したホームズは夫人を死に追いやった自責の念にかられる。そして家政婦母子との触れ合いの中で、人を幸せにできるなら嘘(Good Lie)をついてもいいんだという心境になる。映画の最後、広島の廃墟で見た死者を弔う日本人と同じように、ホームズはドーヴァーの白い壁の見える丘の上で石を円形に並べ、自分にゆかりのある人々を偲ぶ。家政婦の聡明な息子ロジャーとミステリアスで美しいMrs. Kelmotが素晴らしい。ワトソン医師、ハドソン夫人、ディオゲネスクラブ、兄のマイクロフト(映画では弟と和訳されている)も少しだけ出てくる。1回目の評価は星2だったのが2回目を観た後は星4になった。もう一度観たら星5になるかもしれない。★★★★☆

「The Martian」2015、監督:リドリー・スコット、出演:マット・デイモン(ボーンシリーズなど)、ジェシカ・チャスティン(「The Help」)、クリステン・ウィイグ、映画「Gravity」と同じように絶望的な状態を克服し地球に生還する話である。事故で火星に一人残された農学者の主人公マーク(マット・デイモン)は、地球との連絡が絶たれ死亡したと考えられていた。地球との交信に成功したものの救助隊が来るのは2年先のことで、それまでに酸素、水、食料のいずれかが枯渇すれば生還は望めない。マークは知識と智恵で問題をひとつひとつ克服し、絶望的な状況でもユーモアを絶やさず、不思議なことに、映画の中の地球で彼を見守る全世界の人々にだけでなく、映画を観ている自分にも希望や勇気を与えてくれた。悪い奴も一人の死者も出てこないところが素晴らしい。1か月後のアカデミー賞ではマット・デイモンにオスカーをあげたい。★★★★☆

Maze Runner:The Scorch Trials」2015、監督:ウェス・ボール、出演:ディラン・オブライエン、カヤ・スコデラリオ、ブロディー・サングスター、1作面はMazeで化物と戦い、2作目はゾンビ映画になってしまった。まだ続編があるはずだが次は観ない可能性が高い。★☆☆☆☆

「The Man from UNCLE」2015、監督:ガイ・リッチー、出演:ヘンリー・カビル(「Man of Steel」)、アーミー・ハマー、アリシア・ヴィカンダー(「Ex Machina」)、ヒュー・グラント、子供のころ観ていたアメリカのテレビ映画「0011ナポレオンソロ」のリメイクである。007ジェームズ・ボンドを意識したスパイドラマで、UNCLEという国際組織に所属する女好きのナポレオン・ソロ(ロバート・ヴォーン)とその相棒イリヤ・クリヤキン(デヴィット・マッカラム)が活躍した。毎回見ていた記憶はあるが話をまったく覚えていない。映画はオリジナルと異なりナポレオン・ソロよりもイリヤ・クリアキンの方が活躍し、アクション性が強まり昔のテレビ映画の雰囲気はなかった。かつての2枚目スターのヒュー・グラントは若い二人に主役を譲りUNCLEの元締めの脇役で時代の流れを感じた。★★★☆☆

「Non-Stop」2015、監督:ジャウム・コレット・セラ、出演:リーアム・ニースン、ジュリアン・ムーア、ミシェール・ドッケリー、飛行中の旅客機の中で20分ごとに殺人が起きる。姿の見えない犯人を追う航空警察官(リーアム・ニースン)は娘を亡くしたことでアル中だったため、誰からも信用されず、あげくはハイジャック犯にされてしまう。航空機内の密室サスペンスはジョディー・フォスターの「Flightplan」を思い出す。最後まで犯人がわからなかった。★★★☆☆

「Learning to Drive」2014、監督:イザベル・コルゼット、出演:パトリシア・クラークソン、ベン・キングスレイ(「Self/less」など)、21年連れ添った夫が突然自分のもとから去り離婚することになった傷心のウェンディーは車の運転を習うことになる。教官はシーク族のインド人で、彼の厳格な指導によりウェンディーは運転技術の習得と共に人生を生きる勇気を得ていく。ベン・キングスレイは「Self/less」とはまったく違う演技を見せた。さすがは「ガンジー」でオスカーを取っただけのことはある。★★☆☆☆

日本映画

「お茶漬けの味」1952、監督:小津安二郎、出演:佐分利信、小暮美千代、鶴田浩二、津島恵子、淡島千景 我儘で夫に平気で嘘をつく夫人は、夫のついた小さな嘘が許せない。夫が南米に長期出張することになり、夫のやさしさに気付く。鶴田浩二も津島恵子も若い。★★★★☆

「東京暮色」1957、監督:小津安二郎、出演:原節子、有馬稲子、笠智衆、山田五十鈴、杉村春子、父親(笠智衆)はずっと昔妻(山田五十鈴)に逃げられた。長女(原節子)は夫とうまくいかず赤児を連れて出戻ってくる。二女(有馬稲子)は男にだまされ転落していく。父親は諫めはしても決して娘たちを見捨てはしない。二女の「やり直したい」という言葉が切なく響く、悲しく暗い映画だった。★★★☆☆

「小早川家の秋」1961、監督:小津安二郎、出演:原節子、新珠美千代、司葉子、中村雁治郎、小林桂樹、森繁久彌、加東大介、杉村春子、浪花千恵子、大阪の造り酒屋の人々の話で、新珠美千代が父親の道楽を諭す関西弁は歯切れがよく小気味よいため、その陰で原節子がかすんでみえる。これで小津安二郎と原節子の映画6本のうち5本を観たことになる。あとは「秋日和」だけとなった。★★☆☆☆

「天空の蜂」2015、監督:堤幸彦、出演:江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、豪華配役でいいストーリーなのだが、見どころを詰め込みすぎて主題がぼやけてしまいどこがクライマックスなのかよくわからない映画だった。登場人物の性格は単純でステレオタイプの人間ばかりで、行動に必然性や説得力がなかった。唯一、救助ヘリコプターの隊員が原発の上でホヴァリングするヘリから落ちる子供を救う場面ははらはらした。現実にはわずか800mの上空から落下する子供をスカイダイビングして捕まえパラシュートで生還することは無理なのではないかと思う。★★☆☆☆

「Hero」2015、監督:鈴木雅之、出演:木村拓哉、松たか子、北川景子、かつて人気のあったテレビドラマを映画化したもの。治外法権で守られた悪を懲らしめる話は、映画「リーサルウェポン」にあったような気がする。正義は勝つというお題目を繰り返すテレビドラマを大画面で見せただけだった。★★☆☆☆


2016正月

2016-01-05 12:04:33 | 徳島

高校の同窓会に出席するために当日2日に東京から徳島に飛び、4日にバスと新神戸からの新幹線を乗り継いで東京に戻った。車窓から富士川(?)に映る富士山がうまく撮れた。元日は近所の鷲神社(わしじんじゃ)に家族で初詣をし、3日は徳島の両親と津峯(つのみね)神社に詣でた。どちらの神社でも家族の健康を祈った。

鷲神社の祭神は日本武尊、誉田別命(ほんだわけのみこと=応神天皇)、田常立命(くにとこたちのみこと)である。これら天つ神を祀る鷲神社の社殿が国つ神を祀る出雲の大社造りであるのに驚いた。鷲神社の所在地が”島根”であることに関係があるのかもしれない。社殿のわきに高さ3mほどの富士塚があったので登頂した。山頂には富士山頂の浅間神社奥院と同じ木花開耶媛命(このはなさくやひめのみこと)が祀られている。

津峯神社の祭神は賀志波比売命(かしはひめのみこと)という馴染みのない神様である。賀志波比売命は記紀になくネット情報によると天照大神の幼名だという。神武天皇は奈良に入る前にここ阿南市見能林に立ち寄ったのだという。神社創立は聖武天皇神亀元年(724年)とあった。津峯神社は標高270mほどの独立峰の津峯山頂にあり車で山頂近くまで登り、リフトで社殿まで行くことができる。

左:鷲神社(東京都足立区島根) 右:津峯神社(徳島県阿南市)

鷲神社の富士塚と山頂のお宮

徳島で4年ごと正月に開かれる高校の同窓会に出席するのは初めてである。卒業から40年、正月に徳島にいることはほとんどなかったからだ。40年ぶりに会った級友たちの変貌ぶりに驚きながらも懐かしかった。長い年末年始はあっという間に過ぎ明後日7日にはシンガポールに飛ぶ。