「吉田拓郎さんが歌っているオリジナル版はレコーディングをした数日後に初めて聞きました。先に聞いていたら、そっちに引っ張られちゃったかもと思いました」
これには参った。膝カックンを喰らったような、いやバックドロップで打ちのめされたような衝撃だった。
稲垣 来泉(いながき くるみ)、なんと10歳である。小学4年のがきんちょが、こともあろうに拓郎の『イメージの詩』を熱唱している! それだけでも驚き桃の木山椒の木なのに、冒頭に引いた発表会見でのコメントで一驚、二驚、三、四が飛んで五免なさい。いえ、御免なさいだ。
明石家さんまが企画・プロデュースし、6月に公開された劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』。その主題歌にさんまが選んだ曲が、彼が人生の教科書とリスペクトする『イメージの詩』だった。
以下、“映画.com”を引用する。
〈明石家さんまの企画・プロデュースで、直木賞作家・西加奈子の同名ベストセラー小説をアニメ映画化。漁港で暮らす食いしん坊で脳天気な肉子ちゃんは、情に厚くて惚れっぽく、すぐ男に騙されてしまう。しっかり者でクールな11歳の娘キクコは、そんな母のことが少し恥ずかしい。やがて母娘(ハハコ)の秘密が明らかになり、2人に最高の奇跡が訪れる。底抜けに明るくパワフルな主人公・肉子ちゃんの声を大竹しのぶが担当。木村拓哉と工藤静香の長女でモデルのCocomiがキクコ役で声優に初挑戦し、「鬼滅の刃」の花江夏樹らが共演する。「海獣の子供」が高い評価を受けた渡辺歩監督とSTUDIO4℃が手がけ、スタジオジブリ出身の小西賢一がキャラクターデザイン・総作画監督、「サヨナラまでの30分」の大島里美が脚本を担当。〉
「食いしん坊で脳天気」、「情に厚くて惚れっぽく」、「底抜けに明るくパワフル」な母親VS.「しっかり者でクール」な娘。対極にコロナ禍を措き、さらに当今の母娘関係を下に敷くとなにやらいい按配なドラマツルギーが見えてくる。おもしろそうだ。さんまの新境地か。
発表会見に戻ろう。
〈お母さんに「歌詞の意味を分かったうえで歌うといいよ。そうしたら、気持ちが入ってきっともっと良くなる」と言われて。歌詞の意味を自分でいろいろ考えました。歌いだしは語りかけるように歌ったほうがいいかなと思ったのでそうしました。
ボブ・ディランみたいに“語り掛けるように”歌ってほしい」と言われました。ボブ・ディランは知らなかったんですけど、誰かに話しかけるように歌ったらいいんだなと思いました。〉
もう、脱帽である。ついでに頭をそっくり外したい。後生畏るべし。畏るべき10歳である。拓郎も絶賛しているらしい。彼にとっては孫世代であろう。
世代を括ることは流行歌、ポピュラーミュージックの手柄である。その当時はさほど興味もなかった曲なのに、後々同輩と「あの時代」を語る格好な書割となる。“リニューアル”した『イメージの詩』はたとえ架空にしても、「漁港」で母娘が共有した「あの時代」の後景となるに違いない。それはきっとさんまのキャラクターに似て賑やかな漁港と青い海、紺碧の空、白い曇……オーディエンスが抱くこの国の原風景にピタリと重なるだろう。 □
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『漁港の肉子ちゃん』主題歌「イメージの詩」MV / 稲垣来泉
劇場アニメ映画「漁港の肉子ちゃん」主題歌「イメージの詩」を歌う稲垣来泉によるミュージックビデオを公開。今作は、映画の舞台となった「漁港」での...
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