伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

<承前>激辛勝者は鳥人間

2021年07月14日 | エッセー

 植物は動けない。庭の松がお隣さんの庭に越したなんていう話はない。しかし植物が海から陸(オカ)に上がって4億5千年、絶滅の危機を乗り越えて進化を続け、現在27万種が生息している(一説では250万種)。昆虫95万種に次ぎ、鳥類9千種、哺乳類6千種を大きく引き離す。身動き取れない植物はどのようにして生き残ってきたのか。これが面白い。
 コーヒー豆に含まれるカフェインには毒性がある。ごく少量の摂取であり、人間は解毒分解酵素を持っているので害はない。だが他の植物には有害となる。豆が地面に落ちて芽を吹く時、カフェインを大量に周囲に撒き散らして多種の芽生えを抑え込んでしまうのだ。熾烈な生存競争である。
 渋柿の渋みはタンニンに因る。種子が成熟するまではタンニンをため込み動物を遠ざける。完熟するとタンニンが変質し、動物が大好きな餌となる。中の種子は動物を介してあちこちに蒔かれる。
 極めつきは唐辛子だ。辛味成分はカブサイシンに因る。哺乳類はこれが大の苦手。ところが鳥は唐辛子を好む。鳥にはカブサイシンの受容体がないためだ。これも鳥を介してあちこちに種子が蒔かれる。完全なWin-Winである。モビリティとは無縁である植物の強かな生存戦略である。
 前稿でふれた『激辛チャレンジ』。ばかばかしいと侮ってはいけない。植物と鳥の共存関係を擬人化しているといえなくもないからだ。となると、ゴルゴは梟に見えてくるし、唐沢君は軍鶏に、谷原君は鶯かなんかに見えてくるから不思議だ。
 因みに、鳥が恐竜から驚異的な進化を遂げ空を飛べるようになったのが1億5千万年前。遥か想像を絶する過去だが、猛々しかった始祖鳥が今やかわいい小鳥となって唐辛子を啄んでいる。一方、汗をたらたら流しながら唐辛子満載のリゾットに食らいつく人間がいる。やっぱり人間が一番面白いか。 □